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学年一の才女を拾ったら癒されました  作者: PPHiT
第二章

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第73話 体育祭、ただし観戦のみ

 まだ初夏というのに、数年前の真夏のような暑さの今日、黄隆学園では体育祭が行われている。

 平日のど真ん中に行うという、少し他の学校とは違う日程なのは、保護者や家族の見学が許可されていないからだ。以前、土日に行われた時に近隣の住民も見にきてしまい、トラブルが発生したらしい。それがあったので、『見学不可』に変更になった。

 ただ、高校生にもなれば、家族が来なくても気にしない生徒が大半なので、反対意見は出ていない。


(むしろ、見学に来てほしくない方が大半だろうな)


 そんなこんなで体育祭が始まったのだが、俺は救護エリアで座っている。一応、体操着には着替えているが、出場は先生たちに止められた。

 ……他の生徒を威嚇するからじゃないぞ、左手の怪我のせいだ。まあ、成績に関係ないので、別段参加しなくても残念ではない。


 抜糸も済んでいるので走ることだけなら問題はないのだけど、綱引きや騎馬戦などは流石に無理だろう。チームを組んでくれた浩紀や和人には申し訳ないことをしたとは思う。


 見学は良いとして、救護エリアになぜいるのかと言うと――


「東條くんがいると、楽ね〜」


 ――友利先生に連れてこられたのだ。

 保健委員が競技に参加しやすいように、「どうせ見学なら、ここを手伝ってよ。熱中症予防にもなるしね〜」と、半ば強引に決まってしまった。……というのは半分は建前で、冷風機が置いてあるこのテントに、毎年無駄に休みに来る生徒がいるらしいので、その予防がもう半分の理由。

 さっき言った「他の生徒を威嚇するからではない」が、ここで否定されてしまっている。なんという矛盾……。


 みんなが頑張っている中、何もしていない俺がクラス席でただただ座っているのは気まずい。そういう点では助かってはいるのだが……解せぬ。

 それに、怪我人が怪我人の相手をするのってどうなんだろう。ここもよくわからないところなんだよな。


 午前中の競技もあとわずか。大きな怪我も熱中症で倒れる生徒もおらず、救護エリアは平和な状態だ。だらけてしまっても仕方ないと思う。だから「はぁー」と、大きな欠伸が出てしまうのも当然だ。


「随分と暇みたいだね、朔也くん」


 振り返ると雫がいた。手の位置が不自然なのが気になってよく見ると、彼女の膝から血が少し垂れているのがわかる。


「雫か……転んだのか?」

「えへへ〜、ちょっとね。……競技とは全然関係ないところで」


 尻すぼみに答えながら、最後は目を逸らしていた。関係ないところでって……何やってるんだこいつは……。


「センセー、友利先生。急患ですよー」

「ごめーん、今、手が離せないからやっておいてー」

「手が離せないからやっておいて!?」


 先生を見ると、数人の生徒の対応をしていた。それは仕方ないのだが、保健委員でもない俺に怪我の治療をさせるとか、さすがに駄目だろ……。かすり傷程度だからできなくはないけどさ。とは言っても、このまま放置しておくわけにもいかない。

 俺は雫の方に向き直って尋ねた。


「どうする? 俺で嫌じゃなかったらやるけど? 先生を待っても良いとは思うが」

「朔也くんができるならお願い!」

「わかった。そこに座って、ちょっと待ってて」


 俺はテントに用意されている生理食塩水と消毒液、適切な大きさの絆創膏を取りに行く。本来は俺が消毒液をかけるのは駄目なのかもしれないが、気にする奴はここにはいない。


「少し沁みるかもだけど……気にするな」

「それ、私が言うセリフだよね!?」


 ツッコミをスルーして、生理食塩水で汚れを落とし、消毒液をかける。俺の傷よりは大したことないから大丈夫だろ。


「……いたい……」

「それもまた、いい刺激で良いよな」

「それは意味が分からないよ……」


 涙目の雫に少し罪悪感があったが、もうやってしまったのだから仕方ない。軽く拭いた後に絆創膏を貼っておしまいにする。もちろん、最後に「ベチン」と叩くようなイジワルはしない。


