『憧れと二人きり』
お昼前の、会社近くの駅前。球形のモニュメントの周りで、私は待機していました。ちょっとおしゃれして、白と青で爽やかに、ロングスカートでしとやかに。
気合い入れすぎたかな……。予定より三十分も早く着いちゃったし……。いや、遅れるよりは全然いいか。
「あ。アイ。やっぱり来てたのね」
「ひゃいっ!?」
目線を下にして考え事をしていたために、正面からの声に思わず驚いてしまいました。
顔をあげると、黒い薄手のパーカーにジーンズという、飾らずかっこいい先輩が目を見開いて立っていました。
「あ、す、すみませんキキさん! ちょっと考え事をしてて」
「そう、それは申し訳なかったわ」
「いえ、全然! それにしても、キキさん早いですね? まだ約束の時間まで結構あるのに」
「待たせてたら悪いかなと思って。予想は当たってたわね」
「あ。……えへへ」
キキさん、やっぱりいい人だ。
「じゃあ、行く?」
「はい!」
キキさんに連れられる形で、今日の行程がスタートしました。
二週間前。
会社の廊下に貼られていた広告を前に立っていると、キキさんが話しかけてくれたのです。
「映画?」
「そうなんです。一人で行く勇気が出なくて」
「その映画、私も気になってたから、一緒にいく?」
「いいんですか!?」
「ええ。ちょうど夏休みで学校もないから、予定も合わせやすいし」
と、いうわけで。
「ふむ、いい映画だったわね」
「よかったですね」
私とキキさんは、エンディングが終わり照明が明るくなった劇場で、少しの間余韻に浸ったあと、ピークを過ぎたフードコートで遅めのお昼ご飯を食べていた。
まさかキキさんがこういう映画が好きだったなんて。ちょっと嬉しい。
「実は私、こういう映画初めてなんだ」
「え……」
…………。
そう……なんだ。そりゃそうだよね。キキさんはこういう映画見ないよね。こういうのはちょっと黒いし、怖いし。
「興味はあったんだけどね。きっかけがなかったの」
「……」
「あの仕事をしてると、映画を見るとかあんまり考えられなくなってきて。アイが見たいって知って、ちょっと乗っかったの」
「そう、だったんですね」
……言葉というのは、とても不思議な力がある。
さっきまで冷えきっていた私の内側が、キキさんの理由のおかげで暖かいと感じられる。
推測で落ち込んだ自分が恥ずかしいけど、それより、先輩の心が嬉しい。
「遊びにいくとかも、ほんと久しぶりよ」
「モモさんやミカさんとは行かないんですか?」
「モモはうるさいしミカはちょっと趣味が合わないの。二人とも悪いやつじゃないから、大きな仕事が終わった後とかは気晴らしに遊びにいくとかはあったけど、ほとんど打ち上げでご飯食べて終わり。こういうのとか、夏祭りなんかは全くないなぁ」
「夏祭り、いいですねぇ」
「今度いく?」
「あ、ごめんなさい。ちょうど夏祭りの日は家族と旅行の予定があって……」
「そう、それはしょうがないわね」
もう! なんでこんなに先輩が優しくしてくれてるのに私の予定合わないの! 家族も大事だからしょうがないけど!
「なら、また来年考えましょ」
「……」
「? どうかした?」
「……いえ。来年は是非行きましょうね!」
「ええ、楽しみにしてるわ」
キキさんの微笑みに、言葉に、私も頬が緩んだ。




