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学年一の才女を拾ったら癒されました  作者: PPHiT
第三章

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第176話 長野旅行②

 旅館を出た俺たちは、近くのバス乗り場へ向かった。

 シャトルバスがゲレンデまで無料送迎してくれるので助かる。


 乗り場へ行くと、思ったより人は並んでいなかった。

 宿泊客の多くは雪山目当てと言っても過言ではないだろうし、予想では乗れないくらい混んでいるかと思っていたのだが……。


「朝一ではないので、空いてますね」

「……あぁ、そういうことか。そういや、もう十時だもんな」

「?」


 言われてみれば単純だった。

 すでにピークを過ぎているだけだった。


 恥ずかしい……。


 次のバスにすんなり乗り、揺られること十五分ほどで長坂エリアに到着した。


 バスを降りれば、目の前には一面の雪。

 その先には白く染まった山がそびえ、山肌には何本ものコースが伸びていた。

 山の上へと伸びていくゴンドラも見えている。

 思っていた以上の長さに驚いた。


 まずはチケットを買うためにチケットセンターへ。

 ここでリフト券を買い、予約していたスノーボードとブーツを受け取れば準備は終わりだ。


 ……調べてはいたけどさ。

 思っていたより高いんだよな。


「時間を考えると、少し滑ったらすぐ昼食だけど……一度滑ってみるか?……初心者だけど」

「……とりあえず、今の私たちがどこまでできるか試してみましょう」

「オッケー!」


 結局のところ、インストラクターは予約しなかった。

 理由はいくつかある。


 経験者の浩紀に訊いたら、


『インストラクターなんて使ったことないから、イケる! イケる!』


 と言われたのが一つ。

 あいつの場合、インストラクターではなくても、経験者に教わったことくらいはありそうだけどな。


 もう一つは、俺のわがままだ。


 なんとなくだが、男性のインストラクターに瀬那が教わっているところを見たら、イライラしそうな気がした。

 女性なら気にならないんだろうけど……。

 我ながら、思ったより嫉妬深いらしい。


 そのままゴンドラに乗り込んだ。小さい頃はリフトに乗った時が一番怖かった記憶があるが、今回はゴンドラなので、怖いどころか景色がよく見えて逆に楽しい。


「一面、真っ白ですね!」

「雪山に来たって感じがするな。こういうところに来るの、久しぶりすぎて新鮮だわ」


 俺の言葉に、瀬那が訝しげな視線を向けてきた。

 少し睨んでいると言ってもいいだろう。


「……なんだよ?」

「……スキーもスノボーもやったことないって言ってませんでした?」

「あぁ、それね。正確には、スキーをしたことはあるらしい。だけど、小学校低学年の時だから、ほとんど覚えてないんだ。リフトが怖かったのと、途中で飽きてそりで遊んだことくらいしか覚えてない」

