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学年一の才女を拾ったら癒されました  作者: PPHiT
第三章

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SS 金森 焔:東條朔也観察日記

 ― 一学期の中間テスト終わり ―


「嵐(らん)、ここに宣言する!」


 思うところがあり、私はそれを実行に移すことにした。

 今、私たちがいるのは私の部屋。そして、一緒にいるのは幼馴染の嵐だけ。


「どうしたの?」


 雑誌を見ていた嵐が、顔を上げて私を見る。

 あの目は、「また、しょうもないことをしようとしているな」って目だ。

 ……失敬な!


「まあ聞いて。私は東條朔也の観察日記をつけることを宣言する!」

「……ストーカーは犯罪だよ、焔(ほむら)ちゃん」


 哀れみの目で私を見る……またしても失敬な!

 心外にもほどがある。これは立派な人物調査だ……たぶん。


「今度はどのマンガに影響を受けたの?」

「影響は受けていない。最近ずっと考えていた」

「どんな?」

「週末、東條朔也一派と遊びに行くでしょ?」


 中間テストのランキングを見に行った時、南雲が東條とその友達と話しているところに居合わせ、その流れで打ち上げとして一緒に遊びに行くことになった。


 東條朔也は、学年でも悪い意味で目立つ方の人間。

 ただ、南雲はその東條朔也のことを嫌っていないどころか、むしろ好感を持っているようだった。


 図書委員が同じで、私より奴の性格を知っているからだとは思うけど……私は南雲ほど奴を信用できるわけがない。

 話したことさえないのだから、当たり前だ。


「一派って……」

「嵐からしたら、森田和人一派の方がいいか」

「ほ、焔ちゃん!」


 その一派には、学年一と言ってもいいぐらいのイケメン、森田和人がいる。顔が整っているのは、さすがの私でもわかるけど、好みではない。

 ただ、我が可愛い嵐はああいうアイドル顔が好みなので、打ち上げを断るわけがない。だから、私も断るわけにはいかなかった。


(嵐は男子に苦手意識があるから……森田和人が評判どおりなら、少しは男子に慣れる機会としても悪くない)


 逆に、東條朔也が評判どおりの危ない奴なら、森田和人がいるからといって嵐を近づけるのも良くない。


(……その判断にも、今度の打ち上げは絶好の機会)


「くくっ」

「今度は変な笑い方をしないでよ……」

「……失敬な!」


 ◇


 打ち上げ当日の朝。

 私と嵐はいつもどおり、一緒に待ち合わせの場所へ向かった。

 昨夜、どう観察するか考えていたら、少し寝るのが遅くなってしまった。


 集合場所には、すでに……後……後藤……違う、逆だ。前……前……前山。

 そう、前山とその彼女の倉木がいた。


「お、おはようございます、倉木さん、前川くん」


 あ、前川だった。


「おはようさん」

「おはよー、二人とも! 初めましてだよね? 今日はよろしくね」

「よろしく、倉木」


 隣にいる前川のことは、とりあえず無視しておく。


「俺は!?」


 倉木のことは、陽キャで、前山が彼氏ってことぐらいしか知らない。

 悪い噂は聞いたことがないので、大丈夫だろう。

 この雰囲気なら、悪い奴ではなさそうなのはわかる。


 前山はおちゃらけた行動が多いようだけど……ただのアホな気がする。

 まあ、こっちは彼女が同席する以上、大丈夫だろう。


 ……あ、前川だった。


「瀬那、朔、おはよ! 二人とも、一緒に来たのー?」

「最寄りが一緒だったからな。たまたまだ」

「へー」


 来たな、東條朔也!

 今日はお前の性格を暴いてやる!


 午前中はいくつかのスポーツをやった。

 ボウリングは久しぶりだったから、楽しくて奴を観察するのを忘れるぐらいだった。


 これは失敗。


「……」


 ただ、何度か話した感じだと……普通。

 異常なぐらい普通だ。

 馴れ馴れしく距離を詰めてくることもなく、本当にただ会話をするだけ。


 噂とは本当にただの噂だったのか?

