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学年一の才女を拾ったら癒されました  作者: PPHiT
第一章

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第47話 ストーカー事件の事実確認①

 放課後、予定されていた事実確認の時間だ。学校の応接室に呼び出された数人が座っている。俺と瀬那が並んで座り、俺の隣には三波先生が、瀬那の隣にはA組の担任の負川先生が座っている。テーブルを挟んだ正面には、校長を中心に、教頭、学年主任の勝田先生、そしてなぜか特進クラスの担任である赤口がいる。

 少し離れた所には、保健の友利先生もいた。赤口とは別の意味で、いるのが不明な存在だ。

 ……そして、理事長らしき人がいない。顔は覚えていないが、ここに居る面子ではないことは確かだ。

 全員がそろったことを確認して、教頭が話を始めた。


「さて、これから事実確認を行います。私たちが警察から聞いていることをお伝えしますので、訂正箇所や疑問点、追加する点があればおっしゃってください」

「すみません、始める前にお聞きしたいのですが、理事長は参加されないのですか?」


 俺は気になった点を先に尋ねた。この話を学校に広めた当の本人が誰なのか、気になって仕方なかったのに、ここに居ないんだからな。


「東條! 大人の話の腰を折るな! 勝手に口を挟むんじゃない!」

「赤口先生、今は黙っていなさい。東條くんが疑問に思うのも当然の経緯です。……理事長は急遽外せない用件が入ってしまったとのことで、先に事情聴取を始めていてほしいとのことでした。終わり次第、こちらに合流されるそうです」

「わかりました、ありがとうございます」


 呼び出しておいて、いないのか……。いや違うか、この場をセッティングしたのは勝田先生だったな。……勝田先生が呼び出したのに、理事長や校長たちも参加というか、巻き込んだかたちになるのか?


「他にはなさそうですか? ……では、始めますね」


 そこからは、淡々と事実確認が行われた。時折、俺と瀬那が訂正したり、先生からの疑問に答える形で進んでいく。気になるのは、瀬那がバイトから帰る時のことを伝える際、少し躊躇していたことだ。

 一通りのあらましを話し終えた後、勝田先生が、鋭い視線を真っ直ぐに俺へと向けて疑問を投げかけてきた。


「……なるほど、状況は理解しました。では東條くん。君は南雲さんがストーカー被害にあっているのを事前に知っていて、なぜすぐに警察や我々学校側に相談しなかったのでしょうか?」

(真っ当な大人の疑問だが……そもそもなぜ、当事者である瀬那ではなく俺を問い詰めるような形になっているんだ?)

「……その時点で警察や学校に相談しても意味がないどころか、逆に相手が逆上して事態が悪化する恐れがあったからです」

「逆上、ですか?」

「はい。待ち伏せされたというだけで、暴力を振るわれたなどの明確な実害はその時点ではなく、ご存じかどうかわかりませんが、通報しても実害や証拠がなければ警察は動きませんし、法的に動けません。よくニュースでもそれが問題になった事例がありますよね? あの時点ではただ単に、『カフェ店員に付きまとっている客』。それが一般的な警察の見方だからです。それよりも、警察や学校経由で中途半端に注意喚起がいった場合、あの男が逆上して南雲への行動を凶悪化させるリスクの方が問題でした」

「……それは君の浅はかな素人考えでは? 何か起きる前に、まずは我々大人に相談するべきだったではないか?」


 ……痛いところをつく。普通、そうする必要があると思う。ごく一般的な、普通の高校生ならな。

 だが、俺たち二人の家庭の状況を考えると、そう簡単に大人は頼れないんだよ。身内に気軽に相談できる大人がいない俺たちの実情を考えてほしい。

 ……待て。なんで俺が、まるで事件を引き起こした元凶のように尋問され、非難される方向に話が進んでいるんだ?


「お前が南雲さんに良い格好をしたくて、自分一人で解決できると驕って大人に黙っていたから、刃傷沙汰などという最悪の結果になったのではないのか! 全く、これだから不良は……っ!」

「――いえ、それは明確に違います。警察に通報しなかったのも、大人に相談しなかったのも、すべて私がお願いしたことです。東條さんは、私のその我儘な意見を尊重して守ってくれたにすぎません」


 赤口が勝ち誇ったように俺を罵倒した瞬間。

 隣に座っていた瀬那が、すかさずキッパリと否定した。

 想定外の反撃を受けた赤口は、苦虫を嚙み潰したような顔で黙り込む。……こいつの言動、さっきから異常にきな臭いぞ。ただの事実確認の範疇を超えて、明確に俺を『事件の元凶』に仕立て上げようと企んでいないか?


「……南雲さん、それはなぜでしょうか? 我々を頼ってくれればよかったのに」

「事を荒立てたくなかったからです。理由は警察と同じです。中途半端に大人が介入した結果、相手が逆上して危害を加えられる心配もありましたから。それなら、確実にストーカーとして捕まえることができる証拠が揃う状態まで、不用意に刺激せず耐えた方が良いという判断です。……幸いにも、東條さんがずっと私の傍で守ってくれていたので、昨日追い込まれるまで、私は指一本触れられなかったのですけどね」


 冷ややかな顔で大人たちを一蹴した後、瀬那は俺の方を見て、ふわりと優しく微笑んだ。

 俺がバイト帰りに迎えに行っている間は、特に問題がなかったのは確かだ。瀬那の言う通り、遠くから見られていた可能性はあるが、あいつが行動に移さなかったのも本当。瀬那としては、そのままフェードアウトしてほしかったに違いない。


