第198話 友達の意外な一面
Side : 東條 朔也
和人は年末年始の話を終えると、「ふぅー」と一度息を吐き、コップに手を伸ばしてお茶を一口飲んだ。
「まあ、そんな感じ。場所とメンバーはともかく、あとは普通の年越しだったかな」
「つまり、俺たちがスノボーしている時も、ずっと一緒にいたのか?」
「うん、わざわざ説明するのも何だしね。どうせすぐに会うだろうし」
「ちなみに、たまにコウキもいたよ!」
コウキ……つまり天童か。
もう、知り合いってことを隠す気はなさそうだな。……違うか、元から隠していなかったわ。俺が変に気にしていただけか。
「なんだよ! お前らも面白い年越ししてたんかよ!」
「いーなー! いーなー!」
俺たちはともかく、和人は微妙なところだろうに。
彼女の両親と一緒に過ごして、しかも、よそのお宅に泊まる……普通は結構ハードルが高いよな。浩紀の所は昔からの付き合いだから、わからないかもだけど。
「そういや、朔也は南雲さんの両親に会ったことあるのか?」
「……保護者になら会ったことあるぞ」
嘘は言っていない。
俺の性格なら、この返しでも違和感はないはずだ。
「そうなんだ。瀬那はー?」
「妹さんにはお会いしましたね」
「妹いたんだ、意外ー……でも、ないか。なんだかんだ面倒見いいから、お兄ちゃんっぽいし!」
兄として一緒に過ごした時間はほとんどなかったし、今も兄らしいことができているかはわからないけどな。
……一度、泣かれているし。
「可愛い方ですよ。一度、この家に泊まりに来たこともありますね」
「そうなの? ってことは、同棲が家族にバレてる感じ?」
「いや、口止めしたから俺の親にはバレていない。そこは大丈夫だろう」
「親が同棲を知らないのもどうかと思うけど――まあ、いいか。二人が楽しんでいればさ!」
浩紀の言い分はよくわかる。普通は親に話すのが筋だろう。俺たちは高校生だから、余計にそのはずだ。
……まあ、だからといって言うつもりはないけど。
「朔也たちも、スノボーに温泉、楽しめたみたいだね」
「ああ、思った以上に楽しめた。スノボーは初めてだったけど、浩紀の言う通り、なんとかなったよ」
「だろ! 朔也も南雲さんも運動能力高いからさ、絶対大丈夫だと思ったんだ!」
俺はともかく、瀬那は大丈夫だろうとは俺も思っていた。なぜなら、小回りがよく利く――
「……朔也くん?」
――膝をペチンと叩かれて、睨まれてしまった。反省、反省。何気なく隣の瀬那を見下ろしたのが、まずかったらしい。
「競争とかしたの?」
「ちゃんとはしていませんね。朔也くんはいつも私の後ろを滑って、見守ってくれていましたし」
「もししたとしても、勝ったのは瀬那だと思うな」
「あら、素直に認めるのね」
エレノアがなぜか驚いた顔で俺を見る。俺って、そんなに負けず嫌いに見えるのだろうか。
「負ける相手によるよ。楽しそうに滑ってる瀬那を見てるだけで、こっちも楽しかったし。それに、ムキになって怪我しても仕方ないしな」
「朔也くん……!」
感極まったように、瀬那が俺の腕にしがみついてきた。テンションが高いな。
「あらら、惚気られちゃった」
「ふふ、いいことですね。……でも、いつもよりラブラブじゃない?」
確かに瀬那とは体がくっついているが……そうか? いつもこんな感じではなかっただろうか。テンションは少し高いかもしれないが。
「エリー、それはあれよ、あれ」
愛莉がニヤニヤしながらエレノアに話しかける。その笑みは、面倒を通り越して……うざい。
瀬那は顔を赤くして、俺の後ろに隠れてしまった。
「アレ?……カズト、何かわかる?」
「そこで俺に振らないでくれ……」
エレノアは隣の和人に話を振ったが、気まずくなるのは当たり前だろう。
俺だって女子がいる場で、友人のそんな話を振られたら困る。
「……? セナが照れてるのと関係ある?」
「だから……あまり俺に振らないでくれって……。倉木さんに訊いてね」
「? ja」
エレノアは素直に、ニヤニヤしている愛莉の方へ向かった。それを見て、和人がほっと息を吐く。浩紀はそんな和人を見て苦笑いをしていた。
……なんかごめん。でも、悪いのは話を振った愛莉だぞ。
やれやれと内心でぼやきながら、俺は成り行きを見守ることにした。
「ま、待ってください! エレノアさん、き、聞かなくて大丈夫ですから……」
「Why not? ワタシは知りたいですよ。ラブラブなのはいいことだから、ワタシも参考にしないと」
「ちょ、ちょっと、エレノア!」
今度は和人が焦り始めた。
……なんだ、このカオスな空間は!
「浩紀……愛莉を止めろ」
「もう、こうなったら無理!」
胸の前で両腕を交差させ、バツ印を作る浩紀を見て絶句する。
「えぇ……」
「あぁ……」
……普通の高校生って、こんな感じでバレるものなのだろうか?