 いや、まだその判断は早い。


 立ち乗り用の電動ボードでも観察していたけど……見た目と違って、どんくさいかも。

 すいすいと乗る私を見た東條朔也……もう面倒くさい。東條でいい。

 東條は何か悔しがっていたので、少し煽っておいた。


 これでムキになって、本性を出せばいい。


「……」


 でも、予想と違った。

 ムキにはなっていたが、ただそれだけ。

 特に暴れる方向ではなく、ただ単に練習を続けていた。


 ――――――――――

 観察記録 1

 見た目は怖い。

 会話は普通。

 危険度は今のところ低い。

 煽り耐性は弱いかも。

 ――――――――――


 それは、その後も同じだった。

 南雲と話している時も、彼女からちょっかいをかけられて本気で気分を悪くすることはなく、普通に返していた。


 ……なぁなぁ系なろう主人公か!


 だから、私は行動した。


「――つまり、次は私に勝てる見込みがあると」


 次の予定はダーツだった。

 私が初めてなのをいいことに、教えてもらう名目で経験者である東條に話しかけた。


 教えてもらう時も、その後の勝負も、ちょっかいをかけまくった。

 奴は南雲と関わると、すぐに隙を見せる。


「……東條、セクハラ?」

「学年一の美少女と言っても過言ではない南雲に、そんなに密着して馴れ馴れしく触るなど、セクハラ以外に何があるの? 通報する?」

「南雲……脅されている?」


 私じゃないと見逃しちゃうけどね。

 もちろん、対戦中も隙を見せたら絡んでいった。


「へいへい! 東條、ビビってるー! かっ飛ばせー!」

「なんで少年野球なんだよ!」


 投げる時なら、これぐらいのヤジは当たり前。

 ……気にせずブルに入れたのはむかついたけど。


「東條はハンデで……ここから」


 私は近くにあったビリヤード台の上を指さした。


「……いや、ビリヤード台の上は駄目だろ。あと、他の客の邪魔をするな」


 確かに、他の客を邪魔するのは駄目だった。

 うーん……それなら。


「むぅ……なら、ここから」


 ……今度は倉木と前川たちがやっているダーツ台の前を指さした。


「いやいや、金森さん。ここは俺たちの場所だって……」

「……さすがに真っ直ぐであれよ、お前は……」

「……ちっ」

「舌打ち!?」


 私は得意げに笑う。


「ふふん――」


 ――びくっ。


 悪寒を感じて、ブリキ人形のようにギギギとその方向を見ると、嵐の目が笑っていない。あ、これは駄目。後で怒られる……。


「仕方ない……ハンデとして、左手。利き手じゃない方でやるのはどう?」

「やっとまともなことを……それでいいなら」

「くくっ、これぞ、ドア・イン・ザ・フェイス!」

「……使い方が合ってるかは置いといて、それを自分で言ったらおしまいだろ」


 自分でも、少しテンションが高い気はする。

 嵐に「そんな焔ちゃん、珍しいね」と言われるぐらいだから、実際そうなのだろう。

 私としては、いつも通りのつもりだったのだけど。


 自分でもうざいと自覚している絡みに、ちゃんと返してくれるぐらいの気遣いはあるらしい。

 それに……少なくとも、危ない奴ではないということはわかった。


 ――――――――――

 観察記録 2

 負けず嫌い。

 煽ると乗ってくる。

 ただし怒らない。

 ……意外と気遣い?