「……そういうことですか」


 まだ両親が仲良かった頃のことだからな。

 ……ずいぶん前の話だ。

 覚えていることも断片的なものしかない。


 瀬那の声が少し暗くなったのは、多分、そのことを気にしているのだろう。


「とにかく初心者と同じようなもんだからさ。頑張ろうぜ。おぉ、上に来るとまた景色が変わってくるな!」

「……はい♪」


 俺が努めて明るい口調で言ったので、意図を汲んでくれたらしい。


 俺自身、忘れていたくらい本当に気にしていないことだ。

 せっかくの旅行をこんなことで暗くしても仕方ないから、助かる。


 ゴンドラから降りた俺たちは、まずはどう滑るかをスマホの動画でおさらいした。

 数日前や昨夜にも見た動画だが、実際にボードを履いてから見れば印象も変わるはずだ。


 人の邪魔にならない場所で、歩き方や片足だけをボードにつけてスケボーのように移動する方法、転び方などを確認する。


「うん、完璧だな。もう滑っても大丈夫だろ」

「まだ二十分も練習してませんよ! 早いですって!」


 はやる気持ちを瀬那にたしなめられながら、その後もう二十分ほど練習を続け、やっと――


「よし、そろそろいいでしょう!」

「やった!」


 ――とうとう、瀬那から許しが出た。


 それから俺たちは、当然ながら初心者コースを滑ることにした。


 いざ滑るとなると、急に緊張してくる。

 眼下には白い斜面。

 動画で見るのと、自分がそこに立つのとでは、まるで話が違う。


 このコースは横幅が広いので、周囲に気をつけていれば人にぶつかることもそうそうないだろう。

 コース脇がすぐ崖というわけでもない。


 そのまま突っ立っていても邪魔でしかないので、気持ちを切り替えて滑り始める。

 ……とりあえず、上手そうな人の動きを思い出しながらやってみるか。


 両足が一枚の板に固定されているという状態は、思った以上に安定しない。

 転びそうになっても、とっさに片足を出して支えることができないのだ。


 それに加え、慣れていない雪の上。

 練習が必要になるのもよくわかる。


 ……何が言いたいかというと。


 尻が痛いし、冷たい。

 雪山の洗礼というやつだろうか。


「大丈夫ですか……思いっきり尻餅をつきましたけど?」

「……恥ずかしい……見ないで……」

「いつになく恥ずかしがっていますが、初心者なのですから普通ですよ。私もさっき転びましたし」


 俺は開始十秒もしないうちに転んだわけだ。


 初心者だから仕方ないのはわかっている。

 ……わかっているのだけど、それを瀬那に見られるのは恥ずかしいわけで。


 彼氏として……男として。


「何を考えているか、なんとなくわかりますけど……こんなことくらいで見限ったり、蛙化……でしたっけ? そういうことにはなりませんよ?」

「……良かったです」

「もう、変なところで心配性なのですから。立てますか?」


 瀬那が俺に手を差し出してきた。

 多分、引っ張って立たせようとしているのだろうが……ダメだろ。


「一人で立てるから大丈夫だって」

「そんなこと言わないのですよ。……ほら」

「やめろって――」


 瀬那が俺の手を掴んで引っ張ろうとする。


 ――が。


 ドサッ!

 一瞬、視界がピンクでいっぱいになった。


「きゃっ!」

「おっと……危ねーな。言わんこっちゃない」

「……足元が雪なのを忘れていました」


 案の定、体重差もあるうえ、お互い足元が安定しない。

 瀬那は踏ん張りきれず、そのまま俺の方へ倒れ込んできた。


 先に予想はしていたので、どうにか受け止めることはできた。

 顔を雪へ打ちつけるようなことはなかったが、危ない。


 幸い、コースの端に寄っていたので他の人の邪魔にはなっていない。


「ふふ、こんなコース上で抱き合っていると、バカップルっぽいですね」

「実際はそんな甘い状態じゃないけどな……あと、バカップルなのは否定できないかもしれないぞ」

「……どういうことですか?」


 俺は無言で周囲へ視線を送り、瀬那にも見るように促す。


「……あっ」


 ここは初心者向けのコース。

 ファミリー向けでもあるので、子供も大勢いる。

 それに加え、初心者向けのレッスンらしきものも行われていた。


 あまり速度を出さずに滑っている人が多いわけで……。

 要は、俺たちのこの状態に気づく人も多いということだ。


「ゴーグルと帽子で顔が隠れていて良かったな。顔、真っ赤だぞ?」

「……言わないでください」


 事情を察してくれるのは、ある程度年齢のいった人たちだけらしい。


 小学生くらいの子供が俺たちを指さし、隣にいる親らしき大人へ何かを言っている。

 ……そして、その子は頭を軽く叩かれていた。


「さて、そろそろ尻も冷たいし、立とうか」

「……そうですね、そうしましょう」


 今度は一度ボードを外してから立ち上がったので、お互いに転ばずに済んだ。

 位置を調整して再びボードをつけ、滑り始めた。


 ◇


 本来、何分くらいで滑るものなのかわからないが、あれから十五分ほどかけて、なんとか下まで滑りきった。

 距離にして二キロくらいらしい。


 もちろん、俺も瀬那も何度も転んだ。


 だが、前から運動能力が高いとは思っていたが、瀬那は四分の三ほど進んだ辺りで要領を掴んだらしい。

 そこからは一度も転ばず、最後まで滑りきっていた。


 ……悔しい。


「お疲れ様です、朔也くん」

「……くっ、余裕そうな表情しやがって。お疲れ様」

「なんですか、そんな顔してませんってば」


 少しむくれた顔をしているが、俺が冗談で言っているのはわかっているのだろう。

 ……それにしても、ほんの少しだけ勝ち誇っているように見える。


「わかってるよ……悔しかったんだって」

「ふふ、コツを掴んできましたよ」

「あの後ろ姿を見たらわかる。自転車の乗り方を教えた時も思ったけど、瀬那ってバランス感覚もいいよな」

「特に何かしていたわけではないのですけどね。幼い頃から良いとは言われます」


 体幹が強いのか、後ろから見ていると重心が安定しているように見えた。

 それがスノボーにどれくらい重要なのかはわからないけど、見ていて格好良かったのは確かだ。


 あとは、身長が低――


「サクヤクン、ナンデショウカ」

「ごめんなさい」


 また読まれてしまったらしい。

 俺って、そんなに顔に出やすいのか? マジで疑問。


「もう! それで、もう一度滑りますか?」

「……当たり前だろ。悔しいから、もう少しやりたい」

「了解です♪」


 俺たちはもう一度ゴンドラに乗り、同じコースを滑った。


 二度目だからか、転んだ回数は俺も片手で数えられるくらいだったが、瀬那は一回だけだった。


 ……悔しい。


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