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学年一の才女を拾ったら癒されました  作者: PPHiT
第三章

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第188話 散る散る満ちる(R15)

 ―――――――――――――――――――――

 ◆ 作者より注意事項です / Author's Note: Content Warning ◆


 意図的とは言え、表現方法が性的な箇所があります。

 途中から飛ばしても、ストーリーには影響ありませんので、不快に思われる方は飛ばしていただけると助かります。


 Some parts intentionally contain sexual content or suggestive descriptions.


 These sections do not affect the main story, so if you find them uncomfortable, please feel free to skip ahead.

 ―――――――――――――――――――――



 Side:南雲 瀬那


 バスタオル一枚でデッキに出た私が考えていたのは一つだけです。


(大胆なことをしています……)


 朔也くんの『露天風呂、入るんだろ?』の一言で、『あ、バスタオル取らないといけません』と、その時初めて気づきました。

 ――朔也くんに体のすべてを見せるのだと。


 でも、戻るわけにも……いえ、一切、逃げたいとも思いませんでした。恥ずかしいけれど、覚悟を決めた私は、夜で真っ暗の空の下、彼の前へ歩きます。

 ――簡易なライトだけが私を照らすその中で……バスタオルを外しました。


(恥ずかしいです……。)


 顔から火が出そうなほど、朱くなっているのではないかと感じました。


『……綺麗だ』


 朔也くんのその言葉で、私は恥ずかしい気持ちよりも、安堵する気持ちの方が高かったです。

 自信がなかったわけではありません。手入れも毎日ちゃんとしています。けれど、不安が無かったわけではありませんでした。

 ……もし、朔也くんに呆れられてしまったらと……不安でした。


 毎日のスキンケアや運動を適度にして、体型維持を頑張ったかいがありました。


 金沢の時からわかっていましたが、お湯越しから見える朔也くんの体は、引き締まっていて綺麗です。ダビデ像と同じぐらいではないでしょうか。

 出会った当初よりも、胸板が厚くなっていたのは知っていましたが、こう、直に触れる機会はなかったので新鮮です。


 そう……今私は、体育座りをしている朔也くんの脚の間にすっぽり収まり、その胸に背中を預けています。

 正面で向かい合っていると、どうしても恥ずかしさが強まってしまって……すぐにのぼせそうだからこの姿勢にしました。


 ……でも、それは間違いだったかもしれません。


「良いお湯だな。大浴場の露天風呂も良かったけど、ここはここでいいな」

「……っ! そ、そうですね!」


 朔也くんの声が……いつもより色っぽく聞こえるのは気のせいでしょうか。

 その声が耳元で囁かれていたら……すぐにのぼせそうです!


 でも、この位置関係はこれはこれで安心するのですよね。

 前から抱きつかれるよりも、後ろが守られている感じが強く――落ち着く。


 デッキから見える景色は、大浴場とは少し違うので、新鮮な気持ちになります。どちらかと言うと雪山が中心になりますね。


 それに、もう夜遅くです。

 遠くから鐘の音がたまに聞こえますが、それ以外の音はほとんどなく、私たちに聞こえるのは、掛け流しのお湯の音と、私のうるさいぐらいの心臓の音。そして、いつも聞いているよりは早い、朔也くんの鼓動。


「……でも、一番は瀬那と入っているからかもな」

「!?」


 こ、この人は! なんでそんなに余裕なのですか! 心臓の動きが早いのは、私にバレていると言うのに、そんなに余裕綽々な風に装って!