「……うん……っ!……えっ!? それって……そういう意味?」
「そうそう♪」
「……っ! You can ask that?!」
「え!?……なんて?」
反応からすると、「そんなこと聞いていいの?!」といったところか。
……そうか。エレノアは、本当に何の話なのか知らずに聞こうとしていたのか。
「アイリ! ベストフレンドでも、そんなこと聞いちゃダメ!」
「え?……え!?」
「すごくプライベートで、デリケートなことですよ!」
「……予想外の反応だな。和人、エレノアってそんな感じなのか?」
和人に話を振ると、軽く首を横に振った。その顔には驚きが浮かんでいた。
「俺も、こんな反応をするとは思わなかったよ」
「和人でも意外なんだなー」
いつの間にか近くに来ていた浩紀が、愛莉を叱っているエレノアを見ながら言った。これはさすがの浩紀も助けないんだな。さっきまで俺たちを面白がっていた愛莉が、今は正座でもしそうな勢いで小さくなっている。形勢逆転とはこのことか。
普段は振り回される側の和人が、今だけは愉快そうに成り行きを眺めていた。ひとしきり注意して落ち着いたのか、エレノアが瀬那の方へ近寄った。
「Sorry セナ。My fault」
「……謝ることではないですよ。どう考えても愛莉さんがいけませんから」
「そうね。アイリはおやつ抜きです!」
「な! そんな殺生な!」
テーブルには、俺たちのお土産と和人たちが持ってきた洋菓子、それに浩紀たちが持ってきたお菓子が並んでいる。
「……ひろ、一蓮托生だよ?」
「嫌だよ? さすがに愛莉が悪いって」
「いやー! ずるいー!」
ジタバタする愛莉を見て、みんな声を上げて笑った。
せっかくお菓子の話になったので、その流れで、それぞれにお土産を渡すことにした。ご当地のお菓子をいくつかと、女性陣には手ぬぐいだ。
「日本らしくていいね♪」
「手ぬぐいって初めてだけど……このキャラは何?」
「野沢菜のご当地キャラらしいです」
二人が手ぬぐいを広げ、瀬那と和気あいあいと話している。
俺もその間に、男性陣へのお土産を取り出した。
「ほれ。こういうの、欲しかっただろ?」
袋から取り出したのは、例の金ぴかの龍や剣のキーホルダー……ではなく、木製のペーパーナイフ。布製のケースに入っていて、余計な装飾のないシンプルなものだ。
「ナイフ?」
「これは、ペーパーナイフだね」
浩紀が早速ケースから引き抜く横で、和人は木目を確かめるようにそっと指を滑らせていた。同じものを渡しても、反応には性格が出るな。
「そそ。土産屋で木工品を見てたら、これがよさそうだったんだ」
正直な話、浩紀なら金ぴかのキーホルダーでも喜びそうだったけど、和人にセンスを疑われるのは嫌だった。
二人に別々のものを渡すのも、なんか違うしな。
「かっこいいな、これ!……でも、なんでペーパーナイフ?」
「高校生が買わなさそうだからだ」
「えぇ……」
「朔也らしいといえば、らしいね」
そんなふうにお土産を渡しつつ、写真を見せながら、二人で旅の思い出を話した。
初めてのスノボーが楽しかったこと。温泉がよかったことや、年明けの花火が綺麗だったことなど。
「やっぱり、いいよな、旅行! 今度は誘ってくれよ?」
「……構わないが、金を貯めておけよ?」
「バイトしてるから大丈夫だ!」
この中でバイトをしているのは、瀬那と浩紀だけ。俺とエレノアはともかく、和人と愛莉はどうしているんだろうか。和人は部活があるから難しそうだけど。
とりあえず、浩紀が来るなら愛莉にも来てもらわないと困る。
「そういや、愛莉はバイトをしていないよな?」
その割には、お金に困っているという話を聞いたことがない。むしろ、結構買い物をしている印象があるが。
「バイトはしてないけど、たまに親の手伝いをしてるから、バイト代みたいなのは出てるよー」
「親の手伝い?」
「うん。言ってなかったっけ? ママがファッション関係の仕事をしてて、服のお店もいくつか経営してるんだ。そこで手伝ってるの。たまに読モもしてるし」
ここに来て新事実だ。
読者モデルなんてしていたのか、こいつ。
「……オレ、読モのことは聞いてないんだけど?」
「前に言ったじゃん? ママに服着せられて、写真撮られてるって」
「……それって、小学生の時じゃなかったか?」
「うん、それぐらいからずっとだよ」
浩紀が一番驚くのかよ……。
こいつらしくない反応だな。俺としては面白いからいいけどさ。
「今年一番の新事実だよ!」
「今年はまだ三日しか経っていないからな」
「そういうことじゃないっての!……朔也、南雲さんが読モしてたらどう思うよ? 心配にならんか?」
浩紀が必死な表情で俺を見ていた。この反応も珍しいな。
それで、瀬那が読モか……ムーンバックスのバイトでさえ気が気ではない時があるんだから、やっぱり心配になる。どういう雰囲気で撮影するのかはわからんが、変な奴に絡まれそうだし。
「たぶん、撮影には毎回ついていきそうだ」
「朔也くん……」
隣から瀬那の声がしたが、浩紀は我が意を得たりとばかりに頷いていた。
「だろ? あっ、でも、愛莉の場合はおばさんが付き添ってるのか?」
「うん。心配なら今度一緒に来る? ママに聞いてみるよ」
「なら、いいか」
浩紀は納得したらしい。親が一緒なら、ひとまず安心できるのだろう。
それに、自分でも撮影の様子を見られるなら、どんな雰囲気なのかもわかるしな。
読者モデルの話が一段落すると、俺たちはまた旅行の写真に目を戻した。
一通り見せ終えたところで、浩紀が「あっ!」と声を上げる。
「そういや、結局、部屋の露天風呂で混浴したんか?」
「……お前もお菓子抜きだ!」
「しまった! でも、気になるから教えて!」
「言うか!」
……この反応は、墓穴を掘っている気がしなくもないが。
俺はそれ以上答える代わりに、浩紀の前の菓子皿をそっと自分の方へ引き寄せた。浩紀が「あーっ!」と情けない声を上げるのが、妙に心地よかった。




