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学年一の才女を拾ったら癒されました  作者: PPHiT
第二章

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第78話 期末テスト(一年一学期)

 そして期末テストが始まった。中間より範囲が広いのと教科が多いので、勉強量をこなすのは大変だったが、テスト自体は無事に終えることができた。……一部の面倒ごとを除いてな。


 ◇◇◇◇◇


「東條! お前にカンニングの疑惑がかかっている! 机を調べるから少し離れろ!」


 テスト開始の五分前になろうとしていた時、教室に入ってきたのは特進クラスの担任、赤口だった。開口一番に放った言葉は、俺に対するカンニングの疑惑。

 例の如く、特進クラスを焚きつけるために、俺をクラスで祭り上げていたらしいのは人づてに聞いた。もちろん、聖人としてではなく、邪魔な存在としてだ。


(……そう来たか)


 もちろん俺はカンニングなどしていないし、用意もしていない。……していないが、難癖ならともかく、証拠をでっち上げられてしまえば話は別だ。

 机の中に何も入っていないのは確認済み。仕込めるとしたら……。


 俺はすぐに立ち上がると、中身が出る角度に机を傾け、底を軽く叩いた。中に何も入っていないことを、赤口が俺の席に来る前に、クラス中にわかるようにしておく。その予想外の行動に、赤口も「なっ!」と一度足を止めていた。


「先生、お手数ですが俺が座っている机の中を確認してください」

「え? ……あぁ、わかった」


 仕込めるとしたら、赤口が俺の机を漁るタイミングしかない。探すふりをして、手に仕込んだメモか何かを忍ばせることは十分に可能だ。

 だからこそ、俺は赤口を手で制止し、代わりに試験監督の先生へ視線を向けた。


「……っと、何もない。当たり前だが、空っぽだな」


 監督の先生は中身を確認して、何もないことを証言してくれた。……もし監督の先生もグルだったらどうしようもなかったが、その心配はなさそうだ。


「くっ……。さっき机を傾けた時に、どこかへ隠したに違いない!」

「クラス全員の視線が集まっている状況で、どうやって隠すんですか。手品師じゃないんですから。ほら、袖にだって何もありませんよ」


 俺は両手と両腕を広げて見せる。ちょうど、有名な寿司屋の社長がやるポーズみたいな感じだ。

 もう七月なのでブレザーは着ていない。半袖のワイシャツは好きではないので、長袖のワイシャツを肘まで捲っている状態ではあるが、手元に隠せるスペースなどないことは一目瞭然だった。


「……くっそ」

(おい、聞こえているぞ。仮にも教師が生徒の前で言いがかりをつけただけじゃなく、悪態をつくなんて……。瀬那ではないがマジでどうかと思うんだが)


 俺はため息をついて、机の位置を調整しなおした。


「……待て! その包帯に何も書いていないのか?」

「はぁ?」

「何を言ってるんすか先生! さすがにそれはどうかと思うけど!」


 悪あがきなのか、左手の包帯に嫌疑をかけた赤口は、ドヤ顔をして言い放った。

 俺よりも先にそれに反応したのは、浩紀と和人だった。勢いよく立ち上がって抗議の声を上げた浩紀に同調するように、和人も鋭い視線を赤口に向けている。いつも冷静な和人にしては珍しい行動だ。

 それにしても包帯でカンニングね……。まあ、言いたいことはわかるが、悪あがきにしても意味がないだろうに……。


「じゃあ、とりますよ包帯。念のためと言うか、目立たないように着けているだけだから、とっても問題ありませんし」

「朔也!」

「気にすんな、浩紀。傷が塞がっているのは本当だから」


 そう言って俺は包帯を外した。もちろんカンニング用の書き込みが無いことを、赤口に確認させながら。……こいつが触ったものはもう使いたくないから、あとで捨てようと思う。


 包帯を解き終えると、数週間前に比べれば大分マシになったとはいえ、貫通刺創(かんつうしそう)の生々しい傷痕があらわになる。

 浩紀や和人は消毒の際に見ているが、他のクラスメイトにとっては初見だ。傷の事情を知っているはずの雫や斎藤でさえ、その痛々しさに息を呑んで硬直しているのがわかった。教室中が水を打ったように静まり返る。


「これでカンニングなんてしていないことがわかりましたよね。もういいですか?」

「……あぁ……くそっ」

(だから、その悪態聞こえているっての)

 

 赤口が出て行く姿を見つつ、俺はそのまま席に座った。替えの包帯は持っていないし、保健室までは取りに行く時間はない。不要とはいえ、傷痕を見せびらかしたいわけではないのだがな。


「先生、もうすぐ始まりますから、準備しましょう」

「あ、あぁ……そうだな。テスト中に傷口が痛むようなら、遠慮なく言うんだぞ」

「ご心配なく。痛みはほとんどありませんから」


 試験監督の先生は完全に赤口の暴走に巻き込まれただけなので、少し申し訳ない気持ちになる。


「……ちょっと、気持ち悪い傷、見せびらかさないでよ」


 チャイムの音に紛れるように、ヒソヒソと吐き捨てるような声が聞こえた。チラリと視線を向ければ、不快そうに顔を顰めている女子生徒が一人。

 こいつもこいつで、面倒な奴だ。俺は小さく息を吐き、思考から切り離すようにスルーした。俺を挟んで反対側にいる浩紀や和人の耳に届かなかったことだけが幸いだった。もし聞こえていたら、テスト前だというのにもう一波乱あったかもしれない。


