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学年一の才女を拾ったら癒されました  作者: PPHiT
第三章

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第178話 長野旅行④

 俺が衝撃的な一言に唖然としているのをよそに、瀬那はスーツケースの中身を整理していた。

 女性ということもあって多くなった荷物を、使いやすい場所へと置いていく。ヘアアイロンやメイク道具などなど。


「いつまで呆けているのですか? 準備しないと夕食の時間になりますよー」

「はっ!」


 瀬那の一言で、俺は我に返った。


 すげーことを言われた気がしたが、きっと気のせいだろう。

 夢か何かだ。


「大丈夫ですか?」

「変な妄想をしてた。瀬那、さっき……その……一緒に風呂に入るって言ったか?」

「はい、言いましたよ」


 まじか、現実だったか……。


「……お前さ、着替えの時にも言ったけど、もう少し恥じらいを持てよ」

「だから、恥じらいくらいありますって。ただ、朔也くんとはすでに交際していますし、同棲もしています。そこまでおかしなことではないと思いますよ?」


 恋人同士で一緒に風呂へ入ること自体は、別にあり得ない話ではないのだろう。

 ……だが、俺たちはそういう距離感では、まだなかったはずだ。


「……あのな、俺だって男だぞ?」


 もしかすると、俺を男として認識していない可能性が……。


「もちろん知っていますが?」


 ……そんなわけないか。


「……何するかわからんぞ?」

「……もちろん覚悟の上ですよ」

「……っ!?」

「そもそも嫌だったらこんな提案しませんよ」


 こ、こいつ……この旅行で言うことか!?

 テンションが上がっているからかもしれないし、いつもと違う環境だからこその暴走かもしれない。


 ……でもな。


「それに、朔也くんには半分は手を出されているようなものですし」

「……お前な」

「うふふ」


 この反応を見る限り、半分くらいは俺の反応を楽しんでいるのだろう。

 とはいえ、よく見ると指先は落ち着きなく動いている。


 ……こいつも普通に緊張してるじゃねーか。


 体調不良やどちらかが泊まりでいない時でもない限り、そもそもここ半年近く添い寝をしている。

 そう考えれば、今さらと言われるのもわからなくはないのだが……。


「私は、いつも朔也くんの近くにいたいのですよ。でも、朔也くんは優しいので、そのせいで無理をさせていないか、たまに心配になるのです」


 そう言った瀬那は、さっきまでの余裕が嘘のように視線を泳がせた。


 恥ずかしいだろうによく言うものだ。

 それに、変な心配をするもんだな。


「言いたいことはわからなくはないが……飛躍しすぎだろ」

「そうですか……では、お風呂に入りましょうか!」

「待て! まだ心の準備が!……あ、明日にしよう!」


 声には出していないが、口元だけで「えー」と言いたげな状態になり、お得意のジト目をこちらへ向けて――


「……ヘタレましたね」


 ――刺さる言葉を放った。

 ……これについては、自覚しています。


「……否定はしない」

「ふふっ。朔也くんがそう言うとは思っていましたから、いいですよ。だけど、言質はもらいましたからね!」

「……急だったから狼狽えただけだ。先に話を聞いていれば大丈夫だ」

「へーそうですかー期待しています♪」


 瀬那にしてやられた感は強いが、最初くらいは俺にも心の準備をさせてほしい。


 それにしても、どうして瀬那はそこまで一緒に入りたいのだろう。

 単なるスキンシップ……にしては、少し思い切りが良すぎる気もするが。


 ◇


 お互いにスーツケースの中身を整理し、ウェアを脱いで干しつつ、今朝から着ていた服へ着替えた。


 ……もちろん、仕切りを挟んで別々にな。


 この旅館には浴衣も用意されている。

 ただ、浴衣はそのまま寝間着にするつもりなので、風呂へ入る前から着て汚したくはない。

 ということで、今朝から着ていた服のまま大浴場へ向かうことにした。


『部屋のお風呂なら、そんなこと気にしなくていいのですけどね』


 という瀬那のツッコミは、聞かなかったことにした。

 そして現在、俺は大浴場にいる。特に感慨もないが、一応報告しておく。


 よくある大浴場の造りで、壁際に身体を洗う場所が並び、何十人も入れそうな大きな浴槽が室内と露天に一つずつある。

 どちらも同じ源泉から引いているらしいが、室内の方には一部ジェットバスもついているようだ。


 身体を洗ったあと、まずは室内の浴槽へ入り、周囲を眺める。


 メガネがなくてもまったく見えないわけではないので、こういう時でもどうにかなる。もっと視力が低い人だと大変だろうな。


(……メガネがないと、やっぱり少し眩(・)し(・)い(・)と(・)こ(・)ろ(・)があるな)


