第171話 クリスマスパーティー③
浩紀の号令とともに、各々プレゼントを取り出した。
大きさで言えば、どれもほとんど同じくらいだ。
それが三つ並んでいる。
「浩紀、ケーキの前にプレゼント交換するのは意味があるのか?」
「んにゃ、特にない。あえて言うなら、もしかしたらケーキを食べながら使うものがあるかもって思っただけ。……俺らのにはないけど」
「そういうことか」
浩紀は結構周りを見ている。
そんな彼だからこその提案だったのだろう。
結果としてどちらが先でも大した違いはないが、しっかりと彼なりの配慮を感じた。
……だが、最後に少しニヤッとしたのは見逃していないぞ。
「じゃあ、自分らのが当たっても面白くないから……まずは番号を引いて、その後、俺がコインを投げます。コインが表なら次の番号の人のプレゼント。裏なら前の番号ってことでよくね?」
「まあ、それでいいか」
「よし。番号のくじは作ってきてるから、引いてくれ」
瀬那、愛莉、エレノアが同時にくじを引いた。
結果、一番が愛莉。
二番が瀬那。
三番がエレノアだった。
「よし、じゃあコインを投げるぞ。こっちが表な」
浩紀がコインの表裏をこちらに見せて確認させる。
どうでもいいが、何のコインだよ、それ。
「了解」
「よし、じゃあ投げるぞ!」
浩紀が右手を握り、人差し指に親指を引っかける。
その上にコインを乗せて――弾いた!
ウィィィィィン!
高い音を立てながら回転するコイン。
真っすぐ上へ飛び、そのまま浩紀の前へ落ちてきた。
それを浩紀は左手の甲で受け止めて――
――ない!
浩紀は空振りした手のひらを見つめたまま、しばらく固まっていた。
「あらま」
コン! ココン!
音を立てて床へ落ち、転がるコイン。
落ちた衝撃をものともせず、くるくるとその場で回転し続ける。
なぜか、全員の視線がそこへ集まった。
ごくん、と誰かが生唾を飲み込んだ音まで聞こえた気がした。
そして徐々に回転が遅くなり――コテン、と倒れる。
上を向いていたのは……裏だった。
「裏だな。ってことは、前の番号の人でいいか」
「そうだな……お前らのか。怖いんだけど」
「朔ー! その発言はひどいぞ!」
結果、俺たちが浩紀と愛莉のプレゼント。
カズエレが俺たちのプレゼント。
そして浩紀たちが、カズエレのプレゼントを受け取ることになった。
「じゃあ、誰から……って言っても悩むから、さっきの番号順に開けるか」
「オッケー! それなら、まずはエリーたちのをオープンします!」
急にエリー呼びを始めた愛莉。
誰のことかはわかるけど、いつからだろうか?
「ウェイト。アイリ、エリーってワタシのこと?」
「そうだよー。エレノアってちょっと長いじゃん。エリーでよくない?」
本人に了承取ってなかったのかよ。
……『せなちー』よりはまだマシだな。
だけど、ノルウェーやイギリスの感覚だとどうなんだろうか。
瀬那が少し苦笑いしているので、『せなちー』を作られた時のことを思い出したのかもしれない。
「ふーむ……悪くないわね」
「あ、オッケーなんだ」
「アイリから言い始めたでしょ。イエス、これからエリーと呼んで」
「りょーかい!」
本人が問題ないと言っているのなら、別にいいか。
そのまま愛莉がプレゼントを開ける。
中から出てきたのは、いかにも『ザ・クリスマス菓子』といった見た目のお菓子と、紅茶の缶。
パッケージには日本語ではなく、アルファベットが並んでいる。
よく見ると、お菓子も日本のものではなさそうだ。
もしかして、エレノアの地元のものだろうか。
……そして最後に出てきたのは。
キャンドル。
……キャンドル?
