第76話 勉強会①(一年一学期 期末テスト)
体育祭が終わって落ち着く暇もなく、黄隆学園は期末テストが差し迫っていた。ほとんど毎日勉強している俺や瀬那はあまり焦っていない。ただ、案の定と言うか、お約束と言うか……浩紀と愛莉はまだまだだった。
そういうことで、テスト週間に入った俺たちは、放課後は教室で勉強会をしている。
メンバーは俺と瀬那、浩紀と愛莉、そして和人。
今日も瀬那と愛莉が来る前に、いそいそと三人で机を借りて準備をしていた。
「さ、朔也くんたちって、最近放課後に何かしているけど……何してるの?」
帰り支度をしている雫と斎藤が話しかけてきた。体育祭の終わりの時はなぜかおどおどしていたが、最近は大分マシになったと思う。たかがコケただけなんだから、気にしなくても良い。『一部』の奴ら以外は誰も彼女を責めていない。その『一部』も気にするだけ無駄な連中だから、どうでも良い。あいつらは相変わらず性格が終わっているだけだ。
「期末テストの勉強会だよ。浩紀と愛莉がわからないところあるからってさ。一緒にした方が身が引き締まるってよ」
「ふふっ、そういうこと! 簡単に総合のワン・ツーを集められるのは、俺たちカップルぐらいなものだ!」
「なんで偉そうなんだよ……お前」
「へへっ!」
無駄に胸を張って宣言する浩紀を見て呆れた。確かに……と言うか、瀬那はともかく、俺にお願いする奴なんてたかが知れた数しかない。それもほとんどここに居る連中だし。
「……ねぇ、今日って私も参加していい?」
「え、いいんじゃない? 雫なら愛莉も南雲さんも仲いいし。……良いよな?」
「俺はもちろん構わないよ」
「同じく。あいつらも大丈夫だろ」
打ち上げや体育祭の後も一緒にいたので、勉強会に入っても残りの二人が気にするとは思えない。和人も俺も二つ返事で了承した。
「ありがと! ……正直、勉強に身が入らなくて焦っていたんだよね」
「そうなのか。なにか問題でもあったか?」
「う……うん、ちょっとね……」
彼女は俺をチラチラ見ては、何か言いづらそうにしていた。
……俺って何かしたっけか?
――ゴツッ!
「痛っ!」
隣にいた浩紀が俺の足を蹴っていた。そこまで力が入っていないけど、良いところに入った……
「なんだよ、急に」
「いやな……お前が雫をいじめていたから、仕方なく」
呆れた顔をした浩紀が、続けて言った。雫に何か問題があったのなら、助けてやりたいと思っただけなのだが。
「はぁ? いじめてねーよ」
「……お前はわかっていない」
「うん?」
こいつはこいつで意味不明なことを言う。俺は本当に何が言いたいのかわからない。何とか助け船を出してもらおうと、和人に視線を送ったところ……苦笑いをしている。
「俺を見てもしょうがないよ。これに関しては朔也が悪いと思っているのは、俺も一緒だからね」
「……マジかよ。和人に言われると、反省しないといけなさそうだな」
「俺に対して酷くねーか」
それは仕方ないだろ。よく変なことを言うお前と、いつもちゃんとしたことしか言わない和人……どちらが信用に足るかなど、疑う余地があるだろうか。
「朔也が浩紀に酷いのはいつものことだろう。とりあえず水野さんも参加するってことで、机を寄せようか」
「う、うん」
「それも俺に酷くね?」
なんだかんだ和人も、浩紀に対して雑なところがあるよな。
「私も一緒にやっていい? ……多分、フォローした方がいいだろうし」
斎藤は雫の方をチラッと見て、そう言った。まだ俺たちににぎこちないところがあるので、助かる。
「あぁ、もちろん大丈夫。じゃあ準備するか」
「ありがとー!」
雫と斎藤の分の机を用意し始めると、瀬那と愛莉が教室に入ってきた。
「お待たせして申し訳ありま……せん?」
