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学年一の才女を拾ったら癒されました  作者: PPHiT
第二章

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第55話 弁当の策略

 昼休み。予定通り、瀬那を入れたメンバーでお弁当を食べている。俺と瀬那、浩紀と愛莉、そして和人の五人だ。

 今朝の変な噂もあるし、ただでさえ目立つこのメンバーで、噂の払拭のためにあえて人目の多い学食のテーブル席を使っている。席に着いてまだ数分だが、すでに注目の的なのは瀬那の人気ゆえか、それとも俺の悪名のせいか……頼むから、前者であってほしい。


「はい、東條さん。お弁当です。味は保証しますよ」

「あ、ああ。ありがとう」


 こちらも予定通り、瀬那から二段になっている弁当を受け取る。

 『味は保証』って、毎日食べてるから美味しいのはわかっているんだけどな。一段目の蓋を開けると、いつも通り綺麗に敷き詰められたおかず。うん、今日も美味しそうだ。


「……」

「あれ? 朔也、南雲さんにお弁当作ってもらったの?」

「え? あぁ、言ってなかったか。左手が使えないから、作ってくれるって話になったんだ」

「せめてものお礼に作ろうと思いまして。左手が使えないと、自炊もろくにできないでしょうし」


 浩紀の素朴な疑問に、二人で用意しておいた理由で答える。今日だけじゃないという事実を除けば、嘘は言っていない。

 それを聞いた愛莉が、身を乗り出してきた。


「そうなんだ! 羨ましいなー!」

「……なんだよ」

「いーなー! ってことで、ちょっとおかずちょうだい!」

「やだよ、あげない……」

「えー! けちー! 朔のけちんぼー!」


 うるさい愛莉の抗議を適当にスルーして、俺はメインである御飯が入っている二段目の蓋に手をかけた。

 その時、ふと顔を上げると、向かいの席に座る瀬那が、何かを期待するような、いたずらっ子のような笑みを浮かべてこちらをジッと見つめているのが目に入った。

 その珍しい表情に少しだけ嫌な予感を感じるも、気にせずパカッと蓋を開ける。


「? ……っっ!!」

 バァァンッ!!


「……(ビクッ!) ど、どうした朔也? 急にものすごい勢いで蓋を閉めて」

(こ、こいつ……やりやがったな!!)


 ほんの瞬間しか見なかったが、真っ白な御飯のど真ん中に、ピンク色の甘い桜でんぶでデカデカと『♡』が描いてやがる……っ!

 ラブコメマンガのド定番かよ……。この公開処刑をどう切り抜けたらいいか、俺は机の下で頭を抱えて本気で悩む。

 そうしていると、俺の狼狽っぷりを見て必死に笑いをこらえているのだろう、口元が少しプルプルと震えている瀬那が、わざとらしく首を傾げて話しかけてきた。


「どうしました、朔也くん? 手が止まってますけど。もしかして、何か嫌いなものでも入っていましたか? 以前聞いた時には、好き嫌いは特にないっておっしゃっていましたが?」

「……(じーっ)」

「……(にっこり)。さあ遠慮せず開けて、何が嫌いなものなのか、皆さんの前でちゃんと教えてもらえますか?」


 絶対に逃がさないという完璧な笑顔で、無慈悲に蓋を開けるよう促してくる瀬那。……こいつ、楽しんでやがる。

 ダメだ、この場で開けるのは非常にまずい。開けたが最後、面白がる愛莉と浩紀のカップルが嬉々としてイジり倒してきて、絶対に収拾がつかなくなるぞ。


 ……どうする。この逃げ場のない絶体絶命の窮地は、ストーカーにナイフを向けられた時より遥かにやばい。


「ちょっと良いか?」


 ふいに横から声をかけられて、そちらを向く。この最悪な公開処刑の空気をぶち壊してくれるなら今は誰でも良い、頼むから俺を窮地から脱する救世主になってくれー! と、心の中で神に叫んだ。

