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学年一の才女を拾ったら癒されました  作者: PPHiT
第三章

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第185話 朔也が隠していた真実③

 Side:南雲 瀬那


 仲居さんが並べてくれた食事は、当たり前かもしれませんが、昨日とは別のメニューでした。


 今日の夕食も、信州らしい料理が所狭しと並んでいます。

 野沢菜漬けに、じゃがいものなます。じゃがいもを使ったなますは初めて見ましたが、この辺りでは一般的らしいです。きのこの胡桃和えなどの小鉢に、信州サーモンを使った手毬寿司とお造り。きのこ入りの茶碗蒸しや鶏の朴葉(ほおば)味噌焼き、さらに卓上にはみゆき豚と地野菜の小鍋まで用意されています。


 そして今日は大晦日ということもあって、小さな年越しそばまで添えられていました。食後の甘味には、信州りんごを使ったアイスクリームです。


「今日も豪華ですね。年越しってこともあって、手毬寿司までありますよ!」

「美味しそうだな」

「はい。私も負けられません。もし来年は自宅で過ごすのなら、おせちを用意しますね」


 朔也くんがまた忘れない限り、来年は自宅で年を越すことになるかもしれません。

 それなら、今年に負けないくらい用意しないと!


「おせち作れるのか?」

「もちろん、全部を作っている時間はありませんから、既製品も使いますよ」

「作れはするのかよ……すごいな」

「ふふ、そんなことはありませんよ」


 おせちを作れることについては、少しだけ自慢です。ひいおばあちゃんに叩き込まれましたからね。

 もちろん、何でも作れるわけではありません。かまぼこなんかは、さすがに作ったことありませんし。


 そんな話をしながら、まずは手毬寿司を一つ口へ運びます。

 見た目は小さくて可愛らしいですが、口に入れると信州サーモンの脂が広がって、思わず頬が緩みました。


 朔也くんも朴葉味噌焼きを気に入ったようで、ご飯と一緒に何度も箸を伸ばしています。


 しばらくは目の前の料理に舌鼓を打ちながら、他愛のない話をしていました。

 そして料理をほとんど食べ終えた頃、朔也くんが湯呑みを置き、こちらへ目を向けます。


「……さて、そろそろ続きの話をしようか」

「……はい」


 私も一度箸を止め、姿勢を正して朔也くんの目を見ます。

 真剣な表情ではありますが、つらそうな色は見えません。


 それだけで、少し安心しました。


「エレノアが言ってたことだけど、先に言っておくと、ここからはほとんど俺の予想だからな」

「以前もそう言っていましたね」

「ああ。和人たちに確認したり、ちゃんと調べたりすればわかることもあるかもしれないけど……そうすると逃げられなくなりそうだから、してない」

「……つまり、危ないことなのですか?」


 自然と、テーブルの上に置いていた手へ力が入ります。


「多分な。俺が和人がそういうことに関わってるんじゃないかって思ったのは、一学期の最初の頃……瀬那と暮らし始めてすぐくらいかな」

「……結構前からなのですね」

「そうだな。体育の着替えの時にメガネを外したんだけど、たまたまその時、和人が魔導具らしきものを持ってるのが見えたんだ」


 メガネを外せばそういうものが見えるのでしたら、何かの拍子に見えてもおかしくありません。

 話を聞きながら、残っていた小鍋へ箸を伸ばします。


「なるほど」

「だからって、その場で問い詰めたりはしなかった。和人が悪い奴じゃないのはわかってたけど、当時はまだ深いところまで知ってるわけじゃなかったからさ」

「そういうことですか」


 そこまでは理解できます。

 今でこそ森田さんは朔也くんの親友と言ってもいいですが、一学期が始まったばかりなら、まだ付き合いも浅かったはずです。


「……夏休み辺りからしばらく、血痕が残ってるって事件があったの覚えてるか?」

「そういえば、ニュースになっていましたね。最近は特に聞かなくなりましたが……」


 小鍋から野菜を取り分けようとしていた箸が止まりました。


「……えっ? それって、森田さんが……?」

「多分、それに関係してる。前に一人でその現場を見に行ったことがあるんだ」


 ひゅっと体温が下がるのがわかりました。この流れで考えたら……危ないところに行ったことになります。


「あ、危ないことしないでください!」

「昼間だよ。それに、もう普通に人が通ってたしな」

「そうかもしれませんが……もう、黙って行くのは止めてください!」


 思わず眉を寄せます。

 安全だったからいい、という話ではないと思うのですけど。


「ごめん、ごめん。まあ、その時、和人と……天童が一緒にいたのを見たんだ」

「天童さんも……?」

「そうだ。ちなみに瀬那は知らないだろうけど、文化祭の時、エレノアが天童のことも知り合いみたいに口にしてたんだ」


 朔也くんのクラスにエレノアさんが来たときは、私は自分のクラスにいましたから、話した内容は知りませんでした。


「つまり、以前から関係があったということですね」

「そういうこと。和人と天童の付き合いって中学の頃かららしいし、まあ、エレノアとも中学の時からの付き合いなんじゃないかな」

「……それを聞くと、私もそう考えます」


 朔也くんは一度視線を落とし、それから小さく息を吐きました。


「だろ? 俺の予想だと、あいつらは何かと戦ってる。それが何なのかまではわからないけど、それと『東條家』と『南雲家』が関係してるってことなんだと思う」


