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学年一の才女を拾ったら癒されました  作者: PPHiT
第三章

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第183話 朔也が隠していた真実①

 Side:南雲 瀬那


「あの時、心の状態以外にも、もう一つ変化があったんだ。こっちについては、原因はわかっていないけどね」


 以前、朔也くんから過去のことを聞いた時を思い出し、胸がキュッと締めつけられました。

 あの時の朔也くんは、このまま壊れてしまうのではないかと思うくらい切羽詰まっていたからです。


 ですが、今の彼にそんな様子はありません。むしろ、どこかばつが悪そうな顔をしています。この件について黙っていたことを、多少なりとも後ろめたく思っているのでしょう。

 ……これについては、ちゃんと反省してほしいものです。


「……花火大会の時、そのことを話さなかった理由はあるのですか?」

「あるよ。とは言っても、あの時は結構きつい話をしてただろ? 本筋と関係ない話まで入れたら、情報過多になるかなって」

「情報過多……」

「それに、いじめの件とは違って、こっちは常識そのものを疑うような内容だからな。下手したら、俺がふざけてるように聞こえるかもしれないと思った」


 言いたいことはわかります。


 ある程度覚悟していた今でさえ、先ほどの『魔力』や『魔導具』という言葉だけで、頭が混乱しかけています。

 あの時の私が同時に聞いていたら、素直に受け止められたかどうか……。


 いじめの件も、私としては常識を疑いたくなるような酷い内容でしたけどね。


「あとは、今まで言ってこなかった理由と同じだな。こないだ言った通り、瀬那が知ることで何かに巻き込まれるんじゃないかって思ってた。リング(それ)を持たせた俺が言うのもなんだけど」

「……でも、エレノアさんの言葉を考えると、私は知らないといけないような気がします」

「それについても、俺が知ってる範囲なら話すよ」

「はい、お願いします」


 私が頷くと、朔也くんは一度姿勢を正しました。

 それから口元へ手を当て、どこから話すべきか考えるように視線を落とします。


 彼が考え事をする時に見せる癖。

 本人に言わせれば『ルーティーン』です。


「……まず、あの出来事から数日くらいして、ある違和感が出てきたんだ」

「違和感ですか……?」

「石……特に宝石だな。それと、人間を含めた生き物の中にも、たまに揺らぎみたいなものをまとっている奴がいたんだ」

「……揺らぎ?」


 この話を聞く以上、常識を打ち捨てた方がいいかもしれません。

 揺らぎ……フィクションと照らし合わせるなら、オーラのようなものでしょうか。


「ああ。最初は何なのかわからなかった。身体に大きな負担がかかった後だったし、何か体に異常でも出たのかと思ったんだ」

「それは……心配になりますよね」

「だから病院でも一通り検査してもらった。結果としては特に問題なし。それで、単純に目が悪くなったんじゃないかって話になった。実際、視力も落ちてたから、その時にメガネを作ったんだ」


 この時からメガネを付けているのですね。


「……異常がなくて良かったです、と言っていいのですよね?」

「いいんじゃないか。少なくとも、病気とかそういう意味での異常じゃなかったわけだし。今となっては、このことは悪いことだとは思ってもいないしな」


 そこで一度、朔也くんは言葉を切りました。


 今まで当たり前のように見ていた彼のメガネにも、そんな時期からの歴史がある。

 そう考えると、妙な気持ちになります。


「まあ、しばらくは気にしないようにしてたんだけど、その後いじめの件が大きくなり始めた頃に、須藤先生と精神科の先生から『一度環境を変えた方がいいかもしれない』って話をされたんだ」

「環境ですか?」

「前にも言ったけど、俺が転校するのはおかしいし、他にもピアスとか、いろいろ問題があった。だけど、そのまま学校へ通い続けるのも、もう少し状況が落ち着くまでは居づらいだろうって。俺の精神状態を落ち着かせる意味もあったんだろうな。それで、一度じいちゃんの家に避難した」

「お祖父様(じいさま)ですか……母方の?」


 朔也くんのお母様のことは聞いています。

 そのご両親となれば、少し心配になってしまいました。


「いや、父方。実父の親だな。小さい頃から鳳のじいちゃんたちには優しくしてもらってたから、連絡したら快く引き受けてくれた。それに、住んでる場所が遠かったってのもある」

「お祖父様にとっては、離婚しても孫には変わりありませんからね。……遠いのですか?」

「ああ。熊本だ。中学に入るまでは年一くらいで行ってたんだよ」

「熊本……」


 それは初耳です。


 お互い家族に複雑な事情があることもあり、朔也くんとは家族や親戚の話をあまりしてきませんでした。

 だからでしょうか。

 こうして知らなかった彼の過去を一つずつ知ることが、少しだけ嬉しく感じます。


「結構自然が豊かなところでさ。俺は気に入ってるけど、都会に慣れてる人には少し物足りないかもしれない」

「私がひいおじいちゃんたちと暮らしていたところも、似たような場所ですよ?」

「そうか。だったら、一度一緒に行ってみてもいいかもな。瀬那なら、じいちゃんたちも普通に受け入れてくれるだろうし」

「はい!」


 それはぜひ行ってみたいです。


 熊本にも興味はありますし、お祖父様たちにも会ってみたい。

 何より、小さい頃の朔也くんについて聞ける数少ないチャンスですからね。


 逃してはいけません。


「そんな感じで、熊本には二ヶ月くらいいたんだよ。勉強はリモートで済ませてたんだけど……まあ、その辺はいいや。その時、気分転換がてら、じいちゃんが友人の職人がいる工房へ連れていってくれたんだ」

