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学年一の才女を拾ったら癒されました  作者: PPHiT
第四章

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第195話 最後の朝と、いつもの二人

 とうとう、旅行最後の朝になった。

 チェックアウトは十時。朝は少しゆっくりしていられる。

 朝食を取った後に帰り支度をして、チェックアウト。昼ご飯を食べた後、行きと同じシャトルバスで飯山駅まで行く予定だ。昨日のうちに一通り見て回ったので、今日は観光をせず、ゆっくり過ごすことになった。


 時間ギリギリまでスノボーをすることも考えたのだが、それだと慌ただしくなりそうなのと、高校生がさらに滑るのはつらいだろうという話になった。……主に、金銭的な意味で。


 はっきり言ってしまえば、俺も瀬那も貯えは十分にある。もっと贅沢に日々を暮らすことだってできると思う。

 だが、一(・)般(・)の高校生である俺たちが、普通の金銭感覚から逸脱しすぎると、後々困ることになるだろう。以前、そういう話になって、その辺りには気をつけることにした。


『朔也くんはもう少し、普通の高校生の金銭感覚を覚えてもいいかもしれませんね』


 瀬那に言われるぐらいだからな。

 今のうちにある程度考えておかないと、愛想を尽かされるかもしれない。


 それもあって、生活費を除いた出費は、高校生がアルバイトで稼げるぐらいを目安にしている。……一応、多分、ギリギリその範囲に収まっていると思う。

 今回の旅行からは、目を逸らしつつな。


 むしろ、俺もバイトをしてみてもいいのかもしれない。実際に働いてみれば、金銭感覚も少しは身につくだろう。

 ……このピアスでも雇ってもらえればの話だが。


 まあ、それは置いておいて、この宿で最後の朝食バイキングだ。

 ラインナップはほとんど変わらないが、今朝はクロワッサンをメインに攻めようと思う。


 目の前でオムレツを作ってくれるのが嬉しいし、その手際も参考になる。俺も家で、こんなふうに作れるようになるだろうか。トマトケチャップ以外にデミグラスソースもあったので、せっかくだからそちらをかけた。


 あとはサラダとフルーツ、軽めに肉類を少し、そして味噌汁。和洋折衷だがむしろこれがいいのだ。


 席に戻ると、瀬那はすでに料理を取ってきていた。

 彼女が選んだのは、同じくオムレツに、ご飯、サラダ、味噌汁。そして、ドーナツ(ホイップ増し増し)と、チョコレートファウンテンでコーティングしたマシュマロだった。


「……ドーナツってあったのか?」

「キッズコーナーにありましたよ。……もしかして、取っちゃダメでした?」

「それは大丈夫だろ。ただ、見逃していたから気になっただけさ」


 ドーナツは後で取りに行こうと、心の中で誓った。


 クロワッサンをちぎると、薄い皮がぱらぱらと皿に落ちた。バターの香りにつられて一口かじり、やっぱりもう一つ取ってくればよかったと思う。


 会場を見渡すと、色々な人がいた。家族連れや俺たちのようなカップルもいれば、同性同士のグループもいる。ああいうグループは、やっぱりスキーやスノボーをしに来ているのだろうか。向こうの老夫婦は、温泉が目当てかもしれない。


「周りを見て、どうしたのですか?」

「いや、大したことじゃないよ」

「……朔也くんって、周りを気にしている時がありますが、何か理由があるのですか?」

「うん? いや、特にないぞ。強いて言えば、人間観察ってところかな。なんとなく、その人が何を考えているのか気になるんだ」


 人の気持ちはわからないから、ことあるごとに想像してしまう。正解かどうかはわからないけど、自分の中で納得できればいいと思っている。


「……実は、色々と見ているのかと」


 色々……ああ、そういうことか。人が多いので濁して言ったのだろうが、違う。そもそも、あまり見ないで済むようにメガネをしているわけだしな。


「いや、そういうことじゃないよ。さっき言った人間観察のほかには、アクセサリー作りの参考にしたりとかかな」

「へえ、そういうところからも発想をもらうのですね」

「この辺りは、真壁さんたちの影響だな」


 あの人たちは、普段から他人がつけているアクセサリーや、そのデザインに目が行くと言っていた。一種の職業病なのだろうけど、冴さんはともかく、真壁さんや城ケ崎さんが人をジロジロ見ていたら……通報案件だろうな。

