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学年一の才女を拾ったら癒されました  作者: PPHiT
第二章

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第75話 体育祭が終わって

「疲れた……」


 久しぶりに全力で走った俺は、リレーの結果が発表された後、観客席まで戻ろうとして、立ち上がった。瀬那を探していた時は障害物が多くて全力って程ではなかったが、今回は違う。走るためのトラックで、もちろん障害物もない。本当の意味で、今出せる全力だった。


「お疲れー朔也! いくらなんでもびっくりしたわ!」

「速かったね。陸上部にでも入った方が良いんじゃない?」

「……勘弁してくれ……」


 死にかけている俺の横に浩紀と和人が並ぶ。

 俺とA組の早瀬が同時にバトンを渡した後、どうなったかと言うと――。


 俺たちはほぼ同時に渡したので、斎藤とA組の九番手もほぼ同時にスタートした。この二人も他の九番手の女子に比べると頭一つ分ぐらい速く、後続との差を広げていった。

 ここでも女子二人の勢いが凄まじく、周囲の歓声はさらにヒートアップし、実況している生徒の声がうるさくて耳を塞ぎたくなるほどだった。

 抜きつ抜かれつつの攻防が続き、ギリギリA組が先にバトンを渡したらしい。


 D組のアンカーは和人で、A組のアンカーは天童。……黄色い声援が響いたのは言うまでもない。さすが一年の二大イケメン(俺曰く)。

 コーナーに入り内側を走る天童と、外側を走る和人。内側有利のリードを保ちつつ、そのままストレートも天童がギリギリ先にゴールした。その後すぐに、すっ転んだものの、鮮やかな前回り受け身をとって、その勢いのまま綺麗に起き上がったので、さらに盛り上がるまでが一連だった。

 それを見た和人は苦笑いをしていたが、体力は余裕な感じで、これがちゃんと運動部で練習している二人と、帰宅部の俺との違いか。


「ほんっっっとうに凄かったです!」


 途中で合流してきた瀬那が俺に近寄ってきては、普段の落ち着いた様子からは想像もつかないほど目をキラキラさせながら称えてくれた。興奮冷めやらぬといった感じで、少し頬が上気している。そこまで純粋に称えられると、ちょっと恥ずかしい。


「南雲が走るところちゃんと見るの初めてだったけど、結構速かったな。これからは運動部からもお誘いくるんじゃないか?」

「これでも多少は鍛えていますからね。……部活ができるほどではないですよ」


 ちゃんと運動をしているのを知っている身としては、そんなはずはないというのがよくわかっている。お互い、部活は時間がとられるので面倒という考えなのは一緒なのもわかっている。


 トラックから退場した俺は、救護テントの方へ足を向けた。……雫が運ばれていったはずだ。……なんて声をかけて良いかわからないが、とりあえず顔を出した方が良いと思ったからだ。


「俺は救護テントの方を見てくるよ」

「……水野さんですよね。私も行きます」


 自然と並んで歩き出そうとする俺と瀬那を見て、浩紀と和人は顔を見合わせた。


「俺たちも行くと邪魔になりそうだから、観客席に戻っておくわ。雫によろしくな」

「水野さんによろしくね」


 浩紀と和人はそのままクラスの観客席へ戻って行った。俺と瀬那は救護テントへ向かい、雫の状態を確認しに行く。救護テントは人が集まっている感じではないが、友利先生が何か作業をしているのだけは遠くからわかった。


「水野さん、大丈夫ですか?」


 俺たちは雫と斎藤、他に数人が一緒にいるのを確認し、瀬那が声をかけた。全員がこちらを振り向き――俺を見て数人がたじろいだのがわかった。ごめん、脅かすつもりはなかったんだ……。ただ、雫の怪我の具合が心配だっただけで……。


「あ、南雲さんと、さ、朔也くん……」


 何故か斎藤の後ろに少し隠れる雫。何かしたわけではないのだから、怖がっているわけではないだろう。単純に転んだことが恥ずかしかったのかもしれない。ここは触れない方が良いはずだ。

