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学年一の才女を拾ったら癒されました  作者: PPHiT
第三章

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230/257

SS 南雲 瀬那:彼氏が同僚になりました・前編

 ――――――――

 作者からのお願い。

 本 SS はネタ回です。

 現実のチェーン店では、この展開は基本的にありません。

 細かい部分はフィクションとしてお楽しみください<(_ _)>

 ――――――――


 カシャ♪ カシャ♪ カシャ♪


「良いですよー!……こっちに目線ください!」


 カシャ♪ カシャ♪ カシャ♪


 一心不乱に写真を撮っています。

 それはなぜか――


「……なぁ、もうよくない?」

「まだです!」


 ――朔也くんがムーンバックスの制服を着ているからです!


 こんなレアな姿を写真に収めないわけにはいきません! だってこの撮影欲を、数時間も抑えていたのですから!


 ◇


 ― 数時間前 ―


 ムーンバックスに着き、いつも通り着替えを済ませた後に、大変なことに気づきました。

 洗濯したエプロンが、いつものバイト用の袋に入っていなかったのです。


「失敗です、困りましたね……」


 たしか、昨夜、洗濯物を取り込んでから、畳んだところまでは覚えているのですが……。


「あ、リビングのテーブルに置いたままかも」


 畳んだ後に、朔也くんがお風呂から上がったので、急いでお風呂場に行ったのでした。

 いつもなら、そのまま畳んだ洗濯物を部屋に持っていって、バイト用の袋に入れるのですが……。


(お風呂場に行くのを優先し過ぎましたね)


 今から戻るわけにはいきませんから、店長に謝ってスペアを借りましょう。

 こういう時のために、いくつかストックしていると以前お聞きしていましたし。


 そう思った私は、従業員用のドアを開けて通路へと出ると、


「お、ちょうど良いところ。瀬那!」

「えっ!?」


 今の時間、この場所で聞こえるはずのない声に驚いてしまいます。

 ばっとそちらを振り向くと、声の主――


「朔也くん!?」


 ――家にいるはずの彼がいました。

 迎えの時間には、まだだいぶ早いはず……。


「どうしたのですか?……何か問題でも!?」

「問題っちゃ問題だけど……やっぱり、エプロンしていないな。ほれ」


 そう言った彼は、カバンから私がいつもバイトで使っているエプロンを取り出しました。

 ご丁寧に透明のポリ袋に入れてくれています。


「ありがとうございます! ちょうど困っていました!」

「よかった、持ってきたかいがあったよ」

「それにしても、よくわかりましたね。私が忘れたって」

「丁寧にリビングのテーブルの上に二枚とも置いてあったからな」


 ムーンバックスからバイト用に支給されているエプロンは二枚。

 できる限り清潔を保つため、使用するたびに洗濯することになっています。


 いつもなら使うのは一枚で済みますが、前回、同僚がこぼしたミルクがかかってしまい、途中でもう一枚に着替えたのでした。

 そのため、普段なら一枚はバイト用の袋に入っているのですが、今回は一枚も入っていませんでした。


 エプロンを受け取り、その場で着けてしまいます。


「本当に助かりました。スペアもあるとは思うのですが、自分のを使う方が楽ですし」

「そりゃそうだ」

「……朔也くんはこれからどうしますか?」


 当たり前ですが、私は今からバイトなので、いつもの迎えの時間まで何時間もあります。


「うーん……せっかくなので、店までエスコートさせていただきますよ」

「ふふ、何ですかそれ♪」


 少し気取った感じで言う朔也くんに、自然と笑みがこぼれました。


 そして、一緒にお店まで歩き出します。

 さすがにバイトの制服姿なので手を繋ぐことはできませんが……もしできたら、手を引いてくれたでしょうね。


「まあ、あとはテキトーにブラブラしているさ。『The Foundry Attic』に行って、みんなの作業風景を見ていてもいいしな」

「それもいいですね」


 取り留めもない会話をしつつお店に着くと、井上店長が慌ただしくしていました。


「おはようございます、井上店長。どうかしましたか?」

「あ、南雲さん、おはよう。……あ、彼氏さんもお久しぶりね」

「お久しぶりです。何か焦っていますが、何かあったのですか?」

「それが……」


 井上店長が説明してくれた事情は、なかなか大変なものでした。


「一人がインフルで休みで、その代わりもまだ見つからないの。それだけなら、まだ何とかなったんだけど……」


 それだけなら、一人減るだけなので忙しくはなるものの、まだ何とかなると思います。

 しかし、先ほどまでシフトに入っていた一人が、家族が交通事故に遭ってしまったため、早退することになったとのこと。


 今、店頭にいるのは桜井さんと、その早退予定の方。

 店長が誰かを見つけるまで、無理を言って待ってもらっている状態のようです。


 ……しかも、店長も会議に呼ばれているため、このあと店を出る必要があるようで……。


「二人だけで回せるもんなのか、カフェって?」

「できない……わけではないですが……」

「無理無理! 一時間ぐらいならともかく、会議が別の場所だから数時間は戻って来られないのよ……。休憩も、トラブルが起きた時の対処も二人だけじゃ無理よ!」

「なるほど、やばいっすね」


 状況が最悪です。

 滅多にないとはいえ、店長不在で二人だけというのは、少し心もとないですね。

 せめて、もう一人いれば……。


「……」

「どうしました、店長さん。俺の顔を見て……」

「……」


 ……井上店長……まさか?


