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学年一の才女を拾ったら癒されました  作者: PPHiT
第一章

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第23話 目覚めたその先に見える姿

 とてもいい夢を見ていた気がする。意識がうつろろなまま覚醒しつつあるなか、そう感じていた。

 目を閉じているはずなのに、まぶたの裏がじんわりと明るい。カーテンの隙間から容赦なく差し込む、朝陽のせいだろう。

 もう少しだけこのまどろみの心地よさに浸っていたい俺としては、昨夜カーテンをきっちり閉め忘れた自分に失望すら覚える。

 外からはチュンチュンと鳥のさえずりまで聞こえてきて、もう朝が来ていることは決定的だった。


 昨夜、いつの間に眠りに落ちたのか、全く覚えていない。というより、いつ布団に入ったのかさえ記憶が曖昧だ。ただ、体の軽さが、これ以上ないほど熟睡できたことを物語っている。


 ただ一つ、腕にかかる謎の重みだけが不思議で仕方なかった。

 とても柔らかくて、温かい『何か』を、俺は両手でしっかりと抱え込んでいる。おまけに、鼻先をくすぐるいい匂いがする。……間違いなく、これがよく眠れた最大の理由だろう。


 この心地よい存在の正体が気になり、俺はまだ眠っていたい欲求を振り切って、重いまぶたを無理やり開けようとした。

 ただ、なぜか本能的な恐怖を感じている。『今、目を開けたら、とんでもないことになるぞ』と、俺の深層心理が全力で警告を発している気がしたのだ。


 薄く目を開けると、視界のすぐ手前に、朝陽に照らされて金色に輝いているカーテンのようなものがあった。

 ――いや、違う。ピントが合うにつれ、それが滑らかな『人の髪』であることがわかった。


(この髪の色は……瀬那だ)


 事実を認識した瞬間、喉の奥まで出かかった悲鳴を寸前で飲み込んだ俺は、本当に自分を褒めてやりたい。

 心臓が肋骨を突き破って飛び出すのではないかというくらい、全身の血が沸騰して鼓動が跳ね上がった。

 大パニックを起こしている頭を必死に落ち着かせながら、なぜこんな状況になっているのかを思考する。

 俺が無意識に連れ込んだのか、寝ぼけて俺が部屋を間違えたのか、はたまた瀬那が間違えたのか――。


(……そうだ。昨夜、寝る前に瀬那が部屋に来たんだ。それで、怖いから一緒に寝てほしいってお願いされて……)


 昨夜の記憶がフラッシュバックし、次第に頭が冷静さを取り戻していくのを感じた。自分のベッドに瀬那がいる理由は納得できた。

 だが、安心したのもつかの間、腕の中から「すぅ、すぅ」と、かすかな寝息が聞こえてきて、鎮まりかけた動悸が再び警鐘けいしょうを鳴らし始める。


 彼女を起こさないよう、そっと体を離して瀬那の顔を覗き込む。

 熟睡しているためか、学校で見せる凛とした姿からは想像もつかないほどあどけない、無防備でかわいい寝顔だった。完全に安心しきっているようだ。


(……いくらなんでも、無防備すぎやしないか)


 ここまで信用されていると考えれば、男として嬉しい気持ちはある。だがその反面、家族ではない、年頃の男のベッドでこんな顔を晒すなんて、この子の将来が本気で心配になってくる。

 それに……もしかして俺、一ミリも『男』として危険視されていないんじゃないだろうか。そう考えると、それはそれで少し凹む。


(というか、そもそもこの密着した態勢自体がおかしいだろ……)


 眠りに落ちる直前、手を繋いだ記憶まではあるが……なぜ今、俺たちは恋人同士のようにがっつり抱き合っているのだろうか。


 動揺していると、俺の体で影になっていた彼女の顔に、キラリと陽の光が差し込んだ。

 眩しかったのか、瀬那が「ん、うぅ……」と小さく呻きながら、逃げるように俺の胸元へぐりぐりと顔をうずめてくる。薄いネグリジェ越しの柔らかい感触が、ダイレクトに俺の体に押し当てられた。


(っ……これは、良くない。色々と勘違いしそうになるし、何より、俺の理性がもう限界だ)


 起こすのは申し訳ないが、この密着状態のままにはしておけない。

 いまだに腕の中で寝息を立てている彼女の肩を、軽くゆすりながら語り掛ける。可愛らしい声で「ん、うみゅ……」という反則的な声が聞こえたが、必死に気にしていないふりをする。

