表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
学年一の才女を拾ったら癒されました  作者: PPHiT
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/53

第46話 怪しむ目と作戦会議


「おはよ……ってお前、その手どうしたんだよ!?」


 いつもの分かれ道で、『お弁当も作れず、一緒に登校もできない』という二重の不満で、いつもより頬を膨らませていた瀬那と別れ、教室へ入る。すると出会い頭に、浩紀から目を丸くして言葉をぶつけられた。


「朝からいきなりなんだよ。なにって……なにさ?」

「いや、なにってその左手だよ、手! 土曜日に別れた時、そんな包帯ぐるぐる巻きになってなかっただろ!?」

「あー、まあ週末に色々あってな」


 俺は痛まない程度に左手を上げて、ヒラヒラとさせて見せる。今はガーゼの上に肌の色に近い自着性包帯を巻いているだけだ。念のため完全防水用のビニール手袋も鞄に入れてあるが、学校でどこまで必要になるかわからないので、とりあえずつけていない。


「色々って……お前、まさか」

「朔也、俺も気になるね。その『傷』、一体何があったの?」


 ……和人が、いつになく真剣な顔で俺の手を見つめていた。何でそこまで真剣なのかわからないが、こいつの静かな圧には勝てる気がしない。

 ただ、打撲や骨折などの『怪我』ではなく、刃物などで切り裂かれた『傷』であると、一目で断言してきた観察眼の鋭さが少しだけ気になった。


「……昨日の今日の話だから、どこまで話して良いかわからないんだ。俺一人の問題じゃなくて、関係者とどこまで公にするか話してない。だから、今はまだ言えない」

「……そうか」

「お前ら二人になら言っても大丈夫だろうけどな。少なくとも、ここじゃなければ」


 チラリと辺りを見ると、クラスの連中が何人か、遠巻きにこちらの様子を窺っていた。

 黒髪メガネとはいえ、両耳に合計九つもピアスを開けている俺は、元々端から見たら『近寄りがたい不良』の部類だ。そんなガラの悪いやつが、月曜の朝から左手全体に物々しい包帯を巻いて登校してきたのだ。十中八九、派手な刃傷沙汰の喧嘩でもしたのだと勘違いされているに違いない。

 まあ、逆の立場ならヒソヒソと噂したくなるのも理解できる。登校時も廊下を歩いている時も、モーゼの十戒のようにいつもより人が避けていった気がするしな。


「オッケー、なら話せるようになるのを待ってるよ」

「無闇に広めたくないならしょうがないね」

「わりぃな。……なんだよ?」

「てか、全然関係ないけどさ、今日、いつもと髪型が違うんだな。いつもより……なんだかセットが『丁寧』に見えるぞ」

「……っ。片手しか使えないからな、失敗しないようにいつもより慎重に時間をかけたんだよ」


 相変わらず、恐ろしいほど変なところで目ざとい男だ。片手しか使えないなら普通は雑になるはずなのだが、それ以上は追及してこなかった。


 ガララッ、と教室の扉が開き、雫と何人かの女子生徒、それと担任の三波先生がぞろぞろと入ってきた。雫たちバスケ部の面々は、朝練があったためにチャイムと同時のギリギリの到着になったようだ。和人に余裕があることを考えると、女子だから身支度を綿密にしていたのかもしれない。


「セーフ、危ないっ! 先生よりギリギリ先に入れたよ!」

「水野さん、朝からそのギリギリの登校は感心しませんよー」

「えへへ、ごめんなさーい!」


 そんな平和で軽い日常のやり取りが目の前で繰り広げられていると、昨日の血みどろの出来事が遠い昔のことのようだ。

 ニュースでしか見ないような狂気と暴力に晒されたのだと……普通に考えれば、完全に現実離れした出来事だったんだから。

 刃物を持ったストーカーとの死闘を乗り越えた今の俺なら、この平和なホームルーム中に突如テロリストが学校を占拠するような、中二病が妄想するテンプレイベントが起きても、すんなりと受け入れられる気がする。


