第4話 鋳造所の屋根裏
唐突だが、俺の趣味はアクセサリー作りだ。主に作っているのはシルバーアクセサリー。
始めたのは中学二年の頃、ある人に勧められたのがきっかけだった。当時は暇な時間が多く、すでにピアスホールも開けていた。せっかくなら自分で作ってみよう――そう思っただけの、単純な理由だ。
最近はロウ付けにも手を出している。低温で溶ける金属をバーナーで流し、金属同士を接合する作業だ。実家の自室は和室だったので控えていたが、一人暮らしを始めてから環境を整え、部屋の一つを作業場にした。
GWは時間があったので、いつもより作業に没頭した。自己流も多く、正しい作り方かは分からない。それでも、着けていて違和感はない。そして今日は、第三者の意見を聞きに行く予定だ。
行き先は、行きつけのセレクトショップ。「The Foundry Attic (ファウンドリーアティック)」だ。
ここはピアスを探している時に見つけたお店で、今の家から四駅のところにある。 店長が自作する楽しさを教えてくれた、俺の恩人だ。
駅から十分ほど歩くと、町工場を改装した建物が見えてくる。一階が工房、二階が販売スペース――それがこの店の特徴だ。
二階へ上がり、古びた鉄のドアを開ける。天井には骨組みがむき出しになり、床は深い色の古材フローリング。棚にはアクセサリーがずらりと並んでいた。
(最初、ここに入るのには勇気が必要だったな……)
ジャズの流れる店内を進み、奥のカウンターへ向かう。
――いた。
店長の真壁さんだ。
「お久しぶりです、真壁さん。珍しいですね、店頭にいるの」
「おぉ! 久しぶりだな、朔! 元気か!?」
「まぁまぁかな。学校が始まったばっかりで、慣れるのが大変って感じです」
「あー、高校始まったのか。そりゃ楽しみだな」
ニヤニヤしながら真壁さんは変なことを言う。……少し嫌な予感がした。
「……楽しみとは?」
「お前が女を連れてくるのがだよ!」
「えぇ……」
またこの人は、すぐそういう方向に持っていく。にやけた顔の真壁さんを軽く無視して、俺はカバンから最近作ったシルバーアクセサリーを取り出した。
「またそういうこと言って。俺に彼女なんてできませんよ」
「かぁー! なんで自信ねぇかな! 良い男なんだから胸張れよ!」
「はいはい、考えておきます。それより、作ってきたやつ見てくださいよ」
真壁さんはアクセを手に取り、鋭い目で軽く眺め――
「ほら、ここ。焦って仕上げただろ」
「……バレたか」
「バレる。作った奴の癖は全部出るからな」
いくつかを指で弾き、選び分ける。
「これとこれはいい出来だな。使う予定ないなら、店に置いてみるか?」
「えっ!? いいの?」
思わず声が裏返った。認められたという実感が、じわじわと胸の奥を熱くしていく。一から手作りで認めらてたのは素直に嬉しい。
「高校生になったことだし、もう大丈夫だろ」
「……ありがとうございます。もっとマシなもん作れるように、頑張ります」
照れ隠しに頭をかくと、真壁さんは豪快に笑って俺の背中を叩いた。
この店は少し変わっていて、個人制作のアクセサリーも扱ってくれる。もっとも、店長の目にかなったものだけだが。
今の時代、ネットで売ることもできる。けれど在庫やページ管理が面倒でやっていない。そもそも金に困っているわけでもないし、儲けるために作っているわけでもない。
しばらく雑談していると、店に客が入ってきた。 邪魔になるのも悪いので、そろそろ出ることにした。
「それじゃあ、そろそろ行きますね。ありがとうございました」
「おぅ、また来いよ。ただの雑談でもいいしな」
「はい、また来ます」
The Foundry Attic を出た俺は、駅の方向へ向かう。初めて真壁さんからOKをもらえたのが嬉しくて、少し気分が浮ついていた。
喉も渇いたし、休憩がてら近くの大型商業施設『ルナポート』へ入る。確か中に大手のコーヒーチェーン『Moonbucks Coffee (ムーンバックス コーヒー)』があったはずだ。
店の前に着くと、昼過ぎにもかかわらずレジには結構な列ができていた。
先に空いていた一人用のカウンター席を確保してから列の最後尾に並び、壁のメニューを眺めて何にするか悩む。
(小腹も空いたし、コーヒーと一緒にクッキーも頼むか)
ドリンクだけでなくクッキーも種類が多いので、なかなか決められない。
「……ねぇ、……さん。今日も元気だねぇ」
ふと、前のほうから少しネットリとした男の声が聞こえた。どうやら、レジの店員に無駄絡みしている常連客がいるようだ。それに対して受け答えする女性店員の声は、あくまで接客業としての丁寧さを保ちつつも、どこか明確な『壁』を引いているような、不思議な響きがあった。
なんだか、どこかで聞いたことがあるような声だった気がしたが、クッキーのチョコチップにするかマカダミアにするかで必死に悩んでいる今の俺には、その記憶を掘り起こす余裕はなかった。
メニューを考えながらスマホをいじって時間を潰していると、列が少しずつ進み、やがて俺の番が来た。
「お待たせいたしました。次のお待ちのお客様ー」
通る声に顔を上げ、オーダーを口にしようとした俺は――そのまま固まった。
視線の先にいたのは、細いフレームのメガネをかけ、学校では下ろしている亜麻色の髪を後ろで綺麗に二つにまとめた少女。
キリッとしたエプロン姿のカフェ店員は、目を丸くしてこちらを見つめ返していた。
「「え?」」
全く同時に、間の抜けた驚きの声が漏れる。
そこにいたのは、間違いなく同級生の――南雲 瀬那だった。




