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学年一の才女を拾ったら癒されました  作者: PPHiT
第一章

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SS 二階堂 真紀:ピアス男

 ― 四月上旬 ―


 私は黄隆学園の二年生、二階堂(にかいどう)真紀(まき)。風紀委員をしている。友達に「真紀は風紀委員に似合っているよね」と言われるくらいお似合いらしい。

 自分の性格はわかっているので、本当にお似合いかも知れない。


 今年は龍真と由香が入学してくる。中学校からの付き合いだが、いい子たちだ。特に龍真はどこか放っておけない。ポヤポヤしている由香よりも放っておけないのだ。


 入学して数日経ったある日、私は龍真の教室へ向かった。一年の教室に、二年生を表す赤いリボンの生徒が来たのだから、ある程度目立つのはしょうがない。


「龍真、入学してから調子どう?」

「まだ日が経っていないからね。まだまだわからないよ」

「まあ、そんなものよね」


 龍真と取り留めのない雑談をしていると、教室の一画だけ、人が寄り付いていないような空間があるのに気づいた。

 よく見ると、その中心には男子生徒が一人、本を広げて座っていた。――ピアスがジャラジャラとついている!

 周りの生徒は、彼に関わらないようにしているようだ。


 高校生にもなると、ピアスを着けたくなる気持ちもわかる。それは私もわかるので、そこまで派手ではないなら、私はスルーしたい派だ。ただ、あれはさすがにやり過ぎだ。

 そう思い、彼に注意しに移動しようとした時――


 キーンコーン、カーンコーン。


 予鈴が鳴ってしまった。

 急ぎのことではないので、彼への注意は今度にすることにした。


「じゃあね龍真。ちゃんと授業を受けるのよ」

「わかってるよ、真紀ねぇ」


 私は自分の教室に戻るのであった。


 ◇


 昼休み、龍真の教室へ向かう時だった。廊下の向こうから、こちらに歩いて来ているあの男子を見かけた。友達と学食からの帰り道らしい。周りの生徒がモーゼの十戒のようにサッと道を開けているのが、今の彼の学年での立ち位置を表しているようだ。


 タイミングが良いとはこのことか。せっかくなので、ここで注意しておこう。

 ただ、普通に注意しても、相手が本物の不良なら舐められる可能性が高い。中学にも同じような奴はいたからね。それならと……私は少し高圧的な、風紀委員っぽい口調でいくことにした。


「そこの男子! その耳のふざけた金属類を今すぐ外しなさい! 進学校の生徒として恥ずかしくないの!?」


 廊下で彼のことをビシッと指さして、開口一番に大きな声で注意した。あまり高圧的には接したくないのだけど、こういう手合いは最初で舐められたらそこでお終いだからね。


「……言われているぞ、浩紀」

「いやいやいや! どう見てもお前だろ!?」

「……やっぱりそうか。先輩、見間違いだと思いますよ」


 彼は自分の後ろを一度振り返り、それっぽい不良生徒がいないことを確認したのか、あろうことか隣にいる友人に罪を擦り付けていた。その後の『見間違い』という変な言い訳も意味がわからない。

 彼の、のらりくらりとした対応に勢いを完全にくじかれた私は、咳払いをしてもう一度改めて問うた。


「え、えっと……。もう一度聞くけど、その耳のふざけた金属類を今すぐ外す気はない? いくらなんでも進学校の生徒として、さすがにそれはやり過ぎよ」

「……これを外すと、俺の生死に関わります」

「……さすがに意味がわからないわ! 外せない正当な理由があるなら今すぐ教えなさい!」


 ついヒートアップしてしまった私の声が、静まり返った廊下に響く。

 彼の友達は、怒る私と面倒くさそうな彼を交互に見てオロオロしていたが、周りの注目が集まっている状態を確認して、慌てて私に話しかけてきた。


「せ、先輩、落ち着いた方が良いっすよ! 朔也も朔也だ、誤解されてるんだから、もう少しちゃんと説明してもいいと思うけど?」

「……めんど……いや、これをここで説明すると、最悪俺が死にます。あと、これについてはちゃんと学校側から特別な許可をもらっています」

「今、面倒って言おうとしたよね!? 言い直した物騒な言葉もどうなのよ……」


 何かどっと疲れた……。なんだこの堂々とした一年生は。

 もう関わるのを止めようかと本気で思ったが、ここで引き下がったら風紀委員として他の生徒に示しがつかない。ただ、今の「学校側から許可」という言葉はどういうことだろう。嘘をついているようには見えない。


 私が困惑と呆れを顔に出しているのに気づいたのか、少しは申し訳なく思ったのかはわからないが、朔也と呼ばれた彼は、ふっと真面目な声色になって私に質問してきた。


「先輩は、風紀委員の中で上の立場ですか?」

「……いきなり何よ。一応、二年生で副委員長を任されているわ」

「そうですか。……それなら話が早いか。説明するので、少し一緒に来てもらえますか? ただし、内容は絶対に誰にも言わず、今後このピアスの一件で他の風紀委員が俺に干渉してくるのを、先輩の権限で完全に止めてくれることが前提ですが」

