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学年一の才女を拾ったら癒されました  作者: PPHiT
第二章

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第56話 事件後の石田

 Side : 南雲 瀬那


 今日はバイトの日なので、放課後にそのままムーンバックスへ向かいます。朔也くんに「ごはんは用意しなくて良いですからね!」とメッセージを送っておくのを忘れません。これをしないと、彼なら無理をして晩ご飯を作るに決まっています。……本人は「無理じゃない」と言いそうですが。


 ルナポートまでの通路……あの男がいた場所。少し勇気をもって向かいましたが、思いのほか怖いと感じませんでした。まだ明るいからかもしれませんが、昨夜、|私の生い立ちを受け入れてくれた事《嬉しい重要な出来事》があったので、この場所の怖さが上書きされて気にならなくなったのかもしれないです。


 ムーンバックスの休憩室に着くと、井上店長がいました。私を見ると血の気が引いた顔で立ち上がり、早足で近づいてきて、私の両肩を両手で掴みました。


「な、南雲さん! 本当に大丈夫なの!?」

「はい、大丈夫ですよ。あまりお気になさらないでください」


 ストーカー事件のことは警察から店長に話が行ったらしく、昨日連絡が来ていました。その際、「今度そういうことがあったら、一人で抱え込まずに必ず言うのよ!」と怒られてしまいましたが……。


「あの人、確かに様子が変な方だったけど、まさかストーカーするとは……。本当にごめんなさいね、私が気づかなくて」

「店長のせいではありませんよ。私が勝手に隠していたのですから」


 心から謝る店長に、逆に申し訳ないことをしたと反省します。私が先に早く話していれば、違う結果にはなったと思います。しかし――


(ナイフを取り出すような男なので、相談していれば、矛先が店長や同僚に向かう可能性も高かったはずです)


 反省はすれど、また同じようなことがあれば、周りの危険を考えてやはり店長には頼れないです。それなので、次回は違う方法を取ることを考えると思います。具体的にはまだ思いつきませんが、少なくとも逃げ方は変える必要がありそうですね。


「彼氏さんはどう? 大怪我したって聞いたけど……」

「あ……怪我は落ち着いていますよ。まだ傷口は完全には塞がってはいませんが、今日も登校しているので、普通に暮らすのには問題なさそうです」

「……申し訳ないのだけど、今日ここへ来てもらうことはできるかな? 私がご自宅へ行くのでも良いのだけど、それはそれでご迷惑になりそうだから……」


 本当に申し訳なさそうに顔を曇らせて、店長がそんなことを提案してきました。一体どうしたのでしょうか。


「今日も迎えに来ると言っていたので、後でお店で会えるとは思いますが……。どうかしたのですか?」

「私が至らないばっかりに、大事な彼氏さんに怪我をさせてしまったから……ちゃんと謝りたくてね」

「そういう事ですか。彼は気にしていないと思いますよ。そもそも、店長やお店側の落ち度ではないですから、多分困らせるだけだと思います」


 これは本心で朔也くんが店長のことを責めるはずがないです。逆に恐縮してしまうのではないかと思います。


「それでもね。私としてはどうしても。……それに、今後もしかしたら彼とやり取りをすることになるかもしれないから」

「……わかりました。一応、連絡しておきますね」

「ありがとう」


 彼女は店長なりに強い責任を感じているのでしょう。これは私がちゃんと相談しなかったのが原因なので、本当に申し訳なく感じます。

 着替える際に、朔也くんにこの件を連絡しておきました。すぐに「気にすることではないのにな……」と、思った通りの面倒くさそうな返信が来て、少し「くすっ」としてしまいました。こういう何気ないやり取りができるのも、朔也くんが庇ってくれて、最悪の事態を迎えていないからなのかもしれませんね。


 フロアに着くと、石田さんがいました。目が合ったので軽く会釈をして作業に取り掛かります。すると、石田さんが近づいてきました。


「南雲ちゃん、あの後、大丈夫だった!? もう、本当に心配して夜も眠れなかったんだからね。今日は俺がしっかりフォローするから、無理しなくていいからね」

「はぁ……?」


 ペラペラと何か言っていますが、それよりも仕事の準備をしてください。そもそも『あの後』ってどのことでしょうか?

