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~執事と恋したら、どうなりますか?~  作者: 石田あやね
第2章『執事は演じてます!』
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memorys,26

 今日も朝から土砂降りの雨。学校に着く頃には雷まで鳴り始めていた。


 机に座り、窓から見える景色を眺めながら重い溜め息をつく。


「あれ、溜め息? 珍しいね」


 後ろから掛けられた声にハッとし、慌てて振り返る。


「御山さん、おはようっ」


「おはよう。どうかしたの?」


「まぁ、いろいろ」


 なんと説明していいのか分からず、曖昧な返事を返した。すると、御山さんが笑顔で告げる。


「ねぇ? 放課後もし予定がないなら家へ遊びに来ない?」


「え?」


「わたし、今日モデルの仕事もないし……亜矢とゆっくり話してみたいんだけど、どう?」


「行く! 行きたいっ!」


 御山さんの突然の誘いに、思わず即答してしまった。


「なら、決まりだね」


 放課後に友達と遊ぶ。前の学校の頃もバイトや家事で、なかなか出来なかった。憂鬱さに沈んでいた心がパッと明るさを取り戻し、わたしは笑顔を取り戻す。





 放課後、御山さんの迎えのリムジンに乗り、到着したのは日本らしい和風なお屋敷。広い庭園は京都を連想するような趣あるものだった。うちの西洋漂うお屋敷とはまた違う、味わい深い雰囲気を醸し出している。


「御山さんの家すごいねっ」


 外を見渡せる長い廊下を歩きながら、わたしはあちらこちらに目を泳がせた。


「大した家じゃないわよ。ただ大きいだけで、建物は古いのよ?」


「ええ、わたしは好きだなぁ」


「気に入ってもらえたなら良かったわ」


 御山さんの部屋に案内されると、またわたしは目を輝かせた。


 壁際に綺麗な刺繍が施された、淡い紫の着物が飾られてある。すみれの花を散らばせ、所々で使われた金の糸がキラキラと光っていた。


「綺麗……これ、御山さんの?」


「まあね。家、着物メインのファッション企業なのよ……今海外でも着物が注目されてるから。これは来月、フランスのファッションショーでわたしが着るやつなの」


「ファッションショーか……凄いなぁ。御山さんにすごく似合いそう」


「九条さんのお父さんが作るドレスも素敵よ。あのお母さんのために作ったドレスも見たけど……素晴らしかった。うちの兄貴も褒めてたもの」


「お兄さんが居るの?」


 その問いかけに、なんだか苦笑いを浮かべる。そんな御山さんに、わたしは首を傾げ見つめた。


「誤解しないで、仲が悪い訳じゃないわよ。何て言うか……自由奔放の兄でね。まだ大学生なんだけど自分でファッション事業立ち上げるって海外を放浪してるのよ」


「凄いお兄さんだね」


「兄貴は着物に全く興味がなくて、跡を継ぐ気がないのよ……困った兄貴なんだけど、才能は尊敬してるんだ。今度兄貴が戻ってきたら紹介するよ」


「うん、楽しみにしてるっ」


 すると、御山さんがわたしをソファに座るように手招きする。それに従い座ると、思い切り顔を近付け、わたしを凝視した。


「で? 何があったの?」


「えっ!?」


「亜矢のお父さんが朝比奈財閥の社長令嬢と再婚して、あの兄弟と家族になったのは聞いたわ。もしかして、また兄弟たちと何かあったんじゃないの?」


「違う違う! 暉くんたちとはうまくいってるよ!」


 寄せた顔を少しだけ離し、否定するわたしの頭をポンポンと叩く。


「なら、違う悩みがあるのね。わたしが相談相手になるわよ……その様子じゃ、兄弟にも言いづらい事なんでしょ?」


「御山さん、ありがとうっ」


 同い年なのに、なんだかお姉さんみたいに頼りがいある彼女の存在をわたしは嬉しく思った。


「ていうか、そろそろ“御山さん”ってやめない? 友達なんだから“奏”でいいよ」


「うん! ありがとう、奏っ」


 お礼を言い終え、わたしは奏に新しくやって来た執事の事を話す。


 あれから2日ほど経つが、初日のセクハラ発言以降は“普通”に戻っていた。ふたりきりになる場面もあったのだが、執事として振る舞ってくれている。


 けど、違和感が抜けない。


「もうひとりの執事、名前なんだっけ?」


 不意に質問され、少しドキッとした。


「か、神木さんだよ」


「その人に言ってみればいいんじゃない? 一緒に仕事してるんだから何か知ってるかもしれないし……亜矢の頼みなら嫌とは言わないんじゃない? お嬢様の頼みを聞くのは執事として当然なんだから」


「……当然か」


 確かにその通りなのかもしれないが、それを頼むのは“命令”するみたいで嫌だった。


「もし、また変なこと言われたら相談してみるよ」


「それにしても、その白藤って執事……なんなんだろうね? 亜矢にだけって……もしかして亜矢じゃなくて“お嬢様”が嫌いとか?」


「お嬢様が嫌い……か」


 そんな執事も居たりするのだろうか?


 暉くんが“女嫌い”であるように、白藤さんにもああやって“壁”をつくる事情があるのかもしれない。


(一度、白藤さんと話してみようかな。もしかしたらいい人かもしれないし)


 それならば、自分だけで解決できる事だ。


 神木さんに余計な心配を掛けてしまっては申し訳ない。


「ありがとう、奏のおかげでやる気出てきた!」


「そうっ……なら良かった。なら庭に出てお茶しようか。雨の日の庭園を眺めながらっていうのも、なかなか悪くないよ」


「わぁ、いいね!」


 そしてわたし達は、他愛ない話をしながら楽しい時間を過ごした。

次回からまた色々起きます!(笑)

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