↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
学年一の才女を拾ったら癒されました  作者: PPHiT
第四章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

253/258

第202話 始業式と、悩ましい昼食

 講堂での始業式は、特に何事もなく終わった……わけではなかった。

 校長の話の前に壇上に上がったのは、規格外の生徒会長こと、柊先輩。この人が何をするのかと戦々恐々としていると、彼女は演台に立ち、しゃべり始めた。


「テステス、テステス。ただいまマイクのテスト中ー! あめんぼ赤いな、あいうえお」


 講堂の空気が、一瞬で「ああ、またか」という色に染まった。

 発声練習を始める柊先輩。意味不明だし、無駄にうるさいしで迷惑でしかない。ただ、無駄にいい声なのが悔しい。


「柿の木、栗の木、山椒の木!」


 ……違うし。

 そこはせめて『か行』であれ。


 そして、それを見てなぜか恥ずかしくなる俺。

 俺が何かしているわけでもないのに、そう感じてしまうのはなぜなのだろうか。これが共感性羞恥というやつか。

 ……あの人に『共感』してしまうのは、それはそれで嫌なんだが。


「さて、マイクのテストを兼ねて出てきたのは、皆さんの生徒会長、柊です。この場を借りて重大発表があります!」


 ワー! ワー! と自分で言って勝手に盛り上がる柊先輩とは対照的に、壇上の端では桐生先輩が頭を抱えていた。

 ……今年も苦労しそうだな、あの人。今度、何か差し入れを持っていこうと、俺は心に誓った。


「公約に掲げたピアス自由化ですが、まだ進展がありません。思ったより教師陣の頭が固いです。困ったちゃんですねー。その代わりと言ってはなんですが、学食に新しくメニューを追加してもらいました!」


 ピアスの件、本気で交渉していたんだ、この人……。無意識に、左耳へ伸びかけた手を止める。

 その代わりがなんで学食のメニューなのかはわからないが、柊先輩は得意げに胸を張っている。


 彼女はマイクをスタンドから外して手に持つと、演台から離れて、壇の前方へ出てきた。なんでそんなに堂々としていられるのか。やっぱり、この人はある意味大物だ。


 そして、それを見ても止めに入らない教師陣……何があったのか察してしまう。


「今回、追加してもらったのは二つ! まずは要望が多かったハンバーガーセットです! チーズバーガーのセットで、パティ増量も OK だぜ!」


 ノリノリで言い放った言葉に、「オー!」と会場の至るところから歓声が上がった。そこまで食べたいのか、ハンバーガー!? 定番っちゃ定番だけど、そんなに待ち望まれていたのかよ。


「そして、もう一つは! ドゥルゥゥゥゥゥ!……ステーキ丼だ! しかも、九州で有名な牛肉だー!……名前は忘れた」


 今度は「ワー!」「キャー!」という歓声に、「なんでだよー!」というツッコミが混ざった。

 隣の浩紀も叫んでいる。こういうのに乗るのは、こいつらしい。


「ごめん、ごめん。何の肉かは、学食で公開されるまでのお楽しみってことで! それでは、そろそろ校長先生のお話が始まるから、みんなちゃんと聞くんだよー!」


 言いたいことを言い終えたのか、柊先輩はマイクをスタンドに戻し、スキップしながら壇上を降りていった。


「相変わらず、変な人だな、柊先輩って」


隣の浩紀が、まだ笑いながら呟いた。


「Wow! ヒイラギって面白いね」

「エレノア、一応『先輩』は付けてね」

「OK! ヒイラギパイセンね!」


 和人の「一応」も気になるが、それより、その「パイセン」は愛莉が仕込んだのか?