 瀬那はそんな雫の状態を見て、次に俺の顔を見ていた。……なんだろうか。


「……」

「怪我は大丈夫なのか?」

「え? あ、う、うん。大丈夫だよ……」


 声のトーンが尻すぼみになって、いつもの元気さがない。怪我が深刻なんだろうか? 先ほどより、斎藤の後ろに隠れているように見える。

 俺の考えが顔に出てしまっていたのか、斎藤が苦笑いをしながら続けて言った。


「あー、多分だけど東條くんは勘違いしていると思う」

「はい、東條さんはそうだと思います」

「……二人して、なんだよ」


 何故か斎藤の言葉に、瀬那が同意するという展開。意味が分からないのだが……。


「とりあえずね。雫の怪我は大したことないから安心して。打ち身にはなっているけど、骨に異常はなさそうだってさ。友利先生のお墨付きよ」

「そうか、それなら良いのだけどな。まあ、あまり無理はするなよ」

「う、うん。ありがとう……」


 元気は無さそうに見えるが、付き合いが深い斎藤が大丈夫と言うなら、大丈夫なんだろう。これ以上いても邪魔になりそうなので、俺は救護テントを後にした。瀬那も軽く会釈して、俺に続いてきている。


『なーちゃん……と、東條くんって仲良いの? 怖くない?』


 背を向けた直後、テント内の女子のヒソヒソ声が聞こえてきた。


『うーん、今日初めて絡んだけど、普通だよ? そうだよね、雫?』

『え? う、うん。普通と言うか、優しいと思うよ』


 雫の絞り出すような小さな声に、モブ女子たちがざわつく。


『えぇー』

『まあ、今の雫は当てにならないかもね』

『なーちゃん……どういうことよ……』


 俺のことを話すのは好きにしてくれていいが、頼むからもう少し離れてからしてくれ……。どう反応したら良いかわからない。

 苦笑いをしているのが自分でもわかる。それを感じ取ったのか、横に歩く瀬那が反応してきた。


「朔也くんは、水野さんのことをどう感じましたか?」

「なんだよ、藪から棒に」

「……いいから」


 学校内では仲が良い身内しかいない時にしか呼ばない『朔也くん』と呼ぶぐらいだから、何か気になっているのかもしれない。

 とは言われても、別段これと言ってないのだけどな。


「……何かいつもより元気がなかったから、コケたことをまだ引きずっているんじゃないかな。誰も気にしていないと思うけど」

「……そういう所は、朔也くんの本当にダメな所だと思います」

「何がだよ」

「……もう知りません」


 瀬那はツンとそっぽを向き、少しだけ歩くペースを速めてしまった。あからさまに機嫌が悪いのはわかるが、何を気にしているのかが全くわからん。


 ◇


 アクシデントは少しあったが、全体を見れば問題なく体育祭は終わった。ほとんど何もしていない俺が言うのもなんだけど、みんなお疲れのようだ。俺も走った後は疲れていたが、閉会式ぐらいには復活していた。


 そして放課後。今日はバスケ部が男女ともに休みということで、みんなでクレープ屋の前に来ている。例の勝負の景品授与だ。雫の体も問題なさそうで、早いのに越したことはないということなので、今日の放課後になったという流れだ。


 結局、どちらが勝ったのかと言うと――


「うーん、引き分けかな」


 という、和人の結論だった。


「レースとして考えたら南雲さんの勝ち。でも速さなら水野さんの勝ちだったからね。そもそも、『何で勝ちにするかは俺次第』ってことだったし。異論は認めないよ。……ということで、朔也は二人に奢るってことで」


 理由を聞けば、とりあえず理解はした。それっぽい内容を並べたのは、雫が転んだことで変に勝敗を付けないで引き分けにした方が、後腐れが無いという和人の配慮だと思う。二人の性格を考えたら、そっち方面でこじれることはないとは思うが、俺もこの提案にのっておいた。


「なんだか、申し訳ないのですが……」

「……ほ、本当に良いの?」


 予想通り遠慮する二人だが、俺と浩紀の説得と、愛莉(いつの間にかついてきていた)のちゃちゃで引っ掻き回し、納得させた。

 ちなみに来ているのは、当事者だった俺と瀬那、雫、それと浩紀に和人、愛莉と斎藤だ。愛莉はともかく、斎藤に関しては雫がここから急変するかもしれないので、家が近いということで誘った。念のためな。


