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学年一の才女を拾ったら癒されました  作者: PPHiT
第一章

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第34話 中間テストの打ち上げ模様④

 アミューズメント施設に戻ると、俺たちはダーツができるエリアに向かう。休日のためかほとんどのダーツマシンは埋まっていたが、ちょうど良く二台並んだ場所が空いていた。

 ここに置いてある台は、『DARTSLIFE』という『エレクトロニック・ダーツマシン』だ。ゲームセンターやダーツバーによくある台で、専用のカードを持っていると戦績やステータスがWEBで確認できる仕様になっている。


「そういや金森、何で今までダーツをやったことなかったんだ?」

「……ダーツのエリアって、どこ行ってもアウェイ感が強い。それに女一人だと行きにくくて、変な人に絡まれそうでしょ」

「木内と一緒に行くのは駄目だったのか? 仲が良いんだろ」

(らん)と一緒に行ったら、余計に絡まれる」

「なるほど」


 二人ともかわいいというより、美人寄りのビジュアルだ。それに加え、ぱっと見の性格も大人しい方に見えるので、変な(やから)に絡まれる可能性は高そうだ。


 (木内はともかく、金森の性格は大人しいというより、寡黙でマイペースなだけで、その内側には絶対に折れない太い芯を持っているという表現が正しい気がする。敵にまわすと面倒なタイプだ)

「何か変なこと考えていない?」

「……いえ、滅相もありません」


 心を読まれたかと思った……。

 それにしても木内の下の名前は『嵐』って言うのか。……いや、二人とも名前と実際の性格がかみ合ってなさすぎだろ。木内に関しては『嵐』というより、どう見ても『凪』だ。激しく場を乱すどころか、むしろ場を優しく包み込むような性格に感じる。


 仕切り直して、周りでプレイしている人たちを見渡す。マイダーツを持ってきている人もちらほらいるが、大体がハウスダーツ……つまり、施設で借りられるダーツのようだ。もちろん、俺たちもマイダーツは持ってきていないので、ハウスダーツでプレイする。

 ハウスダーツは場所によって重さや羽の形が違うので、何回か投げて感覚を調整する。


「うん、まあこんなもんだろ。南雲、基本の投げ方だけど、こうやってスローして、『投げた手のひらが、そのまま狙ったところをタッチ』するイメージを持つと、狙ったところに行くよ」

「え、えっと。こうですか?」

「いや、こんな感じで……」


 幾度か説明するが、上手いこと伝わらない。俺の語彙が足りないのが問題なのだろう。口で言っていても埒が明かないので、「ちょっとごめんな」と断りを入れてから瀬那の体に直接触れる。

 背後に回って腰の位置を軽く固定し、彼女の細い腕や手首を直接動かして、正しいフォームとリリースの感覚を教え込んでいく。普段から同じ家で過ごしている俺たち二人からしたら今更な距離感なのだが、やはり学校の人間から見たら驚くべき光景だったらしい。