「……職人?」

「ああ。古閑(こが)さんっていう人なんだけど、金属や宝石なんかを使って装飾品を作ってた。普通のアクセサリーもあったけど、主に祭具とか、そういう特殊なものだな」

「祭具……」


 先ほどまでとは違う単語が出てきました。


 でも、なぜでしょう。

 ここまでの話を聞いた今では、『ただの職人さんではなかったのだろう』と自然に思えてしまいます。


「工房に着いたら、さっき言った揺らぎみたいなものが、そこら中の作品から見えたんだ。それまで見てきたものより、ずっとはっきりとな」

「……」

「それに……古閑さん本人からも見えた」

「……それって」


 朔也くんは少し声を落とし、私の目をまっすぐ見ました。


「そう。あとでわかったけど、リング(それ)と似たようなものを作ってる人だった」


 私は思わず額へ手を当てました。


 こういうものを作れる人が朔也くんだけではないだろうとは思っていました。

 思っていましたけど……。


「……情報が……情報が多いです……」


 朔也くんの身体に起きた変化。

 知らなかった熊本での生活。

 そして、そんな不思議なものを作る職人さん。


 少しずつ、私が今まで『普通』だと思っていた世界の形が崩れていきます。


「そうかもな。……そうだ、ちょっと待ってて」


 そう言うと、朔也くんは立ち上がり、冷蔵庫へ向かいました。

 戻ってきた両手には、お茶と水。そして炭酸飲料。


「一回休憩しよう。お茶と水、どっちにする?」

「……これです」


 私は差し出された二択を完全に無視して、炭酸飲料を奪い取りました。


「そっちは選択肢に入れてないんだけど」

「今の私には、炭酸が必要なのです」

「何だよ、その理屈……」


 プシュッ、と蓋を開けます。

 そして、そのまま勢いよく一口。


「んっ……んんっ――ごほっ! ごほっ!」

「何やってんだよ!?」


 ……炭酸が、思った以上の勢いで喉を攻撃してきました。

 すかさず朔也くんが私の背中をトントンと叩いてくれます。


「大丈夫か?」

「ごほっ……だ、大丈夫です……」


 もう少しで溺れるところでした……。こんなに炭酸って強かったでしたっけ……。


「瀬那って炭酸飲んだっけ?」

「……久しぶりに飲みましたね」

「なんで久しぶりの炭酸を、そんな勢いで飲んだんだよ」

「なぜか、とっっっても飲みたい気分になったのです!」

「そ、そうか……」


 ようやく呼吸を整えます。


 ……ですが、確かに少し頭はすっきりしました。

 別の意味で。


 顔を上げると、朔也くんがじーっとこちらを見ています。


「……何ですか」

「いや、本当に大丈夫かなって」

「大丈夫です。頭はまだ追いついていませんけど、さっきまでみたいに心配になる話ではないので」

「そりゃ良かった。この後も、少なくとも極端に重い話はないはずだ」


 少し安心しました。

 驚くことばかりではありますが、過去のつらい出来事を聞いていた時とは違います。混乱はしていても、胸が苦しくなるような話ではないのですから。


「じゃあ続きを。……俺は紹介してもらった次の日、もう一度工房を訪ねたんだ。どうしても、自分に見えてる揺らぎが何なのか知りたくてさ」

「はい」

「……で、直球で聞こうと思ったら……」

「思ったら……?」


 朔也くんは、当時のことを思い出したのか、少しだけ口元を緩めました。


「向こうから先に言われたんだよ。『お前、これがどういうもんかわかっとるな?』って」

「え?」

「俺が力の強い品ばかり目で追ってたから、古閑さんも気づいたらしいんだよ」


 私は無意識に背筋を伸ばしました。私の心臓は強く……強く波打っていました。


 朔也くんにしか見えていないと思っていた『揺らぎ』。その正体を知る人が、初めて目の前に現れたのですね。


「……それで?」

「そこから教えてもらったんだよ。俺に見えてるものが、いったい何なのかを」


 朔也くんのアクセサリー……魔導具へと繋がる、本当の始まりを。


補足。

作中で明言していなかった(わざとではなく、抜けていました)と思いますが、朔也の旧姓『鳳』は実父側の姓です。


両親が離婚しても、子どもの名字は自動的には変わらないため、朔也の母親もそのまま『鳳』を名乗っていました。

当時は離婚や学校での事件などが、ほぼ同時期に重なっていたうえ、朔也自身も中学の途中で名字が変わることに抵抗があったため、母親側の名字へ変更する手続きはしなかった、という設定です。


その後、母親の再婚を経て現在の『東條』姓になっています。


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