教室に入ってきた瀬那は、いつもより追加された二つの机と、そこに座る雫の姿を見てぴたりと足を止めた。一瞬だけ、目を丸くした気がしたが、すぐにいつもの落ち着いた表情に戻る。
「おまたー! ……あれ? 今日は二人も一緒?」
「そそ。じゃあ始めようぜ」
浩紀の号令で、いつもより二人多い状態での勉強会が始まった。
◇
二時間ちょっと勉強をして、最終下校時間になったので、みんなで片付けを始めた。勉強の出来としては、雫と斎藤は同じぐらいで……愛莉とも同じぐらい。うん、がんばれ。
瀬那と愛莉がお手洗いに行っている間に、浩紀が申し訳なさそうに俺を見て聞いてきた。
「……朔也、悪いけど今週末もお願いしていいか?」
「……そんなことだと思ったよ。俺は構わないけど、みんなはどうする?」
「俺はもちろん参加するよ」
和人の答えを聞いた後、俺が雫と斎藤に視線を向けると、不思議そうに首を傾げた。
「えっと、どういうこと?」
「あー、二人は知らんか」
中間テストの時、俺の家で勉強会をしたことを伝えた。あの時は一日かけて勉強したもんだ。そのおかげか、あの二人もなんとかなったようだし、意味はあったはず。
「そんなことしていたんだ。……それに朔也くんって一人暮らしなんだね、知らなかった」
「あまり広めるようなことじゃないからな。タイミングがなきゃ、浩紀たちにも言っていなかったと思う」
「えっ、そうなのか!?」
素っ頓狂な声で浩紀が声を出していた。俺が話さない可能性があったのが、そんなに意外か? 友人として信用していても、言わないこともあるさ。
「会話の途中でいきなり、『俺、一人暮らしなんだ!』なんて言わないだろ。なんで教えたか忘れたが、関係する話題があったんだろ」
「……お前、喋り方が回りくどいって言われね?」
呆れたように肩をすくめる浩紀に、俺はジト目を向ける。
「……お前によく言われる」
「確かに!」
このやりとりが良かったのか、納得したのかはわからないが、浩紀は笑顔で「うん、うん」と頷いていた。
「それで土曜日に朔也んちでもやるけど、どうする?」
瀬那さんは参加していただかないと困るが、それを俺が言うのはおかしい。彼女もわかってるだろうから、後で了承してくれるだろう。ただ、面倒なのは前回と同じく痕跡を無くさないといけないところだ。
……浩紀たちは怪我の補助として、瀬那が俺の家に来ていること(そういう体になっている)は知っているから、お泊り関連だけ隠せばいける……か?
「えっと……私はやめておこうかな。恋人同士の邪魔しちゃ悪いし……」
しゅんとした感じで雫が言った。恋人って、浩紀と愛莉しかいない。そんなこと言ったら、俺を含めた三人も邪魔でしかない。……そもそも、人の家に来てわざわざ勉強を教わっておいて、邪魔って言われたら追い出してるわ。
「恋人って言っても、浩紀と愛莉だろ? むしろ勉強会のメインがその二人だからなー」
「……え?」
「あれ? 東條くんと南雲さんって付き合ってるんじゃないの?」
雫が驚いている横で、斎藤が勘違いしたことを言っていた。
……いや、そう誤解されても仕方ない状況があったのは否定できない。――が。
「ただの同級生だ。で、お前らはどうするんだ? 赤点回避したいなら来た方がいいと思うが?」
「……っ! うん! 絶対行く!」
一気に花が咲いたような満面の笑顔で頷く雫。その横でなぜか『あーあ』と首をかしげている斎藤。そして、後ろにいた浩紀から軽く蹴られた俺。……意味不明なのだが?
「お待たせしました。……あら?」
ちょうどその時、教室に戻ってきた瀬那が、急に元気を取り戻した雫を見てぴたりと足を止めた。「もぅ」と言いたげな呆れた顔をして俺を見ていた……解せぬ。




