第26話 隠せているようで隠せていない
勉強が終わり、せっかくなのでと、俺たちは学校近くのファミレスに向かった。須藤先生の所の後に行ったファミレスとは別のチェーン店だ。注文方法は同じなので、瀬那もわかるだろう。
六人席に案内された俺たちは、俺と和人、残り三人とで別れて座る。男三人は狭いからという理由と、愛莉が気を利かせてか、瀬那の横に男が座らないようにしたらしい。対面の席には、瀬那、愛莉、浩紀の順に座っている。本人が宣言したわけではないので、憶測だが。
なんだかんだ言って、このカップルは周りがよく見えている。さりげなく人のフォローに回れるタイプだ。
「前に行ったところもそうでしたが、ここもメニューが多いのですね。また迷ってしまいます」
「瀬那はあんまりファミレスに来ない感じ?」
「今回で二度目ですね」
「マジ? それなら、新鮮で良いね」
「そうですね」
瀬那と愛莉は仲良く話している。持ち前のコミュニケーション能力のおかげか、瀬那とも仲良くなるのが早いな。それに、瀬那も結構心を開いているように見える。野外学習で見た、クラスメイトのやり取りよりいい感じだ。
「俺はやっぱりハンバーグだな」
「浩紀は好きだよね、ハンバーグ。美味しいけどね」
「そうだろ! 和人はどうするん?」
「うーん、迷うよね。朔也はどうするんだい?」
「俺はアジフライ定食だな。魚を食べたい」
アジフライ好きなんだよね。そのままでもいいし、梅と紫蘇でもいいし。今日はどうしても魚が食べたくて、目に入ったアジフライにしてしまった。こないだ瀬那に作ってもらったアジフライも絶品だったな。
◇
俺たちの品物を持ってきたのが、軽快なメロディを流す犬型の配膳ロボットだったことに、瀬那は目に見えて混乱しているようだった。いつもの完璧な優等生の仮面がはがれ落ちて、驚いたように目を丸くしている。
他の奴らもそれに気づいたらしく、肩を震わせて必死に笑いを堪えている。
「い、犬型もあるのですね。こないだ行ったお店は猫型でした。それなら、うさぎ型のロボットとかもあるのでしょうか……」
「な、なんでそこで、……っ、うさぎなの?」
「うさぎ、かわいいじゃないですか。って、なんで皆さんは笑っているのですか?」
愛莉は必死に込み上げてくるものを抑え込んでいるのか、その声は微かに震えていた。
……そういえば、瀬那ってうさぎが好きだったんだな。アイシングクッキーの時もウサギを激推ししていたし。
「いや、瀬那はかわいーなーって思って」
「むぅ。それって、世間知らずの子供に向かって言っている感じじゃないですか」
「そんなことないよー」
美少女同士がじゃれ合っているのは目の保養だなって思いながら、俺は各自の前に料理を配膳していく。全て配膳し終わり、頭の上のボタンを押すと、犬型ロボットが「ありがとワン♪」と陽気な音声を鳴らしながら定位置へ帰って行った。そこの仕様は猫と一緒なんだな。
途中、瀬那が「はい、どうぞ」っと、何も言わずにテーブルの端にあった小瓶の塩を渡してくれた。俺はアジフライには醤油でもソースでもなく、絶対に塩派なんだよ。この味が本当に癖になる。
「……」
全員が準備できたことを確認して、一斉に食べ始めた。ここのアジフライも思ったより美味しかったので満足だった。
◇
食べ終わる頃には十九時を過ぎていて、明日も学校なこともあり、そのまま解散する。ちょうどいい分かれ道で、瀬那がここで別れることを告げた。俺の家が歩いて帰れるのはみんな知っている。暗くなっていることを理由に、送っていくことを買って出た。
「では、皆さんまた明日です。さようなら」
「じゃあな」
「朔也……送り狼になるなよ?」
「ふざけんなよ、お前なぁ……」
「ふふっ」
アホなことを言っている浩紀を置いて、そのまま歩き出した。
日が暮れて暗くなった通りを二人で歩く。街灯はあるが女性が一人で歩く場所ではない。
浩紀は「送り狼になるな」って言っていたが、そもそも同じ部屋に帰るからなぁ。その場合どういう扱いになるのだろうか。連れ込んでいるわけではないが。
……いや、俺が手を出さないから、どうでも良いか。
「楽しかったですね。たまに皆さんで勉強するのも良いですね」
「思ったより、はかどったよな。なんだかんだ言って、浩紀も愛莉もやる時はやるみたいだし」
「そうですね、教えがいがありますよね」
「ああ。セナチーも良い先生してたよ」
「っ……!!」
ビクッと肩を跳ねさせた瀬那は、さっきまでの笑顔からジト目で俺を見てきた。
「……へぇー、そう言えば裏切りましたよね。明日のお弁当楽しみにしていてくださいね」
