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~執事と恋したら、どうなりますか?~  作者: 石田あやね
第2章『執事は演じてます!』
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memorys,24

 沈黙が生まれる。


 “一回、泣いてくれない?”


 きっと、冗談ではない。

 暉くんの顔は至って真剣だ。


(泣いた方がいいの? いや、いきなり泣けと言われても泣けないし)


 頭を撫でていた手が頬に移り、親指で目尻の近くをなぞる。


「今は……難しいかな?」


 遠慮がちに言うと、少し残念そうな顔をした。そんな暉くんの様子に、悪くはないと思いながらも若干、罪悪感みたいなものを感じる。


「ごめんね」


「仕方ないか」


 意味不明な発言に、いまいち頭がついていかない。


 そう言えば、わたしが家を飛び出して、神木さんが連れ戻してくれたあの日。少し泣いてしまったわたしを不思議そうに見ていた暉くんを思い出した。


 泣くのを見たい理由と、パーティーで話した“女嫌い”には何か関連性があったりするのだろうか。


「なんで、わたしに泣いてほしいの?」


 思わず疑問を口にしてみた。


「君が泣いてるの見た時、全く嫌な感じがなかったんだよね。女って涙を武器にしたりするでしょ? だから、泣いたとこ見ても“またか”ってうんざりするんだけど……亜矢のは違ったんだ」


 “なんでかな?”と呟きながら、また親指を動かす。


「僕ね、バイオリンで世界を目指してるんだ。けど、前の彼女がバイオリンばかり弾いてる僕の事をよく邪魔して、怒ると直ぐ泣いて……挙げ句の果てに僕からバイオリンを奪おうとした」


「奪うって」


「正確に言うと“弾けない”ようにしようとしたかな? 階段から突き落とされたんだ」


 暉くん意外な過去に、わたしは思わず起き上がった。


「それで!? 暉くん、大丈夫だったの!?」


「おかげさまで……指は守ったから、バイオリンは」


「そうじゃなくて……暉くん自身がだよ。もしかして、女嫌いなのってそれが理由?」


「まぁね」


 ふっと、悲しげな笑みを浮かべる。


「その子、階段から落ちた俺に泣きながら謝ったんだ……けど、彼女の目は笑ってた。これでバイオリンが弾けなくなれば僕を独占できるとでも思ってたのかな」


 そんな出来事を体験してしまったら、女嫌いになってしまっても仕方ない。あれだけ、女の子たちからも人気があるのに、わたしの存在がまた新たな争いや嫉妬を芽吹かせる可能性だってあった。


 そして、わたしも例外ではない。


「それで、わたしと関わる事も避けたんだね」


「うん、いくら家族って言われても赤の他人だし……君が“女”ってのもあったし、嫌われるぐらいがちょうど良かった」


 今なら、暉くんの行動に納得できる。


「なら、なんで隠したままにしなかったの? 騒ぎになるの分かってたのに」


「うん……けど、君を見てたら考えが変わった。世の中には亜矢みたいな女の子も居るんだなって」


「え? わたしは普通だよ」


「そう? 全然違うよ」


 そう言って、暉くんには珍しい優しげな微笑みが浮かぶ。いや、本当はこれが暉くん本来の素顔なのだと確信した。


「どんな逆境にも泣かないで立ち向かっていくとことか、なかなか見てて面白かったよ」


「面白かったんだ……」


 けど、やっぱり少々ズレがある。


「あんなに綺麗な涙も初めて見た。素直で、濁りのない泣き顔……また見てみたいなぁって思ったんだけど、今回は我慢するよ」


 どう答えていいか分からず、とりあえず笑顔で返した。


「じゃあ、僕は授業に戻るよ。鞄はそこに置いてあるからね」


「うん、ありがとう」


「鞄、さっきクラスメイトの御山さんが持ってきてくれたよ」


「そうなんだ。あとでお礼言わなきゃ」


 自分を見てくれていた人がひとりでも居てくれたことに感謝する。


「良かったね。友達できたじゃん」


「うん」


 立ち上がり、暉くんはまた軽くわたしの頭を撫でた。


「今はゆっくり休みなよ。君が元気じゃなきゃ僕もつまらないし……過保護な兄さんが心配すると面倒だから。無茶は程ほどにね」


「分かった」


 少し人とは違う感性を持って、ミステリアスな部分もあるけれど、やっぱり優しいところは涼華さんに似ているのかもしれない。


「暉くん、ありがとう」


 お礼を言うと笑い返し、小さく手を振り出ていった。誰もいなくなった保健室でわたしはひとり笑みを零す。


「明日からまた頑張ろうっ」


 いろいろ大変な事もあったけれど、今は澄みきった青空のように心は晴れやかだった。








 そして、この日を境に、わたしの生活は穏やかなものへと変化する。


 暉くんの暴露があって、少しだけクラスメイトからは注目を浴びるが、それも一時だけのこと。わたしを助けてくれた御山さんが側に居てくれたおかげで、質問攻めに合うこともなかった。


「おはよう、今日も歩いてきたの?」


 リムジンから下りてきた御山さんが歩きで登校してきたわたしを見て“亜矢はすごいよね”と笑顔する。


「え? 歩きもいいよ? 景色見ながら行くのわたし好きだし」


「変わってるね。けど、そういうとこ嫌いじゃないよ」


 彼女は御山 (かなで)


 実は朝比奈財閥と肩を並べる企業・御山グループの社長令嬢。そんなすごい家のお嬢様で、しかもモデルまでしているのに、とてもクールで話しやすい人だ。


 あの事をきっかけに御山さんとは仲良くなり、学校ではだいたい一緒に行動を共にしている。クラスメイトとも僅かながらだけど、言葉を交わすようにもなり、今では陰口を言う人はいない。


 女子に関しては“言えない”だけなのかもしれないが、少しずつ自分を分かってもらえるよう努力すればいい話だ。


 “よしっ!”と小声で気合いを入れる。


「行こう。授業始まっちゃうよ」


「うん!」


 それでも、これからは心穏やかな生活が続いていく。



 そう思っていた。









 季節は移り、6月中旬。


 いつも通り歩きながら下校し、朝から降り頻る雨から逃れるように慌てて玄関を開け放った。


「ただいまっ」


 そう、普段ならばここで神木さんが出迎えてくれる。


 しかし、今日は違った。


「おかえりなさいませ、お嬢様」


 聞き慣れない声。サイドだけ少し伸ばした茶色のショートヘアに、シルバーの細いフレームの眼鏡をした見知らぬ男性が微笑む。


(……誰っ?)


 わたしは、いきなり現れた人物をただ凝視する他なかった。

これでようやく兄弟とは完全に

打ち解けたかなぁ(*´∀`)♪


さて、やっと出したかった新キャラ

ちょこっと登場しました!

これで恋愛モードに突入??

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