第173話 クリスマスパーティー⑤
瀬那はそのままサンタ姿で過ごすことになった。
俺もトナカイの被り物をしたままだったのだが、準備の邪魔になるし、そのうち外そう。
ケーキは、いつも買っている駅前のお店のものだ。
あそこのケーキはハズレがないので、クリスマスケーキも楽しみだったりする。
……クリスマスケーキなんて、家で食べるのは何年ぶりだろうか。
今回注文したのは、直方体のケーキ。
生地が三層になっていて、層の間にはイチゴとクリームが入っている。
全体にはチョコレートクリームが塗られ、上部にはクリームのドロップ絞り。さらにクリスマスらしく、サンタやジンジャーブレッドマン、色とりどりのマカロンが並んでいる。
……そう、マカロンだ。
一度作るのに挑戦して、見事に失敗して挫折した、あのマカロン。
話が逸れたが、ケーキだけではなく、マカロンまで楽しませてくれる一品だ。
「かわいー! 見てるだけで満足しそう!」
「それじゃあ、愛莉はいらないな」
「いるに決まってるでしょ!」
カップルのやり取りを聞きつつ、俺はケーキを大皿に置いた。
温めたナイフを持ってきて、それぞれどこを食べるか相談する。
「俺はどこでもいいから、最後に残ったところでいいけど、みんなはどこがいい?」
「ワタシ、ここが食べたいです!」
一番に声を上げたのはエレノアだった。
その目はクリスマスケーキに釘付けで、キラキラと輝いている。
「日本ではクリスマスに、こんな立派なケーキを用意するのね」
「エリーが住んでたところだと違うの?」
「ノルウェーだと、クリスマスにこういうデコレーションケーキを用意することはあまりないね。クリスマスクッキーをたくさん焼いたり、クランセカーケという塔みたいなお菓子を食べたりするよ」
「そういうところも違うのですね」
瀬那は身を乗り出して、クランセカーケの写真を検索し始めた。
やっぱり、学校にいる時よりも、ちゃんとした異文化交流をしている気がしてきた。
俺がケーキを切り分けている間に、瀬那はみんなの飲み物を入れ直していた。
ケーキに合わせて、コーヒーや紅茶に切り替えるらしい。
「せっかくだし、もらった紅茶もみんなで飲もうよ」
「じゃあ、俺たちもコーヒーを淹れようか」
愛莉と和人がそう言うので、遠慮なくいただくことにした。
プレゼントでもらったものを早速開けてもらうのは少し申し訳ない気もするが、こうやって自然にみんなへ振る舞えるところは見習いたいと思う。
「ここのケーキ、いつ食べても美味しいよね。有名な人なのかな?」
ケーキを頬張りながら、愛莉が尋ねてきた。
「何とかってコンテストで銀賞を取ったって紙は貼ってあったから、有名な人なんじゃないかな。……ただ、経営は下手な感じがする」
「そこまで言う?」
もう少しブランド感を出してもいいのに、住宅街でこぢんまりとした店をやっている。
このケーキだって、材料費や人件費を考えたら、高校生が気軽に買えるような値段でいいのだろうか。
「うーん、それが売りなんじゃない? 住宅街にある、地域密着型のケーキ屋さんって感じで!」
「それはあるかもね。話した感じ、人当たりの良さそうな店員さんだったよね」
ケーキは和人たちが受け取ってきてくれた。
その時の話だろう。
あのお店は、なぜか瀬那ではなく俺のことを覚えている。
俺の名前で予約していたケーキを和人たちが受け取りに行ったので、間違いないか確認の電話まで掛かってきた。
「朔也くん、あそこの店員さんに気に入られていますよね」
「なんでだろうな」
本当に謎である。
◇
ケーキを食べた後は、みんなでお菓子を摘まみながら雑談をする。
今年ももう終わるということで、一年間に何があったのかをみんなで懐かしんでいた。
一学期と二学期の途中までいなかったエレノアも話についていけるように、スマホの写真を見せながらだ。
「そうだ! 朔也と和人は年末年始って暇か? 暇だよな!? みんなで年越ししようぜ!……ここで!」
浩紀がいつものノリで、うちに集まろうと言い出した。
……残念だったな!
