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紫霧を纏う毒使い  作者: 雨請 晴雨
3章 魔人帝国シラカバ
102/124

-73- ゆらゆらメッセージ

お読みいただきありがとうございます。


-68-えるえーん

からの続きになります。


この時、どんな感情でこのサブタイを付けたのだろう……

 シンリが自分たちから離れたことを確認して、エンテはエルゼに話し掛ける。


「さて……。なんですかその『シンリさんに頭ぽんってされてずるいなー』という顔は」

「はっ、心を読まれた!?」

「読んでません。読めません。ですが、そのくらい分かりますよ。貴方とわたくしは似ています。わたくしが貴方なら、そう思ったでしょうから」


 エンテは目を細め、遠くに腰掛けているシンリを眺める。


「……声は、聞こえていないようですね。本来なら、どうにかして移動するつもりでしたが、手間が省けて良かったです」


 少し口角をつり上げながら、エルゼに向き直った。

 エルゼは訝しげにエンテに尋ねる。


「どういうつもりなの? まさか、シンリさんの見てる前でさっきの続きをするわけじゃないでしょ?」


 ありえないと分かっていつつも、牽制するようにエルゼは言った。

 エンテは挑発のようなその言葉に顔色ひとつ変えない。


「もちろん。エルゼ様、取り引きをしましょう」

「取り引き?」

「ええ、取り引きです。貴方はどうせ、これからわたくしたちに着いてくるでしょう。シンリ様に拒絶されるまで。いえ、例え拒まれたとしても、嫌われても、陰ながら着いてくる。わたくしなら、絶対にそうする」

「………………」


 どうしよう、この女頭おかしい。

 ストーカー。ストーカーって言うんだよね、こういうの。

 こんなやつ、やっぱりシンリさんの側にいさせたらいけない……危ないよ。

 わたしがシンリさんを守らないと。


 エルゼは密かにそう心に誓った。


「……エルゼ様?」

「え、あ、はい。なんでしたっけ?」

「なぜ急に敬語に……? いえ、それはいいのです。取り引きの話です。シンリ様に関することの取り決めをしませんか?」

「そんなの決めなくても、おまえがいなくなればいい話だけど?」

「あら、良いのですか? そのような強気な態度で。わたくしに危害を加えた貴方を、わたくしが怖いと言ったなら、シンリ様は貴方とわたくしを離そうとするでしょう。そうなれば、貴方はもうシンリ様の側にはいられませんよ?」

「……へぇ。自分が選ばれる自信があるんだぁ」

「もちろんです。貴方には力があって、わたくしには無い。わたくしは1人では生きていけないのです。シンリ様は迷うかもしれませんが、最終的に選ばれるのはわたくしでしょう」

