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学年一の才女を拾ったら癒されました  作者: PPHiT
第一章

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第30話 中間テスト結果の夜

 その夜、学校帰りにバイトに向かった瀬那を迎えに、カフェ「ムーンバックス」へ向かう。道中、あの男がいないか怪しまれない程度に見渡しているが、今のところ姿を見たことはない。このまま出てこなければ良いのだが。


 いつも通り混んでいたので、席を確保し、そのまま並ばずに席に着く。今日はモバイルオーダーにすることにした。夕飯の準備はしてあるので、軽いお菓子とカフェラテを注文した。

 しばらくすると、聞きなれた声で「お待たせいたしました」と聞こえたので顔を上げると、想像していた通り、瀬那が立っていた。

 ……他の店員やお客さんに見えないように、不満げな顔をして。


「あ、ありがとうございます」

「お待たせして申し訳ありません。今日はモバイルオーダーなのですね」


 この店員さんは尻上がりに語勢を強め、こちらを試すような視線を向けてきた。

 ……モバイルオーダーを使ったのが不満なんだろうな。怖い……。


「……今日は混んでたので、モバイルオーダーの方が店員さんも楽かなって」

「せっかく、朔也くんスペシャルを考えていたのに……」


 他の人に聞こえないぐらいの、寂しげな声で言ってきた。

 ……うん、演技なのはわかるよ。それが隠しきれなくて、口元がピクピクしていますよ、店員さん。


「ごめん、今度はどんなに並んでいてもカウンターで注文するよ」

「よろしい♪」


 満足したのか、そのまま戻って行った。

 どんどん瀬那に勝てなくなってきている気がする。


『……あのジャラピアス、今日もきてるね』

『そうだよね。もしかして南雲さんを狙ってるんじゃない? よくレジ対応しているし。危ないようならすぐに言ってね』


 また、店員たちの話し声が聞こえてきた。

 接客業だと、よく客のことをあだ名で呼ぶって聞いたことがある。俺は『ジャラピアス』なんだな。『ヤンキー』とか『顔面鬼』とかではなく、妥当なあだ名なので不快ではない。


『彼ですよね? そう言えば皆さんにお伝えしていませんでしたが、彼は同級生で、私の彼氏です』

『……えっ!? ええぇぇ!!!???』


 店内に響き渡る、バックヤードからの驚愕の叫び声。普通に客席まで聞こえてるからうるさいと思いますよ、あなたたち。

 すかさず、店長らしき女性がフロアに出てきて、店内に向かって深々と頭を下げた。


「大変失礼いたしました! こちらの不手際で、お騒がせして誠に申し訳ありません。以後、十分に注意いたしますので……!」


 俺は全く悪くないのだが、なんだかいたたまれず申し訳ない気持ちになる。

 さらに言えば本当の彼氏ではないからな。巻き込んでしまった店員たちにも、とりあえず心の中で謝罪しておく。


『なにを騒いでいるの? あなたたち』

『店長! 訊いてくださいよ、あのジャラピアス……南雲さんの彼氏らしいですよ』

『あら、本当に? 最近よく居るのは、迎えにきたってこと?』

『はい。彼、心配性なので。夜が暗いと危ないからって』

『若いって良いわね……私がこの頃なんて、いつも……(ぶつぶつぶつ)』


 この人、闇落ちしない? 大丈夫?

 そのあとは忙しさが戻ってきて、話し声が聞こえなくなった。

 ただ、店員たちからの視線を感じていたたまれなかった……。

 まだ女性はよかったが、男性の呪いをかけそうな視線はきつかった……。


 ◇


 バイトが終わり、手をつないだまま並んで帰る。傍からみてわかりやすく、恋人関係とわかるようにと手をつなぐことにしているからだ。横の瀬那が喜んでいるようなので、今更手を離す選択肢はない。


「昼の件だけど、特進クラスに入る話でもあったのか?」

「えぇ……赤口先生から話がありました。特例で許可が出せるっておっしゃっていましたね。私の方は全く入りたくないのに、ご苦労なことです」

「ちなみになんで入りたくないのさ?」

「バイトをしたいのが一番の理由ですね。特進クラスって勉強漬けのイメージが強かったので、そういうことをしている余裕がなさそうですし。実際に入学してから内情を知ると、本当に入らなくて正解でした」


 呆れたように苦笑いをしている。

 特進クラスは、やはりと言っていいほど、勉強を一番に考えているクラスだ。勉強漬けが好きな人なら良いのかもだが、普通の高校生活を送れる感じではない。クラス内の雰囲気もギスギスしているようで、成績順でカーストが出来上がっているという噂だ。


 俺の尺度だが、『普通の高校生活』の違いとして、まず運動部に入ることに制限がある。内申の関係で入ることは許可されているのだが、試合には出られない。怪我を考えてのことで、練習のみ。また土日祝などで特別講義がある場合は、そちらを優先することになる。


 次に、行事の参加についてだ。体育祭や文化祭は、一、二年生は参加するが三年生は任意参加だ。これも怪我のリスクと、受験勉強を優先させるためだ。三年生が参加する場合、他のクラスに混ざっても良いらしい。