 ふと、視線を感じていることに気づく。三波先生が俺を見て、眉をしかめていた。……左手のこと、変な方向に邪推されていなければいいが。見ていたのはものの数秒で、すぐに前を向き、ホームルームを始めた。


「それでは、朝のホームルームを始めます。まずは年間予定にあった通り、今週の土曜日に学校見学会があります。お休みではないので気を付けてください。代わりに月曜日が振替休日になります」


 学校見学会か。そういえば、詩織が来るって言っていたが、本当に来るのだろうか。

 一応連絡しておこうと思い、メッセージアプリを開くと、すでに詩織から通知が来ていた。送信日時を見ると、昨日の深夜……というか、すでに日付が変わった後だ。起きて勉強でもしていたのだろう、俺が『解決した』と送った直後に返してくれたみたいだ。


『解決したのなら良かったです。埋め合わせですが……今度、また美味しいパフェを奢ってね。今日みたいに、二人きりのデートでもいいですよ?』


 うーん、非常に返答に困る内容だ。冗談でからかって言っているのだろうが、義理の兄に向かってデートって……。

 深く考えると火傷しそうなので、とりあえず『実家近くで、美味しいパフェがある店を探しておく』とだけ無難に返信しておく。


「……では、これでホームルームを終わります。……東條くん、少しこちらにきていただけますか?」


 俺が先生の話を聞いていなかったから――という説教ではなさそうだ。素直に教壇の先生の元へ向かう。クラスの視線が気になるが、何もやましいことはしていない。

 先生は俺のぐるぐる巻きの左手に視線を落とすと、ひどく痛ましいものを見るように表情を曇らせた。そして、持っていたタブレット端末でクラスの連中から見えないように口元を隠し、極秘事項のように小声で語りかけてきた。


「昨日の事件の件、聞きました。……身を挺して守るなんて、とても勇敢だったそうですね。ただ、いくらなんでも高校生があまり無茶をしちゃいけませんよ。本当に……命が無事でなによりです」

「――えっ!? ……だ、誰に聞いたんですか? 俺、まだ学校の誰にも言っていないんですが」


 思わず素で驚いた声を出してしまい、クラス中の視線がさらに俺に突き刺さるのがわかった。めちゃくちゃ気まずい。

 しかし、俺は和人たちにも言っていないし、仮に瀬那が登校した後に連絡していたとしても、先生への情報伝達が異常に早すぎる。


「理事長からです。今朝の職員会議の前に、私とA組の担任の負川(おいかわ)先生にだけ、直々に内密のご連絡がありました。……もちろん、南雲さんが巻き込まれたことも含めて」

「なっ……」


 俺は心底困惑した。

 警察から学校へ連絡がいったにしても、なぜ学年主任や校長を飛び越えて、学園のトップである理事長が直々に、一介の生徒の事件を把握して担任へ根回しをしているのだろうか。……この学校の情報伝達速度はどうなっているんだ?


「……学校には、どこまでどういう説明がいってるんですか?」

「それについてですが、事件のあらましを知った学年主任の勝田先生が、本日の放課後に関係者を集めて、事情を説明する場を設けたいと仰っています。もちろん、私も担任として同席します」

「まじか……」


 学年主任の勝田先生。泣く子も黙る厳しいって有名な先生だ。野外学習の時もある意味お世話になった。

 ただでさえピアスだらけで目をつけられている俺が、他クラスの女子と一緒に刃物沙汰の事件に巻き込まれ、さらに放課後に事情確認と言う名の事情聴取。役満すぎる。これはとてつもなく面倒なことになった。

 事情を説明するにしても、同居していることや、放火で家がないことなど、学校側にはバカ正直に説明しづらいことが多すぎる。放課後までに、どこからどこまでを話すか、瀬那と口裏を合わせて打ち合わせしておく必要がありそうだ。


