↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
学年一の才女を拾ったら癒されました  作者: PPHiT
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

240/263

SS 東條 詩織:義兄とプール・後編

 スライダーには、予想したとおり長い列ができていた。

 プラカードには十五分待ちと書かれているので、思ったよりは待たないのかも。


「……結構高い所まで上るんだね」

「予想よりは高いな」

「ぶっちゃけていい?」

「どうぞ」


 階段を上るにつれて、さっきまで遊んでいたプールがどんどん遠くなっていく。それは良いのだけど……金属製の階段は足元の踏み板には細かな穴が空いていて、その隙間から下が見えるし、誰かが歩くたびにわずかな揺れが伝わってくる。

 ……これが地味に怖い。


「この鉄骨で組まれた足場が……何か心許なくて、ちょっと怖いかも」

「あー、わかる。揺れるのが怖く感じるよな」

「うん、それ!」


 共感してもらえて良かった。


 あと何組かで順番になるところまで来て、気づいたことがある。

 前の人たちを見ていると、専用のゴムボードに二人で乗り込んでいた。


 ……これ、二人で滑るの!?


 そう言えば、入り口で受け取ったボードは、義兄さんがここまで持ってきてくれたのだけど……一つしかなかった。


(二人で滑るの……ね)


 前のボードでは、女の人が振り返って、後ろの男の人と楽しそうに笑い合っている。

 ……私たちも、周りから見たらあんなふうに見えるのかな。


 兄妹だなんて、見ただけじゃわからないだろうし……。


「そろそろ順番だけど、どっちが前になる?」

「じゃあ、私が!」


 前に乗った方が意識しないはず。


 係員さんに案内されて、ゴムボードの前側に腰を下ろす。

 両脇の持ち手を握って待っていると、後ろに義兄さんが乗った重みで、ボードが少し沈んだ。


「詩織、ちゃんと掴まってろよ」

「わ、わかってるって」


 ……思ったより声が近い。

 顔が見えなければ大丈夫だと思ったけど、後ろにいると、それはそれで気になるものらしい。


 目の前には、筒状のスライダーの入り口。流れ込んでいく水が、その先の曲がり角で見えなくなっている。

 ……これ、どれぐらい速いのかな。


「それでは、いってらっしゃーい!」


 心の準備をする間もなく、係員さんに押し出された。


「わっ、ちょっ……速っ!」


 最初はゆっくりだったのに、坂に入った途端、ぐんっと速度が上がる。

 慌てて持ち手を握り直すと、今度は目の前にカーブが迫ってきた。


「え、これ、ぶつかっ……きゃあっ!」


 ボードが壁を駆け上がるように傾いて、思わず体を固くする。

 でも、ひっくり返ることもなく、そのままするりと曲がっていった。


「ははっ、結構速いな!」

「笑ってる場合じゃ……わあっ!」


 言い終わる前に、またカーブ。

 右に左に振り回されて、さっきから声が勝手に出てしまう。


 ……でも。


「……あはっ、何これ!」


 次はどっちに曲がるんだろう。

 先を見ようと顔を上げたところで、ぱっと視界が明るくなった。


「あ、出口――」


 バッシャーン!


 最後に盛大な水しぶきが上がって、顔までびしょ濡れになった。


「……っぷは!」

「詩織、大丈夫か?」

「うん……最後のは聞いてない……」


 顔の水を拭って振り返ると、義兄さんも前髪から水を滴らせていた。顎の先から水滴が一つ、ぽたりと落ちた。

 なんだ、義兄さんもしっかり被ってるじゃん。


 そう思ったら、おかしくなって笑ってしまった。


 ボードを降りても、まだ体がふわふわしている。

 あんなに気になっていた義兄さんとの距離も、途中からすっかり忘れていた。


「どうする? 少し休むか?」

「もう一回!」

「……怖がってなかったか?」

「それとこれとは別なの!」


 今度は、もう少し目を開けていられるはず。

 私は義兄さんを振り返りながら、さっきの列へと向かった。


 ◇


 ひとしきり遊んで、ちょうど良い時間になったので帰ることになった。

 シャワーを浴びて着替えると、心地良い脱力感に包まれた。プールの後って、なんでこんなに気持ち良い疲れ方をするんだろう。


「お待たせ、義兄さん」


 出口で待っていた義兄さんと合流して、バス停まで歩き出す。


 私の髪はまだ乾いていないけど、義兄さんの髪も濡れたまま。プールにいる間はあまり気にしていなかったけど、少し……色気があるかも。思わず視線を逸らして、何でもない顔でバッグを持ち直した。


