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~執事と恋したら、どうなりますか?~  作者: 石田あやね
第2章『執事は演じてます!』
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memorys,33

 ――神木さんの息遣いが聞こえる。


 さっきまで普通だったのに、一体どうしたんだろうかと考えるが、答えなど出るはずもなかった。何か言わなくてはと思って口を開くのに、あまりの急展開に声が出てこない。

 すると、神木が静かな声で言う。


「すごく迷ったのですが……やはり、気になるので窺ってもよろしいでしょうか?」

「えっ……何を、ですか?」


 なんとなく聞きたいことは予想がついた。けど、はぐらかすようにしてわたしが聞き返すと、一気に確信を突いてくる。


「白藤さんと何があったんですか?」

「……あの、なにも」


 “何もない”と言いたかったのに、肩を捕まれ、無理やり視線を向けさせられた。まっすぐにわたしを見据える神木が映る。


「彼のせいで泣いていたんですよね?」


 やはり、泣いていたのに気づかれていた。

 それでも素直に肯定なんてできずに、そっと目を逸らす。


「何も言わないってことは……“あった”と解釈してよろしいんですね?」

「それはっ」

「お嬢様、一人で悩むのはもう止めてください。あなたが笑顔でいてくださらないと、わたくしは心配で仕方ないんです」


 顔を背けたままにしていると、両頬に神木の手が触れた。そして強引に顔を上げられる。至近距離で目が合い、いつかのように呼吸が止まってしまった。


「言うまでこのままにいたしますが……よろしいですか?」


 逃れられない状況に、わたしは観念して叫ぶようにして言う。


「わ、分かりました! 言いますっ……少しだけ喧嘩しただけです!」

「喧嘩……ですか?」


 心の中を覗き込むような眼差しに動揺し、瞳が大きく揺らぐ。その変化を見逃さなかった神木が、引き下がることなく続けた。


「お嬢様はすぐ顔に出ますね……わたくしには言えませんか?」


 本当は何もかも言ってしまいたい。

 だけど、白藤さんの話をしたら言葉が止まらなくなりそうだった。神木さんへの想いも全て吐き出してしまいそうで、怖くて堪らない。ようやく“本当の笑顔”で接してくれるようになったのに、また見れなくなってしまう。


 どうしようもない気持ちが、わたしの胸を締めつけ、ギュッと瞼を閉じた。


「ごめん」


 悲しげな声が耳に届く。


「悲しい顔をさせるために言ったわけじゃないんだ」


 敬語が取り払われた台詞に驚き、目を開けた瞬間、神木さんが視界から消えていた。


(―――えっ?)


 頬に触れていたはずの手はわたしの背中へと回され、抱き締められているのだと気づく。


(神木さん?)


 肩に伝わる神木の温もりと吐息に、身動きすることを忘れてしまった。鳴り止まぬ鼓動の音とともに、予想もしない台詞が告げられる。


()、執事失格だ」


 ――なんで、神木さんが執事失格なの?


 わたしには、その意味が理解できなかった。

 敬語が取れた状態のまま、神木は話を続ける。


「最初に様子がおかしいと陽太から言われた時も、別館で会った日も、無理矢理聞かずに様子を見た方がいいって思うようにしてた。けど、今日泣いている姿を見たら“一人にさせたくない”、“白藤さんに近付けたくない”って感じたんだ」


 背中に回された手が肩に添えられると、さらに強く抱き締められた。神木の温もりが全身に伝わってきて、我慢しようと抑え込んだ感情が次々と溢れてくるのを感じる。

 駄目だと思いながらも、その先の言葉を期待してしまう。


「本当はこんな風に困らせたくなかったのに……白藤さんと一体何があったのかって考え出したら、もう自分自身を止められなかった」


 腕が緩められ、わたしの瞳に神木の笑顔が映し出された。それはまた見たことのない、胸を揺さぶるような、愛おしいものを見つめる笑顔。


「あなたが好きです」


 相手を困らせるはずだった言葉が、優しくわたしの身体に染み渡っていく。


「いつからと言われると、自分でもよくわからないけど……きっと初めてここへ来た時にはもう、俺は執事じゃなかった」

「わたしもっ……」


 たくさん言いたいことが頭に浮かんでくるのに、うまくまとまらない。だから、精一杯この一言に想いを込める。


「好き……です」


 わたしは言い終えると、力なくその場に崩れるように座り込んでしまった。


()()っ!?」


 焦ったように神木もしゃがみ込み、放心状態のわたしの顔を心配そうに見つめた。


「……夢、みたいで」


 叶わない恋になると思っていた。

 歳だって違うし、神木さんから見ればわたしは子供のようなものだから、この気持ちが重なり交わることなどないんだと思い込んでいた。


「夢じゃない」


 神木がそう言って、そっとわたしの頭を撫でた。


「だって、嬉しすぎて信じられないです……夢オチとかだったら嫌だな」

「なら、確かめようか?」


 そっと、触れるだけの優しいキスが落とされ、一気に顔が赤くなるのを感じた。


「ほら……これは落ちない“夢”だよ」


 いつもの神木とはまるで違う行動に、わたしは頷くのが精一杯だった。すると、急に神木の表情から笑顔がなくなる。


「ごめん。白藤さんのこと何も出来なくて……陽太から言われた時にもっと気を付けるべきだった。そしたら、亜矢が泣くような事もなかったかもしれないのに」


 話の内容よりも、“亜矢”と呼ばれることに意識がいってしまう。その動揺から、わたしはつい口を滑らしてしまった。


「だ、大丈夫……ちょっと変なこと言われただけで」

「変な()()?」


 神木が眉をしかめる。まずいっと口を塞ぐも、もう誤魔化しはきかなかった。


「お互いに誤解が……とか仰っていたのに、やはり違っていたんですね。もうすべてを話していただいてもよろしいでしょうか?」


 執事口調と執事スマイルで迫る神木に、わたしは打ち明ける以外の選択肢はないのだと悟ってしまった。


「話しますっ……」


 今ここで話すことよりも、すべて話し終えた後の神木の反応が怖い。それでも、わたしは白藤との間にあった出来事を包み隠さず話す決断をした。

ついに神木さんとヾ(o≧∀≦o)ノ゛キァー

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