「むー!」

「なんで唸ってるんだよ?」

「べっつにー。私はキャパシティがいっぱいいっぱいなのに、朔也くんは余裕そうですねーって思いましてー」


 後ろにいる朔也くんの胸に向けて、グリグリと自分の後頭部を当ててやります。

 これぐらいのイジワルはゆるされても良いはずです。


「やめろって、痛いって……余裕じゃない、ギリギリなのは俺の心臓の音が聞こえているからわかるだろ?」

「えぇ、聞こえています。聞こえているからこそ、その余裕っぷりが……ずるいです!」

「そんな理不尽な……」


 自分でも理不尽なのはわかっています。なら、開き直ったっていいじゃないですか。


 でも、もう一つ、彼が余裕が無いのがわかっていることがあります。


「ふふっ♪」

「楽しそうだな」

「もちろん、楽しいですよ。今年……いえ、もう去年ですね。去年は色々ありましたから……嫌な記憶もありますけど、楽しかった記憶の方が多いと思います」

「そうだな、色々あった。うん、色々あった」


 朔也くんが、ウンウンと噛みしめるように頷いているのがわかりました。


 あなたに出会う前は、嫌なことが多かったです。でも、出会ってから、あの時、拾ってくれた時から、楽しいことばかりです。


 あなたに出会わなければ……どうなっていたのか、考えたくありません。


「俺も瀬那と過ごしてから楽しいことばかりだな。……たまに、出会わなかったらどうなっていたかと考えることがあるよ」


 ……それは私も考えたことがあります。

 私の場合はどうなのでしょうね、あの公園で大変なことになっていたのか、それとも、叔母様に迷惑をかけてしまっていたのかわかりません。


 朔也くんはどう考えているのでしょうか……気になります。


「どうなっていたと思いますか? 例えば朔也くんが、どう違っていたと思いますか?」

「俺自身はどうだろうな……。浩紀や和人たちといるのは変わらないと思うけど、ちゃんと自分を出せて、今みたいな間柄になっていたかはわからないな。今の俺は瀬那が受け入れてくれたからこそ、あるところがあるし」

「そうですか」


 ……嬉しい。

 私があなたの力になれていたのなら、本当に嬉しい。

 朔也くんが後ろにいて本当に良かったです。今の顔を見られなくて、安心です。ニマニマしているのが触らなくてもわかります。


「それにストーカー(あのこと)は置いておいても、瀬那が元気でいられない可能性があるのは嫌だな。出会っていないならって言っているけど、どうしても瀬那のことは考えてしまう」

「ふふ、そうですか、そうですかー」


 もう、ニヤニヤしてしまう。


「そういう瀬那はどうなっていたと思うんだ?」

「え? ほぼ確実に、ちゃんと笑っていないでしょうね。死んでいた可能性まであります」

「……おい」


 呆れた声が聞こえてきましたが、気にしません。

 彼の胸に、さらに体重をかけて寄りかかります。


「冗談では無くてですよ。……それぐらい危険な状態だったのはわかっているでしょう?」

「それは……確かにそうだが」

「……ふふ、でも良いのですよ。ありえたかもしれないですが、ありえない if のことなんて。それよりも、今を楽しみましょうね」

「お前から聞いておいて、その締めかよ」


 理不尽パートツーってとこですかね。

 今の私は無敵なので大丈夫です。


「……実は、この状態はとても安心をしていたりします」

「……安心?」


 朔也くんが少し困惑していますが、これは何と言っても安心です。

 そう、安心なのですよ。


「私が何故一緒に入りたいか、理由がわかりますか?」

「理由ねぇ……単純に一緒にいたいってことぐらいしか思いつかない」

「それもありますよ。朔也くんが思っている以上に、私はあなたから離れたくないのです」

「思っている以上にか」


 背中越しに、朔也くんが小さく息を漏らしたのが伝わってきました。

 なんですかその反応は! どれくらいを想定しているのか、気になるじゃないですか!


「……まあ、それは置いておいて。今まで朔也くんに限らず、一緒にお風呂に入るって機会がほとんどなかったのです」

「そうか……」

「当たり前ですが、両親とは入るわけがなく、ひいおばあちゃんとも入る機会は、前に話した温泉の時ぐらいでした。物心ついた時にはすでにお手伝いさんに洗ってもらっていた記憶しかありません」