 声の主は……天童だった。彼の顔は、俺たちのワイワイした輪の中に入るのがどこか居心地の悪そうな、ぎこちない硬さに覆われていた。


「天童か……また何か用か?」

「今朝は思い込みで、申し訳ないことをしたからな。謝罪を込めてこれを持ってきた。良ければ飲んでくれ。俺の最近のお気に入りなんだ」


 そう言って不器用に差し出してきたのは、SA〇ASの紙パック飲料。ガッツリとプロテインが入ったココア味だ。

 俺は飲んだことは無いが……美味しいのだろうか、これ? 一瞬、新手の嫌がらせかと思ったが、彼の真面目な目を見る限り、彼なりの誠意らしい。


「あまり気にしていないから、不要だ」

「もらってくれ。ただの謝罪の気持ちだ」


 断ろうとして和人に視線を送ると、和人は『受け取ってやって』と軽く頷くので、ここはありがたくもらっておいた方がよさそうだ。


「わかった。これでお前が納得するなら、もらうよ。ありがとな」

「ああ。こちらの早とちりで落ち度があったからな、気にしないでくれ。……それにしても、南雲もここで一緒に食べているのだな」


 俺に謝罪を受け入れてもらって肩の荷が下りたのか、少し気が楽になった天童の表情が緩くなった。そのまま、俺たちの状況を不思議そうに確認して瀬那に話しかけた。


「そうですね。彼から『怪我でお弁当が用意できない』って連絡をもらっていたものですから。助けてもらったお礼に私が作ってきたんです。今はそれを渡す流れで、ご一緒させてもらっています」

「えっ?」


 瀬那は最後に「ねー」と、愛莉と顔を見合わせて笑っていた。随分仲良くなっていることに驚く。性格が違うこの二人だが、意気投合する何かがあったのだろう。思い返せば、愛莉が瀬那に抱きつくことが増えている気がする。愛莉は少しテンションが高く何をしでかすかわからないところはあるが、悪い奴ではないので、瀬那が学校で仲良くする相手としては申し分ないと思う。


「と、東條。南雲の連絡先を知っているのか? ……交換しているのか?」


 『大事なことだから二度言いました』って状況になっているが……同級生の連絡先ぐらい交換してても珍しくは――あー、そう言えば、瀬那が前に言っていたな。

 『私の今の連絡先を知っている男子は、学校では東條さんだけです』と。つまり、珍しいのか……。


「色々ありましたから、安全のために連絡先を交換したんです。そうですよね、東條さん?」

「そうだな。あの件があったから」

「そ、そうなのか……邪魔したな」


 なぜかとぼとぼと帰っていく天童。……なぜか、じゃないか。以前彼が聞いて、教えてもらえなかったのだろうな……南無。心の中で手を合わせておく。

 隣で和人が、天童の背中を見て苦笑いをしている。そして軽くため息をついて、こちらを見た。


「はぁ……あいつは、本当に仕方ない奴だね。それよりも、なあ朔也。その南雲さんがお礼で作ってくれたっていうお弁当、ここ最近君が持ってきてたお弁当と全く同じように見えるんだけど? おかずがすごく綺麗に整理されて詰められているみたいだね」

「!!」

「あーっ! 言われてみればそうじゃん! どういうことよ朔也!?」

「えっ?」

「どーいうこと!?」


 しまった……。この二人、毎日俺の弁当を目ざとく見ていたのを完全に忘れていた。

 『同じように綺麗に整理されている』って、そりゃあ毎日同じ南雲瀬那(ごほんにん)が作っているんだからな、当たり前だ。

 一切誤魔化せる気がしないが……強行突破するしかないな。

 浩紀が愛莉たちに「あいつ、最近弁当が急に彩り豊かになって綺麗だったんだよ」と余計な説明をする横で、俺は無謀な言い訳を開始する。


「……い、いや、たまたまだよ。俺が南雲に弁当の詰め方のコツを聞いて、真似してたんだ。せっかく作るなら、見栄え良く綺麗にしたかったからさ。なっ、南雲?」

「は、はい、そうですね。図書委員の当番の時に、そういうお料理の雑談をした覚えがあります。男子なのにご自分でお弁当を作るんだって、とても感心しましたもの」


 顔を見合わせ、あせあせと即興で苦しい言い訳を紡ぐ俺たち。

 俺は「はい、この話はここまで!」と強制的に追及をシャットアウトする意味も込めて、勢いよく、御飯が入っている二段目の蓋をパカッと開け放った。


「あっ!!」


 ――直前まであれほど警戒していた、瀬那の仕掛けた『桜でんぶのハートマーク』の特大トラップを、俺はすっかり忘れたまま……。


 その後、ピンク色のハートを見て嬉々として大騒ぎするバカップルを物理的に収めるのに、今日一番のひどく無駄な体力を消耗したとさ。

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 瀬那の勝ち!
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