 特に城ケ崎さんは……スキンヘッドだし、ガタイもいいし……。


「ふっ……」

「……急に何を笑っているのですか?」


 瀬那にジト目で見られてしまった。

 傍からすれば、急に笑い出した変な奴にしか見えない。仕方ないな。


「いや、城ケ崎さんが……あのスキンヘッドのおっさんが……っ……道端で人をジロジロ見ているところを想像したら」

「……っ! ふふっ……もう、やめてください。想像してしまったじゃないですか」


 二人して笑っているものだから、周りの人たちからちらちらと見られてしまった。気恥ずかしさを誤魔化すように、俺はクロワッサンを一口、大きく頬張った。

 ……人間観察をしていたはずが、いつの間にか観察される側になっていたようだ。


 ◇


 朝食を終えて部屋に戻ると、正月番組を流しながら荷物を整理した。

 昨夜のうちにある程度片付けていたので、そこまで慌てることもない。


 ついでに、ベッドも軽く整えておく。

 そういえば、この間 SNS でチェックアウト前にベッドを整えた方がいいのか、そのままにした方がいいのか、賛否が分かれていた気がする。

 結論が出たような、出なかったような……まあ、いいか。


「ふぅ……。私は終わりましたが、朔也くんはどうですか?」

「ああ、ほぼ終わってる」

「ほぼ?」


 俺の言い回しが気になったのか、瀬那が顔を上げた。

 含みのある言い方になってしまったけど、大したことではない。


「浩紀たちへのお土産を選んで詰めるだけだ」

「……そういえば、まだでしたね」

「なんだかんだ、観光で満足していたからな。チェックアウトしたら探そうか」


 思ったより早く片付いたので、少し早めにフロントへ向かった。

 幸い混んではおらず、チェックアウトもスムーズに済んだ。


 そのまま、ホテル内のお土産屋へ。


「結局のところ、無難にご当地のお菓子がいいと思うんだよな。貰っても食べやすいし、後に残らないだろ?」

「確かにそうかもしれませんね。……この辺りでしょうか」


 瀬那が選んだのは、ジャガイモを使った棒状のスナック菓子の『野沢菜こんぶ味』だ。『信州土産』とも書いてあるので、ちょうどよさそうだ。……この味は食べたことがないが、このシリーズなら大きく外すこともないだろう。


「あとは、この辺りかな」


 俺が手にしたのは、信州りんごを使ったクッキー。個包装になっているので配りやすい。


「いいですね。バイト先に置くのにもちょうどよさそうです」


 明後日には浩紀たちが来るらしいし、その日まで日持ちする生菓子を買って、一緒に食べるのもいいかもしれない。


「私としては、これが欲しいのですよね」

「……手ぬぐいか。ハンカチ代わりに使うのか?」

「うーん、正直、使わないかもしれませんが、記念になると思って。温泉街に来たって感じがしませんか?」

「ああ、それはあるかもな」


 瀬那はお菓子のほかに、自分用と愛莉、エレノアへのお土産として手ぬぐいを選んだ。

 マスコットキャラクターが描かれていて、野沢菜をモチーフにしているらしい。……ピーマンにしか見えない。


「そういえば、観光している時も所々にいたな、このキャラクター」

「可愛いですよね。……朔也くんは、やっぱりそれを買うのですか?」

「もちろん」


 あいつらも喜ぶはずだ……多分。


 ◇


 お土産を選び終えたころには、昼食にちょうどいい時間になっていた。

 最後の食事も土地の味を楽しもうと、郷土料理を出している店に入った。


 笹ずしや山菜、キノコの料理をシェアしたのだが、思った以上に美味しくて、二人とも満足した。

 特に山菜は普段あまり食べないので、その風味が新鮮に感じられた。


 昼食を終えたのは、約一時間前のことだ。

 その後、シャトルバスで飯山駅へ向かい、新幹線に乗り込んだ。


 今、隣の席では、瀬那が俺に寄りかかって眠っている。窓の外を流れる白い雪景色が、少しずつ見慣れた街並みへと変わっていく。


 窓の外へ視線を向けても、肩にかかる重みは変わらない。

 旅行は終わるけど、帰った先でもこいつは隣にいる。そう思うと、名残惜しさも少し和らいだ。


「……やっぱり寝たか」


 後で悔しがる姿が目に浮かぶな。


 カシャ♪


 とりあえず、写真は撮っておこう。


 さて、学校が始まるまで、もう一週間もない。

 そろそろ気持ちを切り替えないとな。

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