「嘘つき。透明なんて、あんな力を持ってるくせに、力がないなんてありえない」

「あぁ、あれは……借り物ですから──」 


 すぅ……とエンテの身体が頭からつま先まで薄れていって──薄れていったがすぐに色を取り戻した。


「はい、使い切りました。もう金輪際あの力は使えません」

「あ、あ、あ……」

「あ?」


 エンテを指さして震えるエルゼに、エンテは首を傾げた。


「あざとい!」

「は?」

「き、狐の耳! もふもふのしっぽ! あざといあざといあざといぃぃぃぃ!!」


 狐の力を使い切ったエンテの頭からはぴょこりと狐の耳が生えており、お尻からは大きな白い尻尾が生えていた。


「な、なんですかこれ!?」

「ずるい! シンリさん絶対犬とか猫とか好きだもん! わんわんとかにゃーにゃーとか言ったらかわいいって言ってくれたもん!」

「あら、その話ぜひとも詳しく聞かせて欲しいこん」


 きゃーきゃー。

 わーわー。

 こんこん。


 言い争いから取っ組み合いにまで発展した。


 そんな2人を遠くから眺めながら、シンリは言った。


「あいつら喧嘩してるんだけど」

『良いではないか喧嘩ぐらい。あやつらが先程までしとったのは殺し合いじゃぞ? あのくらいかわいいものよ』

「そうか……そうか? 結構激しいぞ?」


 とは言っても、止めようとはしない。

 ミルネアシーニが言った通り、先程とは違ってただの喧嘩だ。命に関わることは絶対にないだろう。


 話して、ぶつかり合って、それが終わってみれば、きっと彼女たちは仲良くなれるのではないだろうか。

 歳も近いので、それこそ友達のような関係に。


 暖かい目で彼女らを見守っていると、シンリたちに近付く者がいた。


「深里、ちょっといい? 話がある」



 深里の視線の先には、エルゼともう1人の女の子がいた。


 争ってはいるようだけど、彼が介入していないということは、エルゼはあの娘を殺さなかったのだろう。

 殺せなかった、ということなのかもしれないけど、誰も死ななかったのならそれが一番いいに決まってる。


 僕は死んだけど。はいここ笑うとこです。


 ともあれ、エルゼの方が解決しているのなら、あとは僕の方も終わらせなければならない。


 声を掛けた深里は、どうしたのかと言わんばかりに、座ったまま僕の目を見た。


 ……さて、こういう時はアレしかない。


「申し訳ございませんでした」


 土下座だ。


 この世界では通じないかもしれないけど、日本人ふかざとならば通じる。

 ただ言葉で謝罪したところで、その思いを全て伝えることはできない。言葉だけでは限界がある。


 だからこその、土下座。


 僕はとても申し訳なく思っている。


 僕の中では確かな意志の元で行動していたとはいえ、深里に奇襲をかけたことは事実。

 それに、結果的には未遂に終わったとはいえ、エルゼが深里の連れを殺そうとするのを手伝ったのだ。

 彼からしてみればたまったものでは無いだろう。


「……」


 彼からの反応はなかった。

 頭を下げているため深里の反応は見れない。


 それならばと。


「言い訳だけど、聞いて欲しい。僕の事情を」


 言い訳を始めた。



「僕の能力は、死ねば誰からの記憶にも残らなくなってーー」


「エルゼだけは覚えてくれていたからーー」


「だけど、君も僕のことを忘れていなくてーー」


 深里は黙ったまま僕の話を聞いていた。

 反応が無さすぎて本当に聞いているのか不安になるくらいだ。


「そうか」


 僕が言い訳を終えると、深里は一言そう言った。

 顔を上げて彼の顔を見る。

 彼の表情はあまりにも変化がなくて、どういった感情を抱いているのか分からない。


 信じてもらえただろうか。解ってもらえただろうか。

 ここにもう1人いたら自害して実演できたのだが、居ないものは仕方ない。

 証明はいつでも出来る。


 それよりも……。


「自分勝手な事で、本当に申し訳ない。でも、僕を許して欲しいんだ。数少ない、もしかしたらもう他に誰もいないかもしれない、僕を覚えている人に嫌われたくはない……っ」


 本心だった。


 エルゼとはまた違う、深里 真理というクラスメイト。

 異世界ここに来る前からの僕を知る、唯一無二の存在。


「許すも許さないも、俺が決めることじゃない。後でエンテに言ってくれ。あいつは俺が許すならそれに従うと言うだろうが──あいつがそう言うなら、それでいいさ」


 その言葉は、適当というか、無責任というか、とても他人事のようで。

 それがひどく心地よかった。


 あまりにも無関心過ぎて、人間味が欠けているようにも思えたけど、化け物である僕が言えた義理ではない。


 なんにせよ、彼の中に怒りがないということが分かったのだから。


「よぅし、じゃあ君のことは親しみを込めてフカシンとでも呼ぼうかな!」

「やめろ」

「正直、久々にクラスメイトと会ってテンション上がってるんだよね。フカシンは他に誰かと会った?」

「やめろって言ってるだろ。さっきまでの控え目な態度はどうした」

「フカシン」

「普通に呼べ普通に」

「不可侵条約」

「……」

「いや、今のは自分でもどうかと思った」


 ダメだな。ちょっと、今の僕は誰かと話したい欲が爆発している。

 エルゼと話していた時は、エルゼばかり話していたし。

 落ち着け、僕。


 話すべきことは他にもあるだろ。


「深里」

「だから……。いや、どうした」

「君たちの旅路に、僕らもついて行ってもいいかな? まあ、エルゼは勝手について行きそうだけど」


 僕の言葉に、深里は少し考えてから答える。


「ああ、問題ない」

「ありがとう。で、これからどこに行こうとか、考えてる?」

「特に考えてはいない。ただ、漠然とエンテの望む場所に行こうとは思っている」

「なるほどね。じゃあ、提案なんだけど──」


 僕を忘れない存在の境界線はまだ分からない。

 エルゼと深里。その2人に共通するものがなんなのか分からない。

 ただの偶然で、共通点がないという可能性だってある。


 それなら。

 可能性だけで言うのなら。


 クラスメイト、日本人が全員僕のことを覚えている可能性だってあるはずだ。


 エルゼはひとまず置いておくとして。


 だから僕は深里に言うのだ。

 ちょうど、クラスメイトが集まる機会が近いうちにある。


「帝国に、行ってみない?」

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