 バス停には、同じように帰るところらしい人たちが並んでいた。それでも、次のバスには乗れそうで良かった。

 駅までシャトルバスが出ているので、その点も助かる。


「そういや、お願いってどうするんだ?」


 列に並んで待っていると、義兄さんが口を開いた。

 最初は何のことかと思ったけど、そう言えば勝負したんだった。


「考えてなかった……それなら、来年もまたプールに連れてきてよ」

「……そんなのでいいのか?」

「そんなのがいいの」


 もっと何かあるだろう、とでも言いたそうな義兄さんを見上げる。

 別に高い物を買ってほしいわけじゃない。今日みたいに、一緒に遊べたらそれで良い。


「わかった。じゃあ、来年も来ような」

「うん、約束だからね」


 義兄さんが頷くのを見て、私もつられて笑った。

 来年の今頃には、受験も終わっているはず。その時は、ちゃんと新しい水着も用意しよう。


 バスが近づいてきたので、肩にかけたバッグを持ち直す。

 遊び疲れて体は重いのに、もう来年が楽しみになっている。


 ……うん。良い一日だった!


 ◇


 数日後。

 今日は学校で夏期講習があるので登校していた。

 もちろん、麻里も一緒だ。


 プールで遊んだ帰りは、義兄さんが家まで送ってくれた。そういうところは紳士だと思うし、彼氏がいたらこんな感じなのかな、と考えてしまった。

 その夜には麻里から電話があって、洗いざらい話すことになったのだけど……彼女のテンションが高かったのは意味不明だった。


 ヒソヒソ……。


「今日って数学と国語だったよね。古文って苦手なんだよね」

「私も得意ってわけではないけどね」


 ヒソヒソ……。


「お昼はお弁当持ってきた?」

「うん、持ってきたよ。終わったら図書館に行くんでしょ?」

「そうそう」


 ヒソヒソ……。


 さっきから、こちらをちらちらと見られている……。

 あまり話したことのない同級生たちだから、聞きに行くのも難しいかな。


「ねえ、さっきから私たちを見て……何か言ってない?」

「言ってるねー。何だろ?」


 麻里も気づいているみたいだけど、理由は知らないみたい。

 本当に何なんだろう?


 周囲を気にしていたら、その中の一人と目が合った。すると、そのグループがこちらに近づいてくる。


 ……若干、にやにやしているのが気になる。


「ねえ東條さん、彼氏いたの?」

「……はい?」


 何をひそひそ話しているのかと思ったら、私に彼氏ができたと思っていたのね。

 でも、残念ながら私に彼氏はいないのだけど……。


「えっと……いないけど?」

「この前、プールで男の人と一緒にいなかった? 何か抱きかかえてもらってたけど!」


 プール……抱きかかえてもらった……。

 そう言えば、あの時もこちらを見ていた子たちがいたような。


 横を見ると、麻里がにやにやしていた。あとでつついておこう。

 今年、男の人とプールに行ったのは、あの日だけだ。


「……義兄さんとは行ったけど?」

「お兄さん!?」

「うん、義兄さん」


 同じ言い方だけど、多分、思い浮かべている字は違うかもね。


「なーんだ、そうだったんだ」


 ひとまず納得してもらえたみたいで、ほっとした。

 なのに、横から麻里が余計なことを言い出した。


「でも、楽しかったんでしょ? 来年も二人で行く約束をしたぐらいだし」

「麻里!」


 にこにこしている親友を睨むけど、まったく効果はなさそうだった。はぁ、とため息をついて、私は天を仰いだ。

 それどころか、目の前の同級生たちまで、また楽しそうな顔になっている。


「え、もう来年の約束までしてるの?」

「……だから、義兄さんだってば!」


 これ、全部説明しないと終わらないのかな……。

 ……来年は、絶対に麻里も連れていこう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。