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~執事と恋したら、どうなりますか?~  作者: 石田あやね
第2章『執事は演じてます!』
33/126

memorys,33

 神木さんの息遣いが聞こえる。


 さっきまで普通だったのに、一体どうしたんだろうかと考えるが、答えなど出る筈もなかった。何かを話そうとしたが、あまりの急展開に声すら発せられない。


 すると、神木さんが静かな声で言う。


「すごく迷ったのですが……やはり、気になるので窺ってもよろしいでしょうか?」


「えっ……なにをですか?」


 なんとなく聞きたい事は予想が付いた。けど、はぐらかすようにしてわたしが聞き返すと、一気に確信を口にする。


「白藤さんと何があったんですか?」


「……あの、なにも」


 “何もない”と言いたかったのに、肩を捕まれ、目線が強制的に移された。真っ直ぐにわたしを見据える神木さんが映る。


「彼のせいで泣いていたんですよね?」


 やはり、泣いていたのに気が付かれていた。


 それでも素直に肯定なんて出来ずに、目を逸らす。


「何も言わないって事は“あった”と解釈してよろしいですね?」


「それはっ」


「お嬢様、ひとりで悩むのはもう止めてください。あなたが笑顔でないと、わたくしは心配で仕方ないんです」


 顔を背けたままにしていると、両頬に神木さんの手が触れた。そして強引に顔を上げられる。至近距離で目が合い、いつかのように呼吸が止まってしまった。


挿絵(By みてみん)


「言うまでこのままに致しますが……よろしいですか?」


 逃れられない状況に、わたしは本心を隠しながら叫ぶようにして言う。


「わ、分かりました! 言いますっ……少しだけ喧嘩しただけです!」


「喧嘩……ですか?」


 心の中を覗き込むような眼差しに動揺し、瞳が大きく揺らぐ。その変化を見逃さなかった神木さんが、引き下がることなく続けた。


「お嬢様は直ぐ顔に出ますね……わたくしには言えませんか?」


 本当は何もかも言ってしまいたい。


 だけど、白藤さんの話をしたら止まらなくなりそうだった。


 神木さんへの想いも全て吐き出してしまいそうで、恐くて堪らない。ようやく“本当の笑顔”で接してくれるようになったのに、また見れなくなってしまう。




 どうしようもない気持ちが胸を締め付け、ギュッと瞼を閉じた。





「ごめん」


 悲しげな声が耳に届く。


「悲しい顔をさせるために言った訳じゃないんだ」


 敬語が取り払われた台詞に驚き目を開けた瞬間、神木さんが視界から消えていた。


(―――えっ?)


 頬に触れていた筈の手はわたしの背中へと回され、抱き締められているのだと気付く。


(神木さん?)


 肩に伝わる神木さんの温もりと吐息に、身動きする事を忘れてしまった。鳴り止まぬ鼓動の音とともに、予想もしない台詞が告げられる。




()、執事失格だ」




 なんで、神木さんが執事失格なの?




 わたしには、その意味が理解できなかった。

 敬語が取れた状態のまま、彼は話を続ける。


「最初に様子がおかしいと陽太から言われた時も、別館で会った日も、無理矢理聞かずに様子を見た方がいいって思うようにしてた。けど、今日泣いている姿を見たら“ひとりにさせたくない”、“白藤さんに近付けたくない”って感じたんだ」


 背中に回された手が肩に添えられると、更に強く抱き締められた。神木さんの温もりが全身に伝わってきて、我慢しようと抑え込んだ感情が次々と溢れてくるのを感じる。


 駄目だと思いながらも、その先の言葉を期待してしまう。


「本当はこんな風に困らせたくなかったのに……白藤さんと一体何があったのかって考え出したら、もう自分自身を止められなかった」


 腕が緩められ、自分の瞳に神木さんの笑顔が映し出された。それはまた見たことのない、胸を揺さぶるような、愛おしいものを見つめる笑顔。





「あなたが好きです」





 彼を困らせる筈だった言葉が、優しく身体に染み渡る。


「いつからと言われると自分でもよく分からないけど……きっと初めてここへ来た時にはもう、既に俺は執事じゃなかった」


「わたしもっ……」


 たくさん言いたいことが頭に浮かんでくるのに、うまくまとまらない。だから、精一杯この一言に想いを込める。


「神木さんが好きですっ!」


 言い終えると、力なくその場に崩れるように座り込んでしまった。


()()っ!?」


 焦ったように神木さんもしゃがみ込み、半分放心状態のわたしの顔を心配そうに見遣る。


「……夢、みたいで」


 叶わない恋になると思っていた。


 年だって違うし、彼から見ればわたしは子供のようなものだから、この気持ちが重なり交わることなどないんだと思い込んでいた。


「夢じゃない」


 そっと頭を撫でられる。


「嬉しすぎて信じられないです……夢オチとかだったら嫌だな」


「なら、確かめようか?」


 そっと、触れるだけの優しいキスが落とされ、一気に顔が赤くなるのを感じた。


「ほら……これは落ちない“夢”だよ」


 いつもの神木さんじゃないみたいで、頷くのが精一杯。すると、急に相手の表情から笑顔がなくなる。


「ごめん。白藤さんのこと何も出来なくて……陽太から言われた時にもっと気を付けるべきだった。そしたら、亜矢が泣くような事もなかったかもしれないのに」


 話の内容よりも“亜矢”と呼ばれることに意識がいってしまう。


「だ、大丈夫……ちょっと変なこと言われただけで」


「変な()()?」


 神木さんが眉を(しか)める。まずいっと口を塞ぐも、もう誤魔化しはきかなかった。


「お互いに誤解が……とか仰っていたのに、やはり違っていたんですね。もう全て話していただいてもよろしいでしょうか?」


 いきなり執事口調と執事スマイルで迫る神木さんに、わたしは打ち明ける以外の選択肢はないのだと悟る。


「話しますっ……」


 今の状況よりも後の方が怖いと知りながらも、わたしは白藤さんとあった出来事を包み隠さず話した。

ついに神木さんとヾ(o≧∀≦o)ノ゛キァー

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