第69話 振り替え休日のデート①
見学会の振り替えで休日になった月曜日。俺は浩紀たちに茶々を入れられながらも、勧められた服を参考に今日の服を選んだ。とは言っても、あの日のようにスマートカジュアルだと硬すぎるので、もう少しラフな格好だ。
ブルーグレーの半袖オープンカラーシャツに、インナーには無地の白いTシャツ。パンツは黒のテーパードパンツで合わせた。手元が寂しく感じたので、左手首にはあまり使っていないスマートウォッチを、もう片方には細めのシルバーバングルを身に着けておく。……そこまでおかしくないはずだ。たぶん。
支度を終えた俺はリビングへと移動した。ちょうど同じタイミングで、瀬那も部屋から出てきた。その姿を見た時、俺は思わず声を失った。
彼女の今日の服装は、白いフレンチスリーブサマーシャツに淡い色のフレアロングスカートだった。普段より少しだけ背伸びをしたような大人っぽさがあるが、小柄な彼女が着ることでAラインに広がるシルエットが、たまらなく可愛らしい。彼女の魅力を完璧に引き出している、反則的なまでに似合ったコーディネートだ。
「ふふっ、いつもより大人っぽくしてみましたが、朔也くんの格好に合いそうでよかったです」
「……」
「……どうしましたか? ……この格好は変でしょうか?」
俺が黙っているのを不審に思ったようだ。それに、それを悪い方向に考えてしまったらしく、しょげた顔をさせてしまった。これは失敗した。
「え! あっ……違う違う! 逆だよ、逆。あまりにも似合っていたから言葉が出なかった。確かにいつもより大人っぽいかもしれないけど、可愛くて似合っているよ。うん、すごく似合っている」
「あ、ありがとうございますぅ……」
彼女は身を縮め、消え入るような声でお礼を口にした。いつもの瀬那なら逆にからかってきそうなものだが、どうやら彼女は彼女で照れているらしい。その姿を見て、恥ずかしいのが自分だけではないとわかり、少しほっとした。あまりこういうのは慣れないものだ。
「……あ、手首に着けているアクセサリ、初めて見ましたけどそういうものを持っていたのですね」
俺の右手首を見て言った。そう言えば、最近はつけていなかったかもしれない。そんなことよりも、俺は気になったことがある。
「照れを誤魔化さなくてもいいんだぞ?」
「もぅ! そういうことじゃありませんよ! そういう所はデリカシーがないのですから!」
「ごめん、ごめん。ピアスは特例としてOKもらっているけどさ、指輪もそうだけど、流石に学校には着けていけないからな。……これも一応、俺が作ったものだよ」
「凄い! なんでも作れますね。……私も付けた方がいいでしょうか」
自分の手首をくるくると回しながら言う瀬那。もう一度全身を見てみるが、あってもいいし、無くても良いと俺は思う。その格好でも十分可愛いからだ。
「……とは言っても、私はブレスレットって持っていないのですよね」
「そうなのか? なんでまた」
瀬那は頬に手を当てて考える。数秒もしないうちに口を開いたが、自分でも納得していないような雰囲気を出していた。
「うーん、特に理由はないのですが……。強いて言えば、タイミングがなかったからですかね」
「そんなもんか。うーん、それなら……俺が作ったので良いなら、せっかくだから見てみるか? 女性用……って程じゃないけど、それっぽいのはあるから」
「良いんですか!?」
思ったより食いつきが良いことに驚くが、俺も自分の作品がどう評価されるのか気になるので、その勢いは助かる。
そのまま瀬那を連れて、作業室へと入る。……そう言えば、ちゃんとこの部屋を案内するのは初めてかもしれない。
「この部屋って何か説明したっけ? 説明するほどのものもほぼ無いけどさ」
「いえ、ほとんど聞いていませんよ。機材に関してだけは『危ないから気を付けて』っておっしゃっていましたが」
「やっぱり話していなかったよな……」
部屋に入ると、ドアの目の前に大きな棚がある。そこには俺が作ったアクセサリ類と、参考用に買ったものが分けて仕舞ってある。その横には作業をするための机と機材があり、向かいには物が置けるようにテーブルと椅子が設置してある。
「掃除もどうしたらいいか訊こう、訊こうと思っていたのですが……上手いことタイミングが合いませんでしたね」
「確かにな。掃除に関してはもちろん無理ない範囲で良いのだけど、この辺りは刃があったり、火が出たりするから気を付けてな。それと、この液体は直接触れると危ないから」
機材の一部を指して伝えた。主に怪我の元になりそうなのは、糸鋸とガスバーナー、それとロウ付けのための薬剤などだ。分かりやすい前者はともかく、後者の薬剤は一見するとただの水に見えるので注意が必要だ。免許が必要なものではないが、それでも肌についたり、目に入ったら大変なことになる。
「はい、気を付けますね」
「うん、お願い。それで、本題はこの棚なんだけど、ここに入っているのは参考用に買ったやつだから、それ以外ならどれ使ってもいいよ。俺が作ったものだから、いつでも許可なく使っていいから」
「良いのですか……? 壊す可能性もありますよ」
「壊しても別にいいよ。高価なものでもないし、売る予定のものでもない。もし気に入って使ってくれるのなら、そっちの方が嬉しいかな」
これは本音だ。中には興味本位や練習で作ったものもある。作ったは良いものの、俺はとっかえひっかえしないので、ぶっちゃけ箪笥の肥やしになっているようなものだ。それなら、少しでも瀬那が使ってくれるなら俺としても本望だ。
「そうですか……それなら、せっかくなので使わせてもらいます」
「ああ、好きなだけ選んでくれ」
瀬那はしばらく考えた後、青い花のチャームが付いた細いチェーンのブレスレットを選んだ。優しく取り出し、自分の手首に着けようと悪戦苦闘している。片手だと留め具が扱いにくいのだ。
「貸してみな、着けてやるから」
「あ……すみません。お願いします」
俺は瀬那の手首を軽く支え、細いチェーンを回して小さな留め具を引っ掛けた。距離が近いせいか、ほんのりと甘いシャンプーの香りが漂ってくる。
「よし、できた。どうだ?」
「わぁ……ぴったりです! 似合ってますか?」
「似合っていると思うよ。……自画自賛に聞こえるかもだけど」
「ふふっ、そんなことはないですよ。ありがとうございます」
瀬那は、着けたブレスレットをしばらく眺めて、嬉しそうに微笑んでいた。少しでも喜んでくれたのなら、作った甲斐があるというものだ。でも、そうやって自分の作ったものを大事そうに触られていると、――少し、照れてしまう。
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