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学年一の才女を拾ったら癒されました  作者: PPHiT
第二章

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第77話 勉強会②(一年一学期 期末テスト)

 土曜日、予定通り集まることとなったので、朝から準備をしていた。いい加減、左手が動かせるようになったので、俺も普通に掃除をしている。

 ただ、傷の跡が酷いため、包帯を外すと周りに無用な心配をかけてしまう。そのため、本当は巻く必要は無いと思うが、仕方なく軽く巻いている状態だ。もうすぐ夏休みなので、休み明けにはもう少し目立たなくなっていることを祈っている。

 ちなみに傷の治りの早さについて、医者から「異常だ……」と再び言われたのは言うまでもない。その話を瀬那にしたところ、


「傷が治る速度は……私も異常だと思いますけどね」


 と、瀬那にも苦笑いで言われてしまった。早い分には問題なかろうに。


 当たり前だが瀬那は家にいるので、外で待ち合わせている奴らとは一緒に来ない。家が近いってことになっていることに加え、すでに生活補助として幾度も来ていることも浩紀たちは知っている。なのでわざわざ駅で待ち合わせすることでもない。


 ……ちなみに、瀬那は正式に住所変更をして、書類上は現住所が我が家になっている。郵便関連の問題があるから必要になったためだ。引っ越しする目処が立っていない以上、仕方ないことだし俺も文句はない。

 ただし、学校側には届けていないらしい。理事長である叔母の朱門さんに、俺と同居していることがバレるのを恐れているからだろう……。だが、密かに俺が朱門さんに確認したところ、学校側の登録はすでに変更手続きが完了していた。

 どうやら朱門さんは、俺が瀬那に対して『朱門さんが同居のことを知っていること』をとっくに話していると思い込んでおり、後々書類上で面倒が発生しないようにと、気を利かせて裏で手を回してくれていたらしい。

 ……瀬那がこの事実を知ったら、一体どんな顔をするのだろうか。俺は少しだけ頭が痛くなった。


「さて、こんなもんかな。とりあえず、瀬那のお泊りグッズさえ見つからなかったら問題ないだろ。うちに何度も来ているのは知っているだろうから、ある程度はあっても別に構わないしな」


 瀬那用のコップや箸ぐらいならどうとでも言い訳できる。


「……非効率だと思うのですよね。やっぱり、一緒に住んでいるのを教えるのはダメでしょうか?」

「ダメだろ」


 俺が食い気味に返すと、彼女は少しだけ唇を尖らせた。


「……即答ですね」


 少しだけしゅんとした顔でこちらを見た。瀬那としてはバラしても問題ないと考えているかもしれない。俺としても中間テストの時はそう考えていたんだけど……。


「ぶっちゃけると、浩紀や和人、愛莉の三人なら言っても問題は無いと思っている。暴露したところで、爆笑されるぐらいだろうな。……ただ、まだ雫と斎藤の出方がわからないんだよ」

「……そうなのですね。信用できない……というわけでなさそうですが。それなら朔也くんは、家にさえ上げさせないと思いますし」

「よくお分かりで、その通りだな。多分、言いふらすような二人ではなさそうだけど、斎藤は単に付き合いが短いから量りかねている。雫は……最近の挙動がわからないんだよな。だから、念のためって感じかな」


 俺のその言葉を聞いた瞬間、瀬那はあからさまにジト目になった。


「……はぁ」


 何故か大きなため息をつかれた。最近の瀬那のこの反応もよくわからないのだけど……。


「まあ、そういうことだから、とりあえず今日は無難に話さないってことで」

「はい、わかりました。……それはそれで秘密の関係が続行ですね♪」

「そういうことになるな」


 機嫌が直ったのか、右手の人差し指を口元に移動し「しー」のポーズを取っては、悪戯っぽく満面の笑みで答える瀬那。自分で言っておいて『秘密の関係』っていう響きが気に入ったのだろう。

 普段は大人びているのに、彼女がそういうのを好きなのは、なんとなくわかるぐらいには、俺も彼女のことをわかってきていた。俺は小さく肩をすくめると、インターホンが鳴るのを待つことにした。


 ◇


 しばらくして、五人が家にやって来た。雫と斎藤の二人にはトイレの場所など、家の一通りの勝手を説明しておいた。瀬那の部屋だけ説明が難しいのは変わらないが、「整理していないから開けないで」ということで押し通す。作業部屋があるのが、いい具合に信憑性を高めてくれたらしい。「こいつはこの部屋に変なものを置いているかもしれないから危ない」と。……解せぬ。


「朔也くん、一人暮らしにしては広くない? それにシルバーアクセサリー作っているってすごい!」

「学校から近くてこの広さ……普通、たまり場になるよね? あぁ、だからあまり話したくないのか」


 各々のリアクションはあったが、それとなく濁しつつ、それっぽいことを言って回避した。とりあえず、全員をリビングに案内して、好きな所へと座らせる。

 ローテーブル一つでは足りないので、もう一つ引っ張り出してきて並べておいた。これとダイニングテーブルがあれば足りるという計算だ。


「さて、一息ついたら勉強するか。それぞれ好きなようにやって、わからないところがあったら誰かに聞く感じで」

「飲み物はこちらにありますので、ご自由に使ってくださいね。コップもここに入っているものなら何でも使って大丈夫ですので。あとは……」

「……南雲さんって、なんか慣れているね。自分の家みたいだよ」


 斎藤の発言は当然の疑問ではある。瀬那にしては珍しく、配慮に欠けた行動をした気がする。いい意味でとるなら、彼女にとってここが自分の家だと思ってくれているのかもしれない。悪い意味で言うなら……。