「また勝手なこと言って。だが、残念ながら年末年始は予定があるから無理だ」
「へー、瀬那も?」
「はい、ありますね」
「へー……また旅行でもするの?」
「……」
俺と瀬那は、ほぼ同時に互いへ視線を送り、そしてすぐに逸らした
一瞬。
本当に、ほんの一瞬だ。
愛莉の言葉に俺と瀬那の動きが止まったが……気づかれていないはずだ。
「朔也たち、いつの間にか旅行に行ってたの?」
和人の疑問に、俺は彼には言っていなかったことにようやく気づいた。
……というより、浩紀と愛莉がいる時に、たまたま口を滑らせただけだったな。
「夏休みに海に行ってたんだよ、こいつら! 俺たちに内緒で!」
「へー、それはずるいね。俺も行きたかったよ」
「ズルイ、ズルイ!」
和人はともかく、エレノアはその時、まだ知り合ってすらいなかっただろうに。
「和人もそう思うよね!……で、その反応だと、また行くんだね。もちろん泊まりでしょ?」
ニヤニヤとしながら、愛莉が核心を突いてくる。
……バレてたか。
「……隠しても仕方ないから言うが、長野にスキーかスノボをしに行く。他の奴らには黙っておけよ」
「えー! なんで言わなかったんだよ! 俺も行きたかった!」
「泊まりで旅行なんて、親が許さないだろ?」
「あー、確かに」
俺と瀬那が一人暮らし……いや、二人暮らしか。
だから何も言われないだけで、高校一年生が泊まりで旅行となれば、普通は簡単には許してもらえないだろう。
特に男女なら。
「……」
よく考えてみたら、朱門さんから何も言われていないな。
俺と瀬那が夏に旅行へ行ったことは知っているだろうし。
黙認しているのか、気にしていないのか。
……あれ?
そもそも前回の旅行について言ったっけ?
付き合ったことは言ったような……。
まあ、いいか。
「うーん、うちのママなら、ひろと一緒なら OK って言いそうだけどー」
「……いやいや。愛莉さん、そこは俺でもダメってことにしといてよ」
「ママからしたら、息子みたいなものだからね……パパは違うけど」
「おじさーん!」
強く生きろよ、浩紀。
そのまま、みんな晩ご飯も食べていくことになった。
とはいえ、クリスマスらしい料理はすでに食べきっている。
それに一日中いろいろ摘まんでいたので、みんなそこまで量を食べられる状態でもなかった。
――だから、これを出すしかなかった。
「クリスマス感ねー!」
「だろうな」
「なんか、すごく日本って感じだね」
目の前には、お茶漬けとおしんこ。
豪華絢爛だったローテーブルの上が、数時間後にはお茶漬けとおしんこ。
これもまた、日本のクリスマス……ではないな。
出そうと思えば、もう少し何か作れるのだが、全員お腹いっぱいらしいので、これくらいがちょうどいい。
「ふぅー……なぜでしょうね。身体にしみます」
「わかるわ。どうしてこんなに落ち着くのでしょうね?」
「わかるー。お酒を飲んだ後って、こんな感じなのかなー」
甘いものをたくさん食べたので、身体がしょっぱいものを求めていたのかもしれない。
お茶漬けなので緑茶も淹れたのだが、それもまた、甘さで飽和していた口の中をさっぱりさせてくれた。
……知らんけど。
◇
「わあー、雪降ってる!」
「こういう時に、『風情がある』と言うのでしょうか?」
「積もったら雪合戦しようぜ!」
夜。
九時になろうかというところで、解散となった。
外は真っ暗だったが、いつの間にか雪が降り始めていたようだ。
玄関前からマンションの外を見ると、地面がうっすらと白くなっているのがわかる。
吐く息が白く、頬に触れる空気も一段と冷たい。
電車が止まるほどではないが、足跡がちゃんと残るくらいには積もっている。
ホワイトクリスマス。
恋人たちからすれば、最高のシチュエーションなのかもしれない。
「じゃあ、またなー! できたら冬休み中にもう一回は遊ぼうぜ!」
「そうだね」
浩紀の言葉に続き、和人が軽く手を挙げ、エレノアもそれに続く。
「では、シーユーね」
「じゃあね、二人とも……旅行ではめ外しすぎないようにねー」
最後、愛莉がにやりと笑いながら手を振る。
「アホなこと言うな」
「ふふ、また会いましょうね」
玄関前で、それぞれ別れの挨拶を交わす。
エレベーターへ続く曲がり角まで、寒い中、四人を見送っていた。
すると、あいつらと入れ替わるように、舘山親子がこちらへ歩いてくるのが見えた。
ちょうど帰ってきたのだろう。
……だが、なぜか舘山夫妻は苦笑いを浮かべ、恵麻ちゃんは俺たちを指さして大喜びしている。
そして、そのままこちらへダッシュしてきた。
夜も遅いのに元気なことだ。
「はぁ、はぁ……瀬那おねーちゃん!」
「はい、どうしました?」
「かわいい! サンタさんだ!」
その瞬間、瀬那の顔がみるみる真っ赤になった。
……そして。
俺もまだトナカイの被り物をつけたままだったことに、その時初めて気づいた。
絶望したのは言うまでもない。
例のごとく、思った以上に長くなりました。
後悔はしていません!
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