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学年一の才女を拾ったら癒されました  作者: PPHiT
第二章

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第83話 金沢旅行②

 部屋まではそのまま副支配人が案内してくれた。わざわざ申し訳なさを感じる。エレベーター内で上層階に移動する中、瀬那が疑問を口にした。


「いつも思いますが、目上のというか、大人に対しての礼儀が自然とできていますよね。どこで覚えたのですか?」

「どこってほどじゃないけど、処世術みたいなものだから自然とって感じかな。そういう瀬那は俺以上だろ?」

「私はひいおばあちゃんに叩き込まれましたから」


 上層階で降りると、再びドアが配置してあった。


「この階は、使用されているお客様以外には入れないよう、扉が設置してあります。先ほどのカードをこちらにかざすと、ロックが解除されます」


 スイートルームがあるためなのか、セキュリティが厳重だ。場所によってはエレベーターにキーをかざさないと、目的の階を押せない仕様もあると聞いたことがあるが、このタイプもあるんだな。


「こちらになります。お荷物は中に運んでおきますね」


 案内された部屋を開けると――異常だった。

 まず、玄関が広い。部屋としては四人まで泊まれるらしいのだが、うちの玄関の少なくとも二倍はある。泊まるのが四人までなのに、なぜか広いシューズボックス。


 玄関から部屋に入ると、ホテルの部屋なのにシンクが設置してある。コンロがないだけでキッチンそのものだ。コーヒーメーカーや冷蔵庫、包丁は設置してあるので、簡単なものなら作れそうだ。


 リビングは何インチあるんだよっていうほどの大きさをしたTVと、六人掛けのカウチソファが配置してある。そして、壁一面を切り取ったかのような巨大なガラス窓。


 部屋の空気すら違った。微かに漂う上品なアロマの香りと、外界の騒音を完全に遮断した静寂。


「えっと……ここでスリッパを脱げばいいのか?」


 足が沈み込みそうなほどふかふかの絨毯を前に、俺は思わずそんな場違いな疑問を口にしてしまった。


「朔也くん! こっちを見てください! すごいです!」


 窓際に立っていた瀬那が、弾んだ声で俺を呼ぶ。


「どうした? ……マジか」


 彼女の隣に立った瞬間、リビングに入った時以上の衝撃が俺を襲った。大きな窓の向こう、視界のすべてを埋め尽くす圧倒的な青。太陽の光を反射して、まるで無数の宝石が転がっているかのようにキラキラと輝いている。

 ここから見ると海がさらに近く、自分たちがその中に浮かんでいるような錯覚さえ覚える。


「……こんな綺麗な海、初めて見ました」


 瀬那は目をキラキラさせて、ガラス越しに広がる絶景を見つめていた。


 寝室には、部屋の主役と言わんばかりのキングサイズのベッドが鎮座していた。

 少し光沢のある純白のシーツ。足元には部屋のトーンに合わせた深いブルーのベッドスローが掛けられ、上品な空間を演出している。

 ……間違いなく、今まで見たどのベッドよりもデカい。デカいのだが、今夜、俺はこの異常に広くて立派なベッドに、瀬那と二人並んで寝なければならないという事実に、急激に胃が痛くなってきた。


 一通り見てリビングに戻ると、俺は思う。やっぱり――。


「どう見ても、高校生には不相応だよな」

「はい、どう考えてもおかしいくらい広いです……。今更変更はできませんけど、本当に追加料金などはかからないのでしょうか?」

「向こうの不手際での無料アップグレードだからな。料金は最初に予約した時のままでいいってさ」


 元々、今回の宿泊費や新幹線代は、期限切れ寸前だった俺の優待券でまかなっている。

 それでも全額、俺持ちになることに瀬那は申し訳なさそうにしていたが、元はと言えば、ただの紙切れになるのを嫌がった俺が付き合わせただけだ。それに――。


(あの理不尽な事件の鬱憤(うっぷん)を、少しでも晴らしてくれるなら、安いもんだ)


