↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
学年一の才女を拾ったら癒されました  作者: PPHiT
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

217/257

第180話 長野旅行⑥

 Side:南雲 瀬那


 窓の外から聞こえる、シャッ、シャッという何かを擦るような聞き慣れない音で、私は目を覚ましました。……少しだけ身体が痛いです。

 顔がいつもより冷たく感じるくらい、部屋の空気も冷えています。


(冷たい……でも、これはこれで気持ちいい)


 ぬくぬくと布団の中に収まっている身体と、布団から出ている顔との温度差が激しくて、それが気持ちいい。

 昨日の露天風呂みたいです。


 聞き慣れない音とは対照的に、目の前にいるのは、いつも通りの寝顔をしている朔也くん。

 浴衣の上にパーカーを羽織るという独特な格好ですが、彼が近くにいることがわかり、ほっとします。


 ……とりあえず、胸元に顔を埋めておきましょう。


「スゥー……」


 うん、落ち着きました。

 頭も冴えてきます。


 そうです。

 私たちは旅行で野沢温泉にいるのでした。


 自宅付近では雪があまり降らないので、最初は何の音かわかりませんでしたが、どうやら外で雪かきをしているようですね。


 朔也くんを起こさないように布団から出ると、隣から私の体温がなくなったことに気づいたのか、彼がもぞもぞと動きました。


 こういう姿を見ると写真を撮りたくなりますが、さすがに起きてしまいそうなので、今日はやめておきましょう。


 ベッドから離れて身体を伸ばすと、筋肉痛があることがわかりました。

 昨日は普段あまり使わない筋肉をたくさん使ったので、覚悟はしていましたが、予想より酷くはなさそうです。

 お風呂上がりにストレッチをしたおかげでしょうか。


 時計を見ると、まだ五時半。

 昨夜はいつもより随分と早く布団に入ったので、この時間でも頭はすっきりしています。

 いつもと違う場所なのに安心して眠れたのは、横に朔也くんがいたからでしょうね。


 ベッドへ直接光が差し込まない側のカーテンを開け、外を見てみると――


「わぁー、綺麗……」


 ――昨夜も雪が降っていたようで、山だけではなく、近くの林まで白一色です。まるで、世界ごと生まれ変わったみたいです。


 これだけ雪があれば、寒いのも当たり前ですね。

 窓を少しだけ開け、デッキへ出てみます。その瞬間、予想通り、肌を刺すような冷たい空気。

 でも、その冷たさはどこか清々しく、息を吸い込むと頭まで冴えるようでした。


「冷たいですが……気持ちいいです。空気が美味しいって、こんな感じなのでしょうね」


 口から吐いた息が、白い雲のように広がります。

 雪国に来たのは初めてだと……思っていたのですが。


(あれ? この感じ、小さい頃にも味わったことがあるような……?)


