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学年一の才女を拾ったら癒されました  作者: PPHiT
第一章

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第33話 中間テストの打ち上げ模様③

 予約していたお店に入ると、そこには九重由香がいた。

 どんな確率だよって思うが、居たものはしょうがない。別にやましい事をしているわけではないし、問題もない。


「バイトしてるって聞いてたけど、まさかこことはね。奇遇じゃん」

「愛莉ちゃんには場所は言った事ないかもね。ここのオーナーとパパが仲良いから、雇ってもらったの〜。私がポヤポヤしているから危ないってパパとママが言うから、ここ以外ダメって」

「へー。でもいいじゃん! 制服似合ってるよ」

「へっへ〜。いいでしょ〜」


 九重が身にまとっているのは、ファミレスの代名詞とも言えるお馴染みの制服だ。その場でくるっと回って見せてくれた彼女に合わせて、エプロンの裾がふわりと揺れる。

 清潔感のあるパリッとした白いブラウスに、黒と赤茶色を基調としたエプロン。背中でキュッと結ばれたリボンが、可愛らしさを倍増させている。胸ポケットの複数色のボールペンは、九重の胸で窮屈そうにしているが。


 少し遠くの方に視線を向けた九重は、バツが悪そうに苦笑いをして、襟を正す。……先輩にでも睨まれたか?

 ハンディ端末を取り出した九重は「こほん」と軽く咳払いをすると、改めて言った。


「失礼いたしました。ご注文をどうぞ」

「「!?」」


 いつもの間延びした声ではなく、ハキハキした喋り方だ。青天の霹靂(へきれき)とはこのことか!

 愛莉や浩紀も唖然としている。


「お客様、いかがいたしましたか?」

「い、いや、なんでもないっす。えっとご注文ですが……」


 変に緊張したのか、浩紀はおかしな言葉遣いになっていた。そんな浩紀を皮切りにみんなが注文をする。俺も結局、瀬那が頼みたかったトマトとモッツァレラチーズのパスタを注文した。


「ご注文は……ですね。承りました。……よかった〜、本当にいじめられてはいないんだね〜」


 九重は俺を見ながら言ってきた。口調が戻ったのはともかく、いきなり何言ってるのか……少し動悸が早くなったのを感じたが、たいしたことはない。軽くピアスを触って落ち着く。

 それに気づいたのか、隣の瀬那は少し心配そうな顔をしている。


「……いきなりなんだよ?」

「ん〜。野外学習の時、そんな話したでしょ? だから気になって〜」

「あー、あったな、そんな話」


 浩紀や和人が「何のこと?」といった顔でこちらを見る。「大したことではないんだが……」と前置きをして、野外学習の時の出来事を話した。


「あー、あの時な。他から見たらそう見えるのかもな。朔也は悪目立ちするしな、仕方ない」

「自覚はしてるから」

「由香、あまり話し込んじゃダメだよ」


 話をしていると、横から割り込んでくる声が聞こえた。

 そちらを向くと、同じクラスの一葉(いちは)龍真(りゅうま)が困った顔で立っていた。制服姿から察するに、彼もここでバイトしているのだろう。二階堂先輩と一緒に、特進クラスのことを教えてくれたいい奴だ。


「ほら、まだ仕事中だから。他のお客様のご迷惑になるだろ」

「ごめ〜ん」

「大変失礼いたしました」

「一葉もバイトしてたんだな」

「俺は由香のお目付役でもあるんだ。こいつ、ポヤポヤしてるからさ」


 そう言って手を振った龍真は、九重を連れて奥へ戻っていった。ポヤポヤしているというのは、本当に共通認識なんだな。


 ◇


「お待たせいたしました。『エビとアボカドのジェノベーゼ』と『トマトとモッツァレラチーズのパスタ』でございます」


 ふわりと食欲をそそる香りを漂わせながら、別のウェイトレスがテーブルに皿を並べていく。伝票を端に置き、彼女はにっこりと営業スマイルを浮かべた。


「ご注文の品は以上でお揃いでしょうか? ――では、ごゆっくりどうぞ」


 丁寧なお辞儀とともに去っていく背中を見送り、俺は目の前のパスタに視線を落とした。

 取り皿をもらって瀬那と分ける。それを見てまたニヤニヤする浩紀。……お前、本当に後で覚えておけよ。


 シェアすることになったパスタは二つとも、とても満足のいく味だった。ここまでの味で、高校生でも手が出せるぐらいのセット料金なのが不思議で仕方ない。

 みんな午前中に遊んだ内容について感想を言い合いながら、食事を楽しんだ。

 なぜか、金森が時折こちらに挑戦的な顔で煽ってきたのが印象的だった。……いや、マジでなんなんだよ、この人。


「はい、こちらがセットのケーキになります」


 食後のタイミングで、オプションで頼んだケーキが届く。運んできてくれたのは龍真だった。品物を置きながら、苦笑いを浮かべて話しかけてきた。


「俺たちがここでバイトしてるのさ。隠してるわけではないのだけど、学校ではあまり広めないでくれるか? 知人の飲食店ってわかると、何かと融通しろって言う奴らも出てきそうだからさ」