「瀬那は先に居て、準備を手伝ってくれたからな。それに俺の怪我のことを気にかけて生活の補助をしてくれたから、勝手がわかっているのだろ」

「……朔也くんの補助……なんでまた?」

「うん?」


 怪我の原因のことを知っていたら、瀬那が俺を気にかけるのはわかりそうなものだけど……。俺を見ていた瀬那が、俺が状況を理解していないのがわかったのか、補足説明をしてくれた。


「朔也くん、気づいていないかもしれませんが、手の怪我の原因をお二人はご存じないのではないですか?」

「……あぁ! そうなのか。嘘の噂は広まったけど、逆に本当の内容は広まっていないのか」

「あったねー、その手の怪我の噂。東條くんが南雲さんを……っていうやつ。すぐに二人が一緒にお昼ご飯を食べていたからガセだって話になっていたけど、その怪我の理由は知らないかも」

「うんうん!」


 つまり、誰も口に出していなかったってことか。主に教師陣に対してだが、彼らは思ったより口が硬かったらしい。……三波先生はともかく、赤口や勝田は裏がありそうで嫌だな。


「まあ、なんて言うか説明は難しいのだけど……ナイフが刺さった」

「えっ?」

「はぁ……。なんでその説明はいつも雑なんですか……。代わりに当事者である私が説明しますね」


 俺をジロリと睨んだ後、よくわかっていない顔をしている二人に、瀬那はちゃんと一から説明し始めた。あの時、どれだけ危ない状況だったのか。俺がどんな無茶をしたのかを、まるであの日の記憶を慈しむような、少しだけ熱を帯びた声で。

 雑と言われても、結果だけを伝えたつもりなんだが……。ダメなのか?


「なぁ、俺の説明って雑だったか?」


 放置されている三人に視線を向けて尋ねると、彼らは呆れ果てたような顔でこちらを見た。


「どう聞いても雑だろ」

「うん、雑としか言いようがないね」

「雑でしょ!」


 全員一致で肯定された。……解せぬ。


 ◇


 瀬那の説明を受けた二人は、若干……いや結構引いていた。ストーカー野郎に対してもそうだが、俺の行動にもだ。瀬那の主観が入っているから仕方ないのかもしれないが、そんなに引かなくても……。


「いやいや、何か納得できていないって顔してるけど、朔也くんも大概だよ? 庇ってナイフに刺されるのはともかく、その後の行動は……人間だよね?」

「どこを見たら人間じゃないって思うんだよ。ちょっとだけ、人より痛みに強いだけ」

「ちょっとかな……。やっていることはカッコいいのに、なんでそこはおかしいのだろう……」


 俺の返答に首を傾げる雫。その横で斎藤はただただ、呆れていた。俺は「これも、あまり広める事じゃないから、よろしく」と、軽く口止めをしておいた。広まっても問題は無いが、尾ひれに背びれが付きそうだから、意図して広めたいとは思わない。


「でも、やっと理由がわかったよ。委員会だけにしては距離が近いなって思っていたんだよ。そういうことだったんだね」


 雫は何かに納得したように「うん、うん」と頷いていた。


 その後はしばらく勉強をして、お昼を食べることになった。前回と同じく、俺と瀬那で用意しておいた料理を振る舞った。初夏ということで簡単に冷やし中華を作ってある。料理自体も具材を切るのと麺を茹でるだけなのでそれほど手間ではなく、人数分を用意するのも簡単な方だ。

 左手のリハビリがてらプリンも作ったのだが、こちらも思ったより好評だったので気分がいい。


「話には聞いていたけど、東條くんって料理ができるんだね。失礼だけど、意外だわ」

「こいつ見た目だけのファッションヤンキーだから、無駄に家事能力が高いぞ!」

「まだ言うのかそれ……」 


 食休憩を挟んで再び勉強をするが、人間そう長時間もやってはいられない。十五時を過ぎた辺りから集中力が切れた奴らが、ちょろちょろ出てきているのがわかる。……主に勉強ができない方の四人だが。


「朔ー。ねぇ、ゲームしていい?」


 愛莉がそう言ったのは、その三十分後だった。同じく浩紀や雫たちも手が止まっていたが……頑張った方だろう。


「勉強が大丈夫そうなら、やってもいいけど」

「おかげさまで、赤点は回避できそう! あとは記憶との勝負って感じ!」


 愛莉が自信満々にガッツポーズを作ってみせる。その底抜けの明るさに、俺は小さくため息をついて返した。


「……さようですか」


 教えたことを忘れないと良いけどな。

 俺の許しが出てすぐに、浩紀と愛莉はテレビ台に入っているゲーム機を取り出して準備をする。あまり使うこともない貰い物のゲーム機で、前回持ってきた中古のパーティゲームを始めていた。それを見ていた他のメンツもどんどん参加していって、今日の勉強会はお開きとなった。

 俺と瀬那はお互いに顔を見合わせて苦笑いをしつつ、俺たちもゲームに参戦するのだった。


 テレビの前に陣取って騒ぐ浩紀たちを眺めながら、俺はソファに腰を下ろす。ごく自然な動作で、瀬那も俺のすぐ隣に座った。

 賑やかな笑い声が響く、休日の夕方に差し掛かった時間。……こういう騒がしいのも、たまには悪くない。


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