 ひいおばあちゃんはお歳だったし、当たり前ですがお手伝いさんと湯舟に入ることはありませんでした。

 叔母様とは何度かはありましたが……幼少期に一緒に住んでいたわけではないのでその機会はほとんどありません。


「なので、家族と一緒に入ることに憧れていました。……だから、朔也くんと入りたかったのです」


 まだ本当の家族では無いのはわかっています。

 でも、私としては一番家族に近い相手だと……感じていますし、朔也くんもそう思っていて欲しいです。


「そうか……なら、叶ってよかったよ。こういう機会でもなければ一緒に入る機会なんてそうそうない……ことも無いか」

「そうですよー。一度、一緒に入ったのですから、家に帰っても敷居はぐっと下がっています♪」

「ソウダナー」

「……なんですか、その反応は! 私と入るのは嫌だ……と?」


 本気でそう思っていないのはわかっていますが……不安になるのでちゃんと否定してください。


「そんなわけないだろ。ただ、俺が限界を迎えないかだけ心配なだけだ」

「……我慢をする必要はないのですよ? 正直に言うと、交際を始めてから、朔也くんは私に手を出さないじゃないですか……私に魅力がないのかと、心配になっているのです」


 その瞬間、朔也くんが後ろから私の手を握ってくれます。

 ……でも、抱きしめてほしいですね。


「違う! 俺たちは二人暮らしだろ。……だから、本来、高校生ならいるはずの、止めるべき親がいない。一度、たがが外れてしまったら……瀬那を泣かせることになりそうで怖いんだ」


 あぁ……やっぱり、朔也くんは優しいのです。自分の欲求よりも私を優先してくれます。でも、その優しさはたまに酷いってことも考えてほしいところです。


「朔也くん……」


 バシャ。


 振り返り、朔也くんと目を合わせます。

 恥ずかしいですが、もう今更です。


「おい!」

「……私は朔也くんに泣かされることはあっても、嫌だからってことはありません。それは断言できます」

「……」

「だから……私は、朔也くんが苦しいのは嫌です」


 我慢してるのはわかっています。

 ……だって、ずっと当たっていますから。


「……やめるならここまでだぞ。もう、これ以上は止まれない」

「言ったでしょ?『覚悟はしています』って」

「わかった」


 その短い返事の直後、朔也くんの腕が私の腰に回り、強く、けれど壊れ物を扱うような優しさで引き寄せられました。


 お湯がチャプンと跳ねる音と共に、私たちの距離がゼロになります。

 重なった唇から、熱を帯びた吐息が流れ込んできました。


 ただ触れるだけのキスではありません。朔也くんの舌が、私の唇をそっと割り開いて、内側の柔らかな粘膜をなぞります。


「んっ……ぁ……」


 甘く痺れるような感覚に、自然と声が漏れてしまいました。彼の熱が私の中に溶け込んでくるようで、頭の芯がトロトロに甘く溶けてしまいそうです。私も彼の首に腕を回し、その情熱的な口づけに、不器用なりに応えました。


 どれくらいそうしていたでしょうか。お互いの息が苦しくなって、ようやく唇が離れると、吐息と吐息が白く混じり合いました。


「……部屋に、戻ろう」


 熱を孕んで掠れた彼の声に、私は小さく、けれどしっかりと頷きました。


 立ち上がると、夜の冷たい空気が濡れた肌を撫でますが、私の体は芯から燃えるように熱くて、寒さなんて微塵も感じません。私たちは手を繋いだまま、デッキから直接、暖かい部屋の中へと足を踏み入れました。


「ほら、これ」


 部屋に戻ると、朔也くんはすぐさま、手元に用意してあった大判のふかふかのバスタオルで私をすっぽりと包み込んでくれました。


「……ふふ、随分と準備がいいですね」

「……一応、な」


 照れくさそうに視線を逸らしながらも、私の濡れた髪や体を、とても丁寧に優しく拭き取ってくれます。こんなに余裕がない状態でも、私を労わろうとする彼の手つきから、どれだけ大切に思ってくれているのかが伝わってきて、胸の奥が甘く締め付けられました。


「自分で拭けますよ」

「いい。……俺が、したいんだ」


 有無を言わさない低い声。水気をあらかた拭き取られた直後、朔也くんの腕が私の膝裏と背中に回り、ふわりと体が宙に浮きました。いわゆる、お姫様抱っこです。

 そのままそっと、柔らかいベッドの上へと下ろされます。


 シーツの滑らかな感触が素肌に触れますが、それよりも早く、朔也くんの温かく大きな体が私を逃がさないように覆い被さりました。


 至近距離で見つめてくる彼の瞳には、もう抑えきれない男の人としての切実な熱と、私への深い愛情が渦巻いています。


「瀬那……」

「朔也くん……」


 名前を呼び合った直後、再び、強く唇が重なりました。

 先ほどよりももっと深く、貪るように熱く――


 月明かりだけが差し込む静かな部屋の中で、私たちの重なる影と、甘く熱い吐息だけが、夜の静寂へと深く溶けていきました。


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