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学年一の才女を拾ったら癒されました  作者: PPHiT
第二章

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第67話 予期せぬデートのお誘い

 俺の部屋で何か騒いでいるのは聞こえるが、内容まではよくわからない。

 やることのない俺たちは、勉強を進めていた。麻里ちゃんは持参した問題集を解いている。彼女の成績は詩織より少し低いぐらいだと、以前聞いたことがある。体感では二人にそこまで差はなさそうではあるけどな。


「……やっぱり、お兄さん、教え方が上手いですよね」

「そう言ってもらえると、教えがいがあるよ」


 俺はわからない問題を教えながら、自分の勉強を進めている。目の前で勉強している人がいるのに遊ぶのは気が引けるのと、自室にいる二人がどんな話をしているか気になってしまうので、意識を勉強に向けたかったからだ。あと、期末テストで散々だと、面倒なことになりそうだからだ。主に、特進クラスの奴らがな……。


 ガチャッ。


 自室のドアが開き、二人が出てきた。

 詩織はもう泣いておらず、二人とも笑っているので一安心だ。無責任だが、少し気持ちが軽くなる。

 瀬那は俺たちが参考書を広げているのを見て言った。


「お勉強していたのですか?」

「手持ち無沙汰だったからな。麻里ちゃんもわからないところがあったらしいし。二人は、途中から盛り上がっていたようだけど、何話していたんだ?」


 俺の当然の疑問に、二人は顔を見合わせて笑った。何がおかしいのか、気になるじゃないか。


「ダメダメな義兄(にい)さんには秘密です」

「そうです。ダメダメな朔也くんには秘密ですね」


 まるでお揃いの合言葉でも見つけたように、二人はいたずらっぽく笑い合った。

 二人してダメダメな人間に認定されてしまった。いつの間にそんな仲良くなったんだ、君たちは。

 この感じからして、俺のことで何か盛り上がっていたのだろう。……まあ、先ほどまで泣いていた義妹がこんなに明るく笑ってくれるようになったのなら、多少、俺をネタに使っていても……致し方ない。


「……秘密なら仕方ないな」

「えー! 私は気になるのだけど……詩織ちゃん後で教えてね」

「うーん、麻里になら教えても良いかな」

「やった!」


 やっぱり、俺のことっぽいな……良いけどさ。なんとなくしょんぼりしてしまう。

 どちらにしろ、俺以外は女の子なのでこれ以上言ったところで勝てる気がしない。


「そんなに、しょぼくれないでください。時間も良いので、おやつにしましょうか。朔也くんが買ってきてくれたケーキがありますよ」

「やったぁ!」


 そう言って瀬那はキッチンに移動した。俺も続こうと腰を上げるが、スッと手が出てきて制止される。見れば、詩織が俺の前に腕を突き出していた。そして、呆れた目で俺を見つめている。


「左手のこと聞きましたよ。本当にその手で家事をしようとするのですね……。そりゃ瀬那さんも呆れて怒るよ」

「……聞いたのか。みんなが思っているより痛くはないのだけどな。そろそろ抜糸できると思ってるし」

「アホなこと言わないでよ……」


 ――グサッ。

 物理的なナイフよりも鋭い何かが、俺の胸に突き刺さった。

 ……詩織に『アホ』って初めて言われた。あの礼儀正しくて遠慮がちだった妹からの、まさかの直球な罵倒。ショックだ。一応、頼りになる『できる義兄(にい)さん』を目指しているのに……どうやら完全に手のかかる子供扱いされているらしい。


「お兄さんの左手って、そこまで大怪我なの?」

「ナイフが貫通したらしいよ」

「……ふぇ?」


 素っ頓狂な声を出した麻里ちゃんを置いて、詩織はキッチンへ向かう。俺の代わりに瀬那を手伝うようだ。

 キッチンから「お客さんですから、座ってていいですよ」という瀬那の声と、「私がやらないと、義兄(にい)さんが動くから」と、呆れたような詩織の声が聞こえてきた。

 それを聞いた瀬那は、こちらに振り向き、俺と目が合う。そして、詩織と全く同じ呆れた目で俺を見て、わざとらしく「はぁ」とため息をついていた。

 ……解せぬ。


 俺はただ手伝おうとしただけなのに、なぜか『大人しく座っていられない駄犬』のような扱いを受けている。女子たちのコンビネーションの前に、俺の居場所は完全にソファーに固定されてしまったようだ。


