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学年一の才女を拾ったら癒されました  作者: PPHiT
第二章

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第62話 詩織の学校見学会②

 Side : 東條 詩織


 図書室でもらった栞を大切にカバンにしまい、私たちは見学会用の特別展示がある多目的ホールへと足を運んだ。パンフレットの説明を読むと、今までの授業の取り組みや部活動の実績、学校の歴史、交流留学などについて展示されているという。


 麻里はそこで文芸部が創作した小説が気になっているとのことだった。どうやらいくつか無料配布を行っているらしく、それを目当てにしているようだ。ほんと、相変わらず小説が好きな子。


 向かう途中、グラウンドが見える廊下を通ると、外で授業を行っているのが見えた。

 この学園のグラウンドは数年前に改装されていて、中央に人工芝のサッカー場があり、その周囲をラバー素材の陸上トラックが囲んでいる。フェンスを挟んで土のグラウンド、それにここからは見えないが、テニスコートも完備されているそうだ。

 私立だけあって、すごい広さだ。


 その広さに圧倒されていると、ソフトボールをやっている生徒たちの輪から離れて、先生と並んで立っている制服姿の男子が見えた。――義兄さんだ。


「えっ?」


 体調が悪ければ、わざわざ外には出てこないはず……と、疑問符を浮かべていたその時。物陰に隠れていた彼の半身が、ふと見えた。

 ――痛々しく、包帯でぐるぐる巻きになっている左手も。


「どうしたの? ……あ、お兄さんの左手」

「うん。義兄さん、怪我をしているみたい。全然、そんなこと言ってなかったのに……。私にも黙っていたんだ」


 義兄さんの性格上、変に弱みを見せたくないから両親に言わないのは想像できる。でも、家族の中で私だけは信用されていると思っていたのに……。

 胸の奥にしこりができたみたいで、少し気持ち悪い。


「……大丈夫。ちょっとした捻挫とかで心配させたくなかったんでしょ。気にしないで大丈夫だよ」


 気遣うように、麻里がそっと私の肩に触れた。


「……うん」


 たぶん、聞いてみたらその程度のことなのだろう。そう言い聞かせようとする自分と、ひどく嫌な予感がする自分がいるのがわかる。

 ――この気持ちは、なんなのだろうか。


 ◇


 多目的ホールの特別展示は、考えていたよりもしっかりしていた。特にこの学園の歴史が長いことには驚愕した。明治から続く学校とは思いもしなかった。ただし、設立当初は今とは違い、いわゆる上流階級の子供たちだけが通っていたらしい。当時は初等部、中等部も存在したが、その系譜の学校はあっても現在は一貫校としては扱っていないとのことだった。


(九州に姉妹校があるのは知らなかったな)


 麻里も欲しかった小説はいくつかもらえたらしく、ほくほく顔だ。一部では有名な生徒の作品らしいけど、どんな人なんだろうか。


 他の施設も一通り周ったので、私たちは食堂に向かった。事前に義兄さんからどれも美味しいと聞いていたので、安心して選べそうだ。何十もメニューがある中、私はデミグラスソースのオムライスを選び、麻里はハンバーグ定食を選んだ。どちらも美味しそうだ。


「美味しいね、詩織ちゃん」

「そうだね、学食とは思えないぐらい」


 私たちは今日周った所の感想を言いながら、食事を続けていた。

 話に夢中になっていると、ふいに声をかけられる。


「一緒にいただいてもよろしいかしら?」

「えっ? ……はい、いいですよ。どうぞ」


 振り返ると、大きく波打つようなウェーブのかかった、眩いほどのプラチナブロンドのロングヘアをした女性が立っていた。凛とした深みのあるアメジストの瞳が私を見つめていて、思わず吸い込まれそうになる。