「ごめんって、瀬那さん」
「許しません」
「ぷいっ」と擬音が出そうな動作で、そっぽを向く。
帰り道、瀬那のご機嫌を取るのに時間がかかった。
最終的にはコンビニのスイーツを捧げることになったとさ。
◇◇◇◇◇
Side:前川 浩紀
駅までの真っすぐな道。道路の横に並ぶ、雑居ビルのネオンの光と、車のライトが眩しい。朔也たちと別れた俺たち三人は、駅へと向かって歩いていた。
今日は気になることが多かった。思い出すのは今、別れた二人だ。あの二人の言動でモヤモヤする。
もし、想像通りなら素直に嬉しい。でも、言ってくれないのは嫌だな。こっちは親友のように思っているのにさ。
「……」
「どうしたのさ、ひろ。瀬那たちと別れてから何か変だよ」
「そうだね。時折ぼーっとしてて、俺も気になってたよ」
「うーん、何て言ったらいいか……」
「えっ!?」
俺が言い方を悩んでいると、和人がいきなり声を上げていた。まだ俺は何も言っていないんだけど……。和人は、道路を挟んだ向かい側を真剣に見ている。その顔は訝しむような、驚愕したような顔だった。
そして、スマホを取り出すと、
「……ごめん、用事ができたからここで別れるね。じゃあ、二人ともまた明日」
「あ、あぁ……また明日」
スマホでどこかに電話しながら、道路を無理に横断して行った。いつもは、マナーを破るようなことはしないのに珍しい行動だ。
「和、どうしたんだろうね」
「わかんね。でも、いつもニコニコしているのに、真剣な顔だったよな」
「うん」
急にどうしたのだろうかと、心配になる。変なことに巻き込まれていなければ良いけど。
疑問に思いつつも愛莉と再び歩き出す。
「そんで、さっきはどうしたのさ?」
「うん? あれな。今日の朔也がおかしくなかったか? もっと言うと、南雲さんとのやり取りに、違和感なかったか?」
「朔と瀬那が? うーん、いつも通りって言うほど、二人が一緒にいるの知らないけど、普通? 強いて言えば、図書室で見た二人より、仲良かったかも?」
やっぱり、愛莉も同じこと思っていたようで、自分の見間違いではないようだ。
昼休みもそうだけど、南雲さんとのやり取りが、先週と違う。
「だよな! 二人のやり取りが違ったよな。もちろん良い意味で」
「うん、そうだと思う。え? もしかしてなの?」
「昼にもその話したけどさ、否定されたわ。でもな、俺たちが思っている以上に仲いいって。だって、アジフライに塩を言われずに渡すか?」
「あー確かに! 気にしてなかったけど、言われてみれば!」
思い出すだけでもいくつかある。『アジフライに塩』もそうだが、『セナチーいじり』も、いつもの朔也なら自分からいじりに行かない。仲が良い俺や和人ならともかく、あまり仲が良くない相手なら絶対にやらない。
――つまり、仲が良いってことだ。
「でもさー。もし、そうなら俺らに言わないのが、寂しくてさ……」
「うーん、多分だけど、もし本当に付き合っていたら、言うと思うよ。朔の性格を考えると、リスク……と言うか、面倒ごとを避けるために、味方増やしそうだし」
「あーそれあるわ。ってことはまだそういった間柄じゃないってことか。仲良くなっている最中的な!」
「うん、そうじゃないかな」
納得できた俺がいる。そうだよな、もしそんな重要なことを俺たちに言わないはずがないよな! 愛莉に言われ、妙に納得した。
気持ちがすっきりした。
「ねぇ……ひろ。今日ってひろの家に誰もいないんだよね?」
「そうだよ。……少しうちに上がっていくだろ?」
「うん♪」
モヤモヤが晴れて安心した俺は、愛莉と手をつないで帰路についた。
◇◇◇◇◇
Side:南雲 瀬那
翌日の朝。
いつも通り教室へ登校した私は、朝からひどく面倒ごとに巻き込まれています。
「ちょっと南雲さん! これ以上、和人くんにちょっかい出さないでくれませんか!」
登校時の廊下で私の前に立ちはだかり、すごい剣幕で睨みつけてくる女子生徒。
ええと……たしか野外学習で、朔也くんたちと、同じ班だった女の子です。
確か、名前は……うめ……、うめ……?
……すみません……なんでしたっけ?
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
もし「面白い!」「続きが読みたい!」と思っていただけましたら、ページ最下部にある『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』にして評価していただけると、毎日の執筆の大きなモチベーションになります!
ブックマークへの登録も、ぜひよろしくお願いいたします。




