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~執事と恋したら、どうなりますか?~  作者: 石田あやね
第2章『執事は演じてます!』
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memorys,25

 紺色の燕尾服に赤いネクタイという、明らかに“執事”スタイルの彼はゆっくりとした足取りでこちらへと近づく。


「驚かせてしまい、申し訳ございません。わたくし、本日より九条家に仕えることとなりました……白藤(しらふじ) あおいと申します」


 返事を待つことなく、彼の手が乱れたわたしの髪を掬い上げ、静かに耳へとかける。


「ああ、やはり……」


 なんだか、眼鏡越しに見える彼の目が怪しげな光を放つ。そして、嫌な笑みを浮かべた。


「お嬢様は耳を出された方が、より色っぽくなるのでは?」


(なっ……!!!?)


 耳から手が離された瞬間に、わたしは逃れるように後退りする。


「これからよろしくお願いいたします、お嬢様」


 突如現れたセクハラ発言執事によって、穏やかな日常が音を立てて崩れ去ったように感じた。






 夕食の時間、()()()は何食わぬ顔をして俊彦の隣で笑顔を振り撒いていた。


「みんな集まったことだから紹介するよ。彼は白藤 あおいくん……今日から家で働いてもらうことになったから、みんなよろしく頼むな」

「よろしくお願いいたします」


 わたしと会った時の不敵な笑みはそこにはなく、白藤は穏やかで優しい執事を演じていた。


(あの人、絶対に二重人格だ……)


 わたしは疑いの眼差しを白藤に向けた。


「うちには神木さんがいるのに、急にどうしたんですか?」


 陽太の指摘に、わたしは思わず強く頷く。


「実は最近、海外からの依頼が多くなってしまって……長期間海外へ行くことが増えそうでね。そんな時、神木くんをサポート役として同行させたいと思っているんだ。それに備えて、執事をもう一人雇うことにしたんだよ」

「なるほど」


 俊彦の説明を聞いて、陽太は不服なさそうな顔をした。


(お兄ちゃん、そこ簡単に納得しないでよ!)


 口にしたいのに、言えないもどかしさに、わたしは項垂れる。自分しか見せていない白藤の本性を誰が信じるだろうか。


 そんなわたしの心情など知らずに、涼華も笑顔で白藤を褒め始めた。


「白藤さんとは昔パーティーで会ったことがあるんだけど、神木さん並みに優秀な執事なの。ちょうど白藤さんが別のお屋敷に移りたいって話を耳にしてスカウトしちゃった」

「そのように言って頂き光栄にございます」


 白藤はこれでもかというほどの完璧スマイルで涼華にお礼を言った。


(涼華さんまで騙されてる!!)


 完璧な執事の仮面で素顔を隠す白藤に、恐る恐る目を向ける。


(それにしても……なんで、わたしだけ?)


 今日初めて会ったばかりのわたしを、ターゲットにする理由など見当たらなかった。


「それでだ、亜矢っ」


 急に俊彦に呼ばれ、慌てて視線を移す。


「な、なに?」

「白藤くんはまだ家に来たばかりだから、慣れるまで亜矢のお世話中心に動いてもらうつもりだから」

「えっ!?」

(よりによって、なんでわたしなのっ!?)


 驚き、咄嗟に白藤へ顔を戻してしまった。目が合うと、にっこりと執事スマイルを決め込んだ。


「お嬢様、よろしくお願いいたします」

「は、はい……よろしくお願いします」


 神木も普段よくする執事スマイル。けれど、白藤の笑顔は明らかに嘘っぽく映った。

 これから先のことを考えると気が重くなり、無意識のうちにため息が漏れる。


「どうかしたのか?」

「え?」


 横に座っていた陽太がわたしの異変に気づいたようで、心配そうな面持ちで覗き込む。


「顔色悪いぞ」

「そ、そんなことないよっ」

「いかがなさいましたか?」


 陽太の後ろにいた神木までもが声をかけてきて、慌てて首を振る。


「大丈夫っ、本当になんでもないから……ちょっと疲れただけだよ」

「なら、今日は早く休め」

「でしたら、寝る前に白藤さんに暖かい飲み物を持っていくように言っておきますね」

「神木さん、今飲みたいです! すぐ寝ちゃうんで、今すぐがいいですっ」


 今は白藤と二人きりで会うようなことは避けたかった。よほど必死な様子に驚いたのか、陽太と神木が目を合わせ首を傾げる。


「か、神木さんの淹れてくれるミルクティが好きなんです」


 そう言い足すと、神木は少し嬉しそうに微笑んだ。


「左様でしたか。では、今すぐお持ちいたしますね」

「なら、それ飲んで寝るんだぞ。また倒れられたら大変だから」


 変に思われただろうかと不安だったが、なんとか隠し通せたようだ。


「うん、分かった」

「そうだ、神木……食後に珈琲を部屋へ持ってきてくれないか?」

「畏まりました。ではお嬢様、少々お待ちください」

「はい」


 再び、わたしはこっそりと目だけで白藤の行動を追う。だが、今は怪しいところはない。


(とりあえず、まだ会ったばかりだし……様子を見てみるしかないよね)


 ここへ来たばかりの時も、初めからうまくいったわけではない。もしかしたら、陽太や暉と同じように、そうせざるを得ない原因があるのかもしれない。

 だとすれば、白藤とも時間をかけていけば、みんなと同じように打ち解ける日がくるかもしれないと、わたしは思い直した。


「お待たせいたしました」


 目の前に、温かな湯気の立つミルクティが置かれる。


「ありがとうございます、神木さんっ」


 神木の淹れてくれたミルクティにホッと一息つき、わたしは冷静さを取り戻したのだった。





   ◇◇◇  ◇◇◇





 夕食後、神木が陽太の部屋をノックして入る。


「陽太様、珈琲をお持ちいたしました」

「悪いな、誠……わざわざ持ってこさせて」


 書類から視線を外し、陽太は親しみを込めた笑みを神木に向けた。すると、神木もスッと執事の顔を消す。


「構わないよ。それより珍しいね……陽太が夜に珈琲なんて」

「いや、片付けたい仕事があったからな。けど、珈琲を頼んだのは“ついで”だ」

「というと、俺に話でも?」


 机に珈琲を置いた神木に、陽太は真剣な眼差しを向けた。


「亜矢をなるべく“あの人”に近づけない方がいいかもしれない」

「あの人って、白藤さんの事か?」

「ああ、亜矢の様子が少しだけおかしかったんだ。俺の思い違いなら別にいい……とりあえず、しばらくは気をつけて見てやってくれ」


 陽太の頼みを聞き、神木は受け入れるように頷いた。


「分かったよ」

「頼んだ」

「では、わたくしは仕事に戻らせて頂きます」


 いつもの口調に戻った神木を見て、陽太は思わず笑い出す。


「切り換えが早いな」

「わたくしは執事ですので……では、失礼いたします」


 そう言って神木が部屋から出ていくと、陽太は珈琲に口をつける。


「何も起きないといいけど……」


 さっきまでの亜矢の様子を思い浮かべながら呟き、陽太はまた書類に目を落とした。

白藤あおい、登場できた(*´∀`)♪


娘にはウザイ!と非難されてますが(笑)

わたしお気に入りキャラです♪


これからばんばん絡んでくるので

よろしくお願いします<(_ _*)>

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