第168話 クリスマスイブ③
Side:東條 朔也
食事を終えた俺たちは店を出た後、そのまま近くの商業施設へと移動した。
ルナポートと同じくらいの広さがある。
明日、クリスマスパーティーをするのは良いが、交換する予定のプレゼントをまだ決めていないからだ。
結局、メンバーはあの場にいた六人になった。
俺と瀬那、浩紀に愛莉、それとカズエレだ。
……見事に三組のカップル。逆に言えば、ここから誰かを追加しようにも、カップルじゃないと入りづらそうだ。
予算は三千円から五千円程度。
高校生のプレゼント交換として考えれば妥当な金額ではあるが、逆にどのようなものが良いのか見当がつかない。
プレゼントはカップルごとに用意し、どのカップルの品をどのカップルが受け取るかは、くじで決めるらしい。
そうなると、誰に当たっても良いようにしないといけない。……メンバー全員、性格がバラバラなのにだ。
浩紀と愛莉のコンビは、奇想天外な変なものでも喜びそうだが、和人は逆に困るだろうな。エレノアはまだ嗜好がよくわかっていないので、変なものが好きなのかもわからない。
そいつらの誰に当たっても良いように用意する……無理じゃないか?
「難しいですね。二人で使うものにするか、それぞれが使えるものを二つ入れるか……悩みますね」
「例えば、俺たちみたいに一緒に暮らしているなら、バスボールみたいなものでもいいけど、他は違うからな」
「……バスボールだった場合、朔也くんは一緒にお風呂に入ってくれますか?」
俺は無言で右手を上げて――そのまま振り下ろす!
「てい!」
「いたっ! でぃーぶいですよ! DV!」
「それを言うなら、さっきの発言はセクハラだぞ」
「えっ……私とお風呂に入るのは嫌だ……と?」
涙目で下から覗き込んでくる瀬那。
チョップの影響なのか、ショックだからなのかわからない。……まあ、演技なんだろうけど。
「その手には乗りませーん」
「むぅー」
「まあ、無難なところが良いだろう。誰……というか、どの組が当たっても、それなりに使えそうで、持ってても使わなそうなやつ」
「せっかくなら、使ってもらえるものにしましょうよ……」
ぱっと思いつくのは、お菓子みたいな食べ物だ。
アレルギーさえなければ、だいたいの人が食べられるチョコレートやクッキーなら無難だ。幸い、誰も小麦や乳製品のアレルギーはないので、そのあたりは選びやすい。
そんなことを話しつつ、俺たちはウィンドウショッピングをしている。
当たり前だが、どこもクリスマスムード一色だ。 BGM は国内外問わずクリスマスソングが流れていて、所々にクリスマスツリーや、それらしい装飾がされている。
去年まではこの時期というか、こういうイベントの時にはショッピングモールやイルミネーションスポットなどへ、あえて足を運ばなかった。
だが、今年は今までとは違う。
横で、手を繋いで寄り添ってくれる彼女がいるから……足を運びたくなる。
「我ながら単純なものだな」
「何がですか?」
「いや、何でもない」
「気になりますよ! 隠し事ですか? まさか浮気……私、捨てられちゃうのですか!?」
お得意のジト目で睨んできたが……この感じなら、本気で浮気を疑ってはいないだろう。
瀬那も瀬那で、このシチュエーションにテンションが上がっているみたいだ。
……違うか。
ずっとテンション高かったわ、この子。
クリスマスを祝うこと自体、人生で初めてらしいから、存分にそのテンションを受け止めてやるのが彼氏の責任だろうな。
とりあえず、手頃な雑貨屋へ。
全国どこにでもある気がする、 L⚪︎FT だ。
こことヴィ⚪︎バンに行けば、それっぽいものは見つかるだろう。
「ここの店舗は広いですね。見て回るだけで一日過ごせそうです」
「瀬那はこういうところも好きだから、冗談に聞こえないな」
「本気ですよ?」
「……さすが、瀬那さん」
とはいえ、本当に一日過ごすわけにはいかないので、プレゼントにできそうなものを物色する。
ある程度万人向けで、かつ……変なものか。
思ったより難しいな。
「あ、この『世界十四カ国厳選! 珍味特集!』ってのはどうだ? 十四って中途半端なのがまたいいよな」
「……見てください。サソリやクマの心臓とかありますよ?」
瀬那が商品を掲げ、ちょっと引いた顔で見せてくる。
「それもまた良き……こっちは?」
「『ロシア、臭いモノ、ベストテン。この臭さはおそロシア!』……朔也くん、さっきから変なもの探してませんか?」
「……そんなことはないぞ」
こんなものを選んだら、浩紀と愛莉は笑いそうだけど、和人はやっぱり苦笑いだろうな。
……エレノアはどうだろうか?