 話し方とその容姿から、マンガに出てくるような、いかにも『貴族のお嬢様』と言える風格を感じる。この見学会に来るような感じが全くしない。


「突然お声がけして申し訳ありません。見学会のことをとても楽しそうにお話しされていらしたものですから。よろしければ、ぜひ私にもお聞かせ願えませんか」

「もちろん、いいですよ。……あなたも受験を考えて、参加されているのですか?」

「ええ、今年受験いたします。――申し遅れました。(わたくし)天煌院(てんこういん)瑠奈(るな)と申します。どうぞよろしくお願いいたします」

「初めまして、天煌院さん。私は東條詩織です。受験するかはわかりませんが、兄が通っているので、どうせならと参加しました」

「は、初めまして、天煌院さん。浅田麻里です。詩織ちゃんとは幼馴染で、参加するって聞いたから一緒に来ました」

「お二人とも、よろしくお願いしますね」


 彼女は優雅な動作で席につき、持っていたトレイをテーブルに置いた。ただそれだけなのに、仕草がとても綺麗で魅力的だった。

 ……トレイに乗っているのが、マヨネーズたっぷりの唐揚げ丼でなければ、完璧なお嬢様にしか見えなかったと思う。好きなのだろうか、唐揚げが。


「お二人はどこをご覧になりましたか?」

「私たちはまず――」


 今日の見学会で見て周った箇所を説明した。教室は進学校らしく、みんな静かに聞いていたこと。図書室の蔵書が思った以上に多く、司書さんが丁寧に教えてくれたこと。特別展示の学校の歴史が長いことに驚いたことなど。

 流石に義兄さんのことを言うのはやめておいたが、天煌院さんは楽しそうに聞いてくれていたので安心した。


「私は文芸部の小説が手に入ったから、もう大満足! ……天煌院さんはどこがよかったです?」

「私ですか。……特別展示の歴史もさることながら、私が最も気になったのは生徒会室と、役員の方々です」

「生徒会ですか?」

「今年の生徒会……いえ、生徒会長はたいへん個性的な方でしたね。お話ししていても、次に何をされるか全く予測がつきませんでした」


 生徒会の面々は、見学会では特殊な立ち位置になっている。今日の授業は免除されて、参加者への説明や来賓の接待など、生徒会の活動を伝える役割をしているようだ。


「ことあるごとに暴走……失礼、斬新な発想をされては即座に実行に移そうとなさり、その都度、副会長に止められていらっしゃいました。あの副会長がいらっしゃらなければ、私、危うく『一日生徒会長』に任命されるところでした」

「……マンガかな?」

「ふふっ、それに近いかもしれませんね」


 その後も三人で意見交換をした。お互いに行っていない箇所の話が聞けたので面白く、思った以上に話が弾んだ。それに、半日ではこの学園はすべて確認できないのだと、改めて広さに驚愕する。


 天煌院さんが、綺麗な所作でマヨネーズたっぷりの唐揚げ丼を頬張る姿も、彼女だからなのか様になっているのが少し笑えた。食べた時の顔は、話している時よりも自然な感じの笑顔なので、もしかしたら彼女も緊張していたのかもしれない。


 キーンコーン、カーンコーン。


 チャイムが鳴り、部活の時間が始まろうとしていた。

 それと同時に天煌院さんは立ち上がる。お別れのようだ。


「本日はありがとうございました。同世代の方とこのようにお話しする機会が少ないものですから、私にとって大変新鮮でした。――もし春に、この学校で再会できましたら。その折にはぜひ、わたくしと親しくしていただけますか」

「こちらこそ、その時はよろしくお願いします」

「はい、お願いします」


 そう言って手を振った彼女は、食堂の出口へと向かって歩き出した。

 ……気のせいだろうか。去り際の彼女は、なんとなく寂しい顔をしていたように見えた。

 少し気にはなったが、私たちもそのまま食堂を出るのだった。

 ――去り際、彼女がもう一度こちらを振り返っていたことに、気が付かずに。


「……あの子が、東條家の――」

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


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