 ……あ、そういえばあのストーカーの男がでてきた時、この石田さんもいましたね。あの後どうしていたのか知りませんが、彼は怪我はしていなかったはずなので、興味もなければすっかり忘れていました。


「うん? 南雲ちゃんに何かあったの?」

「日曜日にさ、南雲ちゃんと帰っていたらストーカー男が出てきてさ、ナイフを出したんだよ。俺、とっさに南雲ちゃんを庇って前に出たんだよね! いやー、あの時はマジで危なかった! でも、俺の放つプレッシャーにビビってあいつ逃げてったわけよ」

「へー、やるじゃん!」


 近くで聞いていた桜井さんが尋ねたことで、石田さんはありもしない事実をしゃべっていました。

 それを聞いた瞬間……本当に身を挺して庇ってくれた朔也くんを愚弄されたように感じ、胸の奥で怒りがふつふつと燃え上がりました。


「……でたらめな嘘を言わないでください」

「へ?」

「見え透いた嘘を言わないでくださいと、言ったのです。あの男がいきなりナイフを出してきたのは本当ですが、その後すぐ、石田さんは悲鳴を上げて腰を抜かし、地面へへたり込んでいただけじゃないですか」

「い、いやっ。俺はあえて体勢を低くして、あいつに下からタックルする隙をずっと窺ってたんだよ! 結果的に俺のプレッシャーで逃げたんだし、実質、俺が南雲ちゃんを救ったようなもんだよね!?」


 本当に、息をするように何を言っているのか、この人は。

 私を命懸けで助けてくれたのも、あの男に立ち向かってくれたのも、いつだって朔也くんです。私を守ったことが原因で、彼は左手に痛々しい大怪我を負ってしまったというのに……。

 自分のちっぽけな手柄や見栄欲しさに、彼の尊い行動と犠牲を上書きして否定するのは絶対に許せない。……本当に虫唾が走る。


「全く違います。私が一人で逃げた後も、あの男は執拗に追ってきました。逃げた暗がりで、私に向けられたナイフから怪我をしてでも守ってくれたのは――私の大切な『彼氏』です」


 自分でも驚くほど、冷たい声が出たのを感じました。彼を射抜く視線も、汚い物を見るように辛辣だったはずです。

 だって仕方ないじゃないですか。大好きな彼の勇気を、こんな薄っぺらい言葉で馬鹿にされたように感じたのですから。ええ、仕方ないのです。


「それに石田さん。私たちはあの日、仲良く一緒に帰ったのではなく、あなたが私の後ろを勝手について来ただけじゃないですか。これ以上嘘を並べるなら、店長にも報告しますよ」

「あっ……いや、その……っ」


 石田さんは顔を真っ赤にして口をパクパクさせていますが、桜井さんも完全にドン引きして目を丸くし、驚いています。

 職場で少し言い過ぎたかと思う反面、胸のすくような達成感とすっきりした気持ちになったのも事実です。

 私はくるりと踵を返し、足早に店内のカウンターへ歩き出しました。


「準備がありますので、私は仕事をしてきます」

「あ、ああ、そうね。私もフロアに戻ろうっと。……ねえ石田くん。女の子の前で良い格好したいのはわかるけどさ、命の恩人を(かた)るような見苦しい嘘は、さすがにドン引きだわー。最低」

「うぅ……っ」


 背後で石田さんが情けない声で何か呻いていますが、今の私には全く関係ありません。

 さあ、笑顔を作って仕事をしましょう。彼が、いつ迎えに来ても良いように、しっかりとしていないとですね。……それにしても、井上店長が言っていた『今後もしかしたらやり取りをすることになるかも』とは、どういう意味だったのでしょうか。少し気になります。


最後までお読みいただき、ありがとうございます!


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