SS 南雲 瀬那:スパダリ朔也くん
顔よし、性格よし、生活力もあって、恋人への気遣いまで完璧。
要するに、恋人としてのスペックがとても高い男性。
―― AI アシスタント調べ。
私はスマホで検索した結果を見て、「ふむ」とひとつ息をつきます。 画面に並ぶ言葉を、もう一度目でなぞります。……スパダリとはこういう意味だったのですね。初めてちゃんと知りました。
「でも、うーん……」
「何を悩んでるの? せなちー」
「せなちーって呼ばないでください、金森さん」
私が何を悩んでいるのか気になったのか、金森さんと木内さんが私の席までやってきました。
ただ、「せなちー」と呼ぶのはやめてくれません。どうやら、本当に気に入ってしまったようです……。
……これは朔也くんに、また文句を言わないといけませんね。
「一方的だと駄目なら、私のことはほむほ――」
「だ、ダメです! それ以上は何かダメな気がします!」
「――むう」
ケンカを売りそうだったので、止めるしかありません。
彼女は何か不満そうですが、それは置いておきましょう。
「あはは……それで、南雲さんは何を悩んでいたの?」
木内さんが話を変えてくれました。
金森さんと木内さんの仲が良いのは十分知っていますが、性格は全然違います。
この二人だからこそバランスが取れているのでしょうけど……金森さんには圧倒されることが多いので、私にとって木内さんは癒しです。
「……この間、知り合いに『さくやんってスパダリだよねー』って言われたのを思い出しまして、定義を調べていたのです」
先日、朔也くんについて行って『The Foundry Attic』を訪れた時に、冴さんに言われました。その場ではすぐ別の話題に移ってしまったため、頭から抜けていたのですが、クラスメイトから聞こえた「昨日のドラマ、恋人がスパダリだよね」という言葉で、ふと思い出しました。
「あー、確かに、さく……東條くんって何でもできる印象があるかも」
「……むむ……さくやん……」
何かが金森さんにヒットしたみたいですが、気にしません。
ええ、気にしなくて良いのです!
「そうですね。私が知る限り、生活するうえで必要なことは何でもできます。……先ほど検索したら、条件がこちらでした」
調べた内容を二人に見せます。
『顔よし、性格よし、生活力もあって、恋人への気遣いまで完璧』
顔は人の好みによるので、私だけの判断では決められませんが、性格はたまに自分を卑下するところを除けば、悪いところは思いつきません。
あとは……生活力と、恋人への気遣い。……ありますね。
「さ→ く→ や↗ ん↘……さくやん」
「……」
「南雲さんに言うのもどうかと思うのだけど、東條くんのことを『かっこいい』って言っている人、何度か聞いたことがあるかな」
「……えっ?」
朔也くんが人としてかっこいいのは当たり前ですが、顔もかっこいいと思っています。私の好みの顔ですし。
……ですが、雫さん以外の方から、そういう評価を聞いたことはありませんでした。
「サ↗ ク↗ ヤ→ ン↘……違う」
「それは……どういう意味ですか?」
「その時の話だと、森田さんと二人で並んでいるとしっくりくるって。二人でいることも多いから、余計に目立つのかもね。『優しい系のイケメンと、ワイルド系のイケメン』って言っていたかな」
よくあるのは逆で、顔が整っている人の横にいると、相対的に悪く見えるから……という話は聞いたことがありますが……相乗効果?
まあ、私としては朔也くんが主ですが。どちらにしても、どこかの過激派さんとは真逆の考えですね。それだけで十分好感が持てます。
「さ↗ く→ や→ ん↘……これか?」
「あとは、前川さんも含めて、トリオとしてまとまりが良いって言っていたかな。前川さんは、わんこ系で」
「……納得してしまいますね」
わんこ系……まあ、癒し系と言えばいいのでしょうか?