 自分の家名が出てきたことで、胸の奥がざわつきます。


「エレノアさんの言い方だと、そうなりますよね……」


 先ほどまで美味しかった料理が、急に遠く感じます。


 森田さんや天童さん。

 いつも学校で見かけている人たちが、自分の知らないところで何かと戦っている……まだ推測でしかないとわかっていても、不思議な気分です。


「これも推測だけど……古閑さんが亡くなったこととも、関係があるんじゃないかって考えてる」

「……それは、なぜですか?」

「エレノアが俺を勧誘してきたから。それも、少し切羽詰まった感じでな。何も問題ない状態なら、実績も何もない高校生の俺を誘うとは思えない」

「……」


 私は湯呑みに手を伸ばし、一口だけお茶を飲みます。

 温かさが喉を通っても、頭の中に増えていく疑問までは流してくれません。


「古閑さんが亡くなった原因まで関係してるって意味じゃないぞ。そこは何も知らない。ただ、古閑さんがいなくなったことで、魔導具を作れる職人が足りなくなってる可能性はあると思ってる」

「古閑さんが亡くなったことで、必要なものを作ったり、調整したりできる人が足りなくなった……?」

「そう。だから、あいつも俺に刀の加工を頼んだんじゃないかなって思ってる」


 あいつ……九州の友達のことですね。


「……辻褄は合いますが、何も決定的な根拠はない。推測の域を出ないということですか?」

「そういうこと。だから、あまり瀬那にも言いたくなかったんだ。無駄に不安にさせるだけだから」

「理由はわかりました。黙っていたことも……納得します」

「ありがとう」


 そこで朔也くんが一度言葉を止めました。


 ですが、まだ何かある。

 そんな表情をしています。


「ちなみに、南雲家がこれに関係してるのは、ほぼ確定してる」

「……え?」


 今までで一番身近な言葉が出てきて、背筋が伸びました。


「墓参りしただろ? あの時に立ってた塔と、墓に揺らぎが見えた」

「……っ!?」

「加えて言うと、掃除してる時にわかったけど……墓、一つ一つが魔導具だった」

「……」


 持っていた箸を、静かに置きました。

 頭の奥から、ずっと昔に聞いた言葉が浮かんできます。


「それって……『南雲の体は死体でも利用価値がある』」

「急に何を――」

「以前、ひいおじいちゃんたちが話しているのを聞いたことがあるのです」

「……そうなると、あの墓には何か関係がある可能性はあるな。……あと、東條家については、南雲家と同じくらい大きな家ってことぐらいしか調べてないんだ」


 しばらく、どちらも何も言いませんでした。

 卓上の小鍋だけが、コトコトと小さな音を立てています。


 今日一日だけで、私が『普通』だと思っていたものが、いくつ壊れたのでしょうか。


 朔也くんのお守り。

 魔導具。

 森田さんや天童さん。

 そして今度は、南雲家。


 青天の霹靂というほど突然ではありません。

 けれど、自分が今まで見ていた世界の裏側を、一枚ずつめくられているような気分です。


「俺が知ってるのは、ここまでだ。……ほとんど予想の域を出ない話だからさ、今はあまり気にしなくていいと思うぞ」

「この流れで、それはすぐには無理ですよ……」

「これから花火見るんだろ? 気持ち切り替えていこうぜ」

「……朔也くんって、そういうところありますよね」


 思わず苦笑してしまいました。

 ですが、このまま答えの出ないことを考え続けても仕方ありません。


「でも、そうですね。今考えても答えは出ませんからね」

「そうそう。それに、せっかくの大晦日だしな」


 私は話している間に少し柔らかくなったアイスクリームへスプーンを入れ、大きめにすくって口へ運びます。


「んっ――冷たっ!」


 一気に口の中が冷えて、思わず目を細めました。

 でも、その直後にはリンゴの甘酸っぱさが広がります。


「あー、冷たくて美味しい! ややこしいことは、ここまでにしましょう! 年越しです!」

「そうだな!」


 無理やり明るく振る舞おうとする私と、多分、素でテンションを上げている朔也くん。


 その違いが少しおかしくて、今度は自然と笑えました。


 食事を終えた私たちは、仲居さんへ連絡をして片づけをお願いし、その間に今夜の予定をもう一度確認します。


「花火を見て、そのあと神社ですよね?」

「その予定。昨日バスで教えてもらった場所から花火見て、そのまま歩いて神社に向かえばちょうどいいんじゃないかな」


 窓の外に目をやると、日はもうすっかり傾き始めていました。


「では、少し暖かめにして行きましょう。夜ですし、今朝より寒いかもしれません」

「そうだな。カイロも持ってくか」

「はい♪」


 わからないことは、まだたくさんあります。

 でも今は――大晦日を楽しみましょう。


(それに――後でもう一度お風呂に入らないといけませんしね♪)


 その時の私は、朔也くんが今日の話の中で、一つだけ話しそびれていることがあるとは気づいていませんでした

 それを知ることになるのは、そう遠くない未来のことです。



白状すると、ちょっとやりたいことがあって、別で並行して進めていたものがあるのです。

それが……間に合わなくて……この辺りの展開が、少し唐突に見えてしまうかもしれません。


いつか「ああ、そういうことだったのか」と思ってもらえる形で、お伝えできればと思います。




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