 まあ、そういう流れで、俺たちはメニューを眺めている。

 駅ビルに入っている店舗型のクレープ屋で、お店の横に座って食べられるスペースがある。ただ、今日はイートインが混んでいるので、買ってから外で食べようということになった。


(なんでクレープなのに、サラダやソーセージなどがあるのだろうか)


 甘い生地に合うとは到底思えないのだが、実際に存在するってことはニーズがあるって言う事か。俺の胃袋には、どうしても受け付けない……。


「……ねえ。さ、朔也くんは、何にするの……?」

「ん?」


 そんなどうでも良いことを考えていると、近くにいた雫が話しかけてきた。……やっぱり斎藤に半分隠れながら。

 俺は斎藤に視線を送って、「これはどういうことか?」と無言で問いかけてみたが、彼女は苦笑いをして首を軽く横に振るだけだった。どうやら、これに関しては触れてはいけないらしい。


「まあ、無難にチョコバナナかなー。アイスを乗っけてもいいけど、落としそうで怖いし」

「ふ、ふーん、そうなんだっ。う、うん、チョコバナナ美味しいもんね……! そういうのも凄く良いと思うっ」

「……そっちはどうするんだ?」


 俺がそう言って雫の方を向くと、ばっとメニューの方へ顔を背けた。……やっぱりおかしくないか? 嫌われていたら話しかけないだろうし、ここにも来ないはず……うーん、わからん。


「わ、私は……フルーツ系にしようと思ってる」

「へー、良いじゃん。斎藤はどうするんだ?」

「う〜ん、食べたことないわらび餅ときな粉も捨てがたいし、照り焼きチキンも試してみたいかなー」

「て、照り焼きチキンだと!?」


 惣菜系を頼む奴がこんな近くにいるとは……。もし頼んだのならあとで感想を聞こう。俺は心の中で固く誓ったのだった。


 しばらくして、全員分のクレープができると、そろって駅の外に移動する。近くに日陰で座れるところがあるので、少し暑いとはいえ、落ち着いて食べられる場所だ。


「朔也くんはアイスも乗せたのですね。暑いからちょうどよさそうです」

「あぁ、追加して正解だったわ。食べづらいけどな。瀬那は抹茶か、それもいいな」

「……っ」


 雫が、息を呑むような音を立てて固まった。

 瞬きも忘れたように、俺と瀬那を交互に見つめている。その瞳には、信じられないものを見るような驚きと……ほんの少しの動揺が混じっていた。


「ど、どうした雫? 急に黙り込んで」

「さ、朔也くん……いま、南雲さんのこと……下の名前で……」

「ん? ああ、そうだけど。……あぁ、そうか、雫は知らなかったっけ? この手の怪我の時に色々あってな。名前で呼ぶようになったんだよ。ただ、学校だとややこしくなりそうだから呼んでいないだけで」

「そ、そう、なんだ……ふふっ、そっか……」


 俺は左手をフリフリして質問に答えた。

 彼女は力なく笑うと、少しだけ俯いてしまったのが気になる。

 雫とも名前で呼び合っているのだから、変に意識するようなことでもないと思うのだが。俺が首を傾げていると、斎藤が呆れたようなジト目を俺に向けてくる。


「……東條くんって、罪作りだよね。それにしても、南雲さんって思ったより独占欲高かったりする?」

「さて、どうでしょうね」

「え? 俺、何か悪いこと言ったか?」

「んーん、何でもない。ほら、アイス溶けちゃうよ!」


 斎藤は誤魔化すようにそう言うと、無理やり俺たちの話題を打ち切ったのだった。

 ……本当に何なんだよ、一体。

 釈然としないままチョコバナナのクレープを齧る俺の横で、瀬那はいつもより少しだけ機嫌が良さそうに、甘い抹茶のクレープを頬張っていた。

 ……まあ、美味そうに食べてるなら、それでいいか。


最後までお読みいただき、ありがとうございます!


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