「うーん……」

「デッキで唸って、どうしたんだ?」

「……っ! 朔也くん、起きたのですね……あっ、起こしてしまいましたか?」

「いや、自然と目が覚めたよ。寝るの早かったからか、ぐっすり寝た気がする」


 奇しくも、私と同じようなことを思っているようです。

 もし「私が横にいたからですよ!」と言ったら、どんな反応をするでしょうね。


「それにしても、空気が冷たくて気持ちいいな」

「うふふ、私もそう思います」

「?」


 同じ時間、同じ場所。

 こうやって一緒に過ごせるって、いいものです。


 本当に。


「さて、朝食の時間まではもう少しありますけど、準備だけ先にしちゃいましょうか」

「そうだな。朝食は朝食で結構楽しみなんだよな」

「わかります! ビュッフェにハマりそうですもの」


 とりあえず、顔を洗いに行きましょう。


 今日は大晦日。

 一年の最後の日ですから、いい一日にしましょう♪


 ◇


 朝食会場が開く時間になったので、私たちは部屋を出ました。

 パタパタとスリッパで館内を歩くのは、なんだか新鮮な気持ちです。


 朝の準備はほぼ終わっていますが、まだ着替えはしていません。

 なんとなく、旅館という場所なら浴衣のままの方が自然だと思えてしまったからです。


 朔也くんも「なんとなくわかる」と言って、一緒に浴衣姿です。

 こうやって二人並んで歩くと、なんだか恋人らしい感じがしますね。


 今回でビュッフェは三度目ですが、場所によってメニューが違い、それぞれの土地の特産品が並んでいるのが楽しいです。

 次の旅行では、また別の土地の料理も楽しんでみたいものです。


 食事をしながら、今日の予定を確認することにしました。

 元の予定では今日がスノボーデーだったので、どうするのか気になります。


「今日はどうしましょうか?」

「そういや決めてなかったな。俺としては今日もスノボーしたい――」

「ぜひに!」

「――けど、どうかなって言うつもりだったんだけど……食い気味に来たな。なら、そうしようか。明日の朝は遅くなるかもしれないし、今日は天候も良さそうだしな」


 年越しの今夜は、近くの神社へ行く予定です。

 帰ってくる時間も遅くなりそうなので、明日の朝はゆっくりになるかもしれません。


 それなら、朝から動けて、天気も快晴の予報になっている今日にスノボーをする方がいいというのは私も同感です。


 それに――


「俺もだけど、瀬那もスノボーにハマったみたいだな」

「えぇ。ああやって身体を動かすの、楽しいです! 少しだけ筋肉痛ですけど、動いているうちにほぐれると思います」

「良かったわ、瀬那も筋肉痛があって。……これで俺だけだったらどうしようかと」

「筋肉痛に恥ずかしいも何もないと思いますよ」


 変なところを気にしますね。

 お互い筋肉痛が酷くないのなら、今日も無事にスノボーはできそうです。


「今日は林間コースってところに行ってみるか? 初心者向けだけど、昨日より距離が長いらしいから、大変かもしれないけどさ」

「いいですねー。林の中を通るのでしょうかね。さすがにコースの真ん中に木が生えているとは思えませんし」

「どうだろうな? 調べてみるか……ホームページの写真を見る限りは、瀬那の言ってる感じだな」


 朔也くんは、検索した結果を私に見せてくれました。


 そこに映っていたのは、左右を木々に囲まれた道を滑っている人たち。

 道幅は昨日のコースより随分と狭いですが、イメージしていた通りのコースでした。


「想像通りですね……あっ! でも、コース脇が急な斜面になっていますね」

「そうみたいだから、そこだけ注意だな」

「気をつけましょう」


 今日も楽しい一日になりそうです。

 今年の大晦日はこんなにワクワクできるなんて……嬉しいです。


 ◇


 昨日と同じく、シャトルバスに乗って雪山へ向かいます。

 今日は部屋で着替えてきたので、朔也くんは何やら安心していました。


 ……解せません。

 どういうことでしょうね!


 それはさておき、チケットを買い、ボードとブーツを借りたあとは、そのまま林間コースへ。


 コースのスタート地点は、写真で見たよりもずっと広く感じます。

 ここから少しずつ狭くなっていくのでしょう。


 傾斜もそこまできつくなく、初心者向けというのも納得です。


「さて、行こうか」

「はい!」


 滑り出して三十秒もしないうちに、コースの脇が急斜面になっている区間へ入りました。崖というほどではありませんが、コースの端には目印のポールが等間隔に立っています。写真で見た時よりも、実際に滑っている方が少し緊張しますね。


 とはいえ、コース自体は緩やかです。


「思ったより速度が出ませんね」

『その感想って……スピード狂じゃないんだからさ……』


 耳につけたイヤホンから、朔也くんの呆れた声が聞こえます。

 実は朔也くんが、いつの間にかインカムを買って持ってきていたのです。


『使うことはないだろうけど、念のために持ってきた』


 と本人は言っていました。


 昨日は手続きの流れや、実際にどんな感じで滑るのかわからなかったので持ってこなかったと言っていましたが……私はわかっています。


 忘れていただけだと。


 荷物を整理している時、


『あっ、これがあったんだった』


 と、小声で言っているのが聞こえましたからね。

 サングラスといい、用意周到なのか、おっちょこちょいなのかわかりません。


『崖かと思ってたけど、急斜面ってだけっぽいな。……落ちたら怪我はするだろうけど』

「本当ですよ。だから、落ちないでくださいね」


 私より無茶をしそうな彼に、念を押しておきます。

 運動能力に不安があるわけではありませんけどね。


『俺を何だと思ってるんだよ?』

「五階から躊躇なく飛び降りる人です。私はまだ覚えていますよ?」


 文化祭のあの件。


 肝が冷えるとは、ああいうことを言うのでしょう。

 今でも、あの時に急激に体温が下がったような感覚を覚えています。


 意地悪なのはわかっていますが、どうしても突っつきたくなるのです。


『……その節はご心配をおかけしました』

「ふふっ。だから、ここではやめてくださいね」

『わかってるよ』


 これ以上突っつくと拗ねてしまいそうなので、この辺りでやめておきましょう。

 その後も、


『あそこは結構速度が出たな』


 とか、


「ここは少し難しかったです」


 などと話しながら滑っていきました。


 ズザー!


「ふぅ……楽しかったです!」


 コースを滑り切り、林を抜けて少し進んだところで、他の人の邪魔にならないよう端へ寄って止まります。


 時間を確認すると、三十分くらいかかっていました。

 集中していたからか、そこまで長く滑っていた感覚はありません。


 ほんの数分くらいに感じました。


 ズザザー!


「おっとと……」


 雪を削る音とともに、すぐ近くに誰かが止まる気配。

 ほぼ同時に、私の肩へ手が置かれました。


「思ったより長かったけど、気持ち良かったな」


 振り返らなくても誰なのかはわかります。

 少し後ろを滑っていた朔也くんも到着したようです。


 それほど離れていなかったので、私がどこで止まったのかも見えていたのでしょう。


「気持ち良かったですね!……もう一度、滑ってもいいですか?」

「もちろん。俺も滑りたいしな」

「はい!」


 自分でも、声が弾んでいるのがわかります。


 楽しい!

 本当に楽しい!


 経験のないスポーツなのですから当たり前ですが、正直、ここまで楽しいとは思っていませんでした。


 冷たい風が頬をかすめるのも気持ちいい。

 バランスを取るのは思った以上に神経を使いますが、その緊張感も嫌いではありません。

 何より、少しずつできるようになっていく感覚が楽しいです。


 ――だから、私は少し油断していたのだと思います。


「きゃあ!」


 ――まさか、こんなことになるとは。今、私の視界は真っ白になっています。



どうでもいいですが、私の場合、急に冷たい空気をいっぱい吸ったら……




……むせます(´・ω・`)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。