第169話 クリスマスパーティー①
次の日は、俺の家でクリスマスパーティーだ。
気心の知れたメンバーばかりなので、緊張するようなことはない。エレノアだけは、何か変なことを言い出さないか少し心配だが。
昼食を兼ねて始めるので、昨日のうちにある程度の仕込みは済ませてある。
……そういえば、昨日のあの後は大変だった。
不意打ちでキスをしたうえ、それが衆人環視の中だったものだから、瀬那はプンプン怒っていた。
マンガなら『プンスコ、プンスコ』と擬音が出ていただろうな。
『キスは嫌じゃないですよ! でも、場所です! 恥ずかしいじゃないですか!……しかも、写真まで!』
だけどな、俺は知っているんだ。
俺が一応送ったその写真を、瀬那がちゃんと保存していることを。
なんだかんだ、良い意味でも恥ずかしいという意味でも、初めてのクリスマスの記念にはなったんじゃなかろうか。
……今思い出すと、俺も恥ずかしかったりするが。
そんな昨日のことを思い出しながら、俺はダイニングテーブルの上を見る。
大皿の上には、一羽丸ごと焼き上げたターキーが鎮座していた。
胴体も脚もそのままの姿は存在感抜群で、いかにもクリスマスらしい。
オーブンから出してしばらく経っているが、香ばしい肉と香草の匂いがまだ部屋に残っている。
せっかくのクリスマスなので、ターキーを焼いてみた。
エレノアにも、日本でよくイメージされる『ザ・クリスマスパーティー』を味わってもらうためだ。それに、瀬那にとって初めてのクリスマスパーティーでもある。少しくらい、印象に残るインパクトがあってもいいだろう。
ターキーの横には、『リッベ』と呼ばれる豚の骨付きばら肉のローストも置いてある。ノルウェー、特に東部などでは定番のクリスマス料理らしい。
統一感があるのかと言われると微妙だが、エレノアもいるんだ。
多国籍なメニューになっても、それはそれでパーティーらしくていいだろう。
あとはフライドポテトも用意してある。
瀬那はサラダを作り終えたあと、今度はピザを生地から作っていた。
彼女は彼女で、ずいぶん手の込んだことをしているな。
「後は皆さんが来てから焼くだけですね」
「そうだな。問題は、これで足りるかどうかだな」
「大丈夫だと思いますよ。男子が三人いるとはいえ、女性陣はそこまで……食べない……はず?」
「やっぱり疑問になるよな」
瀬那が食べる量はだいたい把握している。
男子連中はともかく、他の女子がどれだけ食べるかだが……エレノアが思った以上に食べるんだよな。
あれにはびっくりした。
「まあ、ケーキもあるし、これで足りないってことはないだろ。もし足りなくなったら、ポップコーンでも作るさ」
「そうですね」
いつものケーキ屋で、クリスマスケーキも注文済み。
和人が受け取ってから来る予定だ。
そんなことを考えていると――。
ピンポーン♪
チャイムが鳴った。
インターホンの映像を確認すると、画面いっぱいに浩紀の顔が映っている。
「……お帰りください」
『なんでよ!?』
そう言いたくもなるさ。
そのままオートロックを解除し、上がってくるよう伝えた。
少しして、四人を迎えるために玄関へ向かう。
ドアを開けようとしたところで、廊下から話し声が聞こえてきた。
「――おともだちなの?」
「そうよ。ベストフレンドと言ってもいいわ」
「そそ、親友、親友!」
恵麻ちゃんの声だ。
それに余計なことを言っているのは、エレノアと浩紀か。
ガチャ。
玄関先には、廊下の明かりを背に、見知った顔ぶれが並んでいた。
「あ、朔也おにーちゃん!」
「こんにちは、恵麻ちゃん。お二人も、こんにちは」
ドアを開けると、予想通り、舘山親子と四人が話していた。
「こんにちは、朔也くん。お友達がきているわよ」
「ええ。友達と言えなくはないですね」
「ひでぇ!」
浩紀の反応は無視して、俺は恵麻ちゃんのご両親へと視線を向ける。
「……申し訳ないですが、これから家でパーティーをするので、少しうるさくなるかもしれません」
鉄筋コンクリートで、壁も薄くはないので大丈夫だと思うが、もしかしたら声が聞こえるかもしれない。
一応、先に断っておいた方がいいだろう。
「気にしなくていいわよ。お昼だし、それに私たちもこれから出かけるから大丈夫。楽しんでね」
「ありがとうございます」
軽く頭を下げておく。
この間柄ならそこまで気にしないだろうとは思うが、そこは礼儀だ。
「いいなー! パーティーだ!」
「また今度、機会があったらうちでもやろうか。恵麻ちゃんはお出かけ?」
恵麻ちゃんが両手を広げて、待ちきれないというように体を揺らす。
「うん♪ 水族館行くのー!」
「少し遅くなったけどね。……旦那が二日酔いでやられてなければ、もっと早く出られたんだけど」
恵美さんの視線が、じわじわと隣に向き、ジロッと隣の旦那さんを睨んだ。
「……うっ」
……やらかしたんですね。
ご愁傷様です。
「今から行っても、十分楽しめますよ」
「そうそう! 恵麻ちゃんも、ママとパパと一緒で楽しみだよね!」
「うん!」
すかさず和人と愛莉が助け舟を出した。
ナイスフォローだ!