「……ちなみにですが、東條くん。君は『庇って手を刺された』と言っていますが、本当に刃物で刺されたのでしょうか?」

「……は?」

「えっ?」

「な、なにをおっしゃっているのですか、勝田先生! この痛々しい包帯が見えないんですか!? 警察沙汰にもなっているんですよ……いくらなんでも、生徒の怪我を疑うのはおかしいです!」


 勝田先生の口から出た想定外の言葉に、一番先に声を荒げて反論したのは、俺の担任の三波先生だった。瀬那も『この大人は何を言っているんだ』と全く理解できない顔をしている。

 ……が、実のところ、俺はそれを訊かれても仕方ない気もしていた。なぜなら――。


「いえ、三波先生。私たちは今朝、理事長から一方的にこの話を聞かされただけで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()じゃないですか。そもそも、理事長の認識に何らかのずれがある可能性もあります。不良同士のただの喧嘩を大袈裟に報告しているだけなら、学校として大騒ぎしても仕方ないのでは?」


 ……やっぱりそうなのか。警察ではなく()()()()()()事実確認の事情聴取をしている時点で、手順がおかしいとは思っていたが……公的機関からの連絡は、まだ学校に来ていなかったのか。

 となると、やっぱり理事長はどこからそんなに早く連絡があったのか、わからないな。


「……そこまで事件自体を疑われると面倒なので、いっそ傷口を見ますか? ただし、血も滲んでるし、かなりグロいですけどね。……友利先生、今、替えの包帯なんかは持っていないですよね? 一度取ると自分で綺麗に戻せるか不安で」

「いや? バッチリ持ってきてるよ」


 少し離れた席にいた保健の友利先生は、足元に置いてあった大きな救急箱を片手で持ち上げて、ポンとテーブルに置いた。

 用意が良いなこの人。もしかして、俺の怪我のために、念のため参加してくれたのか? いつも保健室で寝ているような、そんな真面目なタイプじゃないような気がするんだが……。


「正直、私も個人的にすごく気になっているんだよね、その傷口」

「ちょっと、友利先生まで何を言ってるんですか!」

「あはは、三波ちゃん、違う違う。疑っているんじゃなくて、今後の授業、主に体育のことを考えると、養護教諭として正確な状況を把握しておかないとマズイかなってさ。東條くんのことだから、診断書もバッチリ貰ってきているんじゃない?」

「……本当は欲しかったのですが、昨日の夜は色々とごたごたしてて、まだ発行してもらっていないんですよね」

「あ、そうなの? 用意周到な君らしくないね。まあでも、あの状況でごたごたしてたら仕方ないか」


 友利先生はそう言って、救急箱を開けながらこちらに向かってくる。「包帯、はずすよ?」と聞いてくるが、いい歳して大人の女性にやってもらうのは何となく気恥ずかしいので、「自分でできますから」と断って器用に包帯をほどく。

 少し血が張り付いたガーゼをゆっくりと剥がし、手のひらから手首にかけて縫い合わされた生々しい刺創を、疑う大人たちに見せつけた。


「――っ!」


 横で、三波先生が「ヒッ」と短く息を飲んで目を背けたのがわかる。三波先生、こういう血生臭いのは苦手そうな雰囲気があるからな、しかたない。

 逆側に座っている瀬那は、昨日……と言うか今日の深夜と今朝に消毒でしっかり見ているので、悲痛な顔で眉間に力を入れるに留まっていた。彼女は自分のせいだと考えているから、決して目を背けるような逃げはしたくないのだろう。

 そして、疑っていた勝田や赤口は、想像以上にエグい傷跡を前にして、完全に言葉を失って絶句していた。


「こりゃ……随分とエグいね。平和な学園で、こんな見事な刃物の貫通刺創(かんつうしそう)をみるとは思わなんだ。しばらくは絶対に体育に参加しない方がいいよ」

「とりあえず、今週は休むつもりです。さすがにこの手でソフトボールできないので。来週からは、やる内容次第で考えますが」

「くくっ、あはは! この大怪我で、まだ参加を考える余地がある君のメンタルはすごいよ」


 友利先生はツボに入ったように愉快そうに笑う。

 いやだって、体育を全部休んで見学にしたら後が面倒だろ。状況によっては、学期末に長文の補習レポートとかを課されたら最悪だ。

 俺の超現実的な言葉に、瀬那や三波先生が心底呆れた顔をしている。……解せぬ。


「――これで納得しましたかな、勝田先生、赤口先生。この事件が虚偽ではないということも」

「……はい、納得しました」


 今まで静観して黙っていた校長が、重々しく口を開いた。これで納得してくれなかったら、瀬那が録音した音声を再生するつもりだったが、必要なかったようだ。

 このやり取りを見るに、勝田と赤口の二人がそもそも事件自体を疑っていて、校長はそれの証明を待っていたのか。さっきの含みがある言い方はそういう事か。本当に、大人の事情で面倒ごとを増やさないでほしい。


「このガーゼは、衛生的にそのまま使わない方がいい。さすがにこの傷を覆える特大サイズの絆創膏は今は無いから、とりあえず新しいガーゼと包帯に変えようか」


 大人たちの腹の内を怪しんでいると、てきぱきと友利先生が左手の処置をして包帯を巻き直してくれた。

 ……なるほど、特大の絆創膏って手があったのか。帰りにドラッグストアに寄って探してみよう。

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