第7話 過激派たち
GW明けの月曜日。
来週、うちの学校では日帰りの野外学習がある。カレー作りとオリエンテーリングで親睦を深めるらしい。今日はその班決めだ。男女混合の六〜七人班。男女半々がルールとのこと。
「班決めって言っても、俺には選択肢ないけどな」
「朔也が俺のこと好きってこと?」
「……和人、組んでくれてサンキュー」
「こちらこそ、よろしくね」
爽やかに笑う和人。相変わらず絵になるやつだ。流石、学年の二大イケメンの一角。
「なあ、俺のこと無視すんのやめてーやー」
「浩紀が気持ち悪いこと言うからだろ……」
「俺もさっきのはどうかと思うよ」
「和人まで!? ひどい!」
浩紀が泣き真似をしながら膝をつく。
……うざい。
「とりあえず男子は決まったね。女子はどうしようか?」
「俺がいると、和人効果がどこまで発揮できるかだな」
「和人効果ってなんだよ……」
「班決め始めてから、女子の視線すごいじゃん」
「……」
周りを見渡す和人。最後に俺を見て、苦笑いを浮かべた。
「なあ……いい加減、俺にも触れてほしいんだけど……」
横を見ると、浩紀が嘆いていたが……とりあえず見なかったことにしておく。
「ねぇねぇ」
背後から声をかけられた。同じ図書委員の水野雫だ。
「もし決まっていないなら、私が入っていい?」
二人を見ると、軽く頷くのが見えた。和人が代表して答える。
「問題ないよ。むしろ助かる。水野さんの他のメンバーは?」
「実は……私一人なの」
「……え?」
話を聞くと、最初は女子四人で集まったまでは良かったが、一人が「仲の良い男子と組みたい」と言い出したらしい。
相手の男子側も四人だったため、人数が溢れる形になった。空気を悪くしないよう、水野が自分から身を引いて抜けてきたとのことだ。
(水野らしいな)
「オッケー! ならうちに入れてしんぜよう」
「はっはー! ありがたき幸せ!」
浩紀が軽い調子で受け入れ、水野もそれにノって変な空気は生まれなかった。
これで男子三人、女子一人になったのだが――
「和人くん! 女子三人なら、私たちも一緒に入れてもいいかな?」
向けられた声は、鼓膜が溶けそうなほどに甘く猫撫で声だった。
いつの間にか、教室の隅で牽制しあっていた女子グループの一つが近づいてきていた。和人に話しかけてきたのは梅沢。下の名前は知らないし、興味もない。
ただ、彼女に対する俺の印象は一つ。
――“和人推しの過激派”だ。
なぜそう呼ぶかというと、
「みんなは大丈夫?」
和人が同意を求めてこちらを振り返った瞬間、その背後から射貫くような冷徹な視線が、俺の顔面に突き刺さった。
(勘弁してくれ……声色と視線の温度差で風邪引きそうだわ)
さすがにここで拒否することもできないので、そのまま班が決まった。
――俺が梅沢に親の仇のように睨まれている理由。
以前、浩紀に聞いたことがある。浩紀は心底面白そうに苦笑いしながら、こう教えてくれた。
『あー、それな。話によると“解釈のノイズ”らしいぞ、お前』
『……は? 意味が分からん』
『和人《最推し》の隣にいるキャラとして、お前は世界観に合わないノイズ……要は邪魔らしい』
『マジか』
『マジだ。不良は要らないってさ』
要するに、さわやか王子の隣にいるピアスじゃらじゃらの不良(仮)が、彼女の理想の絵面に合わず気に入らないらしい。
……いや、俺は不良じゃないし、そもそも現実を同人誌みたいに言うな。
せめて俺に分からないようにこっそり嫌ってくれればいいものを、彼女は露骨に態度に出してくる。
そういう経緯があり、俺は密かに彼女を「和人推しの過激派」と呼んでいる。
今のところ直接的な実害はないが――
宿泊は伴わないとはいえ、一日がかりの野外学習。
……何事もなければいいが。
◇◇◇◇◇
数日後、昼休み。
浩紀も和人も用事があり、久しぶりに一人で教室で昼食をとっていた。
視界の端で、三人が話しているのが見える。男子一人に、女子が二人。
男子は一葉龍真。
クラスメイトで、親しいわけではないが、俺にも普通に話しかけてくれる希少なタイプだ。二年に兄がいるらしく、名前は思い出せないが『虎』がついていたはず。少し自信なさげというか、おどおどしているところはあるが、悪いやつではなさそうだ。
女子の一人は九重由香。
龍真の幼なじみで、クラスはE組。