「……っ。すごい前振りね。……え、ちょっと待って? 本当に外したら死ぬ可能性があるってことなの!?」

「……浩紀、悪いけど先に戻っててくれ」

「え? あぁ……わかった」


 有無を言わさないその態度は、先ほどまでののらりくらりとしたものとは全く違っていた。

 私は、ポカンと唖然とする彼の友達――浩紀くんを廊下に残して歩き出す彼の広い背中を、慌てて追いかけた。

 先ほどの『死ぬ』という発言が一体何を意味しているのか、全く分からないまま。


 ◇


 しばらく歩くと、保健室に連れていかれた。一瞬、「何かいかがわしいことをする気では!?」と考えたが、保健室には養護教諭の友利先生がいるのを失念していたことに気づき、少し顔が赤くなる。


「あれ? 東條くん、それと……二階堂さん? 珍しい組み合わせね。いらっしゃい」


 入学してすぐなのに、養護教諭から名前を覚えられているのは意外だ。喧嘩とかですぐ怪我をしている……ようには見えないわね。


「先生は、この先輩のことご存じなのですか?」

「えぇ、風紀委員として何度かやり取りしているわ」

「そうですか。信用できますかね? 主に、口が堅いって方向で」


 何か失礼なことを言われたような気がする……。


「……そういうこと、なんとなくわかったわ。二階堂さんなら大丈夫だと思うわよ」

「そうですか。とりあえず先生を信用します」


 私をよそに二人は何かを確認し終わると、先生が鍵のかかっている棚から一つの封筒を取り出し、私に渡してきた。

 真っ白な封筒の表には、赤いスタンプで無機質に『診断書在中』と押されていた。その横には、彼の名前だと思われる『東條朔也』という文字がボールペンで書かれている。裏返すと、封の境目には病院の丸い割印が跨ぐように押されており、事の重大さを物語っているようだった。

 ……これって、そのまま私に渡していいものなの?


「先輩、どうぞ中を見てください」

「……私が見て良いものに見えないのだけど?」

「今更でしょ。それに、それを見てもらった方が話が早いので」


 先生を見ると、「どうぞ」という感じでジェスチャーをしてきた。

 私は意を決して、恐る恐る中身を取り出し、診断書に目を通す。

 そこには、彼がピアスを着けている明確な理由が記されていた。『治療・精神安定の一環として、規則外の装飾品の着用を認めるよう配慮を求める』と。


「……こういうことって、実際にあるのですか?」

「ええ、あるわよ。精神医学や心理学の世界でも、特定のアクセサリーや布などを身につけることでパニックを抑えたり、精神を落ち着けたりするアプローチは存在するわ。『移行対象』や『グラウンディング』って呼ばれているわね。少なくとも強い投薬で精神を保つよりずっと良いのよ。副作用や依存で身を滅ぼすのを防げるからね」

「……そうなのですね」


 私にとっては全く知らない世界の話だったので、正直言葉を失った。これだけの理由があるなら、学校から特例で許可が出ているのも頷ける。

 ただのイキった不良だなんて勝手に決めつけて、大声で怒鳴ってしまった自分が少し恥ずかしくなった。


「そういうことなので、問題は無いってことで。……さっきも言いましたが、誰にも言わないでくれますか? あまり面白おかしく広められたいことでもないので」

「えぇ……わかったわ。デリケートな部分ですもの、絶対に秘密にするわ」

「ちなみにこの特例を知っている先生は、東條くんの担任の三波ちゃんと私、それと校長先生と教頭先生だけね。それ以外の教員には一切伝えていないわ。東條くんもあまり広めてほしくなさそうだったから」

「お手数おかけします」

「気にしないで〜。生徒の心を守るのも私の仕事みたいなもんだし、プライバシーは絶対守らないとねー」


 その後、午後の授業を知らせる予鈴が鳴ったので、私たち二人は保健室を後にした。


「今日はごめんなさいね、事情も知らずに騒ぎ立てて」

「いえ、風紀委員なら至極真っ当な対応ですよ。むしろ、これで他の風紀委員の抑止力になってもらえるなら助かります」

「うん。そこは副委員長の権限で、私に任せといて」


 裏取引というわけではないが、秘密の密約を結んだ私たちは廊下で別れて、それぞれの教室へ戻った。

 彼の背中を見送りながら、これから先、少しでも彼の心が安らかになることを密かに祈った。


 ――余談だが。

 一年生の実力テストの結果が発表された後、赤口先生からこのピアスの件でしつこく事情を聞かれたことがあった。

 もちろん東條くんとの約束通り、内容ははぐらかした。日頃の東條くんへの異様なヘイトの件もあったため、あの教師の執拗な態度をひどく胡散臭く感じたのも事実だった。


 ― 二階堂 真紀:ピアス男 完 ―

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