「もう、真面目に探してください」
「ごめんって」
謝りながら散策を再開した。
途中、美容・健康グッズのコーナーで足が止まる瀬那。
こういうものが好きなのは知っていたが、お試しコーナーに数十分も滞在するとは思わなかった。
肩をマッサージする機械を使ったら、
「あ〜、気持ちいいですー」
と、だらしない声を出していた。
噂は本当らしい。
それから少し駆け足になったが、一時間くらい店内を回っていると、だいたい良さそうな傾向が掴めてきた。
瀬那は選んだ品を見せながら俺に言う。
「――と、こんな感じでどうですか? コンセプトは『寒い日の一服』です」
「良いと思う。これなら誰でも使いやすいし、悪くないな。ここに、食虫植物とか――」
「いらないです」
スパッと切られた。
……解せぬ。
方向は掴めたので、あとは厳選だ。
他にも置いていそうな別の店も巡ってみることにした。
こうやって二人で探し歩くだけでも、楽しいものだ。
テスト期間もあったので、こうしてゆっくり歩き回るのは久しぶりだ。
さらに探すこと約一時間。
厳選し、ラッピングされたものを見て、俺たちは頷いた。
「納得できるものがあって良かったよ」
「はい。いい感じですね!」
最終的に決まったのは二つ。
二人で使えるような長めのブランケットと、コーヒー・ココアのセットだ。
瀬那が言った通り、寒い日に二人で身を寄せて一服するにはちょうど良いだろう。
全員が恋人同士だからできるチョイスになっている。
目的を達成した俺は、少し暗くなった外を見て瀬那に提案した。
時間もちょうど良い頃だし、近くのストリートへ行こう、と。
予定には入れていなかったが、一応調べておいたのだ。
「ぜひ、行きましょう!」
そのストリートは、この時期になるとクリスマス仕様のイルミネーションで彩られるらしい。
突き当たりには大きなモミの木が植えられており、このあたりでは人気スポットの一つだ。
そのストリートに着くと、まっすぐ伸びる道の両側に並ぶ木々すべてに、電飾が取り付けられていた。
それらが交互にピカピカと光っている。
時折、その電飾に「 Merry Christmas 」や「 Love 」の文字が浮かび上がっていた。
……こういう電飾でそんなことができるのはすごいと思うが……「 Love 」って誰向けだよ。
二人でゆっくり歩く。
予想はしていたが、人はめちゃくちゃ多い。
だから、いつもよりちゃんと手を繋いで歩く。絡めた指を、瀬那がしっかりと握り返しているのを感じた。
瀬那はどちらかといえば小柄な方だから、人にぶつからないようにも気をつけないといけない。
「綺麗ですね。キラキラして、別の場所みたい……初めて来たところですけど」
「……すごいよな。どういうシステムで動いているのか気になるわ」
「朔也くんらしい反応ですね。電気代とか、電飾の値段とか考えてそうです」
「さすがにそこまで情緒のないことは考えてないよっ」
近しいことは考えていたけど、それを場の空気を壊すように口にはしないさ。
……多分。
電飾に負けないくらい目を輝かせて木々を見上げる瀬那を見ていたら……。
カシャ♪
「えっ!? 今、撮りましたよね?」
これだけ人が多く、周囲もガヤガヤしているのによく聞こえたな。
すごいぞ、瀬那。
「ああ、撮ったぞ」
「なんでそんなに当たり前みたいに……」
「そりゃ、あまりにも瀬那が可愛かったから」
「!?」
一瞬で顔が赤くなると、バシバシと俺の肩に頭突きをしてくる彼女。
……これ、愛おしいな。
しばらく歩くと、混みの向こうに、それまでの電飾とは比べものにならない光の塊が見えてきた。……モミの木だ。そのモミの木には、ほかの木とは比べものにならないほど、たくさんの電飾が飾られている。さらに、てっぺんには、いかにもクリスマスツリーらしい――大きな星。
クレーンじゃないとつけられないだろうな、と考えてしまったのはバレてはいけない気がした。
その木の下では、さまざまな恋人たちが、モミの木を背景に写真を撮っていた。
正面から普通に撮っている人もいれば、下から煽るようなアングルで、てっぺんの星まで画角に収めている人もいる。
確かに、映えスポットと言えばそうだろう。
みんな自撮りをするか、誰かに撮ってもらっているようだ。
瀬那はしばらく黙って木を見上げていたが、やがて何かを決意したように俺の方を向いた。
「朔也くん……お願いがあります! 一緒に写真を撮りましょう!」
「そんなに決意表明みたいに言わなくても、瀬那からのそんな頼みを断るわけがないだろ」
「ふふ、知ってました♪」
俺もこの空気にやられたんだろうな。
上機嫌な彼女を見ていたら、少しいたずらをしたくなってしまった。
瀬那がスマホを使って下から写真を撮ろうとしているが、どうにも上手く二人とツリーを画角に収められないみたいだ。
なので、俺は彼女の代わりに自分のスマホを取り出し、腕を伸ばした。
「もう少しこっちに寄れる? ……そうそう、そんな感じで」
カシャ♪
「うん、いい感じに撮れたと思うけど、もう一枚撮ろうか」
「はい♪」
身長差を埋めるように、少し身を屈める。
その隣で、肩が触れ合うほど近づいた瀬那は、カメラへ視線を向けている。
そんな彼女に、俺は声をかけた。
イルミネーションの光が、彼女の瞳にゆらゆらと映り込んでいた。
「……そうだ、瀬那。これ、なんだと思う?」
「え?」
こちらに振り返った彼女に――キスをした。
カシャ♪
前話のコメントで「婚約!」って皆さんが反応しているから念のため補足を……。
右手なのでただのペアリングです……ごめんなさい<(_ _)>




