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学年一の才女を拾ったら癒されました  作者: PPHiT
第一章

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第41話 傷だらけの左手と、彼女の小さな左手

 救急車に乗せられた俺だが、軽い手当をされながら移動することになった。瀬那が頑なに譲らなかったため、付き添いは瀬那と須藤先生の二人がすることになった。

 横になるほどのケガではないのだけど、スペースの都合かストレッチャーに横にさせられ、ついでと言わんばかりに指へ脈拍を測る機械を付けられた。


 The Foundry Atticの三人はこの事件に直接関係はしていないが、最初の現場を見ていたことと、一応加害者を拘束したということで、事情聴取はすることになった。先にパトカーで警察署に移動するらしい。

 「時間をとらせてすみません」と伝えた所、「事情聴取なんてしたことないから、楽しみだ!」と三人は逆に喜んでいた。

 ……俺たちに気を遣ってくれたのだと思うことにしておく。


 そして今、病院に運び込まれた俺は、左手に局所麻酔を打たれたあと、傷口を縫われている最中だ。

 縫われている今はもちろん痛くないのだが……あの手のひらに打たれた麻酔の注射が、冗談抜きで激痛だった。死ぬかと思った。危なく高校生にもなって泣きそうになったとは、死んでも言えない。

 縫い始めの時、看護師の方に気を遣って提案されたことがあった。


「縫うところ、怖いようでしたら布で見えないように隠しますか?」

「いえ、俺はこういう時、逆に見たい派です」


 無駄にキリッとした顔でそう宣言し、自分の肉が糸で縫い合わされていく過程を瞬きもせずに凝視している。

 ……処置をしてくれている若いお医者さんが、露骨にやりづらそうに視線を逸らしていた。すまない。

 最終的に、手のひらと甲を合わせて、きっちり十針縫われた。


「しばらくは左手はあまり使わないでください。もちろん、どこかにぶつけるのも絶対に駄目です。ご自宅で毎日消毒を行い、まずは三日後にもう一度見せに来てください。……あと、どうしても傷痕は残ると思います」

「そうですか。あれだけ見事に刺さっていれば仕方ないですね。まあ男ですし、そこまで気にしないです。ありがとうございました」


 包帯をぐるぐる巻きにされた左手を庇いながら処置室から出ると、そこには瀬那と須藤先生、そして槙野警視が待っていた。

 瀬那はあからさまに不安そうな顔で俺に近づくと、俺の無事な右側の服の裾を、ちょこんと掴んで見上げてきた。


「……どうでしたか? 腱が切れていたりとか、他に問題はありましたか?」

「しばらく左手を使うなって言われた以外は、特に問題ないよ。幸いにも骨や大事な神経は避けていたらしく、傷が塞がれば大丈夫だってさ」

「そうですか……良かった……っ」


 瀬那は服の裾をぎゅっと握りしめたまま、俺の胸にコテンと額を押し付けて深く安堵の息を吐いた。

 小動物のように寄りかかってくる彼女の可愛らしい仕草にドキッとするが、ふと視線を上げると、須藤先生や槙野さんたち大人組が、俺たちをなんとも言えない生温かい笑顔で見守っていた。

 ……非常にいたたまれない。少し恥ずかしい。


「処置も無事に終わったことですし、お疲れのところ申し訳ありませんが、このまま署までご同行いただけますか?」

「はい、わかりました。ただ、時間も時間なので、行く前にどこか売店かコンビニに寄ってもいいですか? 瀬那も、まだ晩ご飯食べていないだろ?」

「あっ……そうですね、そういえば空腹も忘れていました」

「ふふっ、それなら警察署の出前で『かつ丼』を頼みましょうか? もちろん僕が奢りますよ。……取調室でかつ丼。弁護士として、一度はやってみたかったのですよねぇ」


 須藤先生がメガネを押し上げながら、なんだか一人でウキウキと不穏なことを言っている……。

 まあ、タダで美味しいかつ丼が食べられるなら何でもいいか。


 この時、壁の時計の針は二十一時を回る頃だった。

 長かったような、あっという間だったような。怒涛の今日の夜は、まだまだ長引きそうだ。


 ◇


 警察署に着くと、刑事ドラマにあるようなカツ丼の似合う取調室ではなく、パイプ椅子が並ぶごく普通の会議室に連れていかれた。

 その途中の廊下で、帰る準備をしている真壁さんたち三人とすれ違った。彼らの事情聴取はもう終わったらしく、「お前はとにかく安静にしていろよ」と俺に念押しして帰って行った。

 その別れ際、瀬那と冴さんがスマホを片手にちゃっかり連絡先を交換していた。どうやら冴さんが、大人しくて礼儀正しい瀬那のことをすっかり気に入ってしまったらしい。


「こんな可愛い子とは仲良ぉなっとかんとな! さくやんのことでなんか文句や悩みがあったら、いつでもウチに言うてな。ガツンとシメたるから!」

「ふふっ、ありがとうございます。はい、その時はぜひ相談させてもらいますね」


 何故か、俺の与り知らないところで『朔也監視同盟』のようなものができあがっていた……。解せぬ。


 通された会議室では、入り口近くから俺、瀬那、須藤先生の順に並んで座っている。

 長机を挟んだ正面には、先ほどの槙野警視を含め、二人の警察官が真剣な表情で座っていた。


「では、少し思い出すのが辛いかもしれませんが……今日あったことを南雲さんから教えてください。今回の傷害事件と、一連のストーカー犯罪を今後どう立件・対応していくか、詳しく聞かせてもらいます」

「……はい」


 あの狂気と恐怖を口にするのは、瀬那にとってもかなり勇気がいるはずだ。

 瀬那は少しだけ身を強張らせると、隣にいる俺の怪我をしていない方の手――右手を、すがるようにギュッと掴んだ。俺は安心させるように、その小さな手を軽く握り返す。

 瀬那は一つ深く深呼吸をしてから、今日、ルナポートの駅で俺と別れてからの出来事を、ゆっくりと話し始めた。


――ここから、あの狂ったストーカーと、その周囲の人間たちとの本当の決着が始まる。


最後までお読みいただき、ありがとうございます!


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