 ――あざといな、おい。


「瀬那、瀬那。朝だぞ、起きてくれ」

「んん……ま、まだ……眠いで……す」


 一緒に寝たはずだが、まだ眠いらしい。もしかして俺と違って、緊張して寝付けなかったのだろうか。少し心配になる。

 さすがに頭の下敷きになっている腕を強引に抜いて、無理やり起こすのは酷だろう。

 俺は時間を確認するため、プルプルと震える腕を伸ばし、近くに置いてあったスマホを手繰り寄せた。取れたのは良いが、無理な体勢で筋を伸ばしたため、背中がピキッと攣った。


(痛たたたた……っ!)


 激痛で情けない声が出そうになるのを何とか奥歯を噛んで耐えきり、画面の時計を確認する。時刻は『6:30』を表示していた。


「いつもより少し早いか」


 揺するのを再開して声をかけたが、一向に起きる気配がない。どうしたものか。

 ときおり、乱れた髪の隙間から見える白くて小さな耳が、思わず触れたくなるほど可愛らしかった。


 ……いかん、現実逃避していても何も好転しない。そろそろ覚悟を決めるか。

 俺は今までよりも少しだけ大きい声で、瀬那の耳元に呼びかける。


「瀬那! 瀬那ってば!」

「……」


 逆に反応がなくなってきた。どういうことだ。

 ……よく見ると、いつのまにか規則正しい寝息も聞こえなくなっている。

 もしかして――。


「……」

「……」

「瀬那。お前、起きてるだろ」


 先ほどまでとは違い、少し呆れたように、諭すような声で話しかける。

 密着しているため、瀬那の華奢な体がほんの僅かに「びくっ」と跳ねるように反応したのがダイレクトに伝わってきた。

 俺は追及せず、彼女が自白するのを待つように黙り込む。


「……はい」


 やがて観念したのか、消え入るような小さな声で短く答えた。その声には、隠しきれない羞恥心がたっぷり含まれている。金色の髪の隙間から見える耳が、みるみるうちにほんのりと赤く染まっていった。


「起きてたんなら、反応して欲しいのだけど……」

「だ、だって……目が覚めたら、朔也くんの顔がすぐ目の前にあって……寝起きの顔を至近距離で見られるのが、恥ずかしくて……っ」

「……さっきさんざん堪能したから、今さら気にしても仕方ないぞ」

「えっ!?」


 驚いて顔を上げた彼女と、バッチリ目が合った。

 みるみるうちに、白い顔全体が林檎のように紅潮していく。『茹で蛸みたいになる』という漫画のような表現を、俺は生まれて初めて目の当たりにした気分だ。


「な、な、なんてことをしているんですか!」

「仕方ないじゃないか。役得だろ」

「……私を抱き枕代わりにしてたくせに」


 ジト目でこちらを睨んでくる。残念ながら、顔を真っ赤にしたまま威嚇されても、小動物みたいで全く怖くない。

 完全に起きていることも確認できたので、俺は下敷きになっていた腕を瀬那の頭からそっと引き抜いた。見事に感覚がなくなり、ビリビリと痺れている。


「……ごめんな、無意識に抱きしめてたらしい。嫌だっただろ」

「嫌じゃないですよ。……もしかして、覚えていないのですか? 昨日の夜のこと」

「えっ?」

「本当に覚えていないのですね……あんなに激しく、私に抱きついてきたのに」


 なんだ、そのとんでもない言い草は。

 俺、寝ぼけて理性を飛ばしてやらかしたのか!?


「えっ? えぇ!?」

「ふふっ。冗談です♪ ただ、覚えていないのなら、教えません♪」


 そう言うと瀬那はパッと起き上がり、身軽にベッドから降りた。

 スキップをするが如く軽い足取りで部屋の扉の前に立つと、くるっとこちらへ反転する。

 ネグリジェ姿でその可憐な仕草は、男子高校生に対して反則すぎる。


「言い忘れてました。朔也くん、おはようございます♪ おかげで、ぐっすり眠れました♪」


 花が咲いたような満面の笑みで告げた瀬那に、俺はすっかり毒気を抜かれ、素直に返すことしかできなかった。


「……ああ。おはよう、瀬那」


最後までお読みいただき、ありがとうございます!


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