ミサでも始めるのだろうか。
「お菓子と紅茶……だよな。これってノルウェーのものなの?」
「イエス。せっかくなら、みんなと被らないものにしたよ」
「おお、すげー! ありがとー!……っで、キャンドルはどうしたらいいんだ?」
やっぱり、そこを疑問に思うよな。
お菓子は海外のものということで特別感があっていいが、キャンドルはどう使うんだろうか。
「ノルウェーでは、クリスマスにキャンドルがない方がおかしいのよ」
「クリスマスの必須アイテムってことね」
「必須とまでは言わないけど、みんな用意するよ。キャンドルホルダーもあるから、使ってみて」
キャンドルホルダーまであるとは、本格的だな。
「朔ー、マッチとかライターある?」
「マッチもライターもないけど……料理用のバーナーならあるぞ」
キッチンから料理用のトーチバーナーを持ってくる。
「ゴツいのきたな。ライターの方が楽じゃね?」
「……俺がライターを持ってると、面倒なことになりそうだから買ってないんだよ」
一瞬の沈黙。
「「「「「ぶはっ!」」」」」
次の瞬間、俺以外の全員が吹き出した。
俺は誤魔化すように頬を掻きながら、みんなを睨みつけた
「なんで笑うんだよ!」
「いや、だって……朔也が言うと説得力ありすぎて……!」
「高校生でその見た目だけなら、いつ職質されてもおかしくないもんね!」
自覚していることを言うな。
制服姿の時なんて、たまに警察がこっちを見ていることがあるんだから、笑い事ではないんだよ。
「サクヤ、自覚あったのですね」
「ピアスいっぱいでライター持ってたら、もう完成形じゃん」
「何が完成するんだよ!」
瀬那まで口元を押さえ、肩を震わせている。
「……瀬那、お前まで笑うなよ」
「す、すみません……でも、朔也くんがご自分で言うものですから……ふふっ」
「だから余計に持たないようにしてるんだろうが……」
どうやら俺なりの危機管理は、こいつらにとって最高の笑い話だったらしい。
「……はぁ、まあいいわ。せっかくだから、ケーキを出す時に灯すか?」
俺はトーチバーナーをキッチンへ戻しながら、浩紀と愛莉に訊いた。
「それがいいんじゃね?」
「うん! ケーキの時に灯した方がロマンチックかも!」
ということで、キャンドルは後に回すことになった。
次は、俺たちが浩紀たちの選んだプレゼントを開ける番だ。
「じゃあ、これを開けるぞ――」
「待て。俺たちのは最後にしよう!」
「……怖いんだが?」
「まあまあ、大丈夫だって」
まったく当てにならない「大丈夫」を言われた気がするが、致し方ない。
「トリに自分たちのをご所望らしいから、和人、開いてくれ」
「プレッシャーかけるなよ」
「そうだね。浩紀のセンスを楽しみにしておきますか。それじゃあ、朔也たちのを開こうか。二人のだから安心できて良かったよ」
「というより、浩紀と愛莉コンビのが怖いって感じだよな」
和人とエレノアが、俺たちのプレゼント袋を開けた。
出てきたのは、この間買った、二人で使える長めのブランケットと、コーヒー・ココアのセットだ。
「はい、瀬那さん。この組み合わせの説明を」
「えっ!? あ、はい、わかりました。これらの、コ、コンセプトは『寒い日の一服』ですぅ……」
徐々に声が尻すぼみになっていく瀬那。
最後には顔を赤くし、両手で顔を隠してしまった。
……ああ。こいつ今、自分が想像した『恋人同士で一枚のブランケットにくるまる光景』を、みんなの前で発表したことに気づいたのか。
特段、恥ずかしがるようなことでもないと思うのだが、自分で『コンセプト』なんて言い出したから……か?
「なんで恥ずかしがってんだ?」
「瀬那ー、かーわーいー」
愛莉に抱きしめられ、「うぅ……」とそのまま唸っている。
彼女的には、そこまで恥ずかしかったらしい。
……よくわからんが。
そんな二人を温かい目で見ていたエレノアは、俺の視線に気づくと、
「はっ」
と、慌てたようにブランケットへ目を落とした。その頬が、心なしか赤らんでいた。こちらはこちらで、恥ずかしかったらしい。
「大きいブランケットね。二人くらいなら簡単に入れそう」
「そうだね。こんな大きいものって売ってるんだ」
「あぁ、それは二人用のブランケットだよ。瀬那は、少し寒い日に恋人同士が隣り合って、ブランケットで暖を取りつつ、飲み物で温まるっていう休日の風景を思い浮かべたんじゃないかな」
「なるほどね。セナはいい趣味してるよ」
エレノアはブランケットを広げ、裏表を確認するようにくるくると向きを変えている。
その仕草は、普段よりも少し幼く見えた。
「ちなみに朔也くんは、『世界十四カ国厳選! 珍味特集!』を選んでいましたよ。……どう考えても罰ゲームです」
「……言うなよ、瀬那」
よく俺が選んでいたものを覚えていたな。
俺でさえ忘れていたことを……。
その時、ポン、と浩紀が俺の肩を叩いた。
「お前、人のこと言えねーじゃねーか」
「いいんだよ、俺は。絶対、瀬那が止めるって信じてたし」
「絶妙な信頼関係だな」
男子連中だけなら、ありだとは思うけどな。
さすがに女性陣もいる中ではおかしいことくらい、俺だってわかっている。
「よし、それじゃあ、朔也と南雲さん! 俺たちのプレゼントを開いてくれ!」
「……怖いから、このまま封印でもいいか?」
「ダメー!」
仕方なく、俺と瀬那は、浩紀と愛莉のアホコンビ(誉め言葉)が選んできたプレゼント袋を開けた。
「え!?」
「マジかよ……」
2026.09.05 タイトル修正……わざとだったけど、皆さんから突っ込まれたので修正。
修正前は「クリスマスパーチー」