「……東條、セクハラ?」


 横から、絶対零度の冷気を含んだ声が飛んできた。

 見ると、金森がゴミを見るような白い目を俺に向けて言い放っていた。


「いや、ちゃんと教えるために許可をもらっているんだけど……」

「学年一の美少女と言っても過言ではない南雲に、そんな密着して馴れ馴れしく触るなど、セクハラ以外に何があるの? 通報する?」

「いや、だから許可を……南雲、ごめんな。嫌だったか?」


 もちろん瀬那が気にしていないのは俺にはわかっているのだが、全く納得していない金森の無言の圧力と鋭い視線に、俺は完全に屈してしまった……。

 俺が慌てて手を離すと、瀬那は少しだけ頬を朱に染めながら、もじもじと首を横に振った。


「いえ……全然、気にしていませんよ。むしろ、とてもわかりやすかったです」

「南雲……脅されている?」

「もちろん脅されてなんかいませんよ」


 頬はまだ仄かに赤いまま、困った顔で答えていた。その手は、先ほどまで俺が触っていた手首をぎゅっと握っていた。

 金森はまだ納得していないような顔をしていたが、気を取り直して「まあ、いいわ」と、ダーツの練習を始めた。


「……南雲に教えていたのが仇となったわね。何となく投げ方がわかってきた。――今回も私の勝ち」


 ニヤッとこちらを見て笑う。


「……なんで、そんなに目の敵にするんだよ」

「え? ……何故?」

「俺に聞かれても困るんだが……」


 そのまま、練習を再開する。なんで自分でも理由がわかってないんだよ……。こっちの身にもなってくれ。

 俺たちの会話を聞いた瀬那も、教えた内容を反復しながら一緒に投げ始めた。瀬那も負けず嫌いなところがあるよな。


 生温かく二人を見ていると、「ふふっ」と横から笑い声が聞こえた。


「焔ちゃんがこんなに対抗心むき出しなの、珍しい」


 その声が気になって振り向くと、木内と目が合った。

 誰に聞かせるつもりもない独り言だったようで、俺と目が合うと、途端にアワアワとし始めた。


「え、えっと、ご、ごめんなさい……」

「いや、謝ることじゃないから、気にすんな。……俺の中の金森って、対抗心が強い印象――と言うか、やけに絡んでくるんだけど、いつもは違うのか?」

「……ほ、焔ちゃんがあんなにちょっかいをかけるのは珍しいです。私以外とたくさん話すのも、ここ数年見たことないです。家族とでさえあまり話さないのに。……あっ! べ、別に家族との仲が悪いわけではなくて、焔ちゃんが元々、寡黙な方なので」

「へぇー。……そうなのか?」


 金森の方を向いて、首を傾げる。瀬那に負けずと熱心にダーツを投げている彼女を見ていると、そうとは思えないんだが。


「私たち小学校からの付き合いなのですが、本当に珍しいです。……同級生とは言え接点がほとんどなかったのに、本当に……珍しい」


 そう言った木内は、金森のことを見ていた。その目にはなぜか母性のようなものを感じた。

 俺の中では、金森の後ろに木内が隠れている印象だったが、もしかしたら、木内の方が後ろから見守っているのかもしれない。


 ◇


「納得いかない。何でそんなに上手い?」

「た、たまたまだろ」

「……未経験者に勝ってそんなに嬉しいのか」

「うーん。……金森に勝ったのは嬉しいかな」

「あぁんっ!?」


 素直な気持ちを伝えたら、ガチで睨まれた。

 練習を終えてそのまま本番のゲームを始めたのだが、結果的に俺が圧勝してしまった。


 まずは定番のカウントアップからプレイすることにしたのだが、ルールは単純で、3投を1ラウンドとし、計8ラウンドを投げた合計得点を競うものだ。

 ダーツはブル……つまり真ん中の50点が最高得点に思われがちだが、実は20点のトリプルが60点になるので、そこがワンスローの最高得点になる。

 瀬那も金森も最初はブルを狙っていたが、俺が20のトリプルを狙っていることに気づいて方針転換していた。

 ただ、トリプルは的が狭いので難易度が高く、二人はよく外していた。カウントアップで俺が勝てた理由はそこら辺だろうな。


「焔ちゃん、そんなに睨んだらダメだよ」

「嵐〜。東條がいじめる」

「いじめてねーよ。真っ当な勝負だったろ」


 金森が木内にすがりつくように抱きつきながら、俺をジロリと睨んできた。

 身長的には金森の方が高いので、金森がすっぽりと木内を抱え込んで甘えているような、なんともアンバランスで不思議な状態になっている。普段のクールな彼女からは想像もつかない姿だ。


「おいおい朔也。いつの間にか、お前らめちゃくちゃ仲良くなってねーか?」

「……気のせいだろ。さっきから親の仇みたいに睨まれてるし」

「ははっ! 違いねー!」


 俺と金森のやり取りを見ていた浩紀の、屈託のない笑い声が響いた。

 その後、指定された数字を減らしていくゼロワンもやったが、カウントアップよりも正確に的を狙う必要があるため、経験者である俺の圧勝で終わった。


 ……完敗した金森が若干涙目で睨んできたのはともかく。

 ふと横を見ると、瀬那も無言で頬をぷくーっと膨らませてこちらをジト目で見ていたので、色々な意味で帰った後が怖い。


 ◇


 その後もダーツの違うルールや、体を使うスポーツ、アーケードゲームなどで遊んだ。スポーツはやはり和人が一番強く、次に運動神経が良い雫や瀬那が頑張っていた。俺はほどほどに運動した感じだ。