「……お兄さん、本当にナイフが貫通したの?」

「うん? ああ……それは本当だ。骨を見事にすり抜けて刺さったよ」

「ゔぅぅぅ……、お尻がもじょもじょする!」


 (うな)った麻里ちゃんが、面白い表現をしていた。どういう感情なのだろうか。一般的なのだろうか……気になるな、後で調べてみるか。

 それにしてもみんな大げさなんだよな。血もほとんど滲まなくなってきたし、来週には完治するんじゃないかと思っているのだけど。今度病院に行くからはっきりするはずだ。


「ケーキ持ってきましたよ。いただきましょう」


 俺たちは、買ってきたケーキをみんなで食べ始めるのだった。


 ◇


 ケーキを食べた俺たちは、雑談をしつつ詩織と麻里ちゃんの勉強を瀬那と一緒に見ていた。

 二人とも要領がいいので、教えがいがある。ちゃんと説明すればすぐに理解するので、足りていないのは経験だけなのだろう。


義兄(にい)さんも教え方上手だと思っていたけど、瀬那さんはもっと上手ですね」

「ふふ、そう言ってもらえると嬉しいです。でも、私に勉強を教えてくれた先生の真似をしているだけなのですけどね」

「……瀬那は独学だと思っていたわ」

「独学であの高校に入るのは至難の業だと思いますよ。先生は厳しい人でしたけど、説明は丁寧でしたし、分からないところは、安易に答えを教えるのではなく、私が自分で解けるように導くのが上手でした。それを真似しているのです」

「それができるのが凄いと思います」


 人にものを教えるのは面倒だし、大変だ。その人の癖をある程度理解しないと、ただ単に答えや解き方の手順を教えるだけになってしまう。それだと、その場は良くても身にならなかったり、応用が利かなかったりすることがあると思う。

 俺自身も中学に通っていた塾の講師が、俺の性格にはまったのだと、今ならわかるかな。おかげで今は一人で勉強する時に、どうしたら自分に合うのかが、わかってきている。


 時間もそろそろ十七時になるので、二人は帰ることとなった。俺と瀬那は駅まで二人を送るため、一緒に出ることになる。送るだけなら俺だけでも良いのだが、瀬那だけ家に置いていくのは、二人には違和感があるかもしれないのでついてきてもらった。


 最寄り駅までの道のりで、詩織がはっと思い出したかのように言った。


「……そう言えば義兄(にい)さん、私、泣かされましたよね? それって、埋め合わせが必要ですよね」

「ええ……。あー、確かに俺が悪いわな。了解。……埋め合わせと言えば、先週の食事会の件もあったな。それも合わせて、少し大きいというか、強めなことでもいいぞ」

「食事会の時は、瀬那さんが大変だったのがわかったので、別に良いですよ」

「詩織さん、私のことは気にしないでください。できる限りのわがままを言っちゃいましょう!」


 詩織が遠慮する形だったのに、なぜか瀬那が後押しをしていた。『できる限りのわがまま』って、怖いのだけど……。


「そうですか、それならありがたく。うーん、じゃあ今度、フルに一日つかってデートしてください!すべて義兄(にい)さんがエスコートする形で!」

「……えっ?」


 俺の横で固まっている子は置いておいて、なんとなくだが、瀬那との話し合いから、詩織の遠慮がなくなっている気がする。兄妹って考えたら、良いことなのだろう。詩織のわがままは珍しいし、許容範囲なものなので問題ない。

 それに、受験勉強の息抜きぐらいなら、いつでも付き合うけどね。詩織がそれで満足するなら。


「デートかどうかはともかく、それで満足するなら何でもお相手します」

「やった♪」

「よかったね、詩織ちゃん」

「……」


 駅に着いた俺たちは、詩織たちとお別れの挨拶をした。詩織は最後に「また連絡します」と言っていた。そのあと、駅の改札に入るところまで二人を見送り、「さて、帰るか」と俺は踵を返した。

 そのまま瀬那もついてくるだろうと思っていたが、歩き出す様子がなく不思議に思う。


「どうした? 帰らないのか?」

「……ずるいです」

「え?」

「ずるいって言ったんです!」


 振り返ると、瀬那が頬をぷくっと膨らませて、少しむくれた顔で俺を見ていた。普段の大人びた態度からは想像もつかないほど子供っぽい、明らかに非難の色が混じった目だ。その予想外の可愛らしさと迫力に、俺は思わずたじろいでしまう。「ずるい」って言われてもなぁ……。


「……何がさ?」

「デートするのですよね、詩織さんと。私との約束もまだなのに……ずるいです」

「デートって……義妹(いもうと)とだぞ? それに『私との約束』って……」

「……」

「……あー思い出した。もしかしてあの時のか」


 ストーカー被害を受けた日の昼。瀬那が俺に言っていた気がする。「駅前のカフェに行きましょう!」と。確かにそう言った気がする。これのことをデートって言うならそうだ。デートの定義は『日時と場所を約束して、二人きりで出かけること』。うん、日時はあやふやだけど、デートって言えばデートか。


「あの服はさすがに捨てたぞ?」

「存じていますし、そこはあまり重要なところではないです」

「左様で……それなら、……月曜日休みだしどこか行くか? 平日だからすいているだろう」


 俺の心中は穏やかな状態ではない……。自分から誘っておいてなんだが、『二人きりで出かける』という事実が急に重みを増してきた。やばい、ちゃんとした服を着ないと駄目だか?変な服は着ていけないぞ、などと気恥ずかしい気持ちが表に出て、瀬那を直視することができなく、視線が近くのポールに移る。

 一呼吸を置いて――


「はい♪」


 ――瀬那の、いつもより高く弾んだ声が聞こえた。



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