話したことはないが、ほんわかした天然っぽい印象がある。優しそうな雰囲気に加えて、胸も大きいので学年でも人気らしい。
もう一人は二階堂真紀。
二年の先輩で、風紀委員長。
入学当初にいざこざがあって、少し苦手な相手だ。龍真とは中学時代からの知り合いらしい。九重とは対照的にスリムな体型――それ以上は言わないでおこう。
この三人が一緒にいるのは、よく見かける。
女子二人はあからさまに龍真へ好意を向けているように見えるのだが――龍真本人はそれに全く気づいていない。
鈍感系主人公……どこのラノベの住人だよ。
この三人が、さっきからちらちらとこちらを見ている。
何の用だ?二階堂先輩はともかく、他の二人とは挨拶程度の関わりしかないはずだが……。
「ちょっといいかしら?」
考え事をしている間に、三人はすぐ俺の机のそばまで来ていた。俺は思わず、身構えるように警戒した目を向ける。
「そんなに野良猫みたいに警戒しなくてもいいじゃない」
「いや……二階堂先輩相手ならしますよ」
「入学直後のファーストコンタクトがあれだったからね。警戒するのも分からなくもないけど」
「はは……」
隣で龍真が申し訳なさそうに苦笑いを浮かべている。
入学直後、風紀委員長である二階堂先輩が俺のピアスや態度に激しく絡んできた時のことを思い出したのだろう。
……あの時は、なかなか苛烈な勢いだったからな。
「で、何の用ですか?」
「あ、そうそう。実力テスト学年五位おめでとう! すごいじゃない、見た目によらず見直したわ」
「……ありがとうございます」
急に持ち上げてきたな。なんだ、手のひら返しにしては不自然だぞ。
「中間テストもこのまま頑張ってほしいところなのだけど……」
「だけど?」
「……特進クラスの連中には気を付けて」
小声で、妙にシリアスに警告された。
気を付けて?
……え? なんだ、帰り道に闇討ちでもされるのか俺。
「どういうことですか? 校舎裏で集団リンチとか?」
「さすがに暴力沙汰はないと思うけど」
「思うけど?」
「職員室で先生に聞いたの。向こうのクラス、結構ヒートアップしてて……あなた、完全に目の敵にされてるわよ」
「なぜ俺が?」
俺の当然の疑問に、苦笑いをしながら二階堂先輩は答えてくれた。
「……見た目の問題としか」
「……要するに、真面目に勉強してる自分たちが、こんな不良に負けるのは屈辱だって言いたいわけですね」
二階堂先輩は気まずそうにすっと目を逸らした。GW前に愛莉にも、似たようなことを言われた記憶がある。特進クラスって……プライドの塊みたいな過激派の集まりなのか?先生、ちゃんと生徒のメンタルをコントロールしてくれよ……。
「これが少し厄介な問題になっててね。実は特進クラスの担任が、自ら生徒を煽っているのよ」
「はぁ!? 何してるんですか、その教師……」
「あなたを『ちょうど良い共通の敵』にして、クラスの団結力を高めようとしてるって」
「特進クラスに友達がいるんだけど、真紀ねえの言う通りらしいよ」
龍真からもとどめのように肯定されてしまった。
……“真紀ねえ”って、先輩後輩の枠を超えたそういう間柄なのね。
それはさておき――
おい特進の担任、何してるんですか。
アホなんですか。
「その先生、アホですか……」
――あ、思わず本音が口に出た。
「私もさすがに教育者としてどうかと思うけど。どうしてもライバル心を煽りたかったのでしょうね」
「……ちなみに、南雲は大丈夫なんですか? 俺より上の学年トップでしたけど」
「南雲さんは大丈夫よ。ヘイトが向いてるのはあなただけ」
「南雲さんは女の子だし、綺麗だし、そもそも頭良さそうなオーラ出てるしね~」
九重が胸を揺らしながら気の抜けるような調子で言った。
少し不公平な気もしなくはないが、あっちにヘイトが向かず、俺だけが標的になっているのは一安心か。
――まあ、見た目だけでサンドバッグにされる俺の身にもなってほしいけど。
「まあ、そういう面倒なことになってるから、一応気にしておいて」
それだけ言って、三人は自分たちの席へ戻っていった。
正直、教師の煽り方はどうかと思う。
余談だが、後でこの話を浩紀にしたら腹を抱えて爆笑されたので、すねを思い切り蹴っておいた。
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