「まあ、あんまり気にすんな。ラッキーぐらいの考えでいいだろ。ぶっちゃけ、俺もほとんど払っていないしな」

「そこが既におかしいのですけどね……」

「とりあえず、支度して昼飯食いに行こうぜ」


 よくある宿泊プラン通り、予約しているのは昼食がついていないプラン。今日の予定は昼食を取りつつ、ビーチの雰囲を確認するだけにとどめる予定だった。

 『予定だった』のは、チェックイン時間の問題があったからだ。荷物を預けたり水着を取り出したりとか、色々考えると面倒になるからだ。幸いにもチェックインは既に済ませて、部屋にも入れる状態だから、初日から海に入ることもできそうだ。


「どうする、この流れなら海に入ることもできそうだけど?」

「うーん、とりあえず予定通りに海岸沿いを歩きつつ、お昼にしませんか? 実は……海に入るのも初めてでして、勝手が分からず……」


 恥ずかしそうに頬を掻きながら俯く瀬那に、俺は思わず口元を綻ばせた。


「マジか。初めて尽くしの旅行になるなら、いい思い出にしないとな」

「はい!」


 スーツケースの中にある、もう一つ『準備しているもの』がちゃんと入っていることを確かめる。絶対にバレないようにしないといけない。……喜んでくれるといいんだけどな。

 そして俺たちは簡単に支度をして、部屋を出るのであった。


 ◇


 海岸沿いを日傘をさしながら歩き、海辺の状態を確認する。やはり天気も良いし、夏休みだからか人が多い。海の家も幾つか出ているが、どこも混んでいた。


「想像以上に人が多いですね……。どこもこのように多いのでしょうか?」

「俺も最後に行ったのは小学生だったからなー。でも、関東でも同じような感じだったから、こんなもんじゃないかな」

「すごいですね。荷物や着替えはどうしたら良いのですかね?」


 昔は気にせずビーチに置いていたらしいが、最近は何かと物騒なので、盗られたら困るものは置きたくない。最近の海の家は電子マネーも使えるらしいので、スマホ一つあればお金に困ることはなさそうだ。スマホ用の防水ケースは購入済みなので、海に入れても問題ない。

 ただ、今回は少し事情が違う。


「あー、その点は部屋で着替えてから行く感じかな。幸い、ホテルからも歩いてすぐだし、その方が楽だと思う。最悪、盗られても良いタオルとか、ペットボトルとかだけ持ってってさ」

「そういう方法があるのですね、それなら大丈夫そうです」


 納得したように頷いてはいたが、まだ不安がありそうだ。初めての海で、そこまで人が多いのは心配なのだろう。

 プライベートビーチがあるなら別なのかもしれないが、使用しているホテルにはない。それなら――。


「まだ不安ならさ、とりあえず今日はホテルのプールで様子見るってのもありだよ。……泳いだことはあるよな?」

「泳いだことぐらいはありますよ! 中学の授業でありましたし。……正直、まだ勇気が出ないのでプールでお願いします」

「りょーかい。絶対に行かなきゃいけないわけじゃないし、無理するところじゃないから気にすんな」


 しばらく歩くと、フロントで教えてもらった海鮮丼を出しているお店へと着いた。近くの港で獲れた、新鮮な魚介類を使っているらしい。価格も高校生に優しい。

 赤イカや幾つかの白身魚が乗っているものを二人で頼み、舌鼓を打った。流石に旬とはいえ、生牡蠣はやめておく。もし当たったらシャレにならないからだ。



 そして、俺たちはホテルへと戻りプールの用意をする。とは言っても、男の俺はそこまで支度することがない。ピアスをスタッドに変えてコンタクトにしたぐらいだ。久しぶりにつけたので、少し違和感がある。左手はサポーターを外して、黒いニトリルのゴム手袋だけにしている。


 寝室でハーフパンツの水着に着替え、ラッシュガードを羽織った状態。リビングルームで瀬那の着替えが終わるのを待っていた。ちなみに瀬那はパウダールームで着替えている。あちらは大きな鏡があるので、女性にはそちらの方が良いはずだ。


 その他の準備で防水のスマホケースや、タオルの準備をしていると――。


 ガチャ。

 パウダールームの扉が開く音がした。「おう、準備できたか」と、何気なくそちらへ顔を向けた。


「お待たせしました」


 ――瀬那の姿に、俺は絶句した。



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