第172話 クリスマスパーティー④
浩紀と愛莉のプレゼントを開けた俺たちの反応は、まったく同じだった。
「え!?」
「マジかよ……」
……驚きと呆れだ。
中から出てきたのは、『女性用のサンタ服』と『トナカイの被り物』。
……コスプレ衣装かよ!
俺は袋の中身を二度見してから、隣の瀬那へ視線を送った。
「女の子は可愛く、男は面白くってことで」
「プレゼントに悪意を混ぜるな」
「正確にはね、女の子用を用意したら予算が足りなくなったから、トナカイは被り物になったの!」
「そんな事情も知りたくないってば……」
俺は苦笑いしながら、「さて、どうするか」と呟いた。
「『どうするか?』じゃないよ、着るんだよ? 今、ナウ!」
「……マジで?」
「マジで!」
浩紀と愛莉がニヤニヤしているのはいいが、エレノアまでワクワクしているのがわかる。
和人さえ笑ってるし。
正直、俺は別に構わないのだが……瀬那は大丈夫か?
そう思って彼女を見ると、意外にも嫌そうな顔はせず、衣装を見ながら悩んでいた。
俺の視線に気づいたのか、瀬那もこちらを向く。
「朔也くんも、着た姿を見たいですか?」
「見たいか見たくないかって言われたら、もちろん見たいよ。でも、無理はしなくていいぞ?」
「いえ、このメンバーなら特に恥ずかしくないですよ。スカートもミモレ丈ですし」
俺もミニスカートだったら止めていた。
だが、これは膝下からふくらはぎの中ほどまである長さだ。
こういうのをミモレ丈って言うんだな。
「それなら、着てみてもいいんじゃないか」
「はい……それでは、お待ちください」
そう言って、瀬那は自分の部屋へ入っていった。
ドアが閉まった途端、浩紀たちがそわそわと顔を見合わせ始めた。
「ソワソワすんな」
「だって……よく考えたら凄い状況だったわ……イタ!」
学年一の人気と言っても過言ではない女子に、コスプレをさせるのだからその気持ちはわかる。……わかるが、露骨に反応されるとむかつく。
とりあえず、浩紀はシバいておいて、残された俺はトナカイの被り物を頭につけておく。
「朔也、思ったより似合ってるよ」
「イエス。普段着でもおかしくないね」
「ありがとうよ。まったく嬉しくないけど」
カシャ♪
「……おい、浩紀。せめて言ってから撮れ」
「ごめんごめん……はい、送信できました」
「は!? どこに送信してるんだよ!」
「勉強会グループだけど……あっ、ここにいないメンバーもいたわ」
俺は浩紀のスマホを覗き込む。
『浩紀と愛莉を救う会』というメッセージグループに、トナカイ姿の俺が送られていた。
……そして、すでに既読がついている。
「ハヤク、ケセ!」
「ごめん、ごめん! カタコト怖い! ほら、消した!」
「……すでに既読ついてたよな。誰だ?」
二つの意味で気まずい。
単純に俺の姿を見られたという点と――。
ピロン♪
『東條たち、クリスマス会してるの。ずるい』
金森からの新着メッセージとともに、俺の写真が送られてきた。
保存済みかよ……。
その後、雫をはじめ、斎藤や木内からも「ずるい」とメッセージが届いた。
あの場にいなかったから誘っていなかっただけなのだが、こうして言われると、どうしても申し訳ない気持ちになってしまう。
今度、何か埋め合わせしないとな。
◇
「着替えました……」
そんなやり取りをしていると、瀬那の着替えが終わったようだ。
少し遠慮がちな声とともに、彼女が部屋から出てきた。
……一瞬、誰も言葉を発さなかった。
俺は掛ける言葉を探しながら、しばらく彼女から目を離せずにいた。
金髪に近い亜麻色の髪には、白いファーとポンポンのついた赤いサンタ帽。
肩には同じく白いファーで縁取られた短いケープが掛かり、胸元では細い赤のリボンと白いポンポンが揺れている。
ワンピースは腰の黒いベルトで締められ、そこから下は緩やかに広がるフレアスカート。
丈はふくらはぎの中ほどまであるミモレ丈で、裾にもたっぷりと白いファーがあしらわれていた。
脚は黒いタイツで覆われている。
コスプレのサンタ衣装らしい可愛らしさはありながらも、露出は控えめだった。
そこは浩紀たちも配慮したらしい。
瀬那の雰囲気もあってか、派手というより、どこか上品で清楚なサンタに仕上がっていた。
「ど、どうでしょうか?」
「え、かわいっ! 持って帰りたいぐらい!」
「セナ、キュート! ソー・スート!」
エレノアが聞き慣れない言葉を使った。
「ソー・スート?」
「あ、ごめんなさい。ノルウェー語の『 Så søt 』よ。『すごく可愛い』って意味ね!」
なるほど。
そりゃ聞いたことがないわけだ。
「瀬那、とても可愛いよ。似合ってる」
「あ、ありがとうございます……」
女性陣の賛辞に遅れて、俺も言う。
みんなの前で褒めるのは恥ずかしいが、ここで言わないのは駄目だということくらい、俺にもわかる。
「朔也は、南雲さんのこんな姿を、女子はともかく俺たちに見せてよかったの?」
「……本当は見せたくなかったが……まあ、二人なら許容範囲だろ」
「よかった! これで『お前は見るな』って言われたらどうしようかと!」
俺は呆れ半分でため息をついた。
「……じゃあ、お前は見るな」
「えー!」
パシャ、パシャ、パシャ……。
連続するシャッター音が聞こえてきた。
「いいねー! 瀬那、こっち向いて」
「セナ、こうです。このポーズです」
「こ、こうですか?」
振り返ると、愛莉とエレノアが瀬那にポーズを取らせながら、写真を撮っていた。
……夏祭りでも同じようなことしてなかったか?
「ふぅ……とりあえず満足。写真送っておくねー」
「待て!」
「ふぇ……あ、『称える会』に送っちゃった……てへ」
「『てへ』じゃねーよ……」
彼女が言っている『称える会』とは、『浩紀と愛莉を救う会』のことだ。
『毎回救われるわけじゃなーい!』
という意味のわからない反論から、勝手に別の略称を使っている。
……まあ、どうでもいいけどな。
ピロン♪
すぐにメッセージが届いた。
『オークションを開催していい?』
それを見た俺は、すかさず――
『止めてください。お願いします』
――と、送り返した。