 浴場の中に置かれている、一メートルくらいありそうな石の塊をぼんやり眺める。

 ……なんでこんなものが室内にあるのか、謎である。


「わー! ひろーい!」

「こらー、走らない!」


 周りには観光客や、それこそスキーをしに来たのであろう親子連れや若い人たちが多かった。


 俺は肩までゆっくり浸かったあと、露天風呂の方へ移動する。

 外へ出た瞬間、冷たい空気が火照った身体を撫でた。


 まだ、完全には日が沈んではいない、それが綺麗な色を出していた。

 その光を受けた雪山が淡く染まっていた。


(瀬那も、この景色を見ているのだろうか)


 湯に浸かりながら、ふと彼女のことを思う。

 前回の旅行でも、温泉は良かったと言っていた。きっと今頃、向こうでも楽しんでいるだろう。

 瀬那が喜んでくれるだけで、俺としては十分だ。


 ◇◇◇◇◇


 Side:南雲 瀬那


 髪をまとめ、お湯に浸かりながら、私は先ほどのことを思い出していました。

 湯船に映る自分の顔は、思っていた以上に赤かった。


(またやってしまいました……)


 どうしてでしょうね。朔也くんの前だと、口を滑らせることが多い気がします。

 ……それも、少し恥ずかしい方向で。


 朔也くんと一緒にお風呂へ入ってみたかったのは本当です。

 今まで、誰かと一緒にお風呂へ入る機会がほとんどなかった私にとっては、それは特別なこと。

 ……大切な人となら、なおさらです。


 だから、朔也くんと一緒に入りたいという願望は以前からありました。


 泊まる部屋にお風呂が付いていることも、私は最初から知っていて……朔也くんが気づいていないのにも気づいていましたが、あえて教えなかったのは内緒です。

 彼が何かのついでに旅館のサイトを見て、部屋を確認したらすぐにバレてしまうような、小さな内緒ですけどね。


 それでも、もし部屋を変更しようと言われたらどうしようかと、少しだけ不安でした。


(まあ、もし変更しようと言われても、聞き入れませんでしたけどね♪)


 そして、私が楽しみにしていると知れば、最終的には付き合ってくれることもわかっています。


 朔也くんは優しいですから。

 本当に駄目な時以外は、私の希望を無下にはしません。


(……私は、ずるい女です)


 それにしても――


(あんな言い方をしてしまうなんて……さすがにはしたないですぅ……)


 顔が火照っているのは、お湯に浸かっているからなのか。

 それとも別の理由なのか。


 私にはわかりません。

 ……わかりません!


 周りの人に気づかれないよう、口元までお湯に沈み、行き場のない気持ちを吐き出します。


 ボコボコ……ボココ……ボココボコ。

 気泡と一緒に、羞恥心も溶けてくれたらいいのに。


 お行儀は悪いですけど、声にならないその音のおかげで、少しだけ落ち着きました。

 言ってしまったことは仕方ありません。

 明日、本当に一緒に入ることになったら……その時に考えましょう。


 ふと、ガラスの向こうにある露天風呂の横へ目を向けると、説明書きが目に入りました。


『美肌の効果あり。シルクのような肌感を味わえます』


 少し胡散臭い説明ですが、女性としては気になる文言です。


(せっかくですし、少しでも綺麗になっておきたいですね!)


 私はお湯から出て、露天風呂の方へ。

 扉を開けた瞬間、冷たい空気が押し寄せ、思わず肩が縮こまりました。


 けれど、その先には――

 夕日に照らされた雪山が、淡い橙色に染まっていました。


「綺麗……」


 思わず、声が漏れます。

 湯気の向こうに浮かぶ雪山を見つめながら、ふと頬に触れる自分の指先に気づく


 朔也くんも、今頃この景色を見ているでしょうか。

 同じものを見て、同じように綺麗だと思ってくれていたら――それだけで、少し嬉しいですね。


……だって、一緒にお風呂入ったら始まっちゃうやん?

……もう食事の時間なのよ?

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