「……東條くん、暇?」

「……嫌な予感しかしないんですが」

「エプロンもあるよ!」

「いや、エプロンがあるかどうかの話じゃないですよね!?」


 まさかの助っ人指名に、思わず笑いを堪えてしまいます。なんだかんだ、困っている知人を見捨てられない朔也くん。彼が着替えることが確定するまで、数分もかかりませんでした。


 ◇


「一応、店長にも問題ないって言われたが……こんな感じで大丈夫か?」

「あわわ! すごく……凄く似合っています!」


 あの後、店長と早退予定の方に案内され、一度更衣室へ向かった朔也くんは、十分もかからず店頭へ戻ってきました。


 スペアで用意されていた男性用の制服に、私に支給されているもう一枚のエプロンを着けた姿。

 ちょうどいいサイズのシャツがなかったのか、肘の手前ぐらいまで袖を折り返しています。まくれた袖の下から覗く腕に、一瞬だけ視線が吸い寄せられました。


 たまたま今日のピアスはゴテゴテしたものではないので、カフェの店員としても違和感がありません。


 それに……家で着けているいつものエプロン姿も良いですが、ムーンバックスのエプロンも似合います。

 平均よりも背が高い朔也くんが着ると……とても、いい。


「……(ぽー)」

「大丈夫か、瀬那? 呆けているけど……やっぱり、変か?」

「はっ! いいえ! 間違いなく似合っています!」


 少しトリップしていました……。

 失敗です。


「反応が凄いな……まあ、似合っているならいいさ」

「もちろんです!」

「こらこら、さっきから何してるのさ、二人とも。店頭でいちゃつかないの。南雲ちゃんも顔が赤いよ」

「そ、そんなことないです!」


 桜井さんに注意されてしまいました。

 またしても、失敗です。


「すみません。それで、俺は何をしたらいいんだ? 正直、何からやったらいいか見当もつかない」

「は、はい。それでは――」


 急遽投入された朔也くんは、当たり前ですが本格的な研修なんて受けていません。

 ただ、井上店長が出るまでのわずかな時間に、レジの基本操作と注文の受け方だけは教えてもらっていました。


 定期的に通っているのでメニューに何があるのかはある程度わかるでしょうが、さすがにドリンクの作成までお願いするのは無理があります。


 なので、基本は私たちのサポート。

 食器洗いや、席に残されたグラスやお皿の回収、ごみ箱の整理などをお願いすることにしました。


 まずは、さっきまで人数が少なかった影響で洗い物がたまっていたので、それをお願いしました。


 それからしばらく、その体制で仕事をこなします。

 ただ、それも常にあるわけではありません。

 要領がいい朔也くんのことです。すぐに手持ち無沙汰になってしまいました。


「はい、ご注文を承りました」

「……」


 注文を受けた私は、そのままドリンクの作成を始めます。

 ドリンクを作りつつ、何かお願いできることがないか考えていると……。


「ねぇ! 注文はまだできないの!?」


 列の先頭で待っていた、失礼ながら性格がきつそうな女性が怒鳴っていました。

 人数が少ない関係で、お待たせしているのは事実なのですが――


「お待たせしてすみません。ご注文、お伺いします」

「え? は、はい。えっと……」


 ――さ、朔也くん!?

 確かに空気が悪くなるのは困りますが……できるのですか!?


 普段より柔らかい声ではありますが、無理に愛想を作っている感じはありません。


「――で、サイズは M でお願いします」

「はい、承りました。店内でお召し上がりですか?」


 ……それにしても、ステキナ、エガオデスネ。


「は、はい、そちらでお願いします~」


 心なしか、怒鳴っていた女性も空気が柔らかくなっています。

 ……むしろ、熱い視線ではないでしょうか?


「……」

「はいはい、南雲ちゃん。気持ちはわかるけど、ドリンクの用意に集中してね」

「はっ!……あ、はい」


 ドリンクを作りながら朔也くんのやり取りを横目で見ていると、注文後の対応も会計の操作も、教わったばかりとは思えないほどスムーズです。


 ……一度教えてもらっただけですよね!?


 朔也くんの予想外の行動と、その手際の良さに驚きながら、私は桜井さんと手分けしてドリンクを作ります。


 注文は朔也くんが受けてくれています。

 たまに、カップに書く初見では暗号にしか見えない略号について確認されますが、それ以外はテキパキと対応していました。


 溜まっていた注文が捌けるタイミングで私がレジを代わり、朔也くんは食器の片づけなどに回ります。

 そして、また私と桜井さんがドリンク作りで手いっぱいになると、今度は朔也くんがさっとレジに入り、注文を受けてくれます。


 しかも、お客様を待たせてしまった時や、レジを一度離れる時のフォローも完璧です。


 そんなフォーメーションでお店を回すこと一時間ほど。

 三人とも、その持ち回りに慣れてきた頃でした。


 ドリンクを作っていると、聞こえてきたのは……お客様の弾んだ声です。


「お、お兄さんのおすすめだと、どのトッピングがいいですか?」

「私のおすすめですか? そうですね……個人的に美味しかったのは、これにチョコレートチップを入れるカスタマイズですね。良いアクセントになります」

「そうなのですね! でしたら、それでお願いします!」

「店内でお召し上がりでしたら、フードはいかがですか?」

「ぜひ!」


 ……ずいぶん、楽しそうですね。


 朔也くん、わかっていますか?

 そのお客様……ハートが飛んでいますよ?


 ぴき、と何かが音を立てた気がしました。


 ……グシャ。


「南雲ちゃん……落ち着いてね」

「何を言っているんですか。落ち着いていますよ?」


 私は手の中でくしゃくしゃになった廃棄予定のコップを、ゴミ箱へ入れました。


「次の方ー」

「はい、あの、店員さん――」


 ……また女性ですか。

 イイエガオデスネ。



 次回に続きます。

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