「ありがとう。……朔也くんが意外とイジワルなのがわかったよ」

「そうらしいな。別の奴にも言われたことあるわ、それ。また痛い思いしたくないなら、もう怪我するなよ。午後もなんか出るんだろ?」

「うん。……クラス対抗リレー。私、緊張しちゃうタイプだから不安なんだけどね」

「……そうか。まあ、気楽に行けよ」

「うん、気を付けるね。それじゃあまた後で!」


 雫はテントを後にした。

 先生のところにはまだ治療待ちの生徒が何人かいたが、わざわざ俺のところに来て対応してもらう奴はいなかった。当たり前だ、それが普通。


 ◇


 昼休みを挟んだ午後、事件が起こった。いや、俺の中では事件ってだけで、本当の意味での事件ではない。

 学年別クラス対抗リレーのメンバーが一人、怪我をして出られなくなったのだ。それだけなら代わりが出ればいいのだが、なぜか俺が走る事となった。理由は単純だ。


 ・点数が高いのと、目立つので誰も走りたがらない

 ・主要なメンバーはすでに出る予定となっている

 ・お前、今日は何もしていないから、せっかくだから出たら?(浩紀)


 という流れで、拒否できる状況ではなくなってしまった。

 内心としては「マジか……」という気持ちはあるものの、走るだけなら良いかという気持ちもある。浩紀の言葉ではないが、せっかくなので少しは出ておこうと思う。……怪我のせいで何も出ていなかったから、気にする奴もいるだろうしな。


 学年別クラス対抗リレーはその名の通り、クラス別にリレーをする競技で、その順位で各色のグループに点数が追加される、よくあるルールだ。

 うちの学園は一学年九クラスあるので、各学年で三グループに分かれて体育祭をしている。三年生の特進クラスだけ特殊な扱いだが、今そこはどうでも良い。


 一から三位まで独占すると高得点になるので、体育祭が楽しい輩には絶対に取りたい競技になる。

 各クラス、男女五人ずつが選抜され、走る順番には厳格なルールがあり、奇数番目が女子、偶数番目が男子と決められている。つまり、第一走者は女子で始まり、アンカーの第十走者は男子で終わるという構成だ。

 それぞれ走るのはトラックの半周、だいたい二百メートルを走ることになる。これだけ聞くと、結構大変だ。


 俺は男子で四番目、全体で八人目に走ることとなった。男女交互に走るので、雫から受け取って、俺は絡んだことがない女子、『斎藤』へとバトンを渡すことになった。ちなみにアンカーは和人だ。


「雫、足は大丈夫なのか?」

「うん、大丈夫! 痛くないよー」


 雫がその場で軽く足踏みしてみせるのを見て、俺はひとまず安堵する。


「それはよかった」

「東條くん、よろしくね。ちゃんとバトン受け取るから!」


 不意に、雫の横にいた女子から話しかけられた。正直、いきなり話しかけられるとは思わなかったので、驚きが勝ってしまう。


「あ、あぁよろしくな」

「なーちゃんは足が速いからね! すごいよ!」

「雫には負けるけどねー」


(なーちゃん……斎藤の下の名前か。多分、名前に「な」がつくのだろう。……知らんけど)


「そう言えば、初めて絡むから一応自己紹介しとく? 私は斎藤乃亜(のあ)だよ! 雫とは同じバスケ部!」

「え!? あぁ……東條朔也だ、よろしく。……ごめん、なんで『なーちゃん』なんだ? すごく、気になるんだけど!?」


 頭に『な』が付かないどころか、名前が『のあ』なのに、なんで『なーちゃん』なのか! 下手したら、今年で一番の謎かもしれない。


「うーん、よくわからないんだよねー。小さい時に『のあ』が言いづらかったらしく、自分で自分のこと『なーちゃん』って呼んでたらしいよ!」

「まじか、そんなパターンあるんだな」


 舌足らずな時に、上手く『のあ』と発せられなくて、『の』と『あ』が融合して『な』になったんだろうか? 興味深い。


「ははっ! 変なところ気にするね! 雫が言った通り、怖いの見た目だけっぽいね!」

「ん?」


 斎藤はカラカラと笑いながら、隣の雫と顔を見合わせる。


「そうそう、見た目だけなの、怖いのは!」

「……どういうことだ?」


 話を聞くと、雫と仲がいい斎藤は、雫と俺のことで話す機会があったらしく、その時に『朔也くんは無愛想だから怖そうに見えるけど、話したらちゃんとしている人』と聞いていて、気になっていたとのことだった。

 無愛想なのは事実なので良いが、ちゃんとしているかどうかは俺からだとわからんな。


「まあまあ、そういうことだからちゃんとバトン受け取るからよろしくね!」


 『なーちゃん』は元気に俺の背中を叩いたのだった。……いたい……。

 やがて、クラス対応リレーの選手を集めるアナウンスが響き渡った。

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