 金森もここでは特に絡んでこなかったので助かった。どうやら彼女は運動はあまり得意ではないらしく、「勝てない勝負はやらない」と静かに言っていた。

 ……何でダーツの時はあんなに喧嘩腰だったんだろうか。


 瀬那はアーケードゲームをほとんどやったことがないらしく、やるゲームすべてが新鮮だったらしい。いつもより張り切って遊んでいた。

 ゾンビを撃つシューティングゲームをやれば、画面の中の攻撃を無駄に体を動かして避けていた。そして、そのまま被弾してゲームオーバーになるという実に面白い結果だったので、こっそり動画に撮っておいてあげた。家に帰ったら絶対に見せてやろうと、俺は心に誓った。


 時間を忘れるほど遊んでいると、すっかり夕暮れになっていた。そろそろ帰ろうということになったので、退店手続きをして外に出る。みんな駅までは一緒なので、今日のことを話しながら帰路に着く。

 俺はいつも通り、最後尾を歩くことにした。周りが見える方が好きなので、複数人の時は特に何も無い限りこの位置にいる。……別に、話に入れないからではないぞ。

 すると、前の集団から外れて、俺の横に並ぶ女子がいた――金森だ。


「東條。南雲が言っていた通り、君は本当に悪い奴ではなさそうだな」

「……急になんだよ」

「今日、私が面倒なぐらい絡んだのに、ちゃんと対応していた。むしろノリが良かったまである」


 そう言った金森は、少しだけ、ほんの少しだけ微笑んだ。今日何度も見たような嘲笑う感じではなく、純粋で柔らかな微笑みだった。


「……俺を試していたのか?」

「少しだけね。嵐に変な男が近づくのは嫌だから。それに、南雲にもね」

「マジか……。少しは金森のお眼鏡にかなったのならいいさ。木内はわかるが、南雲のことも気にかけてるのか?」


 純粋な疑問だった。木内は小学校からの友達……幼馴染みたいなものだろう。仲が良いのはわかるので、気にするのは理解できる。だが、瀬那に対してもその気持ちがあるのは少し意外だった。

 金森の性格からして、パーソナルスペースがかなり広い印象だ。表面上の付き合いならともかく、他人と「仲が良い」という領域まで踏み込むのは難しいと思っていた。

 瀬那も人と一定の距離を保つタイプなので、浅い関係ならともかく、そこまで金森に思われているとは考えづらい。

 俺の予想が正しければ、瀬那が周りに気づかれないように張っている『壁』に、金森は感づいているはずだ。


「たぶん東條も気づいていると思うけど、南雲は他人との距離をしっかり線引きしている。それが私にとっては心地よい距離感なの。それなのに嵐も、こんな性格の私も気にかけてくれるから。一緒にいて楽。……嵐はぐいぐい来る人が苦手で、私は他人と積極的に仲良くしない。だから馬が合ったのかもしれない。……って、私、なんであんたにこんなこと言っているんだか。今の話は忘れて」


 そう言って、金森は恥ずかしさを誤魔化すように早足で木内の方へと戻って行った。

 「他人との距離をしっかり線引きしている」か……。金森の言いたいことはよくわかるのだが、人の布団に毎晩無自覚に侵入してくる瀬那の姿を思い出すと……どうしても首を傾げてしまう。


 そんなことを考えていると、不意に、少し前を歩いていたはずの瀬那が歩調を落とし、俺の隣にスッと並んだ。

 そして、前を向いたまま完璧な優等生の微笑みを浮かべて口を開く。


「……東條さん、今日は随分とお楽しみでしたね」

「ん? まあ、久しぶりにみんなで遊んで楽しかったけど」

「ええ、そうでしょうね。水野さんとは下の名前で呼び合う仲になり、金森さんからは手厚く絡まれ……。一日中、可愛い女の子たちとたくさんお話しできて、さぞ充実していたことでしょう」

「いや、あれは向こうから……ってか、声のトーン低くないか?」

「気のせいですよ。……ただ、これからは私も、他の女子に負けないようにと、少し勉強になっただけです」

「へ?」


 チラリとこちらを流し見てきた瀬那の琥珀色の瞳は、全く笑っていなかった。いつもより赤みを帯びているように見えるのは、気のせいだろうか。

 ……金森が言っていた「しっかり線引きしている」という評価は、早くも撤回した方がいいかもしれない。俺に対するこれは、嫉妬しているとしか見えない。

 とりあえず、家に帰ったら手作りパフェの第二弾を作ってご機嫌をとろうと、俺は密かに心に誓った。


最後までお読みいただき、ありがとうございます!


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