 ため息をつきながら席に戻った俺に、浩紀や和人が心配そうに寄ってきた。雫もそれに続く。

 俺は「ちょっと面倒な事になった。後で話す」とだけ伝えて、机の下で隠れるようにスマホを操作し、瀬那にメッセージを送る。


『今日の昼休み、どこかで会えないか』


 無駄に目立ちたくはない。だから、本当はあまり校内で堂々と接触したくはないのだが。……今回ばかりはもう、致し方がなかった。


 ◇


 昼休み。俺たちは、校舎の片隅で合流した。ここは物陰で見えにくいらしく、よく告白する際の場所として使用されているらしい。今日は誰もいないので助かった。

 昼食は売店で俺が多めに買ってきて瀬那に渡す。さすがに食堂で一緒に食べるのは避けたかったからだ。そもそも、話の内容を不特定多数に聞かせるわけにはいかない。


 ただ、二人っきりではない。ここには俺と瀬那以外に、浩紀と和人、それに愛莉がいる。俺の怪我を心配した浩紀と和人は、午前中の授業中もノートなどをサポートしてくれていたのだ。愛莉に関しては浩紀から聞いたらしく、様子を見に来てくれていた。その状態で俺が一人で売店で大量に買い物をするのだから……気になるに決まっている。

 先に瀬那には連絡をしていて、今後の噂や面倒ごとの際に手助けしてもらう可能性を考えて、この三人にはある程度話すことにした。どこで変な噂が漏れるかもわからないからな。


「瀬那も膝を怪我してるんだね。痛くない?」

「私の方はほとんど大丈夫です。念のため絆創膏を貼っているだけですよ」

「それならよかったけど……こっちはやばそうだよね」


 愛莉は俺の左手を指さしていた。言いたいことはわかる。実際に愛莉が思っているよりやばいからな。食事をしながら、説明を始めた。

 ただし、同棲していることやアパートの放火は伏せ、瀬那の住処は親戚のところにいることにした。それに、偽の恋人の件などもとりあえず言っていない。情報過多で、三人が混乱するだけだと思ったからだ。そのことに関して瀬那は不服そうだったが、無視をした。


「……と、言うことで、昨日あったのはそんな感じ。面倒なのは、どうやら理事長がそれを知って、何人かの教師に話したらしいってことだ。放課後、説明のために関係者が集められるんだけど。……どこでこの話が漏れるかわからないから、お前らには先に言っておこうと思ってな」

「……」


 俺の話に呆然とする三人は置いておいて、瀬那は何か考えごとをしているようだ。頬に手を当てている。


「まてまてまて……南雲さんにストーカーが発生するのは理解できる。こんなかわいい子だもんな。でもさ、それなら俺たちにも言ってよ! なんでもしたよ!」

「そうだよ、水臭いなー!」

「……朔也と委員会の当番が一緒なのが功を奏したね。ストーカーの件も相談しやすかったんじゃないかな」


 同居の件を話していないので、ストーカー被害にあった時に、委員会の繋がりで俺に相談してきたことにした。特段間違いでもないので大丈夫だろう。バイト帰りにいつも迎えに行っていたのも、俺が心配性だからという理由になっている。これも本当のことなので問題ない。


「それにしてもその怪我……刃物が貫通って、相当やばいぞ」

「まぁな。手の甲からナイフの刃先がコンニチハしてるのを見た時は、自分事ながらそのシュールさに笑いそうになったわ」

「朔也くん! だから笑いごとじゃありませんよ!」

「ごめんって。みんなの顔があまりにも深刻そうだったから、ついな」

「……もうっ、心配してるのに!」


 ガミガミと怒られた……。自分が怪我の原因だと思っているからだろうか、変なところで敏感に反応してくる。

 まるで夫婦漫才のような俺たちのやり取りを見ていた愛莉が、ピタッと動きを止めて首をかしげ、瀬那に問うた。


「……朔也くん?」

「あっ……!」

「……ほぅ? クールな南雲さんが、『朔也くん』ねぇ。二人は下の名前で呼び合う仲だったんだな。別に俺たちには隠さなくてもいいのに」

「えっと、その……」


 瀬那が俺を見て「どうしましょう」とわかりやすく狼狽えていた。まあ、つい普段の癖で呼んでしまったのは仕方ないし、むしろ俺がふざけたのが原因だと言えなくもない。こいつらなら、別に気にしなくてもいいだろう。


