SS 二年の先輩:謎解きゲーム(解答編)
東條くんはスマホでどこかのサイトを開いていた。
そこに書いてある文章を、いくつか紙に書き写している。
「なるほど……よし、一階の受付に行こうか?」
「解けたのですか!?」
「たぶん……な」
東條くんの後に続いて、受付まで歩く一行。
全員でぞろぞろ移動しているので、傍から見たら何事かと思うだろう。
「……みんな、ついてきたのか?」
「だって気になるしー」
「東條でも誰でも、正解するんなら別にいいかなって」
東條くんの疑問に、みんなが好き勝手に答える。
どうやら答えは知りたいけど、別に自分が解かなくてもいいらしい。
「……少し恥ずかしいんだけど。合ってたらまだしも、間違っていたら……」
「気にすんな、動画撮っておいてやる!」
「やめろ!」
「朔也くん、館内は静かにしましょうね」
南雲さんに注意されると、東條くんはそれ以上何も言わずに進んでいった。
……やっぱり、南雲さんには弱いんだ。
受付の前に着くと、東條くんがなぜか意を決したように話しかけた。
何をそんなに緊張しているんだろう。
「……あの、二階にある問題の難易度三についてなのですが……」
「はい、わかったのですか?」
「……はい。れ、『例のもの』を」
「えっ」
受付のお姉さんの目が、一瞬だけ丸くなった。
手に持っていたペンをコトリと机に置く音が響いた。
そりゃそうなるよね。
……行きつけのバーじゃないんだから、何を言い始めているの、この人は。
そういや、予想外な行動を取るのはこの子もそうだった。五階から飛び降りた時に頭がおかしくなってしまったのか、後輩よ。
「……本当に解いたのですね。追加のヒントも用意されていたのですが、それなしでクリアしたのはあなたが初めてですよ!」
「どのサイトかわからないと、ダメですからね……」
「はい。では、景品をお持ちしますのでお待ちください」
そう言って、受付のお姉さんが奥へと入っていった。
東條くんが言ったのは『例のもの』。それが答えなのはわかるけど……。
「東條くん、どうやってその解答が出てきたのさ?」
「大したことではないですよ。……暗号が書いてある紙のここに、ホームページのアドレスが書いてあるじゃないですか」
彼が指さした先には、『詳しい内容は、○○中央図書館ホームページまで https://xxx.xxx.xxx.library.xxx』と書かれていた。
「これって図書館のホームページでしょ?」
「俺も最初はそう思ったんですが、うちの生徒会長並みに『ひねくれている』ってことだから、疑って開いてみると――」
東條くんが開いたのは、図書館のホームページではなく、ユーザーが自由に投稿できる WEB 小説サイト。
そこには『P.P.Holly』というユーザーが投稿している小説のページが表示されていた。
『詳しい内容』をちゃんと見ようとしたら、それ自体がヒントになっているってことか……。
「――それで、暗号の『―』の左側にある番号と同じ話数のタイトルを出すと……これだ」
さっき書いていたものを見せてきた。
第 15 話 燃えたその場所で
第 21 話 二人の呼び名
第 26 話 隠せているようで隠せていない
第 57 話 隣にいるから歩ける一歩
第 79 話 面倒な告白イベント
「それで、あとはサブタイトルの部分をローマ字に変換して、『―』の右側にある番号の文字を順番に並べると――」
『IKKAI UKETSUKE DE REI NO MONO』
「――『一階 受付 で れい の もの』となるから、たぶん『例のもの』が合言葉になるんじゃないかなって思ってさ。……合っててよかったよ。これで外していたら、恥ずかしいってもんじゃない……」
「朔也くん……」
南雲さんが恥ずかしがっている東條くんを気にしているけど……それよりも……。
「……分かるか、そんなもん!」
「どうしたらこうなるんだよ!」
「図書館関係ないじゃないか!」
……だよねー。
私も理不尽だと思うよ。
「あはは。多分、面白半分なのもあるけど、自分の小説を見てもらいたかったんじゃないかな。あいつのことだから」
「よくこんな問題に許可を出しましたね、この図書館が」
東條くんの質問は、私も気になっていたことだった。
こんなことを許可する図書館もおかしい……いや、マジで。
「そりゃ、そいつがこの図書館の館長だからね」
「は?」
……誰だよ、この人に権力まで与えたの。
「えー……やりたい放題ってこと?」
思ったことが、そのまま口から出た。
振り回される職員さん、大変そうだね。
「あっ! 違う違う。いつもはちゃんとやってるのよ。……多分、この企画もほとんど自分だけでやったんじゃないかな。行動力も凄かったし」
「行動力が凄い……少しおかしい考え……ひねくれている……」
「まさか……」
「そうですよー」
カチャ。
いつの間にか、受付のお姉さんが戻ってきていた。
「今日は館長はいませんが、この謎解きゲームはほとんどご自分でやってましたね。みんなで皆さんの POP の感想を書いたりはしましたけどね」
手にはいくつかの種類のブックカバーを持っている。
「難易度三の問題をクリアした方は、こちらのブックカバーが景品になります」
「結構、種類ありますね」
見てみると、この中央図書館をモチーフにしたブックカバーや、一般的な季節もの――紅葉や海など。それに、シンプルな幾何学模様や、謎解きの景品らしい虫眼鏡やシルクハットがデフォルメされて描かれているものもあった。
ただ、その中で一つだけ異彩を放つものが……。
「……これだけ浮いてない?」
「浮いてますね……」
やたらと描き込まれたファンタジー風のブックカバー。
明らかに他のものと比べて、妙なこだわりを感じる一品だった。
「あー、それは館長が作ったものですね……実費で」
「は? ……確かに、右下に P.P.Holly って書いてある」
「これって図書館の公式グッズなんですか?」
「まさか! ……勝手に混ぜたのよ」
……そこまでして販促したいの?
せっかくなので、みんな一つずつもらうことになった。
何気なく並んだ景品を眺めながら、みんながどれを選ぶのか、ついちらちらと手元を確認してしまう。
私は謎解きをモチーフにしたものにしたけど、意外だったのが東條くんだ。
「朔也くん……館長さんのものにするのですか?」
「あぁ……これを持っていってやりたい人がいる」
「……そういうことですか」
なんとなく、誰に渡すつもりなのか予想できてしまう。
真相がわかったら、私にも教えてもらいたいな。
ここまで遊んだことだし、せっかくなのでみんなで近くのカフェに寄って、休んでから帰ることになった。
司書さんは用事があるということで、先に帰ったけどね。
「ねぇ、朔也くん。『Holly』って日本語にすると……」
「あぁ……多分、間違いなくそうだろう……」
「?」
後ろを歩いていた南雲さんと東條くんが交わしていた会話が、妙に印象に残った。
……どういうことなんだろう?
― 二年の先輩:謎解きゲーム 完 ―
ということで、解答編でした。
「学年一の才女を拾ったら癒されました」のサブタイトルをローマ字に変更して、対象の数字の場所にある英字を並べると、言葉になるというものです。
メタすぎて怒られても仕方ないと思っているので、文句は受け付けます!
ちなみに補足すると、『出題編』で書いてあった『あなたたちは今 162 の中にいます』とは、この話があったのが本編の 162 話だったからです。
トリックとか、推理ゲーム作っている人ってすごいなって改めて思いました!