今度、愛莉さんにも訊いてみましょう。
「た↘ く↗ あ→ ん→……たくあん……」
「……」
「さ↘ く↗ や→ ん→……さくやん……これだ」
何が「これだ」なのでしょう。世紀の大発見みたいな顔をしないでください。
「……金森さんはさっきから何をしているのですか? あと、なんで漬物?」
朔也くんを「さくやん」呼びするという流れなのはわかりますが、なぜ、たくあんのイントネーションなのか……。
あと、ほかにもあったでしょうに。同じようなイントネーションなら「サフラン」とか「カピバラ」とか……。
「スパダリはよくわからないけど、嵐の元カレはクソ野郎だった」
「焔ちゃん!?」
「あ、答えてくれないのですね……え? 木内さん、いつの間に彼氏がいたのですか!?」
「あはは……」
気まずそうに頬をかいている木内さん。
入学してから結構一緒にいますが、全く知りませんでした……。
「せなちーが知らないのは当然。中学の時だし、三日だけだったし」
「だから、せなちーとは言わないで……中学の時なら知らなくても仕方ないですが……三日?」
「あはは……」
気まずそうな木内さんを見ていると、余計に気になってしまいます。ただ、彼女が何かをやらかすとは思えないのですが……。
それに、交際とはお互いをある程度知ってから付き合うものだと考えています。
ですので、別れるのは仕方ないとしても、三日は早いと思いますね。
「もともと、あいつが強引に押して押して……嵐は押しに弱いから、負けた感じ」
「なるほど」
その流れは予想できます。彼女が押しに弱いところがあるのは、一緒にいてわかりますから。入学してからは、金森さんと、たまに私が間に入る形が多いですね。
「しかも、交際三日目にして強引に襲ってきたから、その日のうちに私が殴った」
「殴った!?」
「未遂だけど、付き合う時もその時も、私がいないところを狙ってた。……次、会ったら斬る!」
「斬る!?」
か、過激ですね……。
強引に一線を越えようとするのは論外としても、その話だと、いつも金森さんが一緒にいるみたいな感じがしますが……。
もしかして、それが嫌で隙を見て強引な手を?……それこそ、まさかですね。
「あはは……私の黒歴史の一つかな。私が押しに弱いのが悪いんだけど――」
「違う。悪いのはあいつ。断れない状況を作ったあいつ」
「そうですよ。詳しくはわかりませんが、強引にことを進める方が悪いです」
「……ぐすっ……ありがとう、二人とも」
こんな純粋な人に無理やりとは、許せませんね。
「やっぱり、キル!」
「落ち着いて……。そういう金森さんは、誰かいなかったのですか?」
「さくやん」
「いえ、『さくやん』はもういいですから……」
そのフレーズがはまったようですね。
これで朔也くんも私の気持ちがわかってくれるはず……よく考えれば、冴さんがいつも呼んでいるので気にしない……かも?
「だから、さくやん」
「……ぐす……焔ちゃん、『さくやん』のイントネーションはもういい……よ?」
「ん?」
「……」
あれ?
私は木内さんと顔を見合わせました。
「え?……朔也くん?」
「そう。男子として評価するなら、さくやん」
スマホを持つ手が、思わず止まりました。
「え?……えぇー! ほ、焔ちゃん!?」
こ、これは雫さんに次ぐライバル……なのですか?
――えっ?
「私の面倒くさいちょっかいを、飽きずに快く受ける稀有な存在」
「快くはないと思いますが……それに、面倒くさいって自分でも思っているのですね……」
朔也くん……可哀そうに……。
「同年代の男子で、何も考えずに絡める数少ない相手」
「焔ちゃん、男子とは普通に話せるよね?」
「話せるのと、気楽に絡めるのは違う」
幼馴染さえ知らない新事実を、さらっと軽いノリで……。
「でも安心して。せなちーから盗るつもりはない」
「そ、それは良かったです」
「今まで会った歳の近い男子の中じゃ、一番マシってだけ。あのヤンキーは」
「褒めてるのですか、それ!?」
やっぱり金森さんでした。
まあ、ライバルにならないのなら問題ありません。
……いけません。金森さんに振り回されて、肝心の『スパダリ』の話がどこかへ消えていました。
私はスマホの画面へ視線を戻します。そこには、最初に調べた四つの条件がまだ表示されたままです。
「……話が逸れましたが、結局のところ、朔也くんはスパダリということで良いのでしょうか? でも、結構いたずら好きですし、掃除はあまりしませんね」
「南雲さん……私のお母さんが言っていよ。妥協も大事だって」
「いえ、実は他ができるから目立つだけで、私は気にしてはいないのですよ」
「……なんで、さくやんが掃除をする、しないが、せなちーの生活に関係あるの?」
あ……
「……」
キーンコーンカーンコーン♪
間延びした鐘の音が、静かになった教室に響き渡ります。
「さ、さあ、授業ですよ」
「……誤魔化した」
「あはは……」
……鐘に救われました。
危ない、危ない。
― 南雲 瀬那:スパダリ朔也くん 完 ―
どうでもいいことですが……書いておいてなんですが……。
三日……うっ……頭が……。