 ――――――――――


 ……おかしい。私は本性を暴くつもりだったはずなのに、普通に遊んでいる気がする。


 ◇


 ― 体育祭辺り ―


 何やら南雲と東條の怪我のことで、周りが騒いでいた。

 どうやら、東條が南雲を襲ったという噂が流れているようだ。


「東條が南雲を襲うとは思えない」

「わかってくれるのですか、金森さん。ありがとうございます!」


 南雲が私の手を取って、うれしそうにしている。

 ……少し恥ずかしいけど――少し、うれしい。


「あいつにそんな度胸はない。それに――」

「……それに?」

「逆ならわかる。南雲が東條を襲ったのなら納得」

「……どういうことですか」


 首は傾げているのに、目は呆れていた。

 横から「はぁ……」と嵐のため息が聞こえたが、別にいい。

 ……ちょっと恥ずかしかったのだもの。


 そんなやり取りをしていたら、うちのクラスの正義感野郎である天童が暴走したらしい。

 戻ってきた天童は肩を落としていたので、誤解だとわかって撃沈されたのだろう。

 ……こいつのことはどうでもいいけど。


 そんなことがあっての体育祭。

 東條は怪我の影響で見学だったらしいが、最後の最後でリレーに出ていた。


 東條の足は異常なほど速かった。

 ごぼう抜きとはこういうことを言うのだろう。

 別のクラスなのに、私でも応援してしまうぐらい見応えがあった。


 ……まあ、チーム分けでは同じチームだったから、どっちが勝っても良かったのだけど。


 ――――――――――

 観察記録 8

 予想より協調性がある。

 足が速い。

 たまにアホなことをする。

 ――――――――――


 ◇


 ― 文化祭 ―


 東條(あいつ)は文化祭でも変わらなかった。


 せっかく始めた観察日記。

 文化祭でもどうしても絡んでみたかったのだが、方法がわからない。

 クラスが違うので、準備で絡むことはないし、それ以外の時間も基本は会うことがなかった。


 だけど、ちょうどいいことに、南雲と付き合い始めてくれた。

 まあ、私や嵐に言わせれば、ほとんど付き合っているような距離感だったから今更だけど。


 でも、それでうちのクラスが殺気立ってくれたから、みんなの前で弄るという理由ができた。


 ……だから。


「南雲は文化祭で東條を連れてくること」

「……え?」

「それまで、南雲がコースターに乗るのは、お・あ・ず・け」

「本気ですか……?」


 私は無言でサムズアップしておく。

 それを見て「えぇ……」と言っていたが、南雲は少しだけ考えた後、「それはそれで面白いかもですね」と勝手に納得していた。


 ……なぜ?

 私が言うのもなんだけど、南雲もだいぶ変な奴なのでは?


 さらに、その後ろで嵐は呆れた目をしていた。

 また変なことを言い出したという目だ。

 ……失敬な!


 ――――――――――

 観察記録 14

 やっぱり変な奴によく絡まれる。

 南雲との関係を弄ると面白い。

 面倒な絡みに毎回付き合うぐらいの度量はある。

 南雲が暴走すると止めに入る。

 ――――――――――


 ◇


 ― 現在 ―


 ――――――――――

 観察記録 18

 嵐にも普通に接する。評価高い。

 私にも……普通。

 ――――――――――


「うん、結論が出た」

「どうしたの、焔ちゃん? 課題終わったの?」


 今日は嵐の部屋で過ごしている。

 課題をすでに終えた嵐は編み物をしていて、私はその正面でレポートをまとめていた。


「これ」


 私はレポートの横に置いていたノートを差し出す。

 嵐は編み物の手を止め、それを受け取った。


「なになに……東條朔也観察日記……何これ!?」

「前に言った。さくやんを観察するって」

「……確かに言っていたかも……って、一学期の中間ぐらいじゃなかったっけ!? もう新年迎えてるよ!? ずっと書いてたの!?」


 何を当たり前のことを言っているのか。

 嵐が信じられないものを見るような顔で、パラパラとページをめくっていく。


「うわぁ……すご……ちゃんと書いてる」

「自信作」


 私は胸を張って言う。

 一通り確認した嵐がこちらを見る。

 ――目が笑っていなかった。


「……焔ちゃん、ストーカーは駄目だって言ったでしょ!」


 「めっ!」と嵐に額を指で押されて、怒られてしまった。

 嵐のことを思ってやったのに、なぜ怒られるのか……!


「……解せぬ!」


 私の咆哮は、ため息をつく嵐にあっさり流されてしまった。


 結論――


『東條朔也は、思ったより良い奴』



 ― 金森 焔:東條朔也観察日記 完 ―


もうお気づきですね。えぇ、作者は金森みたいなキャラが好きです!

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