「もう隠してもしょうがないが、瀬那とは下の名前で呼び合っている仲だ。ストーカーの件で相談されて以来、色々とあったからな。隠していたのは、変に勘繰る面倒くさい奴がいるからだ……今ニヤニヤしてるお前とかな」

「ひでーな! ……で、ぶっちゃけ付き合っているの?」

「言ったそばからそれだよ……。付き合ってねーよ。俺みたいな不良もどきに、瀬那はもったいないだろ」


 瀬那が隣から、ジト目でこちらを「ジーッ」と見つめてくる無言の圧が伝わってくる。瀬那も変な彼氏持ちだと誤解されたら困るだろうから、ここは俺が強く否定しておく。……正直、本当に困らないかどうかは微妙な線な気もするが。

 愛莉が瀬那と俺の顔を交互に見て、楽しそうにニヤニヤしている……無視だ無視。


「そういう事だから、早くて明日、もしくは今週中に変な噂が広まるかもしれない。俺のことが悪く言われるだけなら今更だから流していいが、瀬那が何か邪推されるようなことがあったら教えてほしい。俺より、みんなの方が話が入るだろ」

「私としては朔也くんの悪い噂が立つのも嫌なのですが……」

「まあ、この際俺の評判は置いておけ。今更一個や二個増えた所で大したことではない。それよりも、瀬那の方はデリケートなことがありそうだから、頼む」


 女性へのストーカー被害。尊厳を踏みにじるような下世話な噂を立てる奴が出る可能性がある。瀬那は良い意味でも悪い意味でも目立つからな。そういう話ならぱっと広がる可能性が高い。

 全員から同意が得られたので、放課後の事実確認についてどう乗り切るか、瀬那と話そうとする――。


「了解。じゃあ、重い話はまとまったってことで……瀬那、ちょっと借りてくねー!」

「えっ?」

「えっ、ちょ、愛莉さん!?」

「さっきの件とか、ちょっと女子同士で根掘り葉掘り聞きたいことがあってねー。朔、いいでしょ?」


 有無を言わさず瀬那の腕を取り、この場から連れ去ろうとする愛莉。いや、それは非常に困る。


「待て愛莉。今日の放課後の呼び出しに向けて、どこまで教師陣に話すか瀬那と口裏合わせをしておきたいから、女子会は今度にしてくれ」

「えー、ケチ」

「……あの、朔也くん。今回の件に理事長が絡んでいるなら、私たちが今さら口裏を合わせても、もう全部筒抜けだと思いますよ?」

「は? どういうことだ?」

「それは――って、愛莉さん、そんなに引っ張らないでください! 転びます!」

「いいからいいから!こういうのは鮮度が命なんだから!」


 突風のごとく、足早に瀬那を引っ張っていく愛莉は、俺が止める間もなく角を曲がり見えなくなった。瀬那が最後に残していった不吉な言葉の意味が、全く分からないままだ。


「浩紀……どういうことだ? 愛莉のやつ、何がしたいんだ?」

「俺に聞くなよ……あの子が突発的に動くのは今に始まったことじゃないから、マジで止められん」

「これは浩紀の立派な監督責任だね」


 和人の的確なツッコミに、俺も激しく同意する。

 ……まあ、もうこうなったら、放課後は丸腰の出たとこ勝負でいくしかないな。同居のことさえ口を滑らせなければ、俺たちはただのストーカーの被害者でしかないので問題ないはずだ。……たぶん。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