「へー、そんなこと言う奴もいるんだな。オッケー! みんなもいいよな?」


 浩紀が代表して軽い感じでみんなに確認してきた。俺たちみんなに異論はなさそうなので、龍真も安心したようだ。顔に書いてある。


「では、ごゆっくりお召し上がりください」


 そう言って戻っていった龍真を尻目に、配膳されたケーキに手を出そうとすると、正面の雫が俺を見た。


「……朔也くんはガトーショコラを選んだんだ。……それも美味しそうだね」


 雫はモンブランを選んでいるようだが、そちらには手をつけず、俺のガトーショコラから目を離さない。


「……欲しいのか?」

「うん♪」


 まじか……瀬那といい、異性の友達とシェアするのに抵抗がないのだろうか。俺にはわからん。


「仕方ない、それじゃあ、一口――っ!?」


 机の下で、俺のシャツの裾がグイッと引っ張られた。

 思わず動きを止めて横を見ると、瀬那は前を向いたまま、優等生の笑みを浮かべていた。ただ、俺にはわかる……若干、頬が膨れているのを。

 また嫉妬しているようだ。さっき自分も同じようなことをしたというのに。これ以上は機嫌を損ねそうで怖い。


「うん、どうしたの?」

「い、いや何でもない。一口取っていいよ」

「ありがと!」


 皿を雫の方へ押し出すと、雫はフォークで一口切り取って自分の皿へ乗せた。代わりになのか、モンブランを一口分、俺の皿に置いてくれた。

 ……この流れで、ダメと言えるだろうか。いや、言えるはずがない(反語)。だから、シャツを引っ張る力をさらに強くするのはやめてくれないか、瀬那さん。


「……」


 心なしか、隣からの不機嫌オーラが強くなっている。

 ――これはフォローしないと完全にダメなやつだ。


「……南雲もいるか?」

「!? い、良いんですか?」

「さっきパスタも貰ったことだしな」

「ありがとうございます♪」


 ぱぁっと笑顔になった瀬那を見て、何とかなったと安堵する。瀬那も俺のケーキを一口もらった後、自分のシフォンケーキをお返しにくれた。

 ただ、斜め向こうにいる浩紀がまたしてもニマニマと笑っているのが見えたので、結局やらかした感は拭えない。おい、そこの浩紀。隣の愛莉に何を耳打ちしているのだ。

 俺が気にしているのをわかっているのか、わかっていないのか、浩紀はみんなに向かって質問をした。


「これ食べたら、次に何やろうか?」

「……私、やりたいのがある。他になければダーツをやってみたい」

(ほむら)ちゃん、前からやってみたいって言ってたもんね」


 すっと静かに手を挙げた金森が、表情をほとんど変えずに提案した。

 ……そうか、金森の下の名前って『焔』って言うのか。失礼な言い方だが、名前から連想されるような激しく燃え上がるタイプには見えない。どちらかと言うと、静かに青白い炎を燃やしているようなクールな印象がある。


「いいね! 他にやりたいものがないなら、ダーツにしようぜ」

「俺もダーツで良いと思うよ。久しぶりだから楽しみだね」


 ケーキと一緒にコーヒーを飲んでいる和人も、いつもの爽やかな笑顔で同意していた。

 鶴の一声ではないが、金森の一言で次にやることが決まった瞬間だ。食後に激しい運動するよりは、良いのかもしれないな。ダーツなんて久しぶりだからどこまでできるか、心配ではあるが。


 デザートを食べ終わり会計をするために、浩紀が代表してお金を集めてレジに向かう。そこでは九重がレジ打ちをしていた。


「ごちそうさまー。また来たいぐらい美味しかったよ」

「ありがとうございます~。店長に言っておきますね~」


 そのまま会計を終え、店の外に出る。

 二階からも直接お店に出入りできるので、帰りはそちらから出ることになった。


「ありがとうございました。またのご来店をお待ちしております。楽しんできてね~」


 九重に見送られながら、俺たちは再度アミューズメント施設へ向かうのであった。


「……」

「どうした、和人。川の方を見て」


 途中、和人が川の方を凝視して立ち止まった。何かを考えているようだ。

 しかしすぐに頭を軽く振って、いつもの笑顔に戻る。


「ごめん、気にしないで。何か川の中にいたように見えたけど、ただの影だったみたい」

「ネッ〇ー?」

「ははっ、そうかもね。この川の場合、何て呼ぶのがいいかな」


 くだらない会話をしながら、そのまま歩きだす。こんなところにUMAがいたら大発見に違いない。

 少し川を気にしながら歩くと、横に瀬那が並んできた。


「東條さんはダーツってしたことありますか?」

「少しだけね。半年ぶりぐらいだから、そこまで自信ないけど」

「ふふっ。それならまた教えてくださいね。私は初めてなのです」

「わかった」


 甘えるような笑顔の瀬那に、俺はそのままコクリと頷くしかなかった。

 この上目遣いを拒否できる男は世界中探してもいないだろうな、と悟っていると、瀬那とは逆側からスッと影が差した。


「――つまり、次は私に勝てる見込みがあると」


 見ると、そこには何故か得意げな顔をして、俺を見下ろすように挑戦的な視線を送ってくる金森の姿があった。

 先ほどの電動ボードで俺に完全勝利した余裕からか。クールな顔の下で、俺を徹底的に負かそうと、意外と好戦的な青い炎を燃やしているらしい。


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