 ◇◇◇◇◇


 そんな事があったとは言え、テスト自体はまずまずの結果だった。貼り出された順位表(五教科のみ)は言うまでもなく、ほぼ満点で一位が瀬那。その後の順位もあまり変動はなく、俺も前回と同じく四位だった。


『あの人は……本当にふざけていますね』


 赤口が乱入してきたその日、下校時に俺が包帯をしていないことを知った瀬那が、周りが凍えるようなオーラを纏って、職員室に向かうのを止めるのが大変だった。

 俺のために怒ってくれるのは嬉しいが、わざわざ瀬那から巻き込まれに行く必要はない。


 朗報としては、どうやら監督してくれた先生が教頭に、赤口のことを連絡してくれたらしく、次の日以降、絡まれることはなくなった。これでしばらくは静かにしてくれればいいのだが……。そう上手くいかないだろう、次のテストも気にする必要がありそうだ。


 そして面倒ごとと言えばもう一つ。実に一学期だけで三つ目となる、俺の噂が広まっていた。

 包帯をしていたので怪我したのはわかっていても、捻挫や骨折、大きめの擦り傷程度だと思われていたらしい。それが、刺し傷だとわかったことで、「他校との喧嘩で刺された」とか「ヤクザに入るための儀式だ」とか、面白いのは「やばいカルト宗教の儀式で刻まれた印」など根も葉もない噂が広がっていた。

 喧嘩はともかく、刻まれた印とか中二病かよ……人の噂とは面白いものだ。とりあえず、誰かに訊かれたら大袈裟に右目で左手を抑えながら、「左手に封印されてる力が疼く……っ!」とか言っておけばいいか? 俺の普段の目つきの悪さなら、案外信じる奴もいるかもしれない。


 そんなことがありつつも、とうとう今日は一学期の最後の日。終業式と学期最後のホームルームが終わり、あとは委員会の集まりがあるだけだ。とは言っても、連絡事項が多少あるだけらしいが。


「なんだあれ」

「何か集まってるね、なんだろ?」


 雫と集まる教室へ向かう途中、廊下から中庭を見ている集団がいた。イベントがあるとは聞いていない。野次馬根性を出した俺たちも、隙間から中庭を見た。そこには――瀬那がいた。

 その顔は笑ってはいるが、いつもの朗らかな笑顔ではなく、仲良い俺たちがわかるぐらいだが、イライラのオーラが現れていた。


「何してるんだ、あいつ……。……なあ、これなんなんだ?」

「えっ? ……ひっ! えっと……ごめんなさい。よ、よくわからないけど、先輩が告白するらしいって聞いたけど……」


 隣にいた男子同級生に聞いたら、めちゃくちゃビビられた……地味にショック。

 まあ、それは良いとして、公開告白ってところだろうか。どんな先輩かわからないが、仲良い先輩がいるとは聞いていない。

 それにしても、わざわざ目立つ中庭を場に選んだのは、この注目を考えてのことなのか。……もしそうなら、断りづらくする意図が見え見えだ。


「あっきた!」


 誰かが叫んだのでそちらの方を見ると、一人の男子がいた。ネクタイの色を見る限り、二年生の先輩のようだ。キャーキャーと歓声が沸いたぐらいに、イケメンのようだ。俺の好みとしては、和人の方がイケメンだ。……『俺の好み』ってなんだよ。


「あの先輩、一葉(いちは)くんのお兄さんだよ、確か」

「一葉の兄? ……名前に『虎』がつくって奴か」

「え? そうなの?」


 同じクラスの一葉龍真の兄は、二年の特進クラスだと以前聞いたことがある。兄弟仲は知らないが、その話題になった時に、二階堂先輩が苦虫を噛み潰したような顔をしていたのが印象的で覚えていた。その時に挙がっていた名前に『虎』がついたような気がする。確か、きっと、多分。


「ごめんね、瀬那ちゃん、こんなところに呼び出しちゃって」

「いえ、構いませんが……何の用でしょうか? あまり目立つのは好まないのですが」

「はは……、何故かこんなに集まってしまったみたいだね。驚いたよ」


 遠くからだからはっきりとはわからないが、瀬那の目が全く笑っていない。予想だと「そんなはずないでしょ、白々しい」って考えていそう。……後で聞いてみるか。


「こんなに注目されていて、恥ずかしいけど……。南雲瀬那さん、いつも笑って話しかけてくれる君が好きになりました。付き合ってくれませんか?」

「申し訳ありませんが、お断りします」


 全く考えることも躊躇うこともなく、瀬那は即座に拒否をしていた。それを見ていた周りのギャラリーが凍りついたのは言うまでもない。

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