表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
学年一の才女を拾ったら癒されました  作者: PPHiT
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

96/136

第87話 金沢旅行⑥

 食事の後、部屋に戻ると俺たちは寝る準備を始めた。「せっかくだから」と備え付けのビューバスに浸かってみたものの、大きな窓から見える夜の海はインクを流したように暗く、見つめていると吸い込まれそうだった。


 昼間のプールでのアクシデントがあったとは言え、こうして一緒のベッドに入るのはすっかり日常茶飯事になっている。……もう自室に戻るよう説得するのは諦めたが、万が一俺が理性を飛ばして襲いかかったらどうするつもりなのだろうか。彼女の無防備さには、もう少し危機感を持ってほしいところだ。


 瀬那は俺が贈ったヘアクリップを、ベッド横のナイトテーブルへ箱に入れたまま大切そうに置いていた。特別高価なものではないが、インナークッション付きの箱を開けたままにしておくと、それなりに洒落たディスプレイにも見えなくはない。


 キングサイズのベッドに、上質なリネン。お互いどれだけ寝返りを打っても余裕があるはずなのだが――


「なあ瀬那さん。いくらなんでも、もう少し離れて寝てくれないですかね?」

「……ん?」


 ――気がつけば、肩がぶつかるほど近くに瀬那がいた。と言うより、俺の右腕にがっつり抱きついている。

 俺の腕の中にすっぽりと収まる小さな身体を(たしな)めるように見下ろしたものの、彼女は「え、何を言っているんですか? 私の定位置はここですよ?」とでも言いたげな、不思議そうな顔を向けてきた。……解せぬ。


 密着する体勢はいつもと同じはずなのに、スイートルームという非日常のせいか、俺の心拍数は嫌でも跳ね上がる。腕越しに伝わってくる瀬那の柔らかな心音も、どくどくと、いつもより少しだけ早かった。


(なぜだろうか……やけに緊張する)


 いや、理由はわかっている。環境が違うせいで、俺自身が今夜を『特別な時間』だと錯覚してしまっているのだ。

 俺は無意識のうちに、精神を落ち着かせるためのルーティンである左耳のピアスへと指を伸ばしていた。奥で(くすぶ)る熱を、理性で総動員して押さえつけ、必死に平静を保とうとする。ここで本能のままに動いてしまったら、これまでの関係が崩れてしまう。

 そんな俺の命懸けの葛藤を知ってか知らずか、数分も経つと、横から規則正しい寝息が聞こえてきた。


「すぅ……すぅ……」


 夕食前に少し寝落ちしていたとはいえ、まだまだ疲れていたのだろう。眠りにつくまでにそんなに時間はかからなかったようだ。

 シーツに沈む白い頬にかかった髪を、起こさないようそっと指先で(すく)って耳にかける。大きく息を吐き出すと、ようやく俺の張り詰めていた肩の力も抜けた。


 ナイトテーブルの上では、ディープブルーのヘアクリップが間接照明の淡い光を受けて、静かに煌めいている。

 ほんの少しだけ残念な気持ちを胸の奥に仕舞い込み、俺は電気を消した。そして腕にある確かな温もりを感じながら目を閉じる。


 また明日も、彼女にとって楽しい時間になるように――と願いながら。


 ◇◇◇◇◇


 朝食は予定通り、ホテル内のレストランでのビュッフェだ。会場には色鮮やかなフルーツや焼きたてのパン、シリアルなどが豊富に並び、食欲をそそる香りが漂っている。重めの肉料理も用意されていたが、これから海に行くことを考えると胃に負担がかかりそうなので、俺は遠慮しておくことにした。


 等間隔に並んだテーブルの好きな席を選び、好きな料理を取ってきて食べるスタイル。瀬那はビュッフェ形式のレストラン自体が初めてだったらしく、金色の瞳を輝かせて物珍しげに周囲を観察していた。……まあ、俺も似たようなものなのだが、そこは平静を装っておく。


「朝食でもこんなに種類があるなんて凄いですね。何をいただこうか、悩んでしまいます」

「あぁ、目移りするよな。俺はとりあえずいつも通り、パンと卵料理にするつもりだ」

「ふふっ、朔也くんはブレないですね。私は……そうですね、少し冒険してみましょうか」


 案内されたテーブルに荷物を置き、お互いに好きなものを取りに向かう。

 戻ってきた瀬那のプレートを見ると、一口大の料理が少しずつ、いくつも綺麗に盛り付けられていた。どうやら広く浅く、色々な味を楽しむ作戦らしい。


「うーん、どれも美味しいです♪……えっ? 朔也くん、そのオムレツはどこにあったのですか!?」

「これか? あそこのライブキッチンで、シェフが目の前で焼いてくれたんだぞ」


 目線で場所を教えるが、瀬那の熱い視線は俺のオムレツからピタリと離れない。


「……自分で一ついただくと、少し量が多いですね」

「……少し食べるか?」

「はいっ♪」


 他のものを一口サイズで取ってきているのだから、オムレツ丸々一つが彼女には多いのはわかる。俺の提案に食い気味で即答するあたり、最初から狙っていたのはバレバレだ。

 だが、そんな風に無邪気にねだられるのは決して悪い気分ではない。俺は自分の皿を、瀬那の手元へとスッと押し出した。


 ――が、直後に無言で皿を押し戻された。


「……」

「……」


 俺は無言でもう一度、皿を彼女の前に押し出す。

 ――すかさず戻された。しかも、最高に嬉しそうな笑顔付きで。


「……」

「……」


 ……なるほど。もしかして、こやつは。


「……行儀が悪いぞ?」

「誰も気にしませんよ? それとも、私にするのは嫌だ……と?」


 上目遣いで首を傾げる、いつものやつだ。目に見えて分かるほど、彼女の瞳が期待に揺れている。

 俺は「はぁ……」と彼女に伝わるように大袈裟なため息をつきつつ、ナイフでオムレツを一口大に切り分ける。それをスプーンに乗せ、小さく口を開けて待機している瀬那の口元へ運んだ。


「ほれ」

「あーん……んっ、もぐもぐ。んーっ、これも美味しいですね♪」


 満足そうに頬を緩める瀬那。そのあまりに無防備な様子に、俺は思わず顔が熱くなるのを感じた。周囲の微笑ましい視線に気まずさを覚えているのは、どうやら俺だけらしかった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


もし「面白い!」「続きが読みたい!」と思っていただけましたら、ページ最下部にある『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』にして評価していただけると、毎日の執筆の大きなモチベーションになります!


ブックマークへの登録も、ぜひよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