 もちろんメリットもある。特進専用の自習室や、特別講師の派遣。それに指定校推薦の優先権もある。眉唾ものだが、食堂で特進専用のメニューがあるという噂もある。


 この辺りは学校説明会でも説明があったので周知されてはいたが……。

 これを訊いて特進に入るかどうかと言ったら……俺は無理だな。


「まあ、俺も入りたいとは思わないけどな。息が詰まりそうで嫌だ」

「私もそう思います。……成績を考えたら、朔也くんも話があったのではないですか?」

「ん? 俺には無いよ。まあ、担任が俺を目の敵にして煽っているぐらいだしね」

「……私も、少し不良寄りの恰好をしたらいいのでしょうか。ピアスをジャラジャラしてみますか」


 そう言って、にやにやと悪戯っこな顔をしながら俺の耳を凝視する。

 俺は彼女の顔と耳をみて、少し考え、素直な感想を言った。


「両耳、それぞれ一つや二つなら否定しないけど、いきなり『ここまで』開けたら、さすがに病院つれていくわ。ノイローゼじゃないかって」

「一つや二つなら開けても変じゃないでしょうか?」

「ん? 当たり前だろ。それぐらいなら良いアクセントになると思うよ。なんなら、俺の知り合いに俺以上に開けている女性がいるから会ってみる?」

「……そういう女性のお知り合いがいるのですね?」


 なんか冷たい目で見られた。

 そりゃ女性の知り合いの一人や二人いてもおかしくないだろ。須藤先生のところの金子さんだって女性だし。


「前に行っていた、セレクトショップの店員だよ。ここからそんなに遠くないところ。関西弁でテンションが高い人だから圧倒されるかもな」

「セレクトショップの方でしたか。そういうことなら会ってみたいですね」

「ただ、まぁ……確実に勘違いしてくることだけは言える。俺らの関係をな」

「つまり、私と恋人関係に思われるのは嫌だ……と?」


 いつものあれだ。俺がこの顔に弱いと絶対に理解しているぞ、こいつ。


「そういう意味じゃないんだけどな……まあいいや。機会があればな。それよりも聞きたかったことがあったんだ。実力テストも中間もあの結果ってことは……入試の時、手を抜いていたか?」

「……いえ、どの程度の学力なのかわからないので、手は抜いていませんよ。これをいうと新入生代表のスピーチの件がひっかかりますよね、朔也くんなら」

「うん、そりゃね。つまり、辞退したのか」

「Exactly !」


 この子、ちょいちょい俺の言い回し真似してくるな。なにか子供が親の真似するみたいで可愛い。


「単純に面倒なのと。……壇上に上がりたくなかったですし」

「なるほどな」

(何か含みがある言い方だな)

「榊原さんの耳に入ると大変なので、誰にも言わないでくださいね」


 下から覗き込みながら、人差し指を立て、ウィンクしていた。


 ◇


 晩飯は迎えに行く前にある程度作っておいたので、出来上がるまで時間はあまりかからなかった。

 瀬那もエプロンをしてキッチンに入り、冷蔵庫を開けた。


「……朔也くん、この箱なんですか?」

「ん? あぁ、一位のお祝いかな。開けていいよ」

「あ、クッキー! 可愛い♡」


 中に入っているのは、ウサギや猫、それとハートのアイシングクッキー。近くの洋菓子店で買っておいた。

 簡単なお祝い、でもこれだけではない。


「食後に一緒に食べよう」

「はい、ありがとうございます」


 そのままでは食べないけどな。


 ◇


 食後、準備をするため、瀬那をリビングのソファに座らせる。キッチンに戻り、アイシングクッキーと必要なものを取り出す。

 ただし、瀬那に見えないようにな。


「何をしているのですか?」

「なんだろうな。危ないものかもしれんぞ」

「ふふっ、危ないものって……」


 俺はハンドブレンダーを取り出して、生クリームを泡立てる。少し作るなら、ミキサーよりハンドブレンダーの方が手軽だ。


「えぇ!? さっきのクッキー、砕いてるんですか!? か、かわいそうです!」

「なんでだよ!? 普通に考えて、やらんだろ」

「ふふっ♪」


 良い感じの硬さになったら止めて、食器棚から良い感じの器を出す。パフェグラスなんてオシャレなものはないので、長細いグラスで代替する。


 チョコレートソースを入れ、コーンフレーク、アイス、ホイップクリームを段々になるように詰める。

 最後に丸いアイスを乗せて……生クリームとアイシングクッキー、板チョコでデコレーション。


「うっし、ほれ、できたぞ。初めてにしてはいい感じじゃないかな」

「えっ!? すごいです! 本格的なパフェじゃないですか!」

「ケーキにするか悩んだんだけどな。浩紀たちと行く店が、ケーキが有名みたいだからパフェにしてみたわ。さあ、食べようか」


 もう夜なので、コーヒーはやめて紅茶をいれる。カフェインが入っていないルイボスティー。優しい味。


「美味しいです!」

「よかった。買ってきた材料の出来が良いからかな」

「いえ、朔也くんが私のためにわざわざパフェにしてくれたから、さらに美味しいのですよ」

「……そんなことないさ」

「ふふっ♪」


 ストレートに褒められた俺は、嬉しい気持ちと気恥ずかしい気持ちで、横に座る瀬那の顔をまともに見れなかった。そんな俺の様子を見て、瀬那は愛おしそうに微笑んでいた。

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