 ◇


 その後は、さすがに何事もなく終わってくれた。

 校長の話は例によって長かったけど、内容は至って普通。三年生の受験に向けた激励と三学期の行事の話で、本当に普通だった。


 本日最後のホームルームも終わり、後は帰るのみ。

 この後に部活がある奴もいるが、まずはみんなで近くのファミレスへ行き、昼ご飯を食べる予定だ。今日は雫や斎藤も一緒に行く。

 瀬那と愛莉が合流し、そのまま下駄箱へ向かおうとした時だった。


「と、東條くん、あの……この後、時間ある?」


 声をかけてきたのは鷹司だった。

 基(・)本(・)、気弱な鷹司らしく、少し恥ずかしそうにもじもじしていたが、目は真っすぐに俺を見ていた。鞄の持ち手を握る指には、やけに力が入っていた。声をかけるだけでも、こいつなりに覚悟が要ったのだろう。


 俺は隣の瀬那に視線を送り、彼女が頷くのを確認してから、鷹司に答える。


「今からみんなとファミレスに行くんだが……よければ一緒に行くか?」

「う、うん。お願いします」

「そうか。みんなもいいか?」


 周りを見渡して確認する。

 先に誘ってしまって申し訳ないけど。


「……ああ、もちろん!」

「うん!」


 浩紀が答えると、他のみんなも頷いてくれた。


 そのままファミレスへと向かう俺たち。

 道中、鷹司は俺と瀬那以外とはあまり話したことがないようで、自己紹介のようなやり取りをしていた。


「鷹司さんって特進だったよね? やっぱり授業は難しいの?」

「難しい……そうかもしれません。授業の密度が濃いというか、小テストが多いというか……」


 鷹司はマフラーに口元を埋めたまま、ぽつぽつと答えていた。


 特進クラスがどういうふうに授業を進めているのか、俺は知らない。

 総合と特進は同じ定期テストを受けているから、少なくとも、その出題範囲に当たる内容はこちらと同じはずだ。


 何が違うのかは謎だったけど、小テストを多くやっているのなら、問題を解く量を増やして経験を積ませているのかもしれないな。

 ……知らないけど。


「特進って、クラス内にカーストがあるって話は本当なん?」

「あー……本当ですね。ランキングの上位かどうかとか、そもそも載っているかどうかで……扱いが変わるところはありますね」


 鷹司は苦笑しながら答えた。

 濁してはいるが、何を言いたいのかは、この場にいるみんなも察しているだろう。


「同じ学校なのに、どうしてうちのクラスとそんなに違うの? なんだか殺伐としてるね」

「……なんででしょうね」


 それを鷹司に訊いてもわからないだろうけど、俺の予想では、『あの』辺りの先生がおかしいのだと思う。

 そこまでして『特進』というステータスを保ちたいのか……。


「……鷹司さんは、大丈夫?」

「あはは……今のところ、大丈夫ですよ」


 嘘だろうな。

 俺が最初に鷹司を認識したのは、まさしく『それ』の最中だった。


 誰もそこまでは訊かないが、正直、クラスに友達がいるのかさえ心配になる。

 文芸部では大丈夫だとわかっているけど。


 ……そんなことを考えつつ、後ろからついてくる生徒を気にしながら歩くのは面倒だな。


 ファミレスに着くと、全員で座れるテーブル席がちょうど空いていた。俺の両隣は瀬那と鷹司という……まあ、予想していた通りの配置だ。

 瀬那がテーブルの端にあったメニューを取り、俺の前に開いて置いた。ぱたん、と、メニューが心なしか強めの音を立てた。


「メニューはこれですが、朔――」

「と、東條くんはどれにするの?」


 鷹司が俺の腕を引っ張りながら訊いてくる。

 それを見て、テーブルを挟んで向かいに座る雫と斎藤がぎょっとしていた。鷹司の手を見た後、ちらっと瀬那へ視線を向ける。

 二人の顔が引きつるのを見て、瀬那がどんな表情をしているのか、大体察した。こういうところは素直だよな、こいつら。

 ……でも、俺は瀬那を直視できない。こ、怖いわけではないぞ。


「……俺は無難にアジフライにするつもりだ。瀬那と鷹司はどうするんだ?」

「私はハンバーグにするよ」

「……私はクラブサンドでしょうか」


 瀬那の声が若干低くなっていることには、この場にいる全員が気づいただろう。


「そうか……みんなは決まったか?」


 テーブルの下では、瀬那が俺の膝に手を置き、軽くつねっていた。

 わかっています、わかっていますが……今は我慢してくれ。


「なあ、和人。俺、少し胃が痛いかも」

「……同感だね」


 斜め前の親友たちにも負担をかけているようで……ごめん。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。