第197話 三が日の追加の来訪者
Side:東條 朔也
昼飯を食べ終わるころに和人たちもやって来た。当然のように二人で来たわけだが、どうやら今日も一緒にいたらしい。そう、今日も朝から一緒なのだ。
リビングに通すと、客人たちはそれぞれ空いている位置に座り、俺と瀬那はお茶とお菓子の準備を始める。その間に浩紀は和人に、年末年始をどう過ごしていたのか聞き出していた。
「年末からずっと……エレノアの家にいたよ……」
「え? エリーと和って入籍したの?」
「……なんでそうなるのさ」
「ほぼ、そんなものですね」
聞こえてくるのはそんなやり取りだった。相変わらず仲がいい。この調子なら、エレノアの両親との初対面も無事に済んだんだろう。
「高校生で、そこまで恋人と一緒にいる奴もそういないよな」
バッ!
みんなが一斉にこちらを向いた。こういうときだけ妙に息が合っている。横の瀬那も呆れた目で俺を見ていた。
……何だよ、間違ったことは言ってないだろ。
「お前さ……鏡持ってきたほうがいいか?」
「……あ、いや、俺らは一緒に住んでるんだから、一緒にいるのは普通だ」
「開き直るなよ! 明らかにお前らの方が普通じゃないっての!」
当然のことのように言ってみたが、すかさず突っ込まれた。
……いや、さすがに俺も無理がある言い訳だとは思ったけどさ。これ以上しゃべると、もっと苦しくなる。別の話にしようか。
「そういや、エレノアの両親に会ったときは、どんな感じだったんだ?」
「話を逸らしたなー! でも、オレも気になってたんよ。クリスマスのときに聞きそびれたけど、クリスマスイブに会ったんだろ?」
「ええ、きっちりかっちり会いましたね! ふふ♪」
変な言い回しをしているが、どこで覚えてきたのだろうか。ただ、その楽しそうな顔を見る限り、やっぱり心配はいらなさそうだ。
クリスマスに会ったときはげんなりしていたから、訊くに訊けなかったのだが……。
俺と瀬那はお茶とお菓子をリビングのローテーブルに置き、ダイニングテーブルの椅子に座る。別にみんなと一緒に座りたくないわけではなく、そんな気分ってだけだ。
そして和人に視線を送ると、それに気づいたのか、気まずそうに頬をかいていた。
「はは……エレノアの前で言うのもなんだけど、濃い人だったよ……二人とも……」
「褒め言葉として受け取りますね。ワタシの両親ですよ、二人ともとってもパワフル!」
……なんとなく想像できてしまうのが悔しい。
隣に座っている瀬那も同じようなことを考えたのだろう。苦笑いを浮かべていた。
◇◇◇◇◇
Side:森田 和人
まあ、順番に話すよ。
俺はエレノアとその両親に押し切られて、二十四日――クリスマスイブを三人と一緒に過ごすことになった。
日本ではクリスマスイブと言えば恋人と一緒に過ごすイメージが強いけど、ノルウェーだと家族と過ごすのが一般的らしい。ちょうどエレノアの両親が日本に来ていて、「せっかくだから」と会うことになったんだ。
エレノアの両親とは、以前テレビ電話で話したことはあるけど……うん、パワフルと言うか、勢いが強い感じかな。今朝まで九州にいたのに、わざわざ関東まで文字通り飛んできたんだ。
ただ、日本語はほとんどできないから、会話は英語だったよ。半分はエレノアの通訳越しになってしまったのが、少しだけ悔しかったかな。
会ったのは、予定していたレストランの入り口前。
一度帰宅して着替えてきたからね。ドレスコードがあったんだ……。
「久しぶりだな、カズト。うん、電話越しで見るより男前だ!」
「久しぶり、カズト。そうね、これならエレノアを任せられそうね」
「はは……お二人とも、お久しぶりです」
電話越しではなく、直接会った二人は……本当に美男美女だったよ。
お父さんの方は俺より背が高くて、スーツを着ているのにがっしりとした印象だった。だからといってスーツが窮屈そうなわけでもなく、むしろスマートに着こなしていた。あれ、どうなってるんだろうね。
お母さんの方は、エレノアをそのまんま大人にしたような女性。
正直、どこを見ればいいのか最初はわからなかったよ。髪の色も同じで、丁寧に手入れをしているのがよくわかったね。俺も姉がいるからさ、長い髪のお手入れが大変なのはよくわかっているつもりだよ。
「ふふ♪ カズトはこちらの言葉で『イケメン』なんだからね!」
「そうか、イケメンか!」
「いいわね、イケメン♪」
英語に交じって『イケメン』というフレーズが店内に響いて……本当に恥ずかしかったよ。
そこからは四人で食事をしながら雑談が始まるんだけど……テーブルマナーなんて、普通の高校生が完璧にできるわけがない。
とりあえず前日に動画サイトとかで勉強はしたけどさ、ぶっつけ本番だよ? 本当にガチガチだったよ……。ナイフとフォークを持つ手に、変に力が入ってたくらいだからね。
『ふふ、テーブルマナーは大切だけど、それより食事を楽しめないとダメよ。それに、カズトはちゃんとできてたからね』
そんな中、お父さんが聞くんだよ……。
「カズト、エレノアのどこが好きなんだ?」
「……えっ?」
「あなた、いきなりそれを聞くの?……私も気になるわ!」
お母さんも乗り気で……本当にパワフルだったよ。
たぶん、あの瞬間だけはテーブルマナーより難しい問題を出されたと思うよ。
『それで、何て答えたんだ?』
……そこは端折るけど。
『端折るのかよ!』
その後は、主に子供の頃のエレノアの話とか、学校での勉強はどうなのか、友達はいるのかって感じだったかな。
……通訳したエレノアが、どこまで補正しているかはわからないけど。
『ほとんどそのまんま伝えたよ!』
そんな話をしているときだったかな。
少しだけ寂しそうな顔をしたお父さんが言ったんだ。
「娘二人とも……好きな異性ができて、少し寂しいな」
その横顔は、さっきまでの陽気さとは少し違って見えたね。
みんなも知っている通り、エレノアには双子の妹がいるんだけど、その子はその場にはいなくて、九州にいたらしいんだ。
一度会ったことがあるけど、双子らしく似てたよ。最初、入れ替わっていたけど、目の色が違うからすぐにわかったけどね。
『あのときは悔しかった!』
そんな感じでクリスマスイブは過ごしたかな。
……で、年末だよ。
昼前にインターホンが鳴って、出てみると、突然家まで迎えに来たエレノアとご両親がいたんだ。めちゃくちゃ驚いたよ。
『ほら、浩紀。普通は困るんだぞ』
『わーってるって! 次はしないと思うぞ、きっとな!』
『おい!』
驚いたとはいえ、出ないわけにもいかないから、そのまま玄関に出たんだけど――ドアを開けた瞬間に満面の笑みを向けられてね。嫌な予感しかしなかったよ。
「……えっと、ご用件はなんでしょうか?」
「カズト、急だけど今から泊まりでうちに行くよ! Let's go!」
「はぁ?」
――いきなり予定を決められたんだ。
俺に予定はなかったからよかったものの、せめて連絡は欲しかったかな。
『次は気をつけるよー』
エレノアのご両親は俺の親に事情を説明するらしく、その間に荷造りをするよう言われたんだ。
俺は混乱しつつも、言われるがままに荷造りをしてリビングに戻ると、うちの親とエレノアのご両親が仲良くなって、笑い合ってたよ。
うちの親は英語が話せないから日本語。エレノアの両親は英語。
間に通訳係のエレノアがいるとはいえ、なかなか不思議な光景だったね……。
そのままエレノアに引っ張られる形で、彼女がお世話になっている家へ向かったわけ。
エレノアがお世話になっている家は以前にも行ったことはあるけど……初めて来たときも思ったけど、家というより屋敷って言った方がしっくりくるんだよね。この令和の時代に、お手伝いさんが何人もいるぐらいだよ。
『それはすごいな。……俺なら居心地悪そうだけど』
『へー、オレも一度行ってみたいな』
『いつか招待するよ!……ワタシ、居候だけど!』
家主は仕事でいなかったので、出迎えてくれたのは家主の娘の瑠奈。天煌院っていう古くから続く家なんだけど、聞いたことないかな?
『オレはないかなー』
『私もー』
『……私も存じませんね』
『天煌院……か、珍しい苗字だな』
……その言い方、朔也は何か知ってそうだね。
「久しぶりです、和人さん。急な話でびっくりしたでしょう?」
「うん、びっくりしたよ。なんでまた?」
「……エレノアが『ニューイヤーは騒ぐのが当たり前』って……」
「なるほど」
話を聞くと、ノルウェーやイギリスだと、年末のカウントダウンは家族や友達と賑やかに祝うらしくて、それでみんなを集めたらしい。
そういうことがあって、年末はボードゲームや日本やノルウェー特有の遊びをして騒がしく過ごしたよ。
俺の年末は、そんな感じだったかな。
補足。
和人の回想の『』は、和人の話を聞いた、今のみんなの反応になります。
分かりづらい表現で申し訳ありません<(_ _)>