「……そうね。じゃあ、行きましょう。みんなも楽しんでね」
「ありがとうございます!」
三人を見送る。
恵麻ちゃんのお父さん、今日中にちゃんと挽回するんですよ……。
俺たちもいつまでも廊下にいるわけにはいかないので、そのまま四人をリビングへ通した。
「そうだ! これ、うちの両親と愛莉の両親から!」
「ありがとう。……なんだ?」
リビングに入るなり、浩紀が半透明のビニール袋をこちらに差し出してきた。
受け取ると、そこそこ重い。
「……いつも勉強教えてくれるからってさ。パーティーやるなら食べてって。 C⚪︎stco で買ったサーモンとシュリンプカクテル」
「 C⚪︎stco か。……浩紀も行ったことあるのか?」
袋の中を確認しながら、傷まないようにそのままキッチンへ運ぶ。
俺は C⚪︎stco みたいな会員制の大型倉庫店には行ったことがない。
高校生だけでふらっと行くような場所でもないし、そもそも近場に店舗がないからだ。
「もち、あるぞ。めちゃくちゃ広くて、ほとんどの品がでかい! このサーモンだって、うちの家族だけじゃ一食で食べきれない時もある!」
「確かに大きいな。すげーよ」
「朔也は行ったことないのか?」
「それがないんだよ。……このために原付買おうかと思ったくらいだし」
もちろん免許も必要になるが、普通二輪よりは気軽だと考えていた。
「そこまでして行きたいのかよ」
「ああ」
「朔也くん! 行くなら私も行きたいです!」
リビングから瀬那の声が飛んできた。
瀬那も行きたかったのか。
「よし。それなら今度、免許を――」
「朔ー。そもそも今の私らじゃ、会員になれないよー。十八歳以上じゃないと駄目だから」
「えっ!?……マジか……本当だ」
スマホで確認して、俺は膝をつきそうになった。隣を見ると、瀬那も同じタイミングで肩をがくりと落としていた。
……無念。
「それに、二人じゃ食べきれなくて腐らせるんじゃないかな」
「……その可能性はあるな。俺たちはしばらく、イ〇アでこの気持ちを晴らすよ」
「……そうですね」
俺も瀬那も、残念な気持ちを隠し切れない。
「それとは別に、近いうちに普通二輪の免許は取りたいけどな」
「……朔也くん、バイクは危ないですよ?」
「バイクに乗りたいっていうより、自動車の免許を取る時に少しでも楽にしたいだけなんだよ」
「あー、そういうことですか」
普通自動車の免許を取れるようになるのは受験の年だ。
その年に免許なんか取りに行くなよって話だが、もしかしたら取得する必要が出てくるかもしれない。
そのことを考えたら、先にできることは済ませておきたい。
「……話が逸れたな。とりあえず、荷物置いてくつろいでろ」
「いや、お前が逸らしたんだろ!」
「サクヤ、それはボージャクブジンよ